現
入院中に出会った方々が少しずつ出てきます。
精神科病院の特色なのか、看護師さんや介護助手さんは男性が多かった。
看護師さんによっては、患者である私たちに馴れ馴れしい態度や、下に見るような態度を取る方もおられた。
ある時、私の個室に男性の看護師さんが一人で来られて、椅子にどっかりと座られて、私に問われた。「何病なの」と。
私はまだその時、誰からも病名を告げられていなかった。
主治医の先生が回診する為に私の部屋にいらっしゃった。
私は先生に「私は何病なのですか」とお尋ねした。
すると先生は大変憤られて、「誰がそんな事をあなたに言ったのですか」と問いただされた。
私は「先生がその方を叱られるから言えません」と答えた。
結局先生は私の病名を教えてはくださらなかった。
開放病棟の三階に移り、日にちがしばらく経ってから、少しずつ周りを見る余裕が生まれて来た。
夜中に眠れない時に、薬をもらいに行くことも無くなった。
ただ悩まされたのは、耐えられないほどの頭痛だった。
たまにしかお会い出来ない先生に、頭痛の事を訴えた。すると、すぐに頭痛薬の処方をして下さっていて、驚きとともにありがたかった。
私の担当の看護師さんと、私が目覚めたときに水をくれた看護助手さん、精神保健福祉士さんの三人のことを、私は心の内で私のナイトだと思っていた。実に頼もしい三人だった。
臨床心理士の女性の先生とは、約束通り毎週金曜日の夕方に一時間ほどカウンセリングをしてもらっていた。私はいつもノートとボールペンを持ってカウンセリング中、先生が話されたことで、心に響いた言葉を書いていた。
ある時、先生から「文さん、いつも一体何を書いてるの」と質問されて、恥ずかしかったけれどノートをお見せした。先生がどのように思われたのかは分からなかった。
入院生活は、時間に追われるような感じがしていた。
食事の時間や食事をするスピードの管理、お薬の時間。活動の時間。
ゆっくりとした自分の時間はなかなか無くて、部屋に持ち込んだCDを聴くや、本を読む時間は無かった。
喫煙所は駐車場に屋根付きで儲けられていた。ベンチも置かれていた。喫煙所は患者さん達の憩いの場所であり、社交の場所だった。たまにスタッフさんも一緒に煙草を吸っていた。
私の病名や、仕事は何をしているのか、親の仕事は何かと遠慮無く問われる方もいらしたが、聞こえないふりをするか、別の話を問い返していた。
入院中も幼い頃から習慣になっていた日記づけは毎日しつこい位の内容で書き続けていた。
私の主治医の先生はアルコール依存症の大家である事を、仲が良くなった両親と同じ年の女性患者さんから知らされた。この患者さんは、私のことを可愛がって下さっていた。
父が頻繁に出張に行っては、その土地の名物のお菓子を買って来てくれていた。
その美味しいお菓子に釣られて、私を気に入ってくださったのかも知れない。
息子さんしかおられず、そのお嫁さんよりもわたしを可愛がってくださっていた。
あるブランドが二人とも好きだった。
とても気を遣われる方で、外出する度にデパートで買った、素敵なそのブランドの小物をくださっていた。
患者さんとの付き合い方についてもアドバイスしてくださっていた。
病院内のお母さんのように感じていた。
私とが近い、巨人ファンの女性患者さんとも仲良くなった。素直で真面目でとても優しくて、わたしはこの方を大好きになった。非常に気が合った。
だけれど、入院中に彼女のお父さまが亡くなられてから、調子を悪くされてしまい、隔離室に移られてしまった。三階にも隔離室は三室あった。
病棟のシステムで、病状に応じて隔離室に行かされたり二階の閉鎖病棟へ、そしてある程度自由が与えられる開放病棟に移動したりするのだな、となんとなく感じ取っていた。
高校の時からの親友にだけには、精神科病院に入院中である事を伝えた。彼女は毎週のように面会に来てくれるようになった。彼女の連れ合いさんに、「無理させてない?迷惑かけてるね。ごめんなさいね」と、メールを送ったら、「いい気分転換になっているみたいですよ」と、返信があった。
担当の看護師さんとの夜中のお茶会は続いていた。いつも甘さを感じられる、とても良い茶葉だった。
その方が付き合っておられる女性のことまで話してくださるようになっていた。心が癒される時間だった。
二週間に一度、体重測定があっていた。私は入院当初より、少しずつ体重が増えて来ていたけれど、ベスト体重よりは10kg減ってしまっていた。
急に若い看護助手さんに声を掛けられて、肺のレントゲン撮影を受けた。
また、ある日の朝七時くらいに呼ばれて、血液を採取された。私は血を採取するのが難しいタチらしく、三人目の看護師さんがようやく採取に成功した。
季節はようやく秋めいてきていた。
まだ病名は明かされていません。。。
ゆっくりと入院中の出来事を書いていきます。
よろしくお願いします。