29.如月君と田中さん2<魔女の騎士と黄泉の魔女2>
「いやぁ、こんなとこで会うなんて奇遇だな。しかもデートかよ。とりあえず、如月死んでくれない?」
「全くだな、アーサー」
「ちゃんと話すのは初めてですね、アーサーさん」
「やめろぉぉぉぉ、こんな知り合いがいそうなところでコードネームで呼ぶんじゃない。俺はお前らとは違うんだよ!! 俺の事はそうだな……親しみをこめて安心院君とでも呼んでくれ」
俺達は漫画のキャラみたいなこと言う安心院を冷たい目で見る。安心院の一言で合流することになった俺達は正直どう対応すればいいかわからないまま席を並べる。いや、普通は友達見つけてもデートしてたら挨拶くらいで切り上げるだろ!! 赤坂さんすごいテンション下がってるじゃん。お前は漫画を読む前に空気を読めよ。
「ちょうどいいわ、ちょっと買いたいものがあるから、この男の相手をしておいてくれないかしら」
「ん? 足の調子が悪いんだろ、付き添うぞ」
「申し訳ないけど下着を買いたいの。それともあなたが一緒に選んでくれるっていうのかしら」
「おお、ついてく、ついてく!! 宝の山だな。すっげえ楽しみ」
「うわぁ……」
赤坂さんの言葉にノリノリの安心院に対して紅がマジで引いた顔をしている。こいつさすがにフラれるんじゃと思って赤坂さんをみるが顔を真っ赤にしながらもぞもぞつつぶやいている。
「その……そういうのはまだちょっと早いと思うわ……」
嘘でしょ、あれで好感度下がらないのかよ!! だったら俺だって紅の下着選びたいわ!! でもそんなこと言ったらごみを見る目で見られそうである。安心院がすごいのか赤坂さんがすごいのかよくわからなくなってきた……
「と、とにかく私はちょっと席を外すわね。10分ほどで戻るわ」
そう言い残すと赤坂さんは席を立って行ってしまった。まだ足が痛むのか少し歩き方に違和感があるのようだ。安心院に話を聞くとどうやら今日は怪我をした赤坂さんの付き添いらしい。
ショッピングをしてランチを食べたらカラオケに行ってイルミネーションを観るそうだ。いや、これ普通にデートじゃねえかよ。赤坂さん攻めるなぁ。
しかし、空気の読めない安心院の事だ彼女の気持ちに気づいていないのだろう。俺と同じ感想を抱いたのか、紅と目が合ってお互い溜息をついた。あまりに可哀そうなので、赤坂さんのサポートを少ししようかなと思いつつ飲み物に手を付けた。
「なぁ、赤坂って俺の事好きなのかな」
「ぶはぁぁぁぁ!?」
「神矢、汚いですよ。落ち着いてください」
安心院の一言に思わず飲み物を吹き出してしまった俺に紅が蝙蝠とペンギンの刺繍を入れたハンカチを差し出してくれた。あ、なんかいい匂いがする。紅の香りかな。てか、こいつ今何て言った?
「いや、だって、今日とか思いっきりデートみたいなコースだし、ダンスの時とかもよく考えたら好きでもない男と、普通は手をつないだりしないだろ」
「そうですね、普通そう思いますよね、手を繋いだりしたら、この人俺の事好きなんだろうなくらい思うのが普通ですよね。安心院君はどっかの鈍感な騎士と違いますね」
うおおおおお、怖いよぉぉぉ。紅がすっごい攻める目で見てくるんだけど……紅の中で俺の評価が下がり反比例するように安心院の評価が上がっている気がする。というか安心院が確信こそ持てなくても赤坂さんの想いに気づいていたのは予想外だった。
「ちなみになんですが……もしも、赤坂さんに告白されたら安心院君はオッケーするんですか?」
「どうだろうな……正直よくわからないっていうのが本心だな。俺はモテたこともないし、本当に好きって感情もいまいちわからん……でも、赤坂が本当に告白してきたら本気で向き合う気ではいるよ」
そう言って安心院は赤坂さんが出て行った方をみながら悩ましい顔でみていた。こいつも色々考えているんだろう。実際に告白されたら二人の関係は良くも悪くも変わるだろう。でも赤坂さんの想いが少しでも通じていたのは嬉しかった。
「でもさ、俺達のような童貞には、美人から告白されるとかファンタジーすぎて信じられないよな、なぁ如月」
「うっせー、俺を童貞扱いすんな」
一転してふざけた口調でこちらに笑いかけてくる安心院に俺も冗談で返答する。こういうノリで会話しているとRZK会の時を思い出すな。だが、すまない安心院、俺はもうリア充になってしまったのだ。魔女の祝福を得た俺はもうお前たちとは共に歩けないのだ。
俺は得意げに隣の可愛い魔女をみる。え、こわっ!! 紅がすっごい目で睨んでるんだけど……呪われそうだ……俺なんかやった?
「へぇー、神矢は童貞じゃないんですか」
「すいません、童貞です。見栄を張って本当にすいません」
紅のコキュートスの様に冷たい声に俺は土下座をするいきおいで紅に謝った。何で俺はショッピングモールで童貞をカミングアウトしなきゃいけないんだよ!!
