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不思議な部屋  作者: 竜胆
33/40

ドライブ

試験外泊の最終日です。

人の声で目覚めた。起き上がると、母が電話で話をしていた。時計を見たら五時前だった。サクラに餌を与えた。そして、浴室に行き浴槽を洗って、お湯を張った。書斎にいた父に「お風呂沸かしたよ」とドアの外から声を掛けた。


居間に戻り電話が終わった母に「晩ごはんは何?」と聞くと、「餃子よ」と言うから、母と一緒に作る事にした。サクラは餌を食べて満足したのか、ストーブの前に置いている、サクラ用のベッドで眠っていた。

母から借りていた服を脱ぎ、洗濯カゴから部屋着を取り出して着替えた。


母が粗みじん切りにした白菜を軽く茹でて絞り、それと母が小さく切ったニラと豚肉の挽肉をボウルに入れて、生姜を一欠片すり下ろし、胡麻油を少量を入れ、塩胡椒、お醤油で下味を付けて手で捏ねた。「いい匂い」と私が言うと、「久しぶりに餃子を作るからお父さん喜ぶわ」と言った。「お父さんは食べ物に目がないから」と私が言うと母は「少し痩せて欲しいんだけど、なかなか難しいの」と言うので、「お母さんの料理が美味しいから、仕方が無いんじゃない?」と二人で笑いながら、餃子を包んだ。片栗粉を大皿に振ってから餃子を並べていった。数えてみたら、百個以上も出来てしまっていて、「残ったら冷凍しましょう」と母は言っていた。


炬燵の台の上にホットプレートを置いて、電源を入れて加熱させてから、オリーブオイルを少しプレートにひいて、フライ返しでオイルを全面に伸ばした。餃子を並べて蓋をしてしばらく経ってから、水を入れて蒸気で蒸し焼きにした。蓋を取り、水分が飛ぶまで焼いた。母がお醤油と辣油、カボスを切った物をお盆に乗せて運んできた。私は食器棚からお皿を出し箸立てを持って居間に戻り、母に「もう焼けたかな?」と聞いた。「もうちょっとじゃない?」と母は言い、冷蔵庫からビールを二本取り出して、母は父を待たずに飲み始めた。「お母さん、美味しそうに飲むね」と、私が感心したように言うと、「だって美味しいもん」と母は言った。「苦いからビール飲めない」と私が言うと、「文、冷蔵庫に豆乳が入ってるから、それを飲みなさいよ」と言われたので、冷蔵庫のサイドの部分を見たら、無調整の豆乳が立っていた。マグカップに豆乳を注ぎレンジで温めた。

父がお風呂から上がって来て、居間に入り「いい匂いだな」と言って、父が座る場所に座った。ちょうど餃子も焼けていて、「お父さん、タイミングがいいね」と私は父を冷やかすように言った。父は「餃子か!」と喜んでいた。

私は辛い物が苦手だから、辣油は使わずお醤油とカボスの果汁を混ぜたタレで餃子を食べた。父は辛い物が大好きだったから、辣油を沢山入れて母に叱られていた。

父はビールを飲んだ後に、小さなグラスに七分目ほど焼酎を入れて飲んでいた。母は二本目のビールを飲んでいた。我が家でお酒が一番強いのは母だった。飲み会などで、生ビールをジョッキで七、八杯飲んでも少し明るくなる程度で顔色も変わらなかった。父はすぐに顔が赤くなるから、お酒が合わない体質なんだろうな、と思っていた。両親は家では飲まない日もあるようだった。私が帰っているから、嬉しくてお酒がすすんでいるのかな、と思った。

両親はご飯も食べたが、私は餃子だけでお腹が一杯になった。夕薬を飲んでから、母と片付けをした。サクラが起きて来て、私の足元に擦り寄っていたから、鳥ササミ肉を蒸して小さく割いて与えた。


お茶を淹れて、両親と蜜柑を食べた。サクラは私の足に両手を乗せて座るポーズで寝ていた。

父から「明日、三人で出掛けないか」と聞かれた。「どこに?」と聞くと、「隣町の水源を見に行かないか」と言われた。「いいよ、私ずっと行っていないから、あまり覚えてないわ」と私は言った。サクラに「明日、お出掛けして来るよ、ごめんね」と言いながら、サクラの身体を撫でた。


