33.天草先輩の提案
「実はな、白石さんにお前らに部室に来てもらうよう頼んだのは俺なんだ」
「え、一体何でですか?」
部室の片隅に申し訳程度に置いてあるちゃぶ台の前に座った俺達は、天草先輩の話を聞くことにした。俺は出されていたお茶に手を付けようとしてやめた。毒とか入っているかもしれないからな。魔女の騎士たる俺は、敵地で出されたものを手をつけはしない。もちろん紅も……美味しそうに飲んでいるな。可愛い……じゃなかった。自分は薬盛ったりしているのに警戒心はないんだな。
「そう、警戒しないでくれ。俺はな、科学部の部長であると同時に文化祭実行だからな。文化祭を盛り上げたいんだよ。申し訳ないがそのために、お前らに喧嘩を吹っ掛けたのもある。まあ、その年で魔法を信じ魔女を自称しているのはどうかと思うがな」
「所詮、数字や目に見えるものしか信じない科学者の言っている事に草が生えるわね、天草だけに。あなた占いとかも信じないのかしら? お正月に初詣も行かないのかしら? 多かれ少なかれ私たちは魔法のような神秘に触れているのよ。人の心を理解できないなら、その無駄な脳みそを人口知能に変えたほうがいいんじゃないかしら?」
「あはははは、さすが魔法少女……じゃなかった。もう高校生だもんな、少女じゃないから魔女か……他人や自分を客観的に分析できていて案外科学者にむいているんじゃないか? 基礎を教えてやるよ、1+1は2になるんだ。勉強になったろう」
「ウフフフフ、面白い事をいうわね、元々数学なども魔法陣を書いたりするときに利用されていたのよ、過去から何も学んでいないものは自滅するわよ」
二人とも笑顔で罵り合っている。ひえええ、空気が重いよ。置いてかれた俺は、気分転換に天草先輩の発明品をいじってみる。『お兄ちゃん、お疲れ様』とアニメ声の万ちゃんが癒してくれた。やっべえ、これははまるかも。
「何を幼女に欲情しているのよ」
「おやおや、魔女殿は己の騎士すら制御できないのか、お得意の魅了の魔法でも使ったらどうだ?」
「うっさいわね、ロリコン」
「俺はロリコンじゃない、シスコンだ!!」
こちらを睨みつける紅を天草先輩が煽る。まじで話が進まねぇ。この二人お互いの好きなものを、許容しないから相性が最悪すぎるんだよな。それぞれ一人ずつなら会話できるのになぁ……
「あの……あんまり紅をいじめないでください。紅もロリ草先輩の言葉につっかからないようにな。それで……わざわざ俺達を呼んだんです。理由があるのでしょう?」
「ああ、そうだ。お前たちとの戦いが文化祭で話題になればと思ってな。ん……ロリ草? 今ロリ草っていったか。おい」
「おやおや、幻聴でも聞こえたのかしら? 研究のしすぎで頭がおかしくなったんじゃないかしら。狂った頭で作ったものは科学的にどうなのかしらね」
「『わかったにゃ、これでいいのかにゃ』。おっと、失礼。先ほどの音声を俺の優秀な発明品で録音していたようだにゃ。しかし、ネコの真似とはなにかの魔法の儀式かにゃ?」
「その機械を渡しなさい、ぶっ壊すわ!!」
俺はロリ草先輩の言葉の意味を考える。なるほど、天草先輩の目的は紅に勝つことではない、文化祭を盛り上げる事なのだろう。去年色々頑張ったが、ダメだったとか白石さん言ってたしな。紅も乗り気みたいだし手伝ってもいいかなとは思う。この人はこの人なりに文化祭を盛り上げようとしているのだ。
「つまり文化祭のサブイベントの一つとして入れるわけですね、いいですよ。その提案乗りましょう」
「ああ、助かる、お前も俺もよくも悪くも有名人だからな。話題性にはちょうどいいだろうよ。お前そこを蹴ろうとするな。消す、消すから!! くっそ、この魔女、物理で物事を解決しようとしてきやがる」