「まあ、俺は俺で色々考えるよ、それでそっちはどうしたんだ? 後ろで話をしていたのが聞こえたんだがダンスの時は長年つれそった相棒の様だったのに、今は変にぎこちないじゃないか」
「やっぱりそうか……」
俺は安心院のセリフに苦笑する。紅も同様に何かを察した顔をした。いや、薄々は勘付いていたのだ。だけどその違和感を俺達は黙殺していた。紅は普通のデートをしようと心掛け、俺はそれに乗った。俺は厨二な会話でなく、恋人らしい会話をしようと心掛け、紅はそれに乗った。確かに俺達の関係は変わったが、俺達の言動までは変える必要はないはずなのに……そしてそれは他人から見てもおかしかったのだろう。そして俺は確信した。このままではダメなのだと……
「ありがとう、安心院おかげで目が覚めたぜ」
「礼はいらん、お前たちを別れさせるのは俺達RZK団の仕事ってだけだ。具体的に言うと女装した中村がお前に抱き着いてきて、その写真が田中さんのラインに届いたりする」
こいつなんでライバルキャラみたいなこと言ってんだよ。てか地味に嫌な方法である。こいつらの事だ。微妙に中村の顔がわからないように写真を撮って紅に送り付けるのだろう。彼女は本当に中村かわからないのでもやもやするという作戦だ。本当に質が悪いな……
「おっと赤坂から連絡がきたようだ。俺はいくわ」
そういうと安心院は席を立った。なんだかんだいいやつなのだと思う。それがあいつの人望の秘密なのだろう。普段も空気を読まないが、必要な時には空気を読まずに助けようとする。
今回だって俺はともかく紅とは対して親しくないのだから、深くつっこまなくてもいいのだ。なのにこいつは自分のデートを中断してでもこちらに絡んできた。ありがとう、安心院、はじめてお前といて安心したよ。
「なあ、幸子……いや、紅、話があるんだが……」
「ちょうどいいですね……いえ、ちょうどいいわね、私も話したいことがあるわ」
俺達は安心院を見送ってから口を開く。お互い思うことは一緒の様だ。
「私達変に意識しちゃったわね……前もやらかしたけど……おかしいなって思ったら言ってほしいの、そうすれば多分気づけると思うから。その……私、どうも張り切る癖があるみたいで……」
「俺もだよ、紅。恋人になったからって意識しすぎてしまった……俺達の関係が変わっても俺達は俺達なのにな……お互い気を付けよう」
「そうね……それで相談があるんだけど、神矢は一日に二回映画観るのって平気かしら? 観たい映画があるのだけれど……」
「おお、いいぜ。俺もその映画を観たかったんだ。せっかくだし行こう」
俺達はうなずいてネットで上映時間を調べる。お、ペアシートとかあるじゃん。ちょっと高いけどこれにしよう。時間を観るとまだまだ余裕はあるようだ。もう少しおしゃべりしていても問題はなさそうだ。というわけで俺はずっと聞きたかった事を聞くことにした。
「そういえば俺は、紅に好きって言ってもらってないんだけど」
「え……ちゃんと答えたじゃないの、忘れたの!!」
「いや、ああいう詩的な感じも厨二的には嬉しいんだが、ちゃんと言ってほしいなぁ。あと、できればどこを好きになったかとかもいてほしいかな」
「めんどくさいわね、あんたメンヘラなの?」
紅がこちらを睨みながら喋るが、顔を真っ赤にして恥ずかしがっているのがまるわかりなので、全然怖くない。俺はにやにやと笑いながら続きを促すだけである。
「全部……じゃだめかしら……?」
「全部かぁ、俺はちゃんと好きなところ具体的に言ったのになぁ。悲しいなぁ。紅の俺への気持ちはその程度だったのか」
「ふぁぁぁぁぁ、もうわかったわよ、言えばいいんでしょ、言えば!! 後悔しても知らないわよ。私の愛の重さを知るがいいわ!!」
そう言って紅は俺の好きなところを言い始めた。どうやら煽りすぎたらしい。やべえ、くっそ恥ずかしいんだけど……
「映画楽しみですね、神矢」
「そうだな、てか口調戻すのか? 無理しなくてもいいんだぜ。いざとなったら俺の影響ってことにするし」
あの後30分ほど語られお互い顔を真っ赤にしながら俺達は映画館へと向かっている。全然落ち着かないし、繋いでる手から紅の体温が感じれてやばいんだけど……
「何を言ってるんですか、本当の姿は大事な人や、最終決戦でのみ見せるものですよ、だから今は幸子って呼んでくださいね。二人っきりになったら紅でいいから……」
周囲を見回した紅は周りに人影がいないのを確認してから俺の耳元でささやいた。おお、いい匂いがする。確かに真の姿は普段隠すものだよな。本当にこの魔女は俺のツボをわかっている。
「志郎どこー、志郎ーー!!」
叫び声の方を見ると5歳くらいの幼女が半泣きになりながら、周囲を見回していた。迷子だろうか。映画の時間はまだあるし、騎士として見捨てるわけにはいかないだろう。
「大丈夫ですか」
「あのね、志郎が迷子になっちゃたの……」
「なるほど……まずは落ち着きましょうか、ほらお菓子ですよ」
俺が動く前に紅が声をかけていた。子供と同じ目線になるようにしゃがんで、しかも、何もなかった手のひらにはいつの間にか可愛らしくラッピングされた蝙蝠のクッキーが握られていた。
「すごい、どこから出したの?」
「お姉さんは魔女なんですよ、ふふ、これはあげるから元気を出してくださいね」
「ありがとーー」
すげえ、紅の魔女設定がはじめて生かされた、たぶん手品の一種なんだろうけど、相当練習しているのだろうな。素人目にはどこから出したか本当にわからないので魔法の様にみえた。
それにしても迷子か……弟かペットでもどこか行ってしまったのだろうか?
デート編二話目です。恋人との初デートって緊張したりして変なことしちゃうよねって話しでした。ちょっと不穏な雰囲気を出しすぎたかなと反省しております。
ちなみに神矢達が観にいきたいっていってる映画はリゼロです。エミリアたん可愛い……