【22】空飛ぶさかな
◇前回までのおはなし◇
気を失った事がきっかけか、ココロの記憶がついに1つだけ戻った。
次の日、ボク達が大学にある博士の研究室に到着すると、博士は工場長を呼んでるから夕方ここに来るだろうと言っていた。
その工場長には、ココロも会っているはずだ。
当時のココロを知る者の話はぜひ聞いておきたい。
今日は宇宙船<希望の魚>の試運転をするらしい、昨日の続きはその後に軽くすると言う事で、今日の日程は決定された。
試運転の操縦はボクがする訳だけど、初めてなのでうまく出来るかが少し心配だった。
<希望の魚>のある工場へは結構な距離がある為、汽車でもないととても行く事は出来ない。
なので、今回もネルビーが汽車を用意してくれている。
今日の汽車は、この間の不格好な汽車とは違って、真っ赤に塗られた格好いい形をした汽車だった。
「あれ?
この間のと違う汽車だね」
『赤いね』
「これはね
今度博士が発売する新型の汽車の試作品だよ
まだ全部は完成してないけど宣伝の為にね」
「燃料を自動で供給する機械がまだなんだよ
火を点けてすぐに動く様にも改良しなくちゃいけない
まぁ今は宇宙船が先だから、実はちょっとお休みしてるんだけどね」
そっか、発明するにも色々とお金がかかるから、やっぱりこういう事もしないといけないんだな。
そう思うと、何となく博士とネルビーが健気に思えた。
赤い汽車は元気に汽笛を鳴らすと、ボク達を乗せて軽快に出発した。
「あ、今日はグレサトは来てないんだ」
ボクは旅館ねじのおかみさんに、グレサトの分の晩ご飯を頼んであるので困ったなと思った。
「あ…、いや
実はもう先に行ってるんだ」
「グレサトくんは、あの宇宙船のデザイン担当だからね
仕上げを指示してるんだよ」
「仕上げを?」
「うん
まぁ…見ればわかるよきっと」
『仕上げってなんだろう?
楽しみなの』
ボク達は宇宙船のある工場に到着した。
既に希望の魚にはシートがかかっておらず、その周りに何人かの工員がいた。
「やぁ博士、ご苦労さん」
「やぁ、お疲れ
アレの調子はどうだい?」
「アレってあの箱かい?
うん、なかなかいいね
ほら、もう実験は終わってるよ」
工員と博士はあの箱の話をしていた、どうやらうまく行っているみたいだな。
「ネルビー、この板はこれでいいのかい?」
「あっ、ありがとう
急でごめんね」
「なぁに、この位朝飯前さッ!
じゃ、これで取り付けちゃうね」
別の工員がネルビーに話しかけていた、あの板は黒く塗られている。
そうか、この<希望の魚>って、結構大勢で作ってるんだな。
博士とネルビーが設計をして、それを実際に組み立てるのが彼らなのだと解った。
「ねぇ
頼んでくれた?」
背後で声がして、ボクは振り返った。
「あ、グレサト
旅館ねじの食事でしょ?頼んどいたよ」
「やったッ!
よっし、仕上げ頑張らなきゃね〜!」
『楽しみなの
仕上げ頑張るの』
グレサトの服装は、工員達と同じツナギだった。
もしかして、彼女も何か作業するのかな?
「よし、じゃぁみんな集まってくれ」
博士がボク達に集合をかけた。
「今から<希望の魚>の飛行実験をする訳なんだけど
見ての通り仕上げが押してる状態でね
昼休みまでしか動かせられないんだ
まぁサクッとやっちゃおうかね」
仕上げという言葉がまた使われた。
スケジュールは聞いてなかったけど、結構締め切りが近いのかもしれないな。
ボク達は<希望の魚>に乗り込んだ。
すると、この間と操縦室の雰囲気が大きく変わっていた。
室内には駅前の地図で見た、あの丸いランプとは別の灯りが点々と光っていた。
これは、あの水の様な物の入ったガラスの瓶と同じ光だ。
「博士、これって?
まさかアレ?」
ボクは後ろにある、光るガラス瓶を指さして言った。
「ワハハハハハッ!
その通り!
