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不思議な部屋  作者: 竜胆
35/40

蜜柑

文は退院後の生活に不安を抱きます。

起きたら七時を過ぎていた。

引き出しから日記帳を取り出して、睡眠時間と、カーテンを開けて外を見たら曇っているようだったから曇りと書き、気分を記号で書いた。△と書いた。

洗面所で顔を洗い、化粧水をつけて朝用乳液を塗り、お粉もはたきリップクリームを塗った。

まだ朝食には、時間があったから煙草を吸いに行こうと、ニット帽を被り、ジャンパーを羽織りポケットに煙草とライター、携帯を入れてエレベーターで一階に降りた。外はやはり曇り空だった。寒々しく感じた。

喫煙所まで歩いて行き、顔見知りの患者さんに頭を下げた。空いているベンチに座った。ベンチが冷たかった。煙草をゆっくりと一本吸った。

病棟の部屋に戻り、洗面所で石鹸で手を洗い、うがい薬でうがいをした。

部屋の外から朝食の八時を知らせるチャイムが流れるのが聞こえて来て、私は部屋を出て食堂に歩いて行った。


まだ二人組は来ていなかったから、二人の分のお盆も置いて二人が来るのを待った。

「文ちゃん、ありがとー」とほっそりとした女性が席に座られた。「こいつが服を決めるのに時間が掛かったんだよ」と闊達な女性が言われた。ほっそりとした女性は今日は薄いピンクのアンサンブルにレンガ色のミニスカートを合わせておられた。「お似合いですよ」と私は褒めた。

食事をしながら、ほっそりとした女性から「文ちゃんと服屋さんに行きたーい」と言われて、今日は大浴場が午前中にあるしまたカウンセリングも午後からあるし、明日は午後から陶芸がある。水曜日は午前中にアートがあるだけだから、「水曜日の午後からなら空いていますよ」と私はほっそりとした女性に言うと、「ダメ。私がいる時じゃないと、こいつを止められる人間がいないじゃん」と言われるので、カウンセリングの前に考えをまとめたかったが、「それでは、今日行きますか」と私は二人に言った。

そうして三人でお昼ご飯を食べてから、服屋さんに行く事が決まった。


部屋に戻り朝薬を飲んで、洗面所で歯を磨いた。

机の引き出しからカウンセリングノートと日記帳を出して、先生に相談したい事をまとめる為に集中していたら、部屋をノックする音がして返事をしながら、カウンセリングノートや日記帳は引き出しにしまった。日勤の男性の看護師さんと男性の私と同じ年の看護助手さんだった。検診が終わり、看護師さんから「カウンセリングは午後三時からだそうです」と言われて、「分かりました」と返事をした。


二人が部屋を出られてから、引き出しから再びカウンセリングノートと日記帳を出して、カウンセリングの先生と話したい事をまとめた。


*試験外泊はうまく過ごせたように思う

*お互いに気を遣って疲れた

*両親と話をする事が出来た

*両親は一緒に暮らしたがっているが、私は一人暮らしをしたい


と、書いた。お風呂に入ると、この滅入った気持ちも上昇するかな、と袋にバスタオルや着替えの下着や化粧水などを入れて、喫煙所に煙草を吸いに出て、ゆっくりと煙草を吸いながら、ぼんやりと考え事をしていた。退院したら、どうなるんだろうとどうしても不安な気持ちになるのだった。寒いな、と思いつつももう一本煙草を吸った。


病棟の部屋に戻る前に、看護師詰め所に行きシャンプー類とドライヤーを出して貰った。部屋に戻り、バスタオルや下着などを入れた袋を肩から掛けて、看護師詰め所の前で順番待ちの列に並んだ。

頭を洗い、身体を洗って窓側の浴槽に入り、曇り空を眺めながら、湯舟に浸かった。気持ちが良かった。お風呂を上がり、髪と身体をバスタオルで拭いてから、化粧水を顔や身体につけて、顔には朝用乳液を身体にはボディクリームを塗った。下着と部屋着を身に付けた。それからドライヤーで髪を乾かした。シャンプー類やカゴの水気をバスタオルで拭いた。

看護師さんに付き添われてお風呂を上がった数名と一緒にエレベーターで三階に降りて、看護師詰め所に立ち寄りシャンプー類とドライヤーを返した。メイク道具が入ったポーチとコンタクトケースと液を出して貰った。


部屋に戻ってクローゼットを開けて、少ない服の中から衣装合わせをして、白のタートルネックセーターにグレーのフレアスカートを合わせた。スカートはサイドのボタンがポイントになっていた。アートの時間に作っていた緑色系のビーズのロングネックレスをした。

コンタクトレンズをはめて薄化粧をした。鏡で自分の顔を見て、辛気くさい顔だな、と思った。二人組と服を買いに行ったら、少しは楽しめるだろうと思い直し、メイク道具が入ったポーチとコンタクト類を返しに行った。

