36.文化祭1日目
どうすればいいのだろう。最近俺は一つの事に悩んでいる。俺の名前は安心院真広という。今俺は人生の転機にいるのだ。RZK会の部室で、妻田がリア充の発生をどう食い止めるかの作戦を話している。文化祭とかイベントの後はカップルできやすいんだよな。クリスマスも近いし……いつもの俺だったら喜んで賛同し、熱中しただろう。去年とか結構楽しかったしな。でも今年は違う……今年は違うのだ……
そう、俺にも春が来そうなのだ。その相手は同じクラスの赤坂という少女だ。口はきついがからかうと結構可愛いとこもある少女だ。最初は苦手だったが、話していくうちに結構、趣味も合ったりすることがわかり、一緒にいることも増えた。会話も盛り上がるし遊んでいて結構楽しい。最近は俺のせいで怪我をさせてしまったこともあり、よく一緒にいるのだが多分だが、俺に好意を持ってくれているんだよな……
いや、俺も確信を持てなかったので、赤坂と親しいクラスの女の子にも相談したんだが、にやにやするだけで答えてくれなかったし、冗談のつもりで「赤坂って、もしかして罰ゲームで俺と仲良くしてたりする?」とか言ったらそれまでとは180度違う無表情で「あんたが空気読めないのは知っているけど、冗談でも赤坂にそんな事言ったらクラスの全女子を敵に回すわよ」と言われてしまった。あれは怖かった。まじで洒落にならなそうだった。
まあ、それだけ材料は出そろっているわけで、俺も鈍感ラブコメ主人公ではないので、赤坂の事を最近考えているわけだが一つ問題がある。目の前のこいつらだ。俺はこいつらといるのも大好きなのだ。でも赤坂と付き合ったら俺はここにはいれなくなる。こいつらがどれだけリア充を憎んでいるのかも、悲しいくらいモテないのも知っている。なのに俺だけ裏切っていいのだろうか。それが俺の最近の悩みだ。如月にはちょっとかっこつけてどちゃんと考えているとは言ったものの答えは出ないままだ。
「じゃあ、これでいいな。アーサー」
「あ、ああ、だいじょうぶだ」
やっべえ、全然聞いてなかった。何はともあれ会議は終わったので教室に戻るとしよう。今日は文化祭一日目、赤坂と回る予定である。赤坂とはクラスの出し物の手伝いがたまたま二人とも二日目の同じ時間、同じ担当である。あれ? 本当にたまたまかな?
「安心院大丈夫かい?」
「ああ、何の問題もない、早く教室に戻るぞ」
中村が心配そうに声をかけてくれた。ひょっとしたらこいつは俺の悩みに気づいているのかもしれない。でも相談はできないよなぁ。こいつは俺のために女装までしたのだ。申し訳なさすぎる。でも何で今もスカート履いてウィッグかぶってフルメイクなんだろうな? うちの出し物は射的だし、女装する必要はないはずなんだが……
「すまない、待たせたか」
「どこに行ってたのよ、バックレたかと思ったじゃない」
教室に戻り俺が赤坂に遅刻したことを詫びるとちょっときつい一言がきた。でもこれ多分照れ隠しなんだろうなぁって思えてきた。だって本当に怒ってたらこいつの場合手が先に出るからな。文化祭という事もあり教室全体が盛り上がっている。喧噪のためか赤坂の声もあまり目立たない。
「だから悪かったって。じゃあ、文化祭回るか。どこか行きたいところあるか?」
「そうね……小腹も空いたし、何か食べましょうか」
俺が先に行こうとすると首の襟をつかまれた。いてえ、こいつ何をするんだよ。俺が恨めしそうに赤坂をみると彼女は頬を赤らめてこう言った。
「手……手を握ってよ、その……まだ足が痛いから……」
「仕方ねえな。あれか、俺と手をそんなに握りたかったのか?」
「そんなわけないでしょ、あ、たこ焼き食べたい」
赤坂は顔を真っ赤になるのを誤魔化すようにいった。こうしていると可愛いんだけどな、暴力的なのと、時々出るこいつやべえなって言動が無ければ理想なんだよ。とにかく、俺達はたこ焼きを目指して文化祭を回ることにした。
