31.ダンスオーディション<騎士と魔女の舞踏会>
一週間のダンス練習も今日で終わりである。あとは放課後のオーディションに向けて、俺達は昼休みに最後の調整をしていた。体力不足の紅も放課後と昼休みのランニングの成果か、単に踊りに慣れたのか、かろうじて一曲は踊れるようになっていた。
やはり最大の敵は赤坂さん達だろう。安心院が上達したこともあってかなり綺麗にダンスを踊れるようになっていた。部室での作戦会議の次の日の昼休みに隣のクラスが騒がしいと思ったら、赤坂さんが満面の笑みを浮かべて気絶したと聞いた時は、どうなるかと思ったが……
二人と同じクラスの中村に話を聞くと、昼休みに安心院と手を繋いだ赤坂さんは顔を真っ赤にして倒れてしまったらしい。一時はどうなるか心配だったが徐々に手をつなぐ状況に慣れていったらしく、三日目からは昼休みも普通に過ごせるようになったそうだ。あの子って安心院の事好きすぎない? だめな男がいいのかな?
ついでに中村達の状況は、中村の女装のクオリティがどんどん上達したくらいか。元々小柄なのもあり、ぱっと見で、クラスの中の上の女子と同じくらい可愛い。具体的に言うと、妻田が「中村にも穴はあるんだよな……」って時々つぶやいたり、俺達の練習を見学に来た恵理子が「腐腐腐可愛い女装男子とモテない男子のカップリングありね……」とかいってなんか設定を書き始めたくらいのクオリティだ。
ダンスのレベルは中村ペア、赤坂さんペア、俺達の順だ。単純な技量では赤坂さんに劣っている以上正攻法では俺達の優勝は難しいだろう。だが、俺には……俺と紅には俺達のやり方がある。黒竜の騎士と黄泉の魔女には二人だけのやり方があるのだ。昨日のうちに色々仕込んでおいたのだがうまくいくだろうか。
放課後の体育館でダンスオーディションがはじまる。まばらな拍手と共に俺達の前の順番である一年生カップルのダンスが終わったようだ。俺と紅は二人で体育館の仮設ダンスステージへと向かった。
「では次のお二人どうぞ……って、ええええ?」
「どこで買ったんでしょうか、あの服……如月君は変わらないなぁ。相棒の女の子も中々ぶっ飛んでますね」
審査をする男女の文化祭実行委員は俺達の姿をみるなり不思議な声を上げた。男の方は知らないが、女の子の方は同じ中学出身の白石さんだ。かつての俺を知っている少女である。
二人が見て驚いているのは俺達の恰好が理由だろう。黒い竜の鱗を模した甲冑(自作)を着て、腰に剣を差している俺と漆黒のドレスにレースをあしらった服(黄泉の魔女ハロウィンVerを改造したらしい)になんかよくわからない木の杖を腰に差した紅である。他の参加者? もちろんジャージだよ。ダンスが普通なんだから他でインパクトを与えないとな。
「くっそ、如月って聞いたことある名前だと思ったが、厨二病のあいつか……やってくれる」
「まあ、いいんじゃないですか、おもしろそうですし。」
「フッ、ここから始まるは、とある黒竜の騎士ととある魔女のダンスパーティー」
「私たちのダンスという名の幻想を楽しみなさい」
『イッツショウタイム』
審査員の二人にインパクトを与えるのには成功したようだ。
俺が指を鳴らすと同時に昨日体育館に仕込んでおいたスピーカーから音楽が流れる。一部のオタクから熱狂的な支持を得ているバンド「シュバルツナイツ」の代表曲が流れる。アップテンポの曲にあわせて俺達は踊り始めた。
「え、何だこれ、この曲なんなんだよ、どっから流れているんだよ」
「先輩ご存じないのですか!! 一部のオタクに人気の「シュバルツナイツ」ですよ!! さすが黒竜の騎士です。曲のセンスがいいですね」
「ごめん、白石さんなんでそんなにテンション上がってるんだ? あと黒竜の騎士ってなんだ? 漫画かなんかかのキャラ?」
二人の会話をよそに俺達はダンスを踊る。紅の体力を極力使わないように俺がリードするのを心掛ける。体力は無に等しい紅だが、元々のダンスのセンスは悪くない。中盤に差し掛かった俺達は視線を合わせてうなづく。そしてぱっと手を離し距離を取った。
「え、ダンスにアドリブか? まあ、場が盛り上がるならいいのか……」
「先輩、黒竜の騎士ですよ、ただで終わるわけないじゃないですか!!」
「白石さんのその黒竜の騎士への謎の信頼感はなんなんだ?」
