30.ダンス<恋の渇望者たちの舞踏>
私こと赤坂凜は如月君に勝負を挑んだ。理由は二つある。子供の頃から運動競技をしていたせいか対戦相手がいるほうが燃えるのだ。それに彼が彼女に……田中さんに対する態度に違和感を覚えたからだ、私は恋人がいたことはないのでわからないが、クラスメイト同士で付き合っているカップルは見ているので空気感は多少わかる。そんななか、あの二人にぎこちなさを感じたのだ。彼も私と同様に好きな人に今一歩ふみこめないでいるのかもしれない。いや、彼は告白をして彼女を作ったのだ。彼といまだ告白できない私と比べるのは失礼であろう。まあ、それはともかく初対面の私に力を貸してくれた彼に多少なりとも恩返しをしたかったというのはある。
とにかく彼は勝負に乗ってくれた。昨日ひたすら動画をみて動きを覚えたし、安心院がよっぽど下手ではない限り負けないと思う。そして代表に選ばれたら私は安心院に告白を……まずい……顔が赤くなってないだろうか?
目の前にいる安心院をついみつめてしまう。あ、でもダンスってあれよね、手をつなぐのよね? まずいまずいまずい、平静を保つためにスイッチをしよう。私が迷っていると彼の手が私の手を握ってきた。ああ、なんと満たされた気分になるのだろう。パニックになる前にスイッチを……
「あれ、女の子の手って柔らかいって聞いたけどなんか硬いな……むしろ中村の方がやわらかくね?」
「死ね」
私は反射的に蹴りを入れた。しかたないじゃない。バレーやってるのよ!! そりゃあ一般的な女の子よりは硬いかもしれないけど、なんで中村と比べるのよ!! 安心院の馬鹿!!
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次の日の放課後ダンスの練習用に解放されている体育館に行くとすでに何人か練習を始めていた。三年生のカップルや、初々しい一年生のカップル、赤坂さん達だ。それに……うおおおおおおおお、中村がロングのかつらをかぶり、メイクもしてやがる。なんで女装のクオリティあげてんだよ。メイクも上達しており一瞬可愛いなと思ってしまった。周りは関わりたくないのか、あいつらの周囲だけやたらとスペースが空いている。
「お待たせ」
「全然待ってないよ……ってなんだその格好は? ドレスや猫耳は?」
「学校にドレスなんて持ってくるわけないでしょ、あと猫耳は忘れなさい」
俺の前にきた紅は学校指定のジャージ姿だった。え、なんでだよ? おかしくない? 全然魔女っぽくないじゃん。俺は黒竜の騎士としてのパーティー用の衣装の一つである、執事服なのに……
「お前なぁ、黄泉の魔女としてのプライドを捨てたのか? そんな芋っぽいジャージじゃ、芋の魔女だぜ」
「あんたこそ正気になりなさいよ、周りのみんなもジャージでしょ……それに私は学校では魔女としての力を隠してるの」
いやそうなんだけど、こういうイベントのときくらいはっちゃけたくない? 俺の影響って事でドレスとか着てくれないかなぁ……
「死ね」
「にぎゃぁぁぁぁぁぁぁ、赤坂、そこはだめだぁぁぁぁぁ」
悲鳴のほうをみると憤怒の表情の赤坂さんが安心院の膝をゲシゲシ蹴っていた。何やってるんだ……残念ながらこれをみるかぎりあの二人は敵ではない。
俺は気を取り直し紅とダンスを踊る事にした。やわらかい手の感触につい笑みがこぼれてしまう。近くでみる紅はなんて可愛らしいのだろう。この魔女になら呪われてもいいとすら思える。そうして俺達はダンスを踊り続け……ることはできなかった。
「あのさぁ……紅、さすがに体力なさすぎじゃない?」
「仕方ないでしょ……魔女は後衛だから体力はないのよ……肉体労働は騎士の仕事でしょう」
「そうはいってもダンス一曲踊る体力もないのはやばいだろ……」
俺はダンスの途中で息切れをしている紅に買ってきた水を渡した。こいつ体育の成績とかやばいんじゃないだろうか……赤坂さんと安心院はさっきから何度も足を踏まないで!! とかいって喧嘩している。こいつはやべえぞ、このままでは名前も知らないモブキャラが優勝してしまう。俺は作戦会議を開く事にした。
「で……どうしよっか?」
「どうにもならないねぇ……」
「うう……だって私は魔女なんです……運動なんてできなくてもいいんです……」
「うう……硬いっていわれた……わたしの手は硬いって言われた……それにあいつ踊るのへたくそで私の足を何回も踏んでくるのよ……」
ダンス練習が終わり俺達は再度部室に集まっていた。俺と沖田は床に座りいじけている二人の女子をみて同時にため息をついた。予想以上にだめだめである。
「沖田からみて参加者の評価はどうだ?」
「そうだねぇ、問題外は神矢と田中さんかな……最悪でも踊りきるくらいはしないと話にならないねぇ……」
「うう……だって、運動なんてできなくても、人生で困らないじゃないですかぁ……」
「次は赤坂さんと安心院かな。こっちは安心院が下手糞なのと赤坂さんが緊張しているのが原因かなぁ……」
「うう……だって好きな人と踊ってるのよ、緊張しちゃうのが当たり前でしょう」
「とりあえず、幸子は体力つきるために一緒にランニングしよう、赤坂さんはそうだな……安心院にお願いして休み時間も手をつなぐようにしたらどうだ?」
「うう……死なない程度にがんばります……」
「ええ、そんなことしたら私の心臓が早く動きすぎて死んじゃうわよ!! ああ、でも安心院と手を繋ぎながらなら死んでもいいかしら……」
「よくねえよ!! 死んだら安心院と幸せな家庭を作れなくなるぞ。ちなみに他の連中はどうだったんだ?」
恍惚とした表情でにやにやしている赤坂さんに俺はあきれた声で突っ込む。この人安心院のこと好きすぎない? あいつが他の女の子と付き合ったら自殺しちゃうんじゃないだろうか?
