35.星を見に行こう<騎士と魔女とシューティングスター>
「待ってましたわ」
野生の朱が現れた。いや、本当になんで現れるんだよ。逢魔が時は過ぎ、夜といってもいい時間である。中学生は補導されるんじゃないか? 俺は朱の隣で申し訳なさそうに立っている沖田に声をかけた。
「沖田ー、お前トレーナーなんだからちゃんと見張っとけよ。なんで朱がここにいるんだよ。ここはサファリゾーンじゃねーぞ」
「いやぁ、僕は止めたんだけどねぇ……バッチが無いから言うことを聞いてくれないんだ」
「人をポケモンみたいに言わないでほしいですわね!! 紅姉さまに聞きましたわ。こんな夜に二人っきりになろうだなんて破廉恥ですわ。」
「おい、紅……」
俺が半眼で見つめると紅は気まずそうに視線をそらす。せっかく久々の二人っきりでのデートだと思ったのに……
「ごめんなさい……その……今日を楽しみにしててつい朱に言ったら、ついていくって聞かなかったのよ……この埋め合わせは必ずするから機嫌を直してよ」
しゅんとした紅も可愛いなと思いつつ、埋め合わせにネコ耳でもまたつけてもらおうとするかな。ネコ耳をつけた紅すっごい可愛いんだよな。俺は二日に一度くらい観ている紅の酔った時の動画をみて思い出しにやにやとする。
「お姉さま!! 黒竜の騎士がいやらしい顔をしていますわ!! きっと変な妄想をしているに違いありませんわ」
「お前マジ黙れ!! 変な妄想は……してないぞ……」
「そこは即答しなさいよ!! なんで言い淀むのよ!!」
「あはは、神矢も男の子だからねぇ」
俺達はくだらない事を言い合いながら山を登った。夜道という事もあり、俺が紅を、沖田が朱を、それぞれサポートしながら登る。山といっても傾斜はたいしてないし、舗装された道を登るだけである。たいした危険はない。
「しかし、こんな時間にみんなで歩いてると冒険しているって気分になるな。さしづめ俺の職業は暗黒騎士ってところかな」
「なら私は死霊使いかしらね。黄泉の魔女だし」
「回復役がいなくてバランス悪いねぇ。なら僕は剣士かなぁ、剣道部だし」
「私は黄泉の魔女の使い魔ですわ。くたばれ、お姉さまの敵!!」
「お前は脛を蹴ってくるんじゃねえよ!!」
いきなり襲ってきた朱の攻撃をかわしながら俺は叫ぶ。ああ、でもこういうのも仲間と冒険しているみたいで本当にいいな。夜の山は普段と違い、まるで異世界にきたようでテンションがあがる。まるでスケルトンでも出てきそうな雰囲気だ。
「ここらへんがいいわね、ここをキャンプ地としましょう」
「ぶおーん、ぶおーん」
紅の言葉に朱がどっかの原住民が鳴らすように笛の音色を真似て叫ぶ。ごめん、なんかむっちゃ恥ずかしいんだけど。周囲には他にも星を観に来ている人がいるしな。
俺と沖田がテントを張り、紅と朱が望遠鏡とカメラをセットする。紅は手馴れた手つきで望遠鏡とカメラをセットし終わったようだ。朱と一緒に楽しそうに笑いながら何やらいじっている紅の綺麗な笑顔に吸い寄せられて俺は思わず見惚れてしまった。
「紅さんに見惚れてないで僕らも作業をするよ」
「仕方ないだろ、俺の魔女は美しいんだよ」
「君は素直だねぇ、盗み聞きをしていた紅さんが顔を真っ赤にしてるじゃないか」
「うっさいわね、さっさとテントを立てないさいよ」
無駄話をしていると紅に怒られてしまった。俺達は急いでテントを組み立てる。沖田の手際がいいのと、いつか異世界に召喚された時用にテントを組み立てる練習をしていたのもあり、組み立てはスムーズに終わる。
俺達は星がきれいに観える時間まで望遠鏡の前で、適当に時間を過ごす。紅が朱にココアらしき飲み物をあげている姿が、まるで本当の姉妹みたいで微笑ましい。ちなみに沖田はソシャゲの周回をしているようだ。なにやらナイチンゲールがなんとか言っているがどうでもいいな。
「なんだか眠くなってきましたわ……」
「じゃあ、僕がテントに運んであげよう。神矢と紅さんも二人っきりになりたいだろう?」
「うっせー、手をだすなよ、ロリコン」
「そうよ、朱になにかあったら訴えるわよ。不審者!!」
「だから僕の事は沖田って呼んでくれないかなぁ!!」
俺達の照れ隠しに沖田は苦笑しながら朱を背負いテントに戻っていた。黒竜の騎士は沖田の顔が朱の胸が背中に当たった瞬間に、にやけたのを見逃さない。このロリ巨乳好きめ!!
「それにしても朱はやはり子供だな。子供には闇の眷属の時間である真夜中に正気を保つことはできないらしい」
「そうね、彼女は才能にあふれた使い魔だけれどまだ成長途中ですもの、仕方ないわ。それに薬も効いたようだしね」
「え?」
「フフ、魔女は薬学だって詳しいのよ。副作用はないから安心しなさい」
この魔女こわっ!! 不敵に笑う紅はまるでラノベに出てくる悪役のように笑う。なんか毒りんごとか配ってそうだな。さっき姉妹みたいで素敵だなぁと思った俺の感動を返してほしい。
「そんなことより、空を観なさい、星が綺麗でしょう。ここはね、子供の頃にお父さんに連れてきてもらったのよ」
彼女の言うとおり空にはまるで宝石のような星々が輝いていた。少し山を登るだけで全然違うんだな……特に満月の輝きが神秘的で異世界の様だった。いまだったらなんか変な光に包まれて異世界召喚されても不思議ではない。でも召喚されるならば紅と一緒がいいなぁと思う。
「今夜は月が綺麗だな、紅」
「え……? は……? え……?」
神秘的な光景に自然と感想が口からあふれ出ていた。紅のほうを見るとなぜか顔を真っ赤にして、口を金魚のようにパクパクとしている。あれ? 無茶苦茶パニくってない? 俺はなんか変な事を言ってしまったのだろうか。
心配になって紅を見つめていると彼女はなぜかうつむいてから「よし」と気合をいれるかのように小さく呟いてから、俺を見つめ返してきた。
「そうね……あなたと見る月はとても綺麗ね……その……死んでもいいわ」
「いや、死んでもいいは言い過ぎじゃないか? 確かに綺麗な光景だけどさ」
「は……?」
紅の顔が信じられないものを見るかのようになり、徐々に怒った顔に変化していく。どうしたの? さっきから情緒不安定すぎない?
「ふぁぁぁぁぁ……神矢のばかぁーーー!! なんでいつもは以心伝心なのに今だけは通じないのよ!!」
なぜかどなられた上に不機嫌になってポカポカと俺を殴る紅を見ながら、俺はどうにか機嫌を直してもらおうと考えるのであった。てかマジで痛いんだけど!
コウ様から素敵なレビューをいただきました。ありがとうございます。大変モチベがあがります!! というかレビューいただいたのはじめてですっごい感動しています。本当にありがとうございます。
紅がなんで怒っているかわからない方は次の話が更新されるのをまっていただくかネットで「月が綺麗ですね」って検索していただくとわかります。
ポケモン買ったんですがリストラポケモン多くないですか?
追記 感想をいただき自分でも無理があるとは思ったので月が綺麗だなはそのままですが、漱石の下りは消しました。ご指摘ありがとうございます。