朝温泉に入ったからお風呂はいいやと、洗面所で顔だけ洗って肌のお手入れをして歯を磨いた。母のパジャマに着替えて居間に戻り、就眠薬を飲んでから、二人に「もう寝るね」と言ってから、仏間に行き、お布団を敷いていたら、サクラが戸をカリカリと爪で引っ掻いていたから、中に入れてあげた。掛け布団を腕で上げて、サクラが入れるようにしていた。サクラは入ったり、出たりを繰り返してやっと布団の中に入って来た。ゴロゴロと喉を鳴らしながら、私の腕を手で踏み踏みしながら眠る姿勢を取っていた。私はずっとサクラの背を撫でてやっていた。電気をつけたまま寝てしまったが、両親のどちらかが消してくれていた。


サクラにまた起こされて、餌と水とを与えた。充分に寝たから、居間のストーブをつけて、炬燵のスウィッチもいれた。そして寝ていたお布団を畳んだ。

顔を洗い歯を磨いて、肌のお手入れをした。

神棚さんの水を替え、仏壇のお供えもした。朝ごはんを作ろうと、大根とワカメのお味噌汁と卵焼きを作った。

母の化粧道具を借りてメイクもした。美容部員をしていた時に、講師の先生から、「眼鏡を掛けているお客様こそ、アイメイクが重要です」と教えられたが、本当かなぁと思いつつ、メイクをしていた。やはり薄化粧にした。母の口紅はくっきりとした色ばかりだったから、リップクリームを塗るだけにした。


父が起きて来て、「早いな」と言った。「早く寝たからね。朝ごはん出来てるよ。食べる?」と聞くと、「うん。食べる」と言うので、用意をしに台所に立った。父は新聞を取りに行っていた。外で一服もしたようだった。

炬燵の台を拭いてから、父が座る場所にご飯とお味噌汁と卵焼きを並べた。父はお味噌汁を飲んで「お母さんの味だ」と言った。「ほんと?嬉しいな。お母さん、料理が上手いよね」と私が言うと、「結婚当初はお母さんは何も作れなかったんだ」と言うから内心で驚きつつ、「お母さん、すごいね、何でも出来るから信じられない」と私は言った。

母も起きて来たから、朝ごはんの支度をしてあげた。それから自分の分も運んで一緒に食べた。

「文、随分早く起きたのね」と母に言われて、「サクラに起こされたの。お腹が減ったみたいで鳴いてた」と言うと、「まぁ、そうなの。サクラはあなたに甘えているわね」と母は言った。サクラは私の足に両手を掛けて寝ていた。


片付けは母がするから、と言ってくれて、私は母の言葉に甘えて、パジャマを脱いで服を着替えた。持ち帰っていた水色のタートルネックセーターにベロア素材の黒い膝丈のスカートを履いた。スカートの両サイドのスリットが入った部分にサクランボの小さな刺繍があり気に入っていた。マフラーを巻いて、黒いジャンパーを羽織ろうとしていたら、母が昨日貸してくれた大きな千鳥格子の上着を手渡して、「これにしなさい。病院に持って行っていいわよ」と言ってくれた。「いいの?ありがとう」とお礼を母に言った。


両親の支度が整って、父が「そのまま病院に戻るか?」と聞いて来た。水源地は病院に戻る途中にあった。サクラの事を考えると、また引き返して実家に帰りたかったが、父が言う通りにしようと思い、「分かった」と言って荷物をまとめて、父に手伝ってもらって、洗濯カゴやバッグを車のトランクに乗せた。

サクラに申し訳ない気持ちから、鳥ササミ肉を蒸して小さく割いて与えた。「ごめんね」とサクラに声を掛けて背を撫でた。

忘れ物が無いか、何度も家中を見て回った。父は外で煙草を吸っていて、母は私を待ってくれていた。


父が運転し、母は助手席に座り、私は後部座席に座った。父に水源地に行く前に和菓子屋さんに立ち寄って貰い、マドレーヌを十個買った。ベテランの看護助手さんに渡したかった。


隣町の水源池まで約十五分だった。駐車場から水源池まで歩いて行った。お土産屋さんや、出店もあった。

記憶にあったよりも湧き水の池が小さくなったように感じた。自噴(じふん)している様子が見えた。マイナスイオンを感じて心地良かった。周辺を散策してから、お土産屋さんに立ち寄り、名水サイダーというのが売られていたから、面白いなと思ってそれを三本買った。その水源地の水も、二リットルのペットボトルのを二本買った。父が持ってくれた。母が手漉きのレターセットと葉書を数葉選んで買ってくれた。嬉しかった。


