【19】接点
◇前回までのおはなし◇
ボク達は臨時研究員としてネルビーの研究を助ける事になった。
その課程で法則が紐解かれていく。
実験が終わった頃、博士が研究室に戻って来た。
「博士お疲れ様です
試作品の調子はいかがでした?」
「うん、なかなかいい感じだったよ
そうだ、あの装置の原理を大分長くなるが説明しようかね」
「え‥いや、今日は遠慮します」
ネルビーは露骨に遠慮した、
ボク達もそろそろ帰りたいし、長話はなるべく避けたい気分だ
「そうかね?
話したかったのに、残念だなぁ〜」
「あ、宇宙での食事なんですが
グレサトが担当してくれるそうですよ」
「おぉ?
グレサトくん、本当なのかね?」
「そのつもりだけど
何か問題でも?」
グレサトは服についた、たくさんの青白い光を気にしながらもそう答えた
少し暗くなってきたこの部屋で、その光がやけにきれいに見える
「いやね、君が研究なんて珍しいよね
宇宙って引力がないからバラけるものだと凄い事になるんだな
それだけ気を付けてね?」
「それはね、一応知ってるよ
なるべくバラけないものにして袋に入れるんでしょ?」
「そう!
前にロケットを打ち上げた時にね、
宇宙空間では物がどう動くかとかの実験もしたんだけど
密閉された箱で自動写真とってみたら大体がじっとしてなかったよ
特にスープは凄い事になってたなぁ」
グレサトは何かを思い描く様な仕草をして、人差し指を頭にトントンと軽く叩き何か考え出した
「あの、引力の事なんですが」
「引力がどうかしたかね?
ネルビーくん」
「もしかしたらですが
作れるかもしれないですよ?」
「おぉ?
それは本当かね?
引力をどうやって作るのかすごく興味あるな〜」
「えぇ、宇宙船の推進力の原理の逆でなら作れるかもしれないんです
実際にココロちゃんが、天井に引力を作ってたので出来るはずです」
「ココロが?
そんな事まで出来たの?」
『うん!
引力に来てもらったの』
「ん?作るんじゃなくて来てもらうの?
それ、ちょっとやってみてもらっていい?」
『うん
どこに来てもらうの?』
「んじゃぁね
ここらに来てもらって?」
博士は近くの壁を指さして言った
『ほぃ!
もう来てるの』
博士が側にあったガラク‥発明品を壁に近づけると、
発明品は横の壁に不自然に張りついた。
「こりゃ驚いたな‥
なんとこの辺りだけ地面からの引力が働かなくなってて
その代わりにこの壁に引力があるんだなぁ
確かにこれは凄い事だけどね
これはちょっと違う様だよ?ネルビーくん」
「あれ?
僕が想像してたのとは違ったなぁ…
てっきり両方の引力があって、
壁に新たに引力が発生するのかと」
「うむ、
地面の引力に壁に来てもらったとしたら
引力がない宇宙空間だと、来てもらうものがないな」
「そうですね‥うーん」
ネルビーは自分の考えがハズレた様で、少し声が落ち込んでいたがすぐに転換して
「あ、ココロちゃん?」
『あぃ?』
「地面の引力に来てもらわないで
物を壁にくっつける事って出来る?」
『む〜?
どうやってやるの?
宇宙ネコはわからないの』
「うーん‥どうやるんだろ
ごめん、言っといてなんだけど僕にも解らないや」
今のネルビーはイマイチ冴えがなかった、色々と疲れているのだから無理はないのだけれど
そこで、ボクはふと発想が浮かんでいので提案してみた
「もしかしたらと思うんだけど
引力に…方法って聞けないかな?」
もしココロが生き物だけでなく、引力の気持ちも分かるとすれば‥
ココロは空気すら友達になれるんだから、出来るんじゃないかと思った
『ふむふむ?
わかった!
