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不思議な部屋  作者: 竜胆
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パン粥

文の悩みについて書きます。

ストレッチ体操が終わって二階の患者さんたちは、二階の看護師さんにと作業療法士さんに誘導されてエレベーターに乗り、二階に降りて行かれた。三階の参加者は看護師さんと作業療法士さんに誘導されて、階段で三階に降りた。

部屋に戻り、手を石鹸で洗い、うがい薬でうがいをした。


携帯を見てみたら、妹からメールが来ていて『オレンジのが欲しいって言ってるよ。体調どうなの?』という内容だった。私は妹に『体調いいよ。午後のアートの時間にブレスレットを作るね』と書きメールを送った。


あ、外泊届を出していなかった、と私は慌てて看護師詰め所に行き、おられた看護師さんに「週末の外泊届を出すのを忘れていました。間に合いますか?」と尋ねてたら、「今から書いて提出してみてください。主治医の先生が判断なさいます」と言われた。私はカウンターに置かれている外泊届に日時と目的を記入して、看護師さんに手渡しした。

我ながら、間抜けだ、とがっくりしながら部屋に戻った。

母に電話をかけて、「外泊届を出すのを忘れていて、今出して来たの」と話すと、母は「先生が許可してくださるといいわね。仕方がないわよ。あまり考えないことね」と言ってくれた。「あのね、副長さんから今朝言われたんだけど、痛みは明日までって主治医の先生が仰ったんだって。安心ー。」と私が言うと母は「良かったわね」と母も安心したようだった。「午後からアートの活動で姪っ子にブレスレットを作る約束をしているの」と私が言うと、「まぁそうなの。あの子は文のことが大好きだものねぇ」と言った。またサクラの鳴き声が聞こえて来た。「サクラはあなたと電話で話すと鳴くの」と母が言うから、私は「サクラ、サクラ」としばらく名前を呼んであげた。「お昼ごはんにパン粥を食べるね。豆乳で作ったんだね。食べるのが楽しみ。ありがとう」と、母は「チーズが入っている方は温めて食べてね」と言った。まだサクラは鳴いていたが、私は「またかけるね」と言って電話を切った。


冷蔵庫を開けて、母が言っていたチーズが入っている方のパン粥は晩ごはんに食べることにして、もう一つのパン粥が入った容器を取り出した。上にバジルが振りかけてあって、匂いを嗅いだら豆乳臭さが消してあった。味も薄味で美味しかった。たぶんお塩など一切入れてなかったようだった。塩分の多い料理は苦手だった。全部食べ終わってから、父が買ってくれていた葡萄のゼリーも食べた。

昼薬を飲んでから歯を磨き、うがい薬でうがいをした。

スープの空き容器やさっき食べたパン粥の容器、スプーンを洗面所で洗った。タオルで丁寧に水気を取って、母が料理を入れて来た紙袋の中に入れた。


ニット帽を被り、ジャンパーを着てポケットに煙草とライター、携帯を入れて部屋を出た。エレベーターに乗り、一階に降りて外に出て喫煙所まで歩いて行ったら、二人組が煙草を吸っておられた。手を振ると、二人も手を振り返してくれた。「文ちゃん、ご飯食べに来ないけど、何かあった?」と闊達な女性に聞かれて、「親知らずを抜いたのです。昨日母がスープなどを作って持って来てくれたので、今日まで欠食なんです。すいません、お伝えしておけば良かったですね」と私は二人に謝った。「そうだったんだー。痛むの?」とほっそりとした女性から問われて、「痛みはないですよ」と答えたら、「よかったね」と微笑んでおられた。

「アートには参加されますか?」と二人に聞いたら、「参加するよー」「うん」と二人とも参加される事が分かった。「私はまた姪っ子にブレスレット作りをします」と言うと、「叔母バカだねー」と闊達な女性から笑われてしまった。

煙草に火を付けてゆっくりと吸った。寒いけど、外気が気持ちが良かった。


「文ちゃん、ドラッグストアに買い物しに行かない?」とほっそりとした女性に言われて、「お財布を取りに行って来ます」と言って私は病棟に走って行き部屋に戻り、部屋着のズボンをジーンズに変えて、小さな引き出しを鍵で開けてお財布を取り出した。それからまたエレベーターにで一階に降りて、二人の元に走って行った。

二人から、走らなくてもいいのに、と笑われてしまった。


三人でドラッグストアまで歩いて行った。やはりほっそりとした女性は、お化粧品カウンターに座られて、美容部員さんと話をされていた。

私は石鹸を一個と残り少なくなったボディクリームが欲しくて、使っているのが置いてあるか探した。幸い置いてあり、今度は石鹸をどれにしようかな、と石鹸の袋や箱の裏側の説明文を読んで、肌に優しくて香りが気に入った物を選んだ。

闊達な女性はシャンプーとコンディショナーの詰め替えを手に持っておられた。

私たち二人はお会計を済ませたが、ほっそりとした女性はまだ美容部員さんからメイクをされているところだった。

「文ちゃん、先に帰ろう。あいつには、メールしとくから」と闊達な女性は言われ、二人で病院に帰った。

喫煙所で二人で一服した。

「文ちゃん、お母さんと話せた?」と聞かれて、「何も話せていません。。。ただ心配ばかりかけていて心苦しいです。両親に素直に甘えられません」と私は心情を吐露した。「親っていうのはね、子どもを心配するのなんて苦にしないもんよ。文ちゃん、素直に甘えられるようになれたらいいね」と闊達な女性は優しく言ってくださり、私は思わず涙ぐんでしまった。「ありがとうございます」と震えた声でお礼を言った。