「一年のペアはノリで参加した感じだねぇ、楽しくしゃべりながら踊っていて勝つより楽しむのを重視していたねぇ、三年のペアはまあ普通かな。可もなく不可もなくだよ。一番上手かったのは中村と妻田だねぇ、わりかし器用でなんでもできる中村と吹奏楽部でリズム感が鍛えられている妻田のペアがダントツかなぁ……だが、男だ。問題ないと思うよ」
とりあえず平均レベルに踊れれば代表になれる可能性があるということか、届かないレベルではない。何とかがんばるしかない。明日の事を話し合い今日は帰ることにする。
部室を出て校門へと向かうと体育館の明かりがまだ点いていることに気づいた。え、まじかよ、まだ練習してるやついんのかよ。気になった俺達は様子を見ることにした。
「安心院、今日はもういいんじゃないかな?」
「すまんな、中村もう少しだけ頼む。自分で言いだした上に部活があるというのに赤坂に付き合ってもらっているのだ、足をひっぱってばかりではいられんのだ」
「安心院……」
どうやら安心院のやつは俺達が部室に行った後もずっと練習をしていたようだ。すげえやつだな。そう安心院は目指すものはアホだが本気なのだ。だからRZK会のリーダーに選ばれたし中村達もついていっているのだ。俺は裏切ったけど……
赤坂さんをみると潤んだ目で安心院をみつめている。こりゃあ更に惚れ込んでしまったかもしれない。重症だぁ……
「帰るわよ」
「いいのか、安心院の特訓に付き合ったほうが好感度あがるんじゃないか?」
「いえ、あいつは私に気を使って特訓に誘わなかったのよ、だから私は彼の気遣いに甘えないと……じゃないとあいつがかっこつかないもの……私は明日がんばって休み時間に手を繋いでいってみるわ」
「なんか一見いい話みたいですけど、安心院君の目的ってカップルの誕生を阻止することなんですよね……」
「今の赤坂さんにはきこえてないんじゃないかなぁ……」
紅のもっともなつっこみに俺は正気に戻る、そうだよ、全然いい話じゃねえよ。リア充への嫉妬で参加しているだけなんだよ。でもまあ、俺と紅ももっとがんばらないと行けない様だ。
「紅、お前の家まで走って帰るぞ。ついてこい、さもなくばお前のお姉さんからもらった、ハロウィンの動画をみんなにもみせるにゃー」
「は? ちょっと待ちなさい、動画って何? まさか……スマホを貸しなさい。呪い殺すわよ!!」
素になった紅が悲鳴を上げながら俺を追いかけてくる。だが所詮は魔女である、魔法ならばともかく体力勝負ならば黒竜の騎士の相手ではない。
「ふはははは、どうした紅よ、貴様の力はその程度か!!」
「ふぁぁぁぁ、おねえちゃんの馬鹿!! 神矢ーー、お願いだからその動画は消させてぇぇぇぇ」
そうして俺達は帰宅するのであった。
書いてて赤坂さんに射主っぽいエピソードがないなっておもいましたが別に神矢も騎士っぽいところないし、紅も魔女っぽい力ないなって自分で納得しました。
安心院と赤坂さんの話はもう少しだけ続きます。よろしくお願いします。
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次回更新は明後日になります。よろしくお願いします。