たこ焼きや、クレープなどを食べながら俺達は文化祭を回る。最初迷惑をかけているからと、赤坂がおごろうとしてくれたが、さすがに悪いので断った。まあ、なんだかんだ女子と文化祭というのは貴重な青春の一ページだからな。そう思いながらクレープを口にしている赤坂を見ていると目があった。
「何よ……私が甘いもの食べているのそんなに変かしら」
「いや、うまそうに食べているなって思って」
「そう……? じゃあちょっと食べる?」
そう言って赤坂は俺にクレープを差し出してくれた。俺は遠慮なくひと口もらうと甘みが口内に広がる。素人が作ったこの安っぽさがたまらないんだよな。赤坂はなぜか顔を真っ赤にしてうつむいている。もしかして……
「間接キスが恥ずかしかったのか? ならやめればいいのに……」
「あんたは何で余計な事をいうのよ、そういうのは察しても言わないものでしょ!!」
お前が露骨に反応したんだろうが、と思うが反論してもややこしくなるだけなので言わない。みんな俺を空気読まないって言うけどあいまいにするより良くない? と思うんだが……
「それより、如月のやつがまた楽しそうな事をやっているぞ、科学部との戦いだそうだ。プラネタリウムらしいがどうだ?」
「まあ、お腹もいっぱいになったし良いわよ。プラネタリウム……デートみたいじゃない……」
俺の提案に赤坂は素直にうなずいた。後半はしりすぼみになり聞き取れなかったがなんといったのだろう。
天文部の部室へ行くと斎藤さんが受付をやっていた。確か天文部ではないようだったが、如月の手伝いをしているのだろう。扉をみるとサソリと弓矢を持った女性に追いかけられた男のイラストが書いてある。なんか禍々しいな。
「なあ、斎藤さん、ここってプラネタリウムなんだよな?」
「そうよ……そのはずなのよ……でもよくわからないものが上映されてるわ。まあ、ショーを観に行く気分で入るといいわよ。無料だし」
俺の質問に斎藤さんは困った顔で答えた。受付が返答に困るって何なんだよ。嫌な予感がしたがせっかくだし俺達は入ることにした。
本当によくわからないものだった。いや、つまらなくはないんだけど、何なんだったんだろう。バカップルのイチャイチャをみせられた気がする。別れたら絶対黒歴史になるやつだな。
「あの二人なんか楽しそうでよかったわね、二人とも幸せそうでうらやましいわね」
「ああ、まあそうだな。でも、オリオンはアルテミスに殺されてたけどな」
俺は赤坂に返答しながら思う、あれってショーにかこつけてイチャイチャしたかったのかなと思いつつ、カップルっていいな思う。如月も普段はしないような幸せそうな顔していたし。もし……もしも俺が赤坂とつきあうことになったら俺もああいう顔ができるのだろうか。ちなみにオリオンはアルテミスとオリオンの仲を快く思わない神によって、川を渡っている時に鹿にみえる幻惑魔法を使われ、獲物と勘違いをしたアルテミスに射抜かれて死んだのだ。神様ってロクな事しないよな。
「そうね……でもアルテミスも本当は射抜いた獲物がオリオンって気づいていたんじゃないかしら、オリオンは浮気性と言われてたから、急に許せなくなったのかもしれないわね……私もアルテミスの気持ちがわかるもの……もし、恋人に浮気されたら……ね?」
え、まって。これオリオンとアルテミスの話だよな。浮気したら殺すぞって話じゃないよな。ね? じゃねーよ。何を同意をもとめているんだこいつ。てか赤坂の目が怖い。表情は笑っているのに目が笑ってないないんだよ。選択肢を間違えたら俺もオリオンみたいに殺されちゃうのかな。
「ああ、そうだな……オリオンが悪いよな。アルテミスあんなにかわいいのにな。じゃあ、科学部へ行くか」
俺は心の中でオリオンに謝った。あとで聖杯上げるから許してくれよな。そうして俺達は次の目的地である科学部の部室に向かうのであった。
あけましておめでとうございます。今年初の更新なのに安心院の話になってしまった。
お正月なのにまだ文化祭をやってしまっている……なんとかバレンタインデーは書きたいのでそれまでに文化祭は終わらせます。更新最近遅くなってしまい申し訳ありません。
それでは今年もよろしくお願いします