18.訪問者<不審者の訪問>
昼休みの部室で紅の弁当を食べた俺達はそれぞれ自由に時間を過ごしていた。蝙蝠のクッションの上に隣り合って座っているのだが、こういう風にすごせるのいいなぁと思っていると紅が話しかけてきた。にしても紅は蝙蝠が好きだなぁ。話を聞くと黄泉の魔女の使い魔らしく昔から様々なグッズを集めてるそうだ。余談だが最近リヴァイアサンも使い魔に加わったらしい。
「そういえばあんたの部屋面白そうな本がたくさんあったわね、今度貸してよ」
「いいぜ、昨日言ってくれれば貸したのに」
「え……それはその……あんた寝起きだったし……」
え、なんか言いよどんでるんだけど……なんかやったかな……そういえば、昨日紅を送った後に気になったんだけど、何か本の配置変わっていた気がするんだけどきのせいだよな……自分に必死に言い聞かせる、あれを見られたら色々やばい。自殺ものである。紅の顔が赤いのもやっぱり気のせいだろう、気のせいだよな。
それにしても膝枕とはいいものだった。いつの間にか寝てしまったがぜひまたやってもらいたいものだ。つい紅の膝をみて昨日の感覚を思い出してしまう。
「神矢……あんた今にやにやと淫魔に魅了されたみたいな顔をしてるわよ」
「ふふ、昨日可愛い魔女が膝枕をしてくれたんでな。そのことを思い出してたんだよ」
「そう……私の魅力の魔法にやられたってわけね、黒竜の騎士も大したことはないわね」
俺の言葉に彼女はまんざらでもないのかツンとした顔をしながらもちょっと嬉しそうである。思ったけど河原での出来事から好感度が上がっているような気がするぞ。距離も近くなっている気がするし、これは脈ありなのでは?
「でも意外だな、紅ならああいう本は自分で持ってると思ったんだが」
「そうね、興味はあるんだけど、ああいう本って結構高いじゃない? それに魔法系の本の方が好きなのよね」
「へぇー、そっちも確かに楽しそうだな。今度貸してくれよ」
なるほど騎士と魔女で興味の分野が多少違うらしい。しゃべってのどが渇わいたので俺はお茶に口をつける。あれ、普通に本貸してって言っただけなのに紅が神妙な顔をしている。
「ねえ、神矢……やっぱり魔法に……時魔法に興味あるの?」
「ごはぁ……」
「うわっ、きったない……何してるのよ」
「おまえ……まさか……」
やっぱりみられてるーーー!! くっそ死にてえよ。あれは違うんだよ。安心院に借りたんだよ。タイミングが悪すぎる!! 言い訳をしようにもお茶が喉につまって咳がとまらない。
咳き込んだ俺に紅がかわいらしい蝙蝠とペンギンの刺繍の入ったハンカチを差し出した。俺がハンカチを汚すのもわるいよなと悩んでいると彼女は呆れたようにハンカチを俺に押し付けようとしてきた。動揺していたのもあり、俺はその手をとっさにつかんでしまい紅を抱き寄せるような形になってしまう。すると彼女が俺によりかかるようになるわけで。
「ちょっと……」
「あ、ごめん……」
水族館の出来事が思い出させられる。でも今回は紅も文句はいうものの何故か抵抗しない。目と目が合い、彼女のうるんだ瞳に吸い込まれそうになる。ああ、なんてきれいなのだろう。
「神矢ー、いるんだろ? 用があるんだ。空けてくれないか?」
「ふぁぁぁぁぁ」
「うおおお、何の用だよ!!」
沖田の声に俺達は急いで離れた。ついでに紅のハンカチで顔をふかせてもらう、洗濯して返そう。まだ胸がどきどきしているぞ。ちょっと残念だが変な雰囲気は終わった。
「ジキルとハイド。開けてもいいよな?」
「ええ、大丈夫……大丈夫ですよね……?」
紅が部室の内装をみながら呻いた。確かにだいぶ紅の好みにはなっているがなんとか言い訳はつくだろう。俺も黒魔術にはまっていた時期はあったしな。紅が少し乱れた制服を直すのを確認して俺は扉をあけた。
「どうしたんだ? 教室じゃあ話せないことなのか?」
「イチャイチャしているところすまないねぇ……」
「別にイチャイチャなんてしてません!!」
扉を開けると沖田がにやにやとわらいながらからかう。それに反論する紅だが、さっきの光景が頭に浮かんでいるのか顔が真っ赤で説得力は皆無である。
「ああ、田中さんちょうどよかったよ。実は神矢に用があるってのは嘘なんだ。僕が用があるのは黄泉坂紅……黄泉の魔女と呼ばれていた君に用があるのさ」
沖田の言う言葉のせいで、俺はなぜか紅に胸倉をつかまれ「しゃべったわね、呪い殺すわよ」と呪詛を吐かれるのであった。気分は魔女の秘密をしゃべった愚かな生贄である。あれ、さっきまでの甘い雰囲気はどこへ? 殺気しかないんですけど……首しまってる首しまってる!!! ああ……俺はここで死ぬ……無罪なのに……
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