「お昼ご飯を食べましょう」と母が言って、私は母が好きなお蕎麦屋さんに行こうと提案した。車に戻り、荷物をトランクに乗せて約五分の所にある、母が好きなお蕎麦屋さんに行った。

両親は天ざる蕎麦を頼み、私は鴨南蛮蕎麦を頼んだ。待ち時間は長いが、絶品のお蕎麦を出してくれるお店だった。待つ間に、父から車の鍵を借りて、トランクに入れていたバッグの中から薬袋を出して昼薬を取り出した。車のロックをかけて、店内の両親の元に戻り座った。

「お薬を取って来たの」と私が二人に言うと、頷いていた。「一日四回もお薬飲むの、面倒くさい」と私が言うと、母から「お薬なんだから、ちゃんと飲みなさい」と言われた。


両親が頼んでいた天ざる蕎麦が先に運ばれて来た。「先に食べてて」と私は言って、二人がお蕎麦を食べる様子を携帯のカメラで撮り、妹に送った。妹から、『お蕎麦屋さん?』とメールが来て、『仲良し夫婦だよね!』と返信した。

鴨南蛮蕎麦がようやく運ばれて来た。ざる蕎麦を鴨とネギのとろみがある熱い出汁に浸けて食べるこのお蕎麦が一番好きだった。食後に昼薬を飲んだ。


「美味しかったね」と、母と言いながら、車に乗った。父はお店の外の喫煙スペースで煙草を吸っていた。


父は普段病院に行く道では無い、遠回りの道を車で走った。母は眠っているようだった。

「お母さんに、ありがとうって伝えてね。友達が来た時も料理をしてくれたりしたのよ。それに私を気遣っているわ」と父に言った。「お母さんは、文が大事なんだ。文が思っている程には気を遣っていない。お母さんにしてみれば、して当然の事をしているだけだ」と父は言うのだった。「そうなのかな。お父さん達とずっと一緒に居なかったから、お父さん達の気持ちが分からない時があるの。それで不安になっちゃうのかな」と私は言った。「俺たちは親子だ。どんなに離れていても何も変わらない」と父は優しく言ってくれた。

「ススキがすごいね。壮観だわ」と私が言うと、父は「いいドライブコースだな」と言った。三人でドライブするのは、久しぶりだな、と思った。


病院に戻る前に、父の提案で喫茶店に立ち寄る事にした。入ってみたら、昔ながらの喫茶店でカウンターにはサイフォンが並んでいた。ショーケースには、ケーキも数種類並べてあった。

父は「蕎麦だったから、腹が減った」と言って、本日のブレンドコーヒーとホットサンドを頼んだ。母はウィンナーコーヒーとミルクレープケーキを頼んだ。母はウィンナーコーヒーが好きだった。私はトアルコトラジャコーヒーとベイクドチーズケーキを頼んだ。


「あっという間だったな」と私が言うと、「色んな事をしたからね」と母が言った。「お母さん、ありがとう。気を遣わせたね。ごめんね」と私が言うと、「気にしないで。文が帰って来てくれただけで嬉しいわ」と母は微笑んでいた。

「土曜日には退院かぁ。長かったような、短かったような、不思議な気持ちがするわ」と私が言うと、「三ヶ月入院していたものね」と母は感慨深気に言った。「土曜日は、俺たち二人で迎えに行くからな」と父が言った。


喫茶店を出て、病院に向かった。喫煙所で父と煙草を吸っている間に母は外出届の保護者のコメント欄に何やら書いてくれていた。

父は車を病棟の前に移動させて、部屋に荷物を運ぶのを手伝ってくれた。

看護師詰め所におられた看護師さんに外泊届を提出したら、「お帰りなさい。眠れましたか」と問われて、「二日とも充分に眠りました」と答えると、「良かったです」と言われた。「部屋に荷物を運びます」と言うと、看護師さんは部屋の扉の鍵を開ける為に詰所から出て来られた。


部屋に荷物を置いてから、父とエレベーターに乗り、一階に降りて外に出た。両親を見送ってから、私は部屋に戻り荷物の整理をした。

土曜日には退院するのか、と入院生活が終わりに近付いている事を不安に感じていた。

試験外泊の最終日は、両親とお出掛けをしドライブした気分でした。

退院日が近付き、その事に不安感を抱いていました。。。


お読みくださり、ありがとうございます!

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