30.如月君と田中さん3<魔女の騎士と黄泉の魔女 フェイズ3>
「それで志郎ってばポップコーン買いに行くって言って、どっか行っちゃたからあわてて探しに行ったの。もう、高校生にもなって格好悪いよね。魔女のお姉ちゃんもそう思うでしょ」
「そうですねー、志郎って人が悪いですねー。せっかくだからお姉ちゃんと、そこのお兄ちゃんと一緒に迷子の志郎さんを探しましょうか」
紅にお菓子をもらってすっかりご機嫌になった幼女から事情を聞くと、どうやら志郎という高校生と映画を観に来たのだがはぐれてしまったらしい。いや、どう考えても迷子はこの子じゃねえか……周りを見渡してそれっぽいやつがいなければ迷子センターに行くべきだろう。
「ねーねー、お姉ちゃんとお兄ちゃんは夫婦なの?」
「え……違いますよ……いや、でも、そうなる可能性もあるかもしれないですが……どうなんでしょうね、神矢」
幼女の質問に紅が困ったようにこちらに振ってきた。まって、これどう答えればいいんだよ。付き合って一日だし、そうだなっていって重いって言われたら嫌だし、違うっていったら適当に付き合ってるみたいじゃん。
「ふーん、黒竜の騎士は私の事は遊びみたいですね、あなたは将来鈍感ラブコメ主人公みたいに鈍感で、そのくせ女友達の多い軽い男に引っかかったらだめですよ」
「いやー、夫婦だよ、夫婦!! 俺と幸子は将来を誓いあった関係なんだよ」
俺がどう答えようか悩んでいると、紅が拗ねたように唇を尖らせて幼女に何やら吹き込んでいる。この魔女はなんてことを幼女に言ってるんだ。俺は必死に紅の顔を見ながらフォローする。でも夫婦か……もし俺達の子供が出来たら魔法騎士とかになるのかな。魔女と騎士だし。
「よかったー、やっぱり夫婦だったんだ。さっき、志郎は厨二バカップルって言ってたけど私のほうがあってたー」
『えっ?』
幼女の言葉に俺と紅は顔を見合わせる。さっきっていつだ? しかも俺は志郎って人に会ったことないんだけど……高校生だっけ……なんかすっげえ嫌な予感がしてきた。絶対俺達のことを知ってる人じゃん。
「万ーー!! 見つけたぞ、やはりGPSを仕込んでおいて正解だった。これぞ科学の勝利だな。ん? お前らは……」
「志郎ーー!! 勝手にいなくなったらダメでしょ、探したんだからね馬鹿ー!!」
そう言って幼女はやってきた男性に抱き着いてポカポカと殴り始めた。かなり懐いているなぁ……というかこの人って……
「天草先輩!! いやロリ草先輩!! さすがに小学生はまずいですよ」
俺は思わず叫んでしまった。まあ、まったく小学生は最高だぜって言ってたアニメもあったけど、リアル小学生はやべえよ。普通に引くわ。沖田とレベルが違うぜ。白石さんどんまい。
「なんでそんな狂った理論になるんだ。妹に決まっているだろうが!! 人を犯罪者にするんじゃない!!」
ですよねー。最もすぎる反論である。それはともかく俺たちは天草先輩と意外なところであってしまったのであった。
すっかり紅になついた万ちゃんが離してくれないため、俺は少し離れたところで、天草先輩に事情を聞いている。だって紅と天草先輩を一緒にするとまた口喧嘩がはじまりそうじゃん。どうやら天草先輩は妹と映画を観に来たようだ。日曜の朝にやっている魔法少女物を観るらしいが、その話を聞いて疑問に思ったことを聞いてみる。
「神秘は否定するんじゃないんですか?」
「いや、さすがに小学生低学年に魔法なんて、科学的にあり得ないんだよって、言うやつの方がやばいだろう……同年代ならともかくな……」
天草先輩はため息をつきながら紅たちを見つめた。意外と常識的だった。でも……それだけ常識的ならばわかるはずなのだ。神秘を否定することの無意味さを……神や魔法、オカルトは科学が発展した今でも俺達の生活に根付いている。それは例えば宗教だったり、占いだったりだ。ただの高校生である天草先輩が否定したところでそれは無意味なのだ。
「貴様の言いたいことはわかるぞ。厨二の如月よ……だが俺は神秘を……神を殺すと誓ったのだ。あの日からな……」
「あの日ですか……」