距離を取った俺達は見つめあいながらそれぞれ剣と杖を掲げる。それを合図にして俺の持つ剣を中心に黒い焔(映像)が広がりと紅の足元に冷たい煙が巻かれる。やっているのは沖田だ。あいつには感謝してもしきれない。
『これは黒竜の騎士の解き放つ焔と黄泉の魔女の氷獄の二重奏』
俺と紅の声をはもらせ、再び手をつなぐ。漆黒の焔と煙が混じる中俺達はあざやかに踊り続けた。
「え? これダンスだよな、なんでミュージカルみたいになってんの? てかあれはなんなんだ。」
「黒竜とはおそらく北欧神話のファフニールが元になっていますね、ならばあれはおそらく彼が持っている武器はグラムでしょうか? 相棒の女性の言っていた氷獄……おそらくダンテの神曲であるコキュートスが由来だと思います。如月君の相方も中々ですね」
「そういうことをきいてるんじゃねえよ!! 白石さんどうしたの? なんでそんな早口なオタクみたいになっているんだ? いつも書類仕事につかれている俺に、『お疲れ様です』っていってねぎらいながら笑顔で、お茶をくれるおしとやかな君はどこにいったんだぁぁぁぁ!?」
そうして俺達は最後のダンスパートを踊りきって文化祭実行委員の二人にお辞儀をして退出する。「ブラボー、ブラボー!!」と白石さんがやたら拍手喝采していた。最近会っていなかったが元気そうでなによりだ。
「ごめん、手伝っといてなんだけどこれは何なんだい? 君ら代表のダンスを踊るんだよね? なんで謎の固有結界みたいなのつくってるのさ?」
「ふっ、体は竜でできている。黒竜の騎士と黄泉の魔女の二重奏はどうだった?」
「私達勝てるかしら? あとだいぶはっちゃけたけど私の正体ばれないかしら……」
「どうだろ……本当にどうだろう……あれが評価されたらいけるかもだけど、赤坂さん達もだいぶ上達してるからなぁ……」
「大丈夫だろ? 白石さんがいたし、俺の影響だと思ってくれるよ」
踊り終わった俺達は一息ついて他の参加者たちのダンスを見ることにした。周りに人がいないのもあるのか紅も素に戻っている。三年のペアが踊っているが俺達の二重奏の影響か、変に動きを意識して失敗していた。思わぬ副産物である。
「そういえばあの子、黒竜の騎士を知っていたわよね」
「ああ、中学の同級生なんだよ。沖田とも知り合いだぞ」
「白石さんとは久々だなぁ、君が狂った格好で来たダブルデートから仲良くなってんだよねぇ、あの子も相変わらずだったね」
「狂った格好じゃなくて、黒竜の騎士の正装な。クラスが変わって疎遠になって会ってなかったけど元気そうでよかったぜ」
「ねえ……神矢と白石さんのってどんな関係なのかしら? ダブルデートって相当仲良しだったみたいね……?」
俺と沖田が中学時代の思い出話をしていると紅が不機嫌そうな顔で唇を尖らせていた。確かに他の女の子の話をされて確かにいい気分ではないだろうな……どう話そうかと思っていると赤坂さん達の番がきたようだ。
「お、赤坂さん達のダンスがはじまるねぇ」
「あれ、なんか様子がおかしくないか?」
「ごまかそうとしてない? あれ、本当にどうしたのかしら」
赤坂さんと安心院は踊り始めたがしばらくすると、安心院が動きを止めて、赤坂さんに何やら話しかけた。一体どうしたんだ、減点になるぞ。
「すまない、俺達は棄権する!!」
「安心院何を言ってるのよ、私は踊れるわ」
「うるさい、さっさと行くぞ」
「でも……」
安心院は大声で宣言すると、驚いている赤坂さんを強引におんぶして体育館を出て行った。一体何がおきたんだ?
「神矢と紅さんは代表の発表があるだろうからここにいて、僕が様子をみてくるよ」
混乱しながらもそういって沖田は彼らを追いかけていった。俺達は釈然としないまま中村達のダンスがはじまるのみている事しかできなかった。赤坂さん達は大丈夫だろうか?
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練習パートも考えたんですがこれ以上長くするのもなんだかなぁとおもったんでやめました。
地元の高校なんで昔の神矢を知っている人も結構いるんですよね。
次回は金曜か土曜には更新したいです。
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