聞いてみるの』
ココロは床の引力に話しかけた
『教えて欲しいの
引力ってどうやって作るの?』
その様子に皆が注目した
『‥‥ん〜
引力は何も言わないの』
やっぱり生き物じゃないと無理か
「あぁそっか、
箱との法則の話はこれだね」
グレサトはグーを手のひらに振り下ろして言った
「あ、そういえば
法則がありそうとかって言ってたよね」
「そう
ココロちゃんの箱への認識力が低かった事の法則ね
ココロちゃんは多分、生き物相手以外の場合
対象となる相手への理解力が著しく低下するんだと思うよ」
「ほぉほぉ
もう少し詳しく聞こうじゃないか」
博士は興味を持ったのか、身を乗り出して言った
「わたし達ってさ
相手が何でも物事をそれなりに理解するでしょ?
それがココロちゃんの場合、何か別のものに頼ってる感じがする
その別のものからの情報が得られない場合、
著しく理解力が低下するって事」
「なるほど!
グレサトくんはよく気がついたな〜
ココロは相手の心を直接読み取る事に頼って
物事の多くを理解してると仮定すると
つじつまが合うな」
「無機質なものも媒介は出来るけど
その対象の理解は得意ではないって事ですね」
この研究者達は何時も解析する事を忘れない様だった
でも、ココロを理解する方法が1つ解った気がする
『あ!わかったの!』
ココロは大きな声を上げて、こちらに振り返ると耳をくりんと回した
「えっ!?
わかったってまさか引力を作る方法?」
『そうなの
ちょっと見てて!
引力を壁に作るの』
ココロは、壁に向かってやさしく手をかざした
「壁に‥?」
そう言って博士は壁に近づいた
「ななっ!?」
博士は唐突に壁に落下した
「こりゃたまげた‥
地面に引力があるのに壁に落ちたぞぃ!?」
「どうやってわかったの?」
『床にさわったらなんとなくなの
きっと床が教えてくれたんだと思うの』
「いいなぁ‥
わしもそういう力欲しかったなぁ」
「博士‥」
「だって物に直接触れば理解できちゃうんだよ?
辞書とかだって、読まなくても触ればわかっちゃうんじゃないの?」
ボクは試しに工辞苑と書いてある、やたら分厚い本をココロに渡してみた
「どう?書いてある事わかる?」
『わからないの
重くて仕方がないの』
「残念でしたね、博士」
「ふむぅ…
そうか、理解の意味が違った様だね」
「僕なら博士に触って勉強する時間を減らそうとしますね」
「ネルビー、
それは傍から見たらどうかと‥」
「ネルビーくんはもったいない事を言うな
知識は覚えるまでの課程も楽しむもんだよ?」
「あっ、博士に触るって言ったよね
それ!やってみようよ」
『む〜?
博士に触るの?いいの?』
ココロはボクに気を使ってくれた
「うん、博士はまだ別の星にいたココロを見たことがあるからね
もしかしたらだけど、記憶を取り戻せるきっかけが見つかるかもしれないよ」
『わかったの』
ココロは博士の手をとって目を閉じた
「博士、すみませんが
なるべく昔の事を思い浮かべてみて下さい」
「うん
頑張ってみるよ」
そして博士も目を閉じた瞬間
『モコナ・エリリトってこの人誰なの?
白い帽子が似合うの、この帽子いいなぁ〜
ふむふむ…なるほどなの〜』
「ぶはっ‥!?
ンナナナナナナッ!?」
博士は顔を真っ赤にして手をバタバタと振って慌てた
恐らくそういう人なんだろうけど、ココロには何が見えているんだろう
「博士‥」
「わ、わかっとるッ!
ちゃんと思い出すわい!」
そう言って博士はもう1度目を閉じた
──暫くして
『あ、蛍なの
蛍がすごくいっぱいなの…きれい』
「あの星とこの星との接点
つまり、あの工場の思い出だよ
10年も前の記憶だがね
きれいだったからよく覚えてるよ」
『この大きな光‥これは…』
「うん?
光がどうかしたのかね?」
『あ‥あぁ‥ぁ』
ボクはココロの様子がおかしい事に気がついた
「ココロ?
どうかしたの?」
唐突にココロはその場に崩れ落ちた
「えっ?
ココロ?どうしたんだ?」
「ココロちゃん!」
「‥ッ‥!」
日が落ちはじめ、薄暗くなった博士の研究室にボク達の声が響いた。