メイクが完璧な美人な女性の看護師さんは、大袈裟に私を「可愛い」と褒めてくださった。照れつつも、「今日もおキレイですね」と私は言った。「どこか外出するの?」と聞かれて、「服屋さんに行こうと誘われました」と私が言うと、「見るだけにしなさいね」と言われて、なぜそのように言われるのか分からなかったが、「お金、小銭しか持っていませんから」と私が言うと、安心したような表情をなされた。カウンセリングの先生に聞いてみよう、と思った。


昼食を摂ってから、昼薬を飲み歯磨きをして、首にマフラーを巻いて、母が貸してくれたジャケットを羽織り、小さな引き出しからお財布を出して、お財布、煙草とライター、携帯、ハンカチは黒い手提げバックに入れた。このバッグは以前百貨店で半額セールの時に買った物で革製だったから重いのが難点だったが重宝していた。

部屋を出て二人が来るのを待った。


ほっそりとした女性は紫色のコートを着ておられて目立っていた。闊達な女性は皮のブルゾンにジーンズ姿だった。

三人で近隣外出届を書いた。それからエレベーターに乗り、外に出て喫煙所で一服してから、服屋さんまで歩いて行った。


服屋さんは喫茶店を過ぎて坂を降りて、西側に歩いて約三分の所にあった。私はこちら側に来るのは、美容室に行った以来だ、と思いながら二人の後を歩いた。

店内に入ると、二人は店主さんらしき女性と話をしていた。他に若い女性のスタッフさんもおられた。セレクトショップのようだった。服や靴を始め、小物類もディスプレイされていた。こっそりと値段を見たら、そこまで高いとは感じなかった。

服や靴は持っているから私は見もせずに、小物類を見て回った。アクセサリーやスカーフ、ハンカチを見ていて、母と妹に何か買ってあげたくなったが、美人な看護師さんに言われた言葉が気になって、眺めるだけにした。

ほっそりとした女性は、試着室に入っておられるようだった。闊達な女性が私の方に来られて「何も買わないの?」と抑えた声で聞かれた。私も声を抑えて「買いません」と言った。「帰ろうか」と言われて私は頷いた。闊達な女性が試着室の外で待たれていた店長さんに声を掛けていた。「文ちゃん、店長に伝言頼んだから、うちらは帰ろう」と言われて、店長さんやスタッフさんに会釈をしてから店を出て、喫煙所に行き二人で煙草を吸った。


「明日はね、舅と長男が迎えに来るんだ」と言われた。闊達な女性は煙を吐きながら言われた。「寂しくなります」と私が言うと、「文ちゃん、退院後はどうするの?」と聞かれて、「何をするか決めていません。傷病手当が出る内は良いのですが、働く意欲が無いのです」と私は言った。「無理して働かなくていいと思うよ。文ちゃんは休憩中なんだよ」と優しく言われた。「退院した後の事を考えると不安だらけで。。。」と言いながら私は泣いてしまった。「私も不安だよ?でも不安な気持ちに囚われていたら、前を見れなくなるよ」と言われ、私は励まされた。「そうですよね」と私は言って、涙をハンカチで拭いて二本目の煙草に火を付けた。「土曜日まで、短いようで長いと思うよ。退院後の生活についてご両親とちゃんと話し合いしなよ」と言われた。「はい」と返事をしたが、両親にどう話せば良いのか分からないのだった。。。


二人で病棟に戻り、近隣外出届に帰って来た時間を記入した。そこで闊達な女性と別れた。看護師詰め所の看護師さんにコンタクト類を出して貰った。部屋に戻り手を石鹸で洗いうがい薬でうがいをした。コンタクトレンズを外して、ケースになおしてから、ネックレスを取り机の引き出しに入れて、服を部屋着に着替えた。着ていた服はクローゼットに掛けてなおした。

看護師詰め所にコンタクト類を返しに行った。


部屋に戻り机の引き出しから、カウンセリングノートを出して、美人な看護師さんに注意された事や、闊達な女性から言われた助言を書いた。日記帳にも大浴場に久し振りに行った事や、三人でセレクトショップに行った事を書いた。