二人で二本目の煙草に火を付けて、闊達な女性の子どもさん達の話をした。

こんな闊達でまともな方がアルコール依存症患者だとは到底信じられないのだった。アルコールは怖いな、と思った。


「帰ろうか」と闊達な女性に言われ、二人で病棟に戻った。ほっそりとした女性からはメールの返信も来ていないままだった。

お互いの部屋に帰るため、エレベーターを降りたところで別れた。


部屋に戻り、机の椅子に買い物袋を置いた。ニット帽を脱ぎジャンパーのポケットから煙草とライターを引き出しになおし、お財布を小さな引き出しに入れて鍵をかけた。携帯は机の上に置いた。

下着類が乾いていたから、ラックをフックから取った。脱いだジャンパーに消臭スプレーをかけて、ハンガーに掛けてフックに吊り下げた。

洗面所で手を石鹸で洗い、うがい薬でうがいをした。

ジーンズを脱いで、部屋着のズボンを履いた。買い物袋からボディクリームと石鹸を取り出してなおした。袋は小さく畳んで机の一番下の引き出しになおした。

下着を畳んでクローゼットになおした。看護師詰め所に共用のアイロンとアイロン台を借りに行って、ハンカチにアイロンをかけた。かけ終わって、ハンカチを畳みクローゼットになおした。アイロンの熱が冷めてから、看護師詰め所にアイロンとアイロン台を返しに行った。


まだアートの時間には余裕があったから、引き出しを開けて日記帳を取り出して、先ほど闊達な女性から言われた事を書いた。素直になる、甘える、両方難しいな、なかなか出来ないな、と書いた。


アートが始まる時間になり、作業療法士さんが「アートに参加される方は、食堂に集ってください」と言われている声が聞こえて来た。私は部屋を出て食堂まで歩いて行った。

二階の患者さんも看護師さんと作業療法士さんに誘導されて三階の食堂に来られた。

看護師さんや看護助手さんが三人、作業療法士さんが三人だった。

いつものビーズのコーナーに行くと、また新しいビーズが新たに加えてあった。

沢山並べられているビーズの中から、大小さまざまなオレンジ系のビーズを手に持った器に入れた。

作業療法士さんに二本の伸びるテグスを、長さを伝えて切って貰った。

テグスの端をセロファンテープをして、器に選んだビーズを出来上がりを想像しながら、ビーズをテグスに通して行った。通し終わって出来を見てから、これでいいかなと納得してから、固結びしてそこに接着剤を付けた。

二本目は、一本目とは違うのを作ろうと考えて、器の中のビーズのテグスに通しながら、なんとか作り上げた。またテグスを固結びしてから、接着剤を付けた。

接着剤が乾燥するのを待つ間に、器に残ったビーズをケースに戻した。

集中してしておられる方、会話しながら作業をされている方、お喋りばかりで何もされない方、ただぼんやりとしておられる方、患者さんの活動における態度は様々だった。


接着剤が乾いたので作業療法士さんからハサミを借りて、余ったテグスを切って二本のブレスレットを完成させた。姪っ子が気に入ってくれるといいな、と思った。


折り紙コーナーに行き、淡いグレーの折り紙を選んで、本を見ながら猫の顔の折り紙を折った。姪っ子にサクラの話を手紙に書いてあげようと思った。


アートの時間が終わり、参加した患者さん達、看護師さん、看護助手さん、作業療法士さんと道具類の片付けをしてから、作ったブレスレットと折り紙を持って部屋に帰った。

早速、姪っ子に手紙を書いた。サクラの事を中心とした内容だった。ブレスレットを包装してから、封筒に妹の住所を書いて、妹と姪っ子の名前を連名で書いた。封をしてそこにシールを張った。切手を貼ってから、看護師詰め所におられる看護師さんに手紙を託した。


洗濯物が乾いているかも知れないと、洗濯カゴを持って四階に階段で登った。洗濯物は乾いていた。洗濯物干し場はサンルームになっていたお陰で乾くのが早かった。

カゴに服を入れて、ラックやハンガーも物干し竿から取った。

階段を降りて部屋に戻り、ベッドの上に洗濯物を広げて畳んだ。クローゼットのそれぞれ決めた場所になおした。


ジャンパーをフックに掛けたハンガーから取り、匂いを嗅いでみたら煙草の臭いは消えていたが、やっぱり洗い替えは必要だなーと思った。週末帰れるようだったら、もう一枚上着を持って来ようかな、と思案した。


お腹が空いたな、と冷蔵庫を開けて、父が買ってきた果物入りのヨーグルトを取り出して食べた。食べたら眠たくなって、ベッドに横になって眠った。


部屋をノックする音がして目が覚めた。携帯を見たら、七時半過ぎだった。どうぞ、と私が言うと担当の看護師さんだった。

「寝ておられましたか。晩ごはんは食べられましたか」と聞かれて、「食べずにずっと寝てしまっていました」と私は答えた。「食べれそうだったら、食べてください」と言われた。空腹だったから、「お腹空いています。食べます」と言って、冷蔵庫から母が作ったチーズのパン粥が入った容器を取り出した。

「レンジで温めて来ます」と食堂にある共用のレンジで温めに行こうとしたら、「僕が温めて来ます。文さん、鏡を見てみてください」と言って、彼は容器を持ち部屋を出て行った。

私は何だろうと鏡を見てみたら、ひどい寝癖頭をしていたのだった。ブラシで解いても直らず、私はやさぐれて開き直った。彼にはