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1 悪夢の入り口

 

 担任の自己紹介が終わったところで、学校の概要説明が始まり、それも終わったところで、生徒に自由時間が与えられた。その意図は「親睦を深めるため」だとか何だとか。


 さて。大半の生徒は俺と反対の方向、つまりノアやグレタなどのEクラスの成績優秀者のいる右前の角の方へと動いた。彼らは笑顔で何かを喋っている。初対面の人に対して、どうしてそんなに楽しく話ができるのか。彼らには緊張のキの字も感じられない。


 俺のいる、教室の左後ろの角へと視線を移した。


 そして気付いた。




 ……あ、俺、孤独(ぼっち)だ。




 ま……まぁ、仕方ないと言えば仕方ないか。この学校の教育プログラムは、優秀な生徒をより優秀にしていくという考えが基本になっている。

 俺のような劣等生よりも彼らのような優等生と仲を深めた方が良いに決まっている。仕方がないのだ。この現象は。



 さて、特にやることもない。窓の外の景色でも楽しむことにするか────え?



 右肩に何かを感じた。何だ?触られたのか⁉︎誰が触った?こんな俺を──⁉︎⁉︎女の子か?こうして男女の関係は始まるものなのか、俺にもついに青春が──


「なぁ、寂しいモンどうし、仲良くしようぜぃ」


 ……。


 ……男だ。


 めっちゃ痩せてる。顔が青白い。髪はボサボサ。眼の下の(くま)が、その非健康的な生活を物語っている。大丈夫か?コイツ。


「お、おぅ。 これからよろしくな」


「あのぅ……君の名前、なんだっけ」


 名前を聞かれた。君のすぐ後に自己紹介したんだけどな。


「ああ、レイト=ヴァルツだよ」


「あ、レイト君。 よろしく」


 この不健康男の名前はエズラ=モーガン。趣味は特にない、と言っていた。


「ねぇ、レイト君。 君はどう思った?」


「どうって、何が?」


「この学院のことだよ。 ほら、さっき先生が説明していただろぅ?」


「……?」


「え、もしかして聞いてなかったの? 学院の概要説明」


 あぁ、さっき先生が校則やらシステムやらをくっちゃべってたな。全部予習済みだったからほぼほぼ聞き流してたけど。


「……何か、ヤバイ学校入っちゃったよねぇ」


 ヤバイ……?まぁ確かにこの男の発言、分からないこともないな。この学院のシステムは他の魔法学院とは全く異なる。先程の概要説明のときに配布された資料によると、この学院の卒業率は0.8%で、卒業できなかった人間の、その理由が、約4割が退学、約6割が『死亡』。


 つまり。この学院は毎年何百人というおびただしい数の生徒を殺す、“殺人学校”だということだ。


 しかし、もしこの学院を卒業できたならば、輝かしい将来が約束される。


 だから入学希望者は後を絶たない。志願倍率は毎年10倍を超えている。華やかな将来を夢見てここへくる馬鹿は沢山いるということだ。そう、俺みたいに。


 でも、俺は面白い学院だと思った。生徒が殺し合って競い合って、生き残った者が成功を手にする。何と素晴らしい、最高じゃないか。


「ヤバイ、ね。 ヤバイというより面白い学院だと思ったよ? 俺は」


「面白い……え、面白いって思ったの⁉︎ マジ⁉︎⁉︎」


「おい、ちょっと声大きいよ‼︎ いくらなんでも驚きすぎだろ」


 こいつ、教室で叫びやがった。声のボリュームの調節できないのか?本当に大丈夫なのか⁇


 俺は周りを見た。変な目で見られてなければいいなぁ……。




 ……何か教室のどこを向いても誰かと視線が合うんですけど。




 あ、やっぱ注目されてるわ、これ。




 いや、別にクラス全員の視線が俺らに集まるのはまだ良いけどさ。

 その、糞を見るような視線やめてくれる⁉︎

 視線が合った瞬間顔を背けるのもやめて⁉︎



 ……。




 ……あと、この気まずい沈黙もやめてくれ……。





「ははっ」


 誰かが笑った。男の笑い声。自由時間になった刹那、誰よりも早く優等生達のところへ駆け寄った男だ。名前は……ケール、だったかな?


「はっ、面白いのか? この学院が。 最下位の分際でそんなこと言えるなんて面白い奴だな。 その頭のぶっ飛び様も面白いよ。 はっはっは」


 ケールの笑い声に他の数人の笑い声が重なり、またそれに笑い声が重なっていって、教室が笑い声で満たされた。


 上手い、確かに、言えてる、という言葉が右へ左へ行き交っている。手を叩いて笑う奴もいる。



 何だ……これは。そんなに面白いか?今の。


 笑われる役も楽ではないな。うん。

 仕方がない。こちらからは何もできないんだ。笑顔でこの場はやり過ごそう。






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