まさに我々の科学の勝利だよ
これが新世代の灯りだ
なんてったってね、
この小さな玉だけでも光るんだからな〜」
博士は腰に手を当てて勝利のポーズを取った。
『わぁ〜
このまるきれいなの』
ココロが言う様にその灯りはすごくきれいだった。
やはり、博士は生粋の発明家だ、別の星にあった技術を使っていたのは不本意だったんだろうな。
「じゃぁ、君は一番前の席で操縦お願いね
ココロちゃんはその隣で
で、ボクはココで器機の確認や通信
博士は…ご自由にどうぞ
座ったら椅子についてるシートベルトをしめてね」
『わかったの』
ココロはボクの隣にチョコンと座った。
ボクとココロは、言われた通りシートベルトをしっかりと付けた。
「ココロは真ん中の席じゃなくてもいいの?」
「うん、この間貯めた瓶だけでエネルギーは十分足りると思うし、
実は中央の椅子だけじゃなく、そこの椅子にも板を取り付けてあるんだ」
言われてみて気が付いた、足下や天井、そして左右の壁にも黒い板が取り付けてあった。
いつも、ボクやココロと実験してるのに、それ以外にこんな物も既に用意していたんだ。
ボクの座った操縦席には、1本の変な棒がニョキっと伸びている。
その1本の棒の先に、魚の模型の様な物が付いていて、それにいくつもの何かのレバーがついている。
どう考えても、この変な棒で操縦するのだろう。
「操縦席のレバーを簡単に説明するとね
この大きいのが出力を調節するレバー
その先についてる魚のシッポとか、ヒレを動かして操縦するんだよ
ま、適当にいじってれば何とかなると思う
あの鳥の羽よりは簡単だから、ゆっくりやれば大丈夫だよ」
<適当にいじってれば何とかなる>って…、かなり不安だけど大丈夫なのかな。
「準備はいいかな?
じゃぁ始めようか」
「はい
じゃぁレバーをゆっくり前に倒して
方向は魚のヒレを動かせば変わるから」
「あ、うん」
操縦って魚の模型をいじるのか、ボクが思っていたのと全然違った。
もっとレバーをガシャンガシャンと動かすのかと思っていたから。
ボクはネルビーに言われた通り、ゆっくりとレバーを前に倒した。
船は静かに揺れて、窓から見える景色がゆっくりと動いた。
『わぁ〜動いたの』
宇宙船の下に付いている車輪が回転しているのが、船の壁を通して伝わってきた。
この宇宙船は全くの無音で動いている、知識のないボクでもそれが凄い事なのだとわかる。
<希望の魚>は、ゆっくりと進みやがて建物の外に出た。
「じゃぁね、
ヒレを水平にして、レバーをもう少し倒してみて。
ヒレを水平にすると垂直に上がるから、
その状態で後は角度を調節すれば色々な動きが出来るよ。
宇宙と違って地上には風があるから、
窓の外のヒゲを頼りにシッポを動かして調節してね」
窓の外に出ている魚のヒゲらしいものが風になびいている、このヒゲは風の方角を知るためのものか。
ボクは緊張しつつ、ヒレを水平にしてレバーを更に前へと傾けた。
すると、船体に伝わっていた車輪からの振動が消えた。
つまりこれは、船が浮き上がったのだのだろう。
浮き上がったものの、徐々に見える景色が変わっていく、風の影響を受けて宇宙船が回転している様だ。
ボクはシッポの角度を試行錯誤して、真っ直ぐ進む様に調整した。
「結構うまいじゃない
いきなりで、これだけ出来ればもう完璧だよ」
「ふぅ〜…
でも緊張するなぁ」
「君たち、歯車市の駅まで飛んでみようか
みんな驚くぞぉ?
わし等の研究をたくさんの人に見てもらえるしな」
「あ、いいですね〜ソレ!」
『わたし高いとこ大好き』
博士は宣伝を兼ねた試運転を提案した、確かに巨大な魚が空を飛んできたらみんなビックリするだろうな。
ボクもワクワクして賛成した。
ボク達の<希望の魚>は空高く上がり、見る者の心にトキメキを与えてゆく。
模型を操作する希望の魚の操縦法、そういう方法ってわかりやすいと思うのはわたしだけでしょうか?
準備が長々と続いてましたが、もうじき宇宙へ飛び立ちます。…たぶん。
えりまき ねぅ