紅に機械を持っていないほうの手を押されつけられ、股間を蹴られそうになっている天草先輩は、あわてて機械を紅に渡した。どうでもいいけど……本当にどうでもいいけど。ちょっとくっつきすぎじゃない? いや、まあ別に好意があるから近づいてるってわけじゃないのはわかるからいいんだけどさ。
「こちらは一年間準備期間があったんだ、魔女の方は不要というかもしれないが、黒竜の騎士よ、私の……科学の力が必要だというならば遠慮なく言うがいい。そのくらいのハンデはなければフェアではないだろう」
そうして天草先輩は不敵に笑った。取り敢えずは話し合いが済んだので、俺達は科学部の部室を後にした。
部室に戻った俺達は再び作戦会議を始めることにする。しかし、その前に一つ確認をしなければならないことがある。
「なあ、紅は天草先輩の力を借りるのは嫌か?」
「え、嫌なはずないでしょう? 利用できるものは利用しないと」
「あれ、なんかもっと抵抗するかと思った。科学なんてー!! とか」
「何を言ってるのよ、私が毎日使っているスマホだって科学の結晶なのよ。そもそも科学の基礎は錬金術とかの発展ですもの、嫌がるはずないでしょう。私は科学自体嫌いじゃないしね、というわけで科学と魔法の力でぎったんぎったんにしてやりましょう」
「きょうび、ぎったんぎったんって聞かねえな」
「映画の影響受けすぎよ、私は銀髪のハーフエルフではないわ。まあ、誰かさんが他の女にうつつを抜かしたら嫉妬の魔女にはなるかもしれないけどね」
「その……俺だって嫉妬しないわけじゃないんだぞ」
「あらあら、いきなりどうしたのよ私の騎士様は……。さっき変な顔していたけどもしかして……」
「悪いかよ。その……まあ、あんまり男性には触ったりしないでほしいかなと。紅が天草先輩の事を嫌ってるのはわかってるが理屈じゃないみたいだ……」
「うふふ、魅了の魔法が利きすぎたかしらね。まったくもう、あなただけが特別だから安心しなさい。でも……あなたに嫌な思いをさせてしまったなら謝るわ。その代わりさっきみたいなことがあったら私の代わりに動いてね」
そう言って紅はいたずらっぽく笑う。心なしか少し嬉しそうである。嫉妬されて嬉しいものなのかね? 俺はちょっと自己嫌悪になったんだが……でも今度から俺が紅の変わりに天草先輩の股間を蹴るの? 嫌なんだが……
「あと一つ訂正するわ、天草先輩の事は苦手だけど、嫌いではないわよ。だってあの人は私と向かい合ってくれるもの」
少し楽しそうに紅は言った。ああ、そうだな。最近、俺達に優しい世界が続きすぎて勘違いしていた、俺達のような人間は大半が無視か、馬鹿にされるだからな。あの人はあの人の方法で紅に向かいあっているのだ。だからと言って口論ばっかされててもつらいけどな。
にやにやと紅に見られ俺は目をそらす。くっそなんかもてあそばれている気がする。魔女に魅了されるとこうなるのかよ。
「まあ、せっかくだし、これを機に天草先輩をぶっ倒しましょう、私にいいアイデアがあるの」
「へぇー」
どや顔する紅をみて俺は嫌な予感に襲われた。こいつポンコツだからなぁ、絶対失敗しそうなんだけど……
「神矢失礼な事考えてない? 何度も言ってるけど私はポンコツじゃなくてクールな美少女よ」
「そ、そんなことないぞ……」
紅がジト目でこちらを睨んでくる。やべえ、心を読まれたか? そうして俺達は出し物について話し合った。
異世界恋愛で書いた短編が思ったより好評でびっくりしました。異世界恋愛は女性向けの印象が強かったので……読んで下さった方ありがとうございます。
ブクマ1200までもうちょい、がんばろうと思います。
感想もおまちしておりますのでよろしくお願いします