【16】ネルビーの実験(後)
「今やってもらったのは、宇宙船の操縦の練習でね。
僕は航路の計算や機械の操作をしないといけなくてさ、
きみにはメインで宇宙船の操縦をしてもらう事になるはずだからね」
「あ、そうか
ボクだけ役立たずでどうしようって思ってたとこだったよ」
ボクはちょっとホッとした
「宇宙船<希望の魚>号はもっと簡単に操作出来るので安心してね
原理を体で理解してもらえればもう簡単だから
ただ…」
「ただ?」
「今ここで出来るのは引力がある状態での実験だけでね、
空に上がっていくと徐々に引力が消えちゃうから
段々とゆっくりとした操作でバランスを取る必要があってね
そうなると今みたいな感覚が必要になると思う」
ネルビーの口から少し難しい話が出た、引力とは専門用語の様だけど聞いたことなかった。
「その引力ってなに?」
あぁと言う表情をしてネルビーは説明してくれた。
「こうして立っていると、地面に引っ張られる力があるでしょ?
地面から離れると、これが段々と弱くなって行くのさ」
ネルビーはそう言うと、丸い玉を手に持ち手を離した。
手を離された玉は当たり前の様に床に向かって落ちる、それが引力ってことか。
「やっぱり水の中で泳ぐような感じかな?」
「たぶんね、
何しろ実際に行ったことないからそうとしか言えないんだけど、
もしかするともっと頼りない感覚がするかも
引力がなくなると1度こう押されると、
壁に当たるまでずっと押されたままになるからね〜」
そう言ってネルビーはボクの背中を部屋の壁につくまで一定の力で押した
『宇宙って大変なの
でも楽しみなの〜!』
何故かココロの声がボクの頭の上で声がする。
驚いて見上げるとココロは天井に立っていた。
「ココロ…そこは天井だよ?」
『エヘヘ
面白い?
天井にいんりょくに来てもらったの』
「そうか!!」
ネルビーは両手で手のひらをパンと叩いていい音を出した。
「引力は作れるのかもしれない!
そうだそうだ、なんで僕はこんな事がわからなかったんだろう」
ココロもボクも一人で納得しているネルビーをポカンと見ていた。
「ネルビー?
何かわかったの?」
「んっと、さっきの持ち上げられる力の逆、
つまり引っ張られれば引力を作れるんじゃないかってね」
ネルビーはボクの背中におぶさるとそう説明してくれた、
既に地面から引力をもらっているから、この例えはちょっと違う気がするけどまぁいいか。
そこにいきなり博士が勢いよくドアを開けて入って来た。
博士は両手で何か箱のような物を持っており、それを机の上に置くと走って出ていった。
ボクはその一部始終を無言で見ていた、背中におぶさったままのネルビーも、天井に張り付いたままのココロもその様子を黙って見ていた。
「博士は何を持ってきたんだろ?」
「あー、これはもしかすると…」
そう言ってネルビーはやっとボクの背中から降りてくれた。
博士が置いていった箱は横に大きな穴が空いていて、その反対側には少し小さな穴が空いていた。
【ぜぇぜぇ…ふぅ〜
あ〜あ〜、本日は晴天なり〜!】
『!?』
「あッ!」
箱から声がした!
【わっしは〜だれ〜?
どっ〜こっかな!
わっかる〜かな〜?】
今度は変な歌を歌った。
『箱が歌ってる!』
ココロは天井から飛び降りて箱の中を覗いた
「どっかで聞いた声だな…」
ボクはこの声の主が誰かは解かっていたけどわざとそう言ってみた、当然ココロも解かっているものと思っていたんだけど。
『早く箱から出てくるの!』
ココロは期待通りの反応だった。
【ぷっくくっ…
ぶわ〜はっはっはっはっ〜!!】
「あはははは!!」
いきなり箱と、釣られてボクが笑い出したのでココロは驚いて箱から離れた。
【ココロはかわいいなぁ
みんなまだそこにいるよね?】
「博士…唐突すぎてココロちゃんが驚いてますよ」
【その声はネルビーくんか、今さっきこれが完成してね
即席にしてはまぁまぁだと思わないかね?ちょっと地味だけど】
『博士なの?
早く箱の中から出てくるの!』
ココロはさっき博士が箱を置いて部屋から出ていったのを見てたはずなのに。
「ココロちゃん
これは博士が作った機械だよ
博士は多分向こうの研究室から声を送ってるんだと思う」
【その通り!
研究室から喋って声だけそっちに届けているんだよ
でね〜
そっちの声はこっちに届いてるんだな〜】
『なんだか騙された気分なの』
ココロは納得出来ない様に、腰に手を当ててぷーっとふくれていた。
どうやらこの箱はさっき博士が凄い音を出して作りはじめた、遠くまで声を飛ばせる機械らしい。
【ところでさ
そこで何の実験してたの?
わし、かなり興味深々なの〜!】
『真似しないの!』
もちろんココロは即反応だ
【少しの間に随分と
キミ達の雰囲気が変わってるからね】
そういえば──
いつの間にかボクはボクって言ってるし、ネルビーはココロを<ココロちゃん>と呼んでいる。
それに、ボクもネルビーも敬語で話してないし、ボクはネルビーと呼び捨てにしてるじゃないか。
博士は外部にいてその変化に気が付いたんだ、ボク達の間に何が起こったんだろう。
ネルビーの実験(前・後)、いかがでしたでしょうか?
今回「宇宙ネコの法則」としてえりまき ねぅが設定してるものを、なるべく解りやすく(?)会話の変化に表現してみました。
今までの話でも若干変化をしてきた話し方ですが、この「工場裏の宇宙ネコ」では今後更に色々と取り入れて行こうと思ってます。
えりまき ねぅ