部屋をノックする音がして返事をしたら、カウンセリングの先生だった。カウンセリングノートとペンを持って、先生に付いて行って看護師詰め所のいつものスペースに座った。

「試験外泊はどうでしたか」と尋ねられて、「無理をしない、頑張らない、と心掛けていました。ですが両親もわたしも互いに気を遣っていて疲れました」と私は言った。「そう。退院後はやはり一人暮らしをしたいのかな」と尋ねられて「はい」と答えた。「先生、退院した後の事を考えると不安な気持ちになります」と私が言うと、「不安になるのは当然です。難しいけど、不安になり過ぎないで。退院したら、入院中には出来なかった事が出来るようにもなります。そういう明るい面を考えて」と仰り、そうだった、制限が無くなるんだ、と思った。先生は私の考えを見透かすように「お家でも規則正しい生活を心掛けてね。特に睡眠と食事は大事よ」と仰った。一人暮らしをすると私が疎かにする二つだった。「先生、入院してから、両親との距離が縮まりました。以前の私でしたら、母の手料理を絶対に食べませんでした。父とも話をしませんでした」と私は言った。「文さんの努力よ。ご両親の愛情の深さに少しは気付いているでしょう?」と問いかけられて、「はい、特に母の愛情の深さには感謝しています。父もいつも私を心配してくれて、頻繁に面会をしに来てくれています」と答えた。「文さんはご両親に愛されています」と先生から言われて、私は両親に対して申し訳ない気持ちになった。「親不孝しているな、と罪悪感があります」と先生に言うと、「文さんは病気のせいでご両親との関係が拗れたの。病気のせいです。文さんのせいではありません。文さん、文さんのお母さんが入院する時に、文さんの事を優しくて真面目で自慢の娘です、と主治医の先生や私たちに言われたのよ」と、私は初めて聞く話を先生はなされた。お母さんがそんな事を先生方に言ったんだ、と知り喉がキューっと狭まり、涙がダラダラと出た。私は声が出なくなってしまい、先生が手渡された箱ティッシュを受け取り、涙を拭いたが、涙はなかなか止まらなかった。

「文さん、金曜日が最後のカウンセリングだね。通院する時も、カウンセリングしましょうか」と先生が仰り、「お願いします」としゃがれた声で言った。

「言いたい事、聞き逃したことはないですか?」といつもの最後の言葉を先生は言われた。買い物の事について聞きたかったが、聞くのをやめて「ありません。ありがとうございました」と言って、先生に詰め所のドアを開けて貰って先生に頭を下げて別れた。


部屋に戻り深呼吸してから、カウンセリングノートをまとめた。七色ペンで重要に思える先生の言葉を囲った。

母の先生方に言った言葉は胸に刺さった。


親友が持って来てくれた紅茶を淹れて飲んでいたら、私は机の椅子に座り、母に宛てた手紙を書いていた。

『お母さんへ

お母さんの私に対する想いに気付けなくてごめんなさい、お母さんが、私が入院した時に先生に言った事を今日知りました。胸を突かれました。たくさんの愛情をありがとう。心配ばかりかけてごめんなさい。また連絡します。 文より』

と、短い手紙を書いて封筒に入れて封をした。宛名を書き、切手を貼って看護師詰め所におられた看護師さんに託した。


そのまま喫煙所に煙草を吸いに行き、寒いなーと思いつつも二本煙草を吸ってから病棟の自分の部屋に戻った。洗面所で石鹸で手を洗い、うがい薬でうがいをした。

ノックの音がして返事をしたら、担当の看護師さんだった。私は彼にお土産に買って来た水源地の水を二本とも渡した。「有名な水源ですね。ありがとうございます。この水でお茶を淹れますね」と言われた。「楽しみです」と私は微笑んだ。「そろそろ夕食の時間です。食堂に行きましょう」と言われて彼の後に付いて部屋を出て歩いて食堂に向かった。


三人で食べる晩ごはんも今日が最後か、としみじみ思った。色んな事を思い出しながら、まだ来ていない二人のお盆をテーブルに並べた。

二人組が来て、「文ちゃん、ありがとー」とほっそりとした女性から言われた。二人は相変わらずなボケとツッコミの会話をし、私は聞き役だった。


部屋に戻り洗顔して、肌のお手入れをして歯を磨いた。部屋着をパジャマに着替えて、九時くらいまで本を読んで就眠薬を飲んでから、また続きを読んだ。

部屋をノックする音がして返事をしたら、担当の看護師さんだった。私はカーディガンを羽織り、実家から持って来た蜜柑を袋に入れて持って、彼と看護師詰め所に入り、その日は奥の畳の部屋に案内されて、遠慮しつつもお邪魔した。彼に蜜柑を渡した。

私は水源の水で淹れたお茶を香りから楽しみ、一口飲んだ。やはり美味しかったが、味の違いは分からなかった。

彼は蜜柑の甘さに驚いていた。珍しく表情が変わっていて可笑しかった。「父が貰った蜜柑なんです。私も甘くてビックリしました」と彼に言った。

「水と蜜柑、ありがとうございます。蜜柑の甘さで疲れが取れました」と言いながら、彼は二個目の蜜柑を食べていた。ハードな仕事なんだな、と思った。

「ご馳走さまでした。美味しかったです。それに、畳は落ち着きますね」と私は言って立ち上がった。彼が部屋まで送ってくれて、私は「おやすみなさい」と言って、部屋に入ると彼が外から部屋の鍵を掛けてくれた。


ベッドに横になって、彼のお茶は最高だなーと思いながら、また本を読みながら寝てしまった。






私がつける副題は、食べ物ばかりだと気付きました。。。

理由として、文が摂食障害で、食べ物を嫌いつつ、執着心があるからです。


お読みくださり、ありがとうございます!

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