なんか重い過去でもあるのだろうか? この人なんか急に漫画のキャラみたいな事言い始めたな。
「俺のフルネームは天草志郎と言う、厨二の貴様ならわかるだろう?」
「うわぁ」
俺はそれだけで察してしまった。天草四郎時貞という歴史上の人物がいる。歴史とかゲームとか少しかじっていれば知らない人はいないだろう。それだけ有名な人物と同じ名前なのだ。絶対いじられてるんだろうなぁ。
「うちはそもそも仏教徒だし、俺の名前も四男だから志郎なだけなんだよ。なのに、ある日を境に、中学の同級生のやつらが、世界史の教科書持ってきて「ほら、踏み絵ーー!!」とか言ってくるんだぞ。一回、二回くらいなら笑えるが何回も何回もだ!! 仕方ないからわざわざ外履きに履き替えて踏みまくってやったわ。高校になって落ち着いたと思ったら今度はソシャゲのガチャを回させられて、目当てのキャラが出ないと溜息つかれるんだよ、知らねーよ。何でなんも悪い事してないのに悲しい顔されなきゃいけないんだよ……だから思ったんだ……俺は天草四郎とは別の人生を進むのだと……神秘を、神を殺す側に回ってやると。わかっているさ。これはやつ当りだ。だが、俺はその八つ当たりの精神で科学の道を進む事にしたのだ。それに神秘殺しって結構かっこよくないか?」
よっぽどため込んでいたのか、天草先輩は一気にまくし立てた。沖田のように名前がきっかけで剣道にはまる人もいれば、天草先輩の様に名前がきっかけで、神様とかオカルトを嫌いになることもあるんだな……
「そろそろ、映画の時間だ。万よ、行くぞ。そういえば魔女よ、貴様に言いたいことがある」
「わかったー、魔女のお姉ちゃんありがとね」
「何の用でしょうか?」
二人の間に緊張が走ったような気がしたのは気のせいだろうか? 不敵な笑みを浮かべる天草先輩と少し気を張っている紅の視線が交差した。
「万の相手をしてくれて本当に助かった。ここのポップコーン結構おススメなんだが甘いもの嫌いじゃなかったら、お礼としておごらせてもらえないだろうか?」
「え……はあ、じゃあいただきます」
「志郎はお礼を言えていい子だねー、ご褒美に私のポップコーンを分けてあげるね」
気のせいでしたね。紅も気が抜けたかのようにうなずいて、天草先輩からポップコーンを受け取った。
「じゃあね、夫婦の二人ー」
「いや、あいつらはただのバカップルだろ?」
「えー、だってさっき二人は夫婦って言ってたもん。フードコートでの賭けは私の勝ちなんだから」
ちょっと待って、フードコートでの賭けって何? 聞き逃せないんだけど。
「あの天草先輩……俺達の話をきいてました……?」
俺の言葉に天草先輩は言いにくそうに視線をそらしながら言った。
「その、言いにくいんだが、『紅に好きっていってもらってないんだが』らへんから……その……仲良しなのはいいが、ここらはうちの生徒が多いから、ああいうイチャイチャは控えたほうがいいぞ。聞いているこっちが恥ずかしくなる……」
一番恥ずかしいところじゃねえかよ!! 聞いてたならなんか言ってくれよ。俺はおそるおそる紅のほうをみる。彼女は顔を真っ赤にしながら、ぷるぷると震えていた。
「だから嫌って言ったのに神矢のばかぁ!!」
ついに爆発した紅の絶叫が映画館に響く事になるのであった。
こうして俺達の恋人としての初デートは無事? に終わった。俺達は映画の感想を言い合いながら帰宅している。俺達はまた色々やらかすかもしれないし、しょーもないことで喧嘩をすることになるかもしれない。でも二人でゆっくりでもいいから共に進んでいきたいと思う。
「その……今日は色々ありましたが改めてよろしくお願いしますね」
「ああ、そうだな。俺達は一から……いや、ゼロから始めよう恋人生活を」
「あんたそれを言いたいだけでしょ!!」
そうして俺達は新しい関係を結んで進むのだった。
初デート編はこれで終わります。今後は二人の距離感が少しずつ変化していくとおもいますので温かい目で見守ってくださると嬉しいです。
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