28.如月君と田中さん<如月君と田中さん>
久しぶりなんで忘れている方もいるかもなんでも補足です。黄泉坂紅=田中幸子です。
やっべー、結局昨日はほとんど寝る事ができなかった。興奮して寝付けないので起きてないかなと、実は自転車で紅の家にまで行ったのだが、当然の様に寝ていたようで、電気は消えていた。
そんなわけで待ち合わせには早すぎるが、やる事もないので駅に来てしまった。決して紅とのデートが楽しみすぎたわけではない。ごめんなさい、楽しみすぎたからです。とりあえず、沖田に彼女とデートする時の注意事項を纏めて貰っているので、どっか適当な店で最終確認をするとしよう。
「え……なんでいるんだ……?」
「あんたこそ……なんでいるの……?」
俺が店内で最初に見たのは、コーヒーとハンバーガーをテーブルに並べて、何やらノートを広げて唸っている紅だった。まてよ、待ち合わせは昼だぞ。まだ朝8時なんだけど……あれかな、彼女も俺とのデートを楽しみにしていてくれたのだろうか?
「何をぼーっと立ってるのよ、早く注文してこっちに来ればいいじゃない」
俺が想定外の事に固まっていると、顔を真っ赤にした紅に怒られた。急いで注文して彼女の席へと向かう。どうしよう、色々予習する予定だったのに……とりあえず挨拶しないと……なんて呼べばいいんだ? 周りには同じ学校の生徒らしきやつらがいるから、紅ではまずいだろう。田中さんは他人行儀すぎるよな、彼女だし……まずい、席に着いてしまった。
「おはよう、ハニー。こんなところで会うなんて奇遇だな。あと、ここら辺はうちの生徒が多いからな。ジキルとハイド」
「え、ハニー……? えーと、その……おはようございます。ダーリン」
咄嗟に変な風に呼んでしまったがちゃんと返ってきた。紅ノリが良すぎない? 俺の言葉に、周りに同じ高校のやつらがいるのに気づいたらしく、口調は学校にいるときのお嬢様口調になった。初めて合図が役に立った気がする。何を読んでいたのかと見ようとしたら、慌てて隠されてしまった。
改めて恋人になった紅を見る。清楚そうなワンピースにロングの黒髪、彼女も小っ恥ずかしいのか、顔を赤らめながら顔の下半分をノートで隠している姿はとても可愛らしい。今日の彼女はまるで清純な聖女のようで、本性が魔女であるなどだれにも見抜けないだろう。俺も、沖田コーディネートなのでおかしくはないはずだ。ちなみに、沖田は今ひたすらソシャゲをしている。ボックスガチャってなんだよ。
「その……俺達は恋人って事でいいんだよな?」
「何を今更言ってるんですか、私はもう答えたって言いましたし、神矢だって私の言った意味に気づいたんでしょう。それともまたラブコメの鈍感主人公ばりになかった事にするんですか?」
「するわけないだろ!! その……改めてよろしくな。ハニー」
「いや、普通に幸子って呼んで下さい……」
紅は半眼で俺を攻めるように見詰めてきたが、黒竜の騎士である俺は、彼女が嬉しそうにしているのを見逃さなかった。多分言ったら怒るから言わないけど……くっそ可愛いな。悪くない、むしろいい!! 俺の魔女は可愛すぎる!!
「それでどこ行こうか、ご飯は食べちゃったしな……」
そもそも待ち合わせはお昼なのに8時に合流してしまったし、今日は紅との宿題の答え合わせがメインである。それはもう終わってしまったのだ。かといって、せっかく会ったのにこれで解散は嫌だなぁ……
「折角ですし、映画でも観ませんか? ちょうどお姉ちゃんからチケットを二枚もらったんですよ」
「おお、いいな、行こう」
そういって、紅は財布からチケットを二枚取り出した。準備がいいな。流石に奢ってもらってばかりでは申し訳ないし、カッコ悪い。お昼は俺が出すとしよう。そうして俺達は店を出て映画館へ向かう。明るくなり一つのことに気づく。
「あれ、なんかいつもと目元の化粧ちがくない?」
「なんで、そんな事ばかり気付くんですか……ちょっとクマがあったから隠したんです」
「あれ…もしかして幸子も興奮して寝れなかったのか?」
「うるさい、早く行くわよ!!」
声を荒げた紅に俺は慌ててついていった。そうして、俺達は映画館が併設されたショッピングモールに向かうのであった。
映画館の上映されている物の中で気になったのは、やはり大作ファンタジーだろう。異世界転移した少年がタイムリープをしてピンチを解決する話だ。俺と紅の二人の好きな作品でもある。だが彼女とのデートだし恋愛ものを観るべきだろうか? いやでも、ファンタジー物がいいよなぁ……隣の紅もさっきからファンタジー物のポスターを見ているしな。
「こちらを観ましょう、ちょっと気になっていたんです」
「え……いいのか?」
「こちらのほうがカップルっぽくないですか?」
そういって紅が指を指したのは恋愛物のほうだった。珍しい事もあるものだ。恥ずかしながら俳優とかあんまり詳しくないし、実写はハリウッド系くらいしかみないんだよな……まあ、どのみち可愛い彼女に上目遣いでお願いされたら俺に断るすべはないだろう。てか彼女って響き最高じゃない?
