友達
文は地元の友達と温泉に行きます。
サクラが鳴く声で目を覚ました。まだ外は暗かった。時計を見たら、五時半前だった。サクラに餌と水を与えてから、また私は布団に入って寝た。仏間の戸をサクラが入れる位を開けておいていた。しばらくしてサクラは私の元にやって来て、満足気に毛繕いをしていた。そして布団の中に入って来た。一緒に二度寝をした。
物音で目を覚ました。もう八時を過ぎていた。サクラはまだ寝ていた。お布団の上でストレッチを軽く行なった。やっと頭も身体も目が覚めて、洗面所に行き顔を洗い歯を磨いた。サクラも起きて来て、私の足元に身体を擦り寄せていた。
「おはよう」と台所にいた母に声を掛けた。「よく寝ていたわね。おじいちゃんにお供えをしたけれど、サクラは起きたけど、あなた起きなかったわ」と言われた。「うん、熟睡していて気が付かなかった。お父さんは?」と聞くと、「市内で法事があると言って朝から出掛けたわ」と教えてくれた。「お父さん、忙しいね、おじいちゃんにお線香あげて来るね」と言って、仏間に行きロウソクに火を灯し、お線香に火をつけて線香立てに立てた。
お布団を畳んで、病院から持って帰った洗濯物を洗いに脱衣所に行ってみたら、母がすでに洗濯してくれていたようだった。
「お母さん、ありがとう。洗濯してくれたんだね」とお礼を言った。「いいのよ、ついでに洗っただけよ」と母は言い、「朝ごはん食べないの?」と聞かれて、「昨日食べ過ぎてお腹空いてないの。蜜柑だけ食べたい」と言って、居間に行き炬燵に座って蜜柑を食べた。やっぱり果汁たっぷりで甘くて美味しかった。
台所でグラスに水を汲み朝薬を飲んだ。
地元の友達と温泉に行く約束をしていたから、彼女に電話を掛けた。彼女はすぐに電話に出てくれて、「朝風呂しましょう」と言うのだった。天気も良いし、露天風呂にも入れそうだと、ワクワクとした。「いいねー。実はまだパジャマなの。すぐに着替えるね」と私が言うと、「着替えたら電話してください。迎えに行きます」と彼女は言い、「うん、分かった」と言って私は電話を切った。
母に「あの子と温泉に行って来るね。迎えに来てくれるって」と言うと、「いいわねー。ゆっくり入って来なさい。お昼ご飯はどうするの?」と聞かれて、「お店で食べるか、お母さんの料理を食べるか迷うな。やっぱりお母さんの料理が食べたいな。あの子、家に連れて来てもいい?」と私は聞いた。「いいわよ。何か用意して置くわね」と母は了承してくれた。
私は急いで服を着替えた。服も母に借りた。着替え用の下着とタイツ、タオルを三枚とを袋に入れて、温泉の回数券と小銭入れだけ上着のポケットに入れた。彼女に用意が出来たよ、と電話をした。彼女を待つ間にサクラにちょっと出掛けて来るね、と言いながら、サクラの好物の鳥ササミ肉を蒸して小さく割いたものを与えた。サクラは喉を鳴らしながら食べていた。
玄関のチャイムが鳴り、彼女が来たのが分かった。母とサクラに行って来るね、と言って、「行って来ます」と言って玄関の扉を開けた。母も付いて来て、彼女に「お昼ご飯は用意して置きますから、温泉を上がったらまた家に来てくださいね」と話し掛けていた。彼女は遠慮していたが、私も「一緒に食べようよ」と言うと、「お言葉に甘えます」と彼女は言った。母に見送られて、彼女の車に乗り込み、約十分の所にある彼女といつも行く温泉までドライブした。
「文さん、素敵な格好されていますね」と彼女に言われた。黒いセーターとには花のモチーフが縫いとめられていて、モスグリーンの膝下丈のフレアスカートに黒いタイツを履いていた。それに大きな千鳥格子の上着を羽織っていた。彼女に「母のなのよ」と私が言うと驚いていた。「お母さん、お洒落ですねー」と褒めてくれて私は嬉しくなり、「うん。なんでも似合うし、羨ましくなる」と私が言うと、「文さんもお洒落ですよ」と言ってくれたが、私は数年前から服を買うことがなくなっていて、お洒落しようという気持ちが消えてしまっていた。
温泉に着いて、温泉券を受付で出してから、温泉がある所まで階段を降りて行った。男湯と女湯が週替わりで変わるシステムだった。女湯まで歩いて行き、脱衣所で籠に服を脱いで入れて裸になった。眼鏡も籠に入れて上にタオルを被せた。
タオル一枚だけ持って、彼女と温泉に入った。
まだ温泉に入っている人はほとんど居なかった。
置いてあるリンスインシャンプーで髪を洗い身体をボディソープで洗った。彼女は持参したシャンプーやコンディショナー、ボディソープを使っていた。
内風呂は私には熱く感じられるので、「露天風呂に行っておくね」と彼女に行ってから、私は露天風呂に入りに行った。ぬる目のお湯で丁度良かった。私しか居なかった。天気が良くて、最高だった。彼女がいつも肩や首にしている滝風呂もしてみたが、勢いが良すぎて逆に痛かった。
彼女も露天風呂に来て、「晴れていて気持ちがいいですね」と言った。「本当にねー。贅沢な気持ちを味わえるよ」と私は露天風呂の周りの岩にもたれかかって、手や足を伸ばす運動をした。彼女は滝にあたっていた。
内風呂で身体を温めて、電気風呂にも入ったり、泡風呂にも入った。いい加減、湯当たりして来てしまって、「先に上がるね」と彼女に声を掛けてから、タオルで身体を拭いてから脱衣所まで歩いて行った。洗面所に置かれていた化粧水と乳液を顔や身体に塗った。
着替えをして、髪を乾かしていたら彼女も上がって来た。彼女が髪を乾かすのをベンチに座って待った。
脱衣所から階段まで歩いて行き階段を登って、受付がある所を過ぎて、設置されている自販機で彼女は炭酸ジュースを買い、私は野菜ジュースを買った。私たちのいつものパターンだった。時計を見たら、十二時前だった。
「飲んだら、家に行こうか」と私は言った。彼女も頷いていた。
家に帰る前に、彼女に「アイス食べたくない?」と聞いたら、「食べたいです」と言うので、「家の近くのコンビニに寄って帰ろう」と私は彼女に言った。
「お母さんは彼氏さんとの交際を認めてくれたの?会ったんだよね?」と彼女に聞いたら、「認めてくれました。祖父母が母を説得してくれたんです」と彼女が言ったから、「良かったねー!」と私は喜びのあまり、彼女に抱きついた。彼女も抱き返してくれた。二人で喜び合った。
「文さんは付き合っている人いないんですか」と彼女から聞かれて、「もう何年もいないなー」と私は答えた。幸せの真っ只中にいる彼女に、男性が苦手など言えなかった。
コンビニに立ち寄り、冷凍庫を覗きこみアイスクリームを選んだ。彼女はモナカアイスを選んだ。私は父にソフトクリームを、母に抹茶のアイスを自分用にはバニラアイスを選び、お会計は一緒にして貰い私が払った。彼女は礼儀正しくお礼を言っていた。
家に着いて彼女の車を駐車場に停めて貰って、二人で家に歩いて行った。玄関を開けたら、良い香りがした。母は何を作ってくれたのだろうと、空腹感を覚えた。サクラが出迎えてくれた。ニャーニャー鳴いていた。撫でてやって鳴くサクラをなだめた。
「ただいまー」と私は家に上がり、彼女は「お邪魔します」と断って家に上がった。居間に二人で入ると母から「気持ち良かった?」と聞かれた。「うん。気持ち良かったよ。早い時間だったから、お客さんが少なかったの。露天風呂は誰もいなかった」と母に話した。彼女に炬燵に入るように勧めて、私は買って来たアイスを冷凍庫にしまった。
「お昼ごはん、食べましょう」と、母が言い、彼女も料理を運ぶのを手伝ってくれた。
大根のそぼろ煮、ブリの照り焼き、小松菜のおひたし、カボチャのお味噌汁を母は用意してくれていた。どれも私の好物だった。
