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36.如月神矢は流れ星には祈らない<黒竜の騎士の覚悟>

本日は2話更新になります。紅視点の話を本日更新しておりますので、そちらを読んでからこちらをよんでいただけると嬉しいです。

紅は数分間殴り続けるとようやく動きを止めた。どうやら相当やらかしてしまったらしい。



「その……俺のせいで怒らせちゃったみたいだな……ごめん」

「別にいいわ……あなたが思った以上に鈍感なのに驚いただけよ。それより冷えてきたわね、魔女にのみ許されたマンドラゴラのお茶だけど特別にわけてあげる」



そう言って彼女はあきれた様子でため息をつきつつも、俺に湯気の立ったコップを渡してくれた。ジンジャーティーだろうか、不機嫌にはなったものの俺の体を気遣ってくれている紅の優しさが身にしみる。

コップから湯気と生姜の香りがする。口にすると身体の芯からポカポカと温まる。あれ? これ薬とか入ってないよな。



「なあ、紅この飲み物に睡眠薬って……」

「さあて、どうかしらね。想像に任せるわ」

「うおおおおお!!」



 俺は一瞬吐こうか悩んだが、飲み干した。せっかく紅がくれたものだ。無駄にするわけにはいかないだろう。やっべえ、口の中が無茶苦茶熱い。



「冗談よ、こっちには何も入ってないわ。でも美味しかったでしょう。うちの家の特製レシピなのよ」



 そういって紅は意地悪な笑みを浮かべながらジンジャーティーを口に含む。俺の狼狽する顔がよっぽどおかしかったのか少しは機嫌がよくなったらしい。口の中が火傷した気がするが、この程度で紅の機嫌が直るならば安いものだ。



「そんなことよりも、夜空を観て、流れ星よ。願い事でもしましょう。」

「ああ、そうだな」



星空を見上げると綺麗な線を描いた星が堕ちていく。横の紅は目をつぶって祈っている。その姿があまりにも美しくて俺はまた胸が熱くなるのを自覚した。

ああ、俺はこの魔女がどうしようもなく好きなのだ。流れ星を観ながら俺は思う。逢魔が時は終わり、夜に成ったのだ。ならば俺たちの関係も進めるべきではないだろうか?

学校で再会以来、俺達は色々と一緒に行動をして距離は縮まったと思う。紅が恵理子に嫉妬したり、彼女の家のハロウィンパーティーに誘われたり、ダンスを踊ったり、最近は学校でも手を繋いだりしていて本当に色々な事があった。

正直両想いじゃないか? って思う事もある。だが同時にもしも勘違いだったらと思ってしまう。失敗したら全てを失うのだ。それに俺は耐えられるのか? 自慢ではないが俺はモテたことがないし、自分が変わり者だということも理解している。俺に他人の心を視る力があればこんな風に迷うこともないのに……



「冷えてきたわね……私を怒らせた罰よ、暖めなさい」



そう言って彼女は俺の手を握ってきた。彼女の手は確かに冷たいがそれに反比例するかのように俺の中の想いが熱くなるのを自覚した。



「せっかくの二人っきりなんだからなんか喋りなさいよ、それとも私に手を握られるの嫌だったかしら?」



そう言って上目遣いでこちらを見つめる紅の瞳に不安の色が映った気がした。手が少し震えているのは寒さだけだろうか? 俺が紅に触られて嫌なはずないのに……

ひょっとしたら彼女も俺との関係を進めたいと思ってくれているのかもしれない。結局言葉にしないとお互いの気持ちなんて伝わらないし、わからないのだ。紅が俺のことを好いていてくれるなんて、俺の妄想や、幻想かもしれない。でも妄想や幻想こそが俺の領分だ。

  久々のこの二人っきりの時間は紅が作ってくれたせっかくのチャンスだ。自分の気持ちに正直になれと己を鼓舞する。

 それと同時に先日の事を思い出す。赤坂さんが安心院に告白すると言った時に、俺はまじかよと思うと同時にすごいなと思った。そう、俺は好きな相手に告白をするという彼女の強さに憧れたのだ。なのに俺は何をやっているのだろう。ダンスオーディションの時もチャンスはあったのにダメだった。優勝なんてできなくても踊り終わって盛り上がったときに告白すればよかったのだ。なのに優勝できなかったからと逃げてしまった。そして今も流れ星や存在しない能力に頼ろうかと悩んでしまった。それではだめなのだ。何かに頼っての告白ではだめなのだ。

 だから俺は流れ星には祈らない。今だけはジンクスなどには頼らない。俺が頼るのは黒竜の騎士としての力だ。黒竜の騎士と黄泉の魔女との絆だけを頼りに俺の想いを伝えるのだ。



「なあ、紅は流れ星に何を願ったんだ?」

「言うわけないでしょう、魔女は秘密が多いのよ。それにもしも言って叶わなくなったらどうするのよ」



 俺の質問に彼女はなぜかこちらを睨みながら顔を赤らめた。本当にこの魔女は可愛らしい。



「言霊って知ってるか? こういう事は口に出したほうがいいらしいぞ。ちなみに俺は何も祈らなかった。今回の願いは自分の力で叶えたいからだ」

「ふーん、よくわからないけど、私で力になれるなら手伝うわよ」

「ああ、俺の願いは紅もいないと叶わないんだ」

「え……?」



 そう言って俺は紅の手を握っている手に力を込めた。俺の言葉と行動に狼狽しながらもこちらを見つめる彼女の視線が俺の視線と重なった。顔が真っ赤になっているのはジンジャーティーを飲んだからだけではないはずだ。

俺は精神を集中させるために深呼吸をする。だめだ全然落ち着かない。心臓が早鐘のようになるばかりである。今ならばまだ間に合うと弱気な俺が言う。今の関係でもいいんじゃないかと弱気な俺が言う。だけどここで逃げてはいけない、俺と紅が再開できたのは偶然だ。また中学の時のように、なにかがおきて別れる事になるかもしれない、そうなってからでは遅いのだ。いつまでも隣に彼女がいるわけではないという事を俺は知っている。だから俺は再会を偶然ではなく運命だったといえるようにしたい。



「俺は紅の事が好きだ。盟友ではなく、俺の伴侶として共に歩んでほしい。もしお前がうなづいてくれるなら、黒竜の騎士は魔女の騎士になる事を誓おう!」



 俺の言葉に彼女は驚いたように目を見開いた。一瞬嬉しそうに微笑んだのは俺の願望がみせた幻覚だったのかもしれない。彼女がうつむいて少しの間沈黙が世界を支配した。



「本気で言ってるの? 私は黄泉の魔女だし……それに私は結構嫉妬深いのよ、もしかしたら私の嫉妬の炎は黒竜の騎士すらも焼き尽くしてしまうかもしれないわ」

「河原でも言っただろう、俺は魔女の紅も普通の紅も好きなんだよ。心配するな。黒竜の鱗は魔女の炎くらい耐えて見せるさ。だから共にこの世界を生きよう」



 うつむいたままの彼女に俺は微笑んだ。一度言ってしまったらもう止められない、彼女と過ごした時間が、彼女への想いが胸からあふれ出す。



「中学の頃からずっと好きだった。厨二なところが好きだ。俺があほな事しても笑ってくれるところが好きだ。クールぶっているくせにポンコツな所も好きだ。そのくせ意外と気がきくところも好きだ。高校で再会してもっと好きになった。デートで一緒にいると時間を忘れるくらい楽しくすごせるから好きだ。俺にわらいかけてくれる顔が好きだ。多分は俺はお前じゃないとだめなんだ。だから偽装じゃなくて本当の恋人になってほしいんだ」



 俺の想いはこれで伝えた。まだまだ好きなところは伝えたりないがこれ以上は蛇足だろう。ゴクリと唾をのむ音がした気がする。顔を真っ赤にしてうつむいていた紅はやっと俺の方を見た。潤んだ目でこちらを見つめ返す彼女は今まで見た何よりも美しかった。



「ここはね、私にとって魔女になった特別な場所なの。昔ね、お父さんと一緒に星空を観てなんて綺麗なんだろう、魔法みたいだなって思ったの。だから私も魔法が使えたらいいなって思って……それで私は魔女になろうって決めたのよ。そんな大切な場所に大切な人と一緒に来れた上に、また素敵な思い出が出来て本当に嬉しい」

「え、でも星空と黄泉って関係なくないか?」

「それは……その……色々読んでて黄泉とか死霊とかかっこいいなって思ったのよ。察しなさい。あと私はポンコツじゃなくてクールな美少女よ、そこだけは訂正しなさい」



 紅がちょっと恥ずかしそうに言った。すっげえわかるわ。俺も光より闇の方が好きだもん。ぶっちゃけ聖騎士より暗黒騎士とかの方が好きなんだよな。それはさておき俺は最も聞きたい返答がされていないことに気づいた。俺を大切な人とまで言ってくれているのだオッケーだとは思うのだが、こういう事はやはり本人の口からちゃんと聞きたいものだ。



「あの……紅……結局告白の答えは……?」

「フフ、告白の答えはもうすでに言ってるわよ。魔女からの宿題だと思いなさい。どうしても知りたかったら教えてあげるけど、私の騎士になりたいならそれくらい自分で解きなさいな」

「え、一体どういう……」

「明日は暇かしら? お昼に駅で待ち合わせをしましょう。そこで答え合わせをするわ」



彼女はそういうと顔を真っ赤にしながらも意地の悪い笑みを浮かべた。え、待って? 告白の答えをここで教えてくれないのかよ!! 俺が惚れた魔女は意地が悪いようだ。まあそんなところも好きなんだけど。





正直その後の事はずっともやもやしていてあまり覚えていない。良い写真が撮れたので帰ろうと紅が言って解散することになった。沖田が紅に「あれ、紅さん何かいいことあったの? 鼻歌歌いながらにやにやしててこわいよ……」と言って「フフ、秘密よ」と答えていたのだけは覚えている。朱? 確か沖田が背負ってたな……

 紅は俺の事を大切な人って言ってくれたけれど、大切なお友達っていう可能性もあるよな。家に帰った俺はベッドに横になりながら今日の出来事を思い出す。いつだ、紅が答えたというのはいつなんだ。告白した直後の特別な場所って意味だろうか? あの山のルーツを調べたが違うようだ。

 後は……彼女の様子がおかしくなったタイミングを思い出せ。一緒に星を観始めたときだろう。あの時俺は紅になんて言った? 必死に思い出す。確か月が綺麗とかいった気がする。あのあとから彼女の様子がおかしくなったんだよな。

 昔読んだラブコメで何か特別な意味があったなぁと記憶の片隅に残っていたがいまいち意味まで思い出せない。恋愛はすっかり縁遠いものと思って失念していたのか、自分でも気がつかないくらい、夜中に二人っきりの状況に緊張していたのかもしれない。俺は急いでスマホで検索して、血の気が引くのを自覚した。



「うおおおおおおおおお、俺はバカか、死ねよ!!」



 あの時に俺は紅に告白してるじゃん、しかもオッケーもらってるじゃん。なんでスルーしてんだよ。そりゃあキレるわ。俺だったら相手を殺してるぜ。なんで気づかなかったんだよ、ラブコメの鈍感主人公か俺は!?

 明日なんて待ってられない。俺は夜中にもかかわらず彼女にライン通話をする。



「出ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」



 とりあえずラインは送ったが返信もない。もう寝てしまっているのだろうか? 今から紅の家に行くか? 夜遅いしな。深夜だというのに絶叫してしまった神矢だけに。ドンドンと隣の部屋からうるせえという抗議の音がする。今日だけは許してほしい。俺は今それどころじゃねえんだ。明日はどんな顔して紅に会えばいいんだろう? だめだ、今夜は眠れる気がしない。とりあえず沖田に電話をして相談するとしよう。あいつのことだソシャゲ周回でもしてるだろう。


 結構大事な話なので何回も推敲してしまいました……心理描写はどのくらい書けばいいのかの塩梅が難しいですね。


 35話で色々意見ありがとうございます。一人で書いているので客観的な意見をいただけるのが大変参考になります。



 おもしろいなって思ったらブクマや、評価、感想をいただけるとうれしいです。

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[良い点] 月が綺麗ですねの意味に気づいてうわぁー/(^o^)\ っていつなるかなって思ってました笑 やっと次回で正式に付き合うのかぁ、付き合うよね? 付き合え!
[良い点] あ 気付いたw ともあれカップル成立おめ~ さあイチャイチャしやがれw [気になる点] 魔女と騎士が誓いを交わしてたとき 不審者は何してた? 魔女の眷属の寝顔見てた? 写真撮ってた 動画…
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