【10】月明かりのコバルト
えりまき ねぅです。
ごらん下さりありがとうございます。
◇前回までのおはなし◇
宇宙ネコと私は天才アサン・ナファイル博士に会い、様々な事を聞くことが出来た。
重なっていたもう1つの星を経由して、この星へとやって来たココロの記憶は戻るのだろうか。
私たちを乗せたバスは歯車市の駅に到着した。
ココロはまだ寝ていた。
「ココロ?着いたよ?」
『むぅ〜
すっかり寝てしまったの』
目をこすりながらココロは目を覚ました。
「あ、そうだ
泊まるところ探したら
街をちょっと散歩しようか?」
『うん
探検みたいで面白そうなの』
バスから降り、駅にある地図でそれらしい所を探した
「ここから近いのは旅館ねじか・・
すごい名前だけどここでいいかな?」
『ねじってなんなの?』
「ほら、こういうのだよ」
私は地図の操作板を止めているネジを指さした。
『ふぅん
そこはねじだらけなの?』
「どうだろね
そうだったら困っちゃうな」
少し心配しつつ旅館ねじに到着した。
旅館ねじは周りを大きな建物に囲まれたかなり古そうな木造の旅館だった。
『ねじっぽくないの』
「あぁ、でもホッとしたよ」
旅館の入り口に入ると奥から声がした
「おや、お客さん?
はいはい、今行きますよ〜」
アライグマの老婆がヒョコヒョコとした歩き方で出てきた。
「お二人さんね
あらまぁ変わった組み合わせなのね〜」
老婆はココロを見て少し驚いていた。
『そうなの』
ココロは嬉しそうに返事して耳をくりんと回した
私は意味がわからず
「そうですか?」
「まぁ皆それぞれだものねぇ
あなた、
頼りなさそうに見えるからしっかりしないさいよ?」
「はぁ?」
この老婆は一体何を言ってるんだろう
通された部屋は不思議な作りだった。
床は四角いマットで敷き詰められていて、そのマットは草の繊維らしきもので編まれていた。
それはふんわりしていて落ち着くいい香りがした。
「よし、
じゃぁ荷物はここに置いて散歩に行こうか」
ココロを見ると手を口にあてて何かとても嬉しそうにしていた。
「どしたの?」
『何でもないの
いこぅ!』
私はここらの散歩道を老婆に聞いた。
「そうねぇ
ここから駅前と逆方向に行って、
後は川沿いに行くといいんじゃないかしら?」
私たちは言われた方向に行ってみる事にした。
外は少し日が落ちてきて空はいい色に染まっていた。
『らんらんらん らんらんらん♪』
ココロは機嫌よさそうにステップを刻みながらいつもの様に歌っていた。
古物屋の前を通った時、私はその入り口に見たことのない形をした、青く美しい六弦が立てかけてあるのを見つけた。
私はその不思議な六弦を手に取り奏でた。
少し先に行ってしまったココロはその音色に気が付き振り返った。
『あッ!』
ココロは声を上げると走って近寄ってきた。
「どうだい?
わりとうまいもんだろう」
私は昔よく練習していたのを思い出し、少し懐かしいタイトルを弾いた。
『いい音なの〜
わたしこの音好き』
ココロが喜んでくれて良かった。
私はココロの歌に伴奏を付けてあげられると思い、この六弦を買う事にした。
古物屋の主人はせっかくだから1曲聞かせてくれないかと言った、
どうしようか悩んで、私はあの曲を弾くことにした。
それは、ココロが汽車の中で歌った曲だ。
ココロは伴奏の中に曲のフレーズを入れた事で、すぐそれに気が付いて嬉しそうな顔をして歌った。
ココロの優しい歌声が古物屋周辺に広がると、通りがかりや近くの家の人々が集まってきた。
私は少し緊張しつつココロの歌に負けないように六弦を奏でた。
歌が終わるともの凄い拍手が起こって驚いた。
いつの間にか驚く程の人が集まっていたらしい。
人々の注目の先はココロなのだけど・・
「いい歌を聴かせてもらったよ
その六弦はそのお礼といっちゃなんだが君にあげるよ
大分前に買い取ったものなんだけど、ちょっと変わってるでしょ?
そのせいか物珍さに人目は引くんだけど、
みんなまともに弾けないから全然売れなくてね〜
諦めて倉庫に仕舞ってたものを久しぶりにひっぱり出したとこだったんだが・・
それにしても君はよくこれを弾けたなぁ」
「えぇ!? いいんですか?
でも、確かにこれは変わった形してますよね
うん?コバ・・ルト?コバルト?
これってメーカー名かな?
聞いたことない名前ですね」
コバルトと読みとれるロゴが六弦に書いてあった
「そうだなぁ、
わしも聞いたことがないからどこか小さな店のオリジナルかもしれないな
まぁでも作りからすると相当いいものだろう」
「そうですねぇ
こんないい作りの六弦は手にした事がありませんよ」
コバルトの六弦はココロに似て青く美しかった。
「まぁ、そんなものですまんが
その子の歌にはその六弦が必要だろう?」
私とココロは主人にお礼を言い、その不思議な六弦を手に散歩道へ戻った。
ココロの歌は不思議と人を引きつけた、
さっきはココロの歌を聴いて泣いていた者までいた。
普通、ただ歌っただけではあれ程の注目を浴びる事はないだろう。
実際歌を生業としてるらしい者が道ばたで歌っている事がたまにある、
かなりの美声と思える歌でも、数人の足を止める程度でしかない。
それが、ココロが歌うと人だかりが出来る、
確かに美しい声だとは思うけども、なぜこれ程人を引きつけるのか不思議だった。
川沿いに歩く私とココロ、
ココロは小石を蹴りながら鼻歌を歌っている。
暫く行くとちょうどいい具合にベンチがあるを見つけ、そこで一休みする事にした。
「ココロの過去の事、
色々とわかってきたね
ココロが6年前に別の世界からやって来た事や
その時に記憶をなくした事、
工場裏に居たのもココロの希望らしかった事、
別の星がこの星と同じ位置にいた事も」
『うん
もう1っこのまる、どこいっちゃったのかな?
わたしちょっと気になるの』
「え?昔の記憶は気にならないの?」
ココロは自分の事より、あの星の事が気になっているらしい
『記憶もきっと大事なの
でもね
あのまるはかわいそうになっちゃった気がするの
遠くへ行ってしまったの』
「ココロ・・」
椅子取りゲームに負けたあの星は存在が消えてしまったのだけれど、
今まで存在していたものを、小説を書き直す様になかった事に出来るものなのだろうか?
もし審判と呼ばれる存在が本当にいるなら、とんだ過ちをしたもんだ。
「あのさ、
ボクはココロの記憶は戻って欲しいけど、
もし戻らなくてもココロをその・・すっ・・」
『好き?大好き?』
ココロはにっこりして言った
「うん・・大好き!」
『わたしもあなたが大好き』
薄暗くなって来た空には丸い月が出ている、月明かりを浴びたココロの青い体は輝いて見えた。
ココロは私に寄りかかっていた、ココロの温もりが伝わる。
暖かい・・、ココロはここに生きているんだ。
──月の光を浴びてコバルトの六弦も輝いている
やさしい風が吹きココロの長い耳が頬にあたった。
私はそっと唇を寄せた。
「この星に来てくれてありがとう」
私は心の中でそう言った。
月明かりのコバルト、いかがでしたでしょうか?
シナリオには出来るだけ力を入れて行きたいと思ってます。
今後もヨロシクお願いします〜!