「あれ、避難経路は確認しなくていいのか?」
「まあ……今日はいいじゃないですか」
紅は何やらうずうずしていたが、映画館の中へと入っていった。まあ、これがカップルになるという事なのかもしれない。少し寂しさを覚えつつも、俺達は変わったのだと言い聞かせる。
肝心の映画の内容と云うと全然頭に入らなかった。内容にそこまで興味がなかったのもあるが、その……映画館の席って結構狭いんだよな。たまたま……本当にたまたま手が触れてしまい、そのまま手を握りあってしまうことになっても仕方ないし、お互いちらちらと視てしまうのも仕方ないだろう。だって恋愛映画の主演より紅のほうが可愛いんだからしかたないじゃん。ちなみにそれを小声で言ったら殴られた、ひどい話だ。上映中の暴力は禁止だぞ。
映画を観終わった俺達は丁度良い時間になったので食事へと向かう。本格イタリアンと言いたいが、俺達が向かうのはフードコートだ。季節は秋から冬へと成りかけているが、不思議と寒くはない。右手に握られた紅の手のおかげだろう。どうやら、黄泉の魔女の加護には防寒の効果があるようだ。
「そうですね……血の滴る……じゃなかったトマトソースのパスタをいただきます」
「幸子はトマトが好きなんだな。俺はハンバーグにしようかな」
店に入った俺達は、少し違和感を覚えつつも店員さんに料理を注文する。お互い緊張しているせいか、会話が少ない。だって恋人だぜ、何を話したからいいかわからないんだよ!! あれか将来の話でもすればいいのかな?
「えーと、今日はいい天気だな……」
「そうですか、何か曇ってきましたけど……」
外をみると紅の言う通りなんか天気が悪くなってきた。空の神よ、空気読んでくれない? などと思っていると料理が運ばれてきた。しばらく食べていると紅がこちらを見つめてくる。
「これ美味しいですよ、よかったら少し食べますか?」
「え、いいの!! ちょっともらう」
「それでは失礼しますね、あーん」
うおおおおお、全然失礼じゃないです。こんな失礼ならもっとしてください!! 俺は想定外の事に、にやにやしながら紅を見詰める。
「あの、手が重いのと恥ずかしいんで、早く食べてもらえませんか?」
「ああ、ごめん、あまりに天国すぎて動きが止まってたぜ」
顔を真っ赤にしながらパスタを差し出す紅を見つめながら料理を堪能する。正直、味とかわからないけどむちゃくちゃ幸せだよ。ちょっと恥ずかしいなと思い周りを見回すと、カップルと家族連れが多いためか誰も俺達をきにしていないようだ。あれ、見知った顔がいる。
「あんたは何色が好きなのよ」
「そうだな……俺は黒が好きだな。非リアな俺には、孤独なパープルが似合うのだ。王の力を人を孤独にするのからな」
「言ってる意味はよくわからないけど、黒色が好きなのね……いつか見せるかもしれないし、今のうちに準備しとかなきゃ……」
そこには少し緊張した感じの赤坂さんと、後頭部しかみえないが安心院らしき二人組がいた。すぐそこなのに、全然気づかなかった。俺らの行動は見られてないよな。見知った顔にイチャイチャしているところをみられるのは恥ずかしすぎる。
お、赤坂さんと目が合い一瞬固まったようだが、会釈をしてくれたので俺も返す。なんだかんだであの二人もうまくやっているようだ。お互いデートだし、今日は話しかけないほうがいいだろう。向こうも同じ考えの様だ。俺達はアイコンタクトで暗黙の了解を得た。
「おー、如月と彼女の……田中さん!! 偶然だな。良かったら二人も話そうぜ」
赤坂さんの視線に気づいたのか、こちらを振り向いた安心院が声を掛けてきやがった。さすが空気を読めない男ナンバーワンだ!! 赤坂さんも頭を抱えているし、紅もどうしようって感じでこちらをみつめてくる。本当にどうしよう……え、こっちに来るんだけど合流する気なのかよ、安心院……
実は気分転換に短編で心を読める少年とツンデレの女の子の物語を書いていたのですが、同じ題材で短編一位のやつを発見してしまいました……やっべえ、どうしよう……何かの機会に投稿してたら題材かぶったんだなぁ。って優しく見守ってくれるとありがたいです。
初デート編はこの話を含めて三話程度で終わらせるつもりです。
以下 ネタバレ 先の話を知りたくない方はみないでください。更新が最近遅いのでちょっとどうなるか待てないよって方様です。更新楽しみにしてるから大丈夫って方はスルーしてください。
なんか不穏な感じが続くかなって思う方はご安心ください。
後二話先から神矢と紅は砂糖の様に甘い関係になります。
ポケモンのマリィちゃん可愛すぎませんか?