料理を炬燵の台に並べてから、「いただきます」手を合わせてから、お味噌汁から私は食べ始めた。お味噌汁は薄味でカボチャの甘みがした。ブリの照り焼きは身がふっくらとしていた。小松菜のおひたしも薄味で美味しかった。母に「美味しい」と私が言うと、彼女も「すごく美味しいです」と母の料理を褒めながら食べていた。私はゆっくりと母が用意してくれたお昼ごはんを食べた。食後に昼薬を飲んだ。サクラは私の足に手を乗せて座ったポーズで寝ていた。
食べ終わって、お茶碗やお椀お皿や箸を彼女と一緒に洗った。お湯を沸かしてお茶を丁寧に淹れて三人で飲んだ。彼女に「美味しい蜜柑があるんだよ」と言って、頂き物の蜜柑を勧めた。彼女もその蜜柑の甘さに驚いていた。サクラに鳥ササミ肉を蒸して、身を小さく割いて与えた。喉をゴロゴロと鳴らしながら食べていた。
彼女と母は、二人で話をしていた。居間にサクラと行くと、彼女が母から料理を習いたいと頼んでいた。母はニコニコと微笑みながら、「お休みの日に習いに来たらいいわ。一緒に料理をして食べましょう」と嬉しそうだった。彼女も「お母さんみたいに料理上手になりたいです!」と顔を紅潮させながら、母が頼みを聞いてくれて喜んでいた。
母は頼られるのを好む人だった。そして人に尽くす人だった。
二人が話している間、私はお腹が一杯で眠気を催し、炬燵で横になりサクラの相手をしていた。サクラを撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らして気持ちが良さそうにしていた。
父が帰って来た。彼女は立ち上がり、父に「お邪魔しています」と挨拶をした。父は彼女に「いらっしゃい。文がワガママを言ったんじゃないかい?」と言った。「いえ、文さんと温泉に行く約束をしていたんです」と彼女は私を庇ってくれた。
みなでアイスを食べてから、彼女に珈琲豆を挽いて貰って、私は珈琲を淹れた。居間でみなで珈琲を飲んだ。珈琲カップを洗ってから、彼女とサクラと二階の私の部屋に行った。
「貸した漫画、どうだったー?」と私が聞くと、「ヤバかったです。面白かったです。まだ借りていていいですか」と言うから、「いつでもいいよ、あの漫画を好きな人がいてくれて嬉しいの」と私は言った。
「今回の試験外泊はね、この前みたいに頑張り過ぎないのが目標なんだ。無理すると疲れるからダメなんだって。難しい」と私は言った。彼女は真剣な顔をして私の話を聞いていた。「文さんは元から真面目で頑張り屋さんですからね」と彼女に言われた。「そうかな。自分では分からない」と私は言った。「文さんの良いところだと私は思いますよ」と、彼女は言ってくれた。「ありがとう」と照れながら彼女に礼を言った。サクラは私の膝の上で寝ていた。
「そろそろお暇しますね」と彼女は言って、帰った。母と一緒に見送った。
母と二人で洗濯物を取り込み、一緒に畳んだ。母に「お母さん、すっかりあの子の事気に入ったみたいね」と私が言うと、「若いのにしっかりしているわ。文は友達に恵まれているわね」と言われた。「本当に。幸せだね、私」と母に言った。
彼女と高校からの親友の存在は大きかった。私が精神科病院に入院しても態度を変えなかった二人には励まされていた。
洗濯物を畳み終えて、私は自分の洗濯物は持ち帰った洗濯カゴに入れた。
「晩ごはんまでゆっくりしておきなさい」と母に言われて、居間に行き炬燵に横になり、日記をつけてからサクラと一緒に眠った。
無理をしない、頑張らないと、自分なりに考えて実家で過ごすよう、心掛けた試験外泊でした。
地元の友達と高校からの親友の存在に励まされ、助けられていました。
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