27.安心院という男<アーサー王伝説>
「いよいよ今年もこの季節がやってきたな」
「我々にとっての地獄の日々……新たなる敵が生まれるときですね」
「それでどうしましょうか、アーサー」
漆黒の覆面に漆黒のローブを羽織った我々はホワイトボードを前に溜息をつく。ホワイトボードには一枚のチラシ、文化祭の後夜祭のダンスパーティーのチラシである。うちの学校では後夜祭で代表としてダンスを踊ると永遠の愛に結ばれるという伝説があるのだ。ふざけんなよ、なんで他人のイチャイチャをみなきゃならんのだ。死ね!! といった感じである。
モードレットの裏切りもあったり、他にも彼女ができていたやつがいたりで誇り高きRZK会の会員も我々三人しかいない。ねえ、まじでどうやって彼女できるの? 意味わからないんですけど。そりゃあ俺にだって話す女の子くらいはいますけどあっちは絶対恋愛感情とかじゃないんだよなぁ。
「決まっているだろう、偽装でもいいのだ。我々がこのダンスの代表になり踊り、新たなるカップル共の誕生を何としてでも阻止するのだ」
「そのとおりですアーサー!! ですが私たちには女友達がいないのです、どうしましょう」
「そうなのか、トリスタン卿。確か貴公は吹奏楽部だったはず、女性の部員も多いし異性の友人も多いのでは?」
「はは、王は人の心がわからない。吹奏楽部にいる程度で女友達ができるならこんなとこにはいませんよ」
トリスタンこと妻田が悲しい笑みを浮かべる。そうだよな、簡単に女友達ができるようなら苦労しないし、こんな会に所属しないで青春してるわ。
「ガウェイン卿はどうだ? 貴公は確か生徒会の一員だろう、後夜祭を中止にはできないのか?」
「はは、面白い冗談ですねアーサー、マンガじゃありませんし、生徒会にそんな権限はありませんよ、みんな内申点のために入っただけですしね、しかも生徒会長がハーレム作ってるからまじ殺してえ」
何か嫌な事を思い出したのか、ガウェインこと中村は「生徒会長死ね、生徒会長死ね」とつぶやき始めた。親友の触れてはいけない部分に触れてしまったようだ。そういや少し前に同じ生徒会の子に振られたっていってたなぁ。え、告白するほど仲良しな子いるのかよって思ったがまあいい。
「とりあえず、各自持ち帰り作戦を検討せよ」
こうして円卓会議は終了した。俺もできる限りの手をうっておくしかないだろう。とりあえず唯一の女友達に声をかけてみるか。
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「すまない、赤坂……俺と一緒に後夜祭のダンスの代表を目指してくれないか?」
「えっ、あんた本気で言ってるの?」
うおおおおお、まじかよ、まじかよ。昼休みに沖田と部室に向かって歩いていたら、安心院が女の子をダンスに誘っているシーンに遭遇してしまった。いつもなら紅とランチなのだが、今日は恵理子と食事を取るそうだ。一緒に登校もしなかったし、ハロウィンで少し調子に乗りすぎてしまったのが尾を引いているかもしれない。まあ、お弁当は恵理子経由でもらったし、放課後は一緒に帰る約束はしているので大きな問題ではないだろう。ないよな……?
それにしても、ダンスに誘うってことはうちの学校ではほぼ告白に近いのだ。だって後夜祭でダンスを踊るってことはカップルになって一生添い遂げますって宣言するようなものだからな。付き合っていない人間は告白のようなもので、付き合っているカップルはプロポーズをするようなものである。
相手の女の子はすらっとした長身のポニーテールの美人さんである。なんであいつ初期装備でラスボスに挑むようなことをしてるんだ。
「すごいタイミングにあってしまったねぇ……あれは赤坂さんだ、バレー部の次期部長だよ。強化選手にも選ばれたっいうくらいだし君も知っているだろう」
「ああ。コート上の射手だっけ? スパイクの破壊力がすごいって聞いたことあるな。あいついくらモテないからって無謀すぎない? あほな事言ってスパイク喰らう未来しかみえねえよ」
「いや……そんなことないんじゃないかなぁ……みてごらんよ」
沖田の言う通り赤坂さんの顔をみるとあれ……照れてる? まんざらでもない……? うっそでしょ、だってあの安心院だよ。空気の読めないことに定評のある安心院だよ? なんであんな美人とフラグ立ってんの?
「当たり前だ。俺は本気だ!! こんなことを頼めるのはお前しかいないんだよ」
「そこまで言うなら……いいわ、付き合ってあげる」
「赤坂、本当か、ありがとう!!」
赤坂さんの言葉がよっぽど嬉しかったのか、安心院のがガッツポーズをした。え? うそでしょ。告白成功かよ。赤坂さんは顔を少しうつむいてるがすごい嬉しそうな顔してるぞ。可愛いな、まあ、紅のが可愛いけど。
「その……関係変わったんだし、赤坂じゃなくて凛ってよんでほしい……なんて……」
「よっしゃーー、よかった。運動神経抜群なお前とのコンビなら優勝できる可能性も高い。これでカップルの誕生を阻止できるぜ。ありがとう、今度お礼に牛丼おごるわ。」
「はっ、どういうことかしら?」
「だから、お前と俺がダンスを踊ってリア充の誕生を防ぐんだよ、ダンスを踊った勢いで告白するやつとか多いからな。俺達が優勝することによってカップルの発生を阻止する。完璧な作戦だろ? あれ……あの赤坂さん目がこわいんですけど……」
「信じられない……死ね」
鈍い音と共に安心院が股間を蹴られて悶えている。よかった、俺達の安心院は安心院だった。みんな安心だな。RKZ会最後の砦は伊達じゃない。
などと俺が安心院の末路をみてると赤坂さんと目が合ってしまった。うわっ、きまずい……
「見てた……?」
「はい、見てたし聞いてました」
「ごめん、盗み聞きをするつもりはなかったんだけどねぇ……」
「別にいいわ……沖田……その……また相談のってくれないかしら」
「まあ、みちゃったしねぇ……いいよ、はなしを聞こう」
どうやら沖田は元々赤坂さんに何かを相談されていたらしい。話の流れで俺達は天文部の部室へと向かうのであった。なんか最近部室が、便利な部屋とかしてないか?
今回は安心院の話になります。
安心院と赤坂さんの関係についてはこちらを読んでくださるとわかりやすくなると思いますが別に読まなくても楽しめるように書くのでご安心を。赤坂さんは安心院の事が好きなんだなぁ程度の認識で大丈夫です。
『イベントで推しキャラの可愛いコスプレイヤーがいたから声をかけたら隣の席の口うるさいけど美人なクラスメイトだった件について』
https://ncode.syosetu.com/n5047fv/
あと私事で申し訳ないのですが引っ越しと仕事で新規案件を任されて忙しくなったため毎日更新が難しくなりそうです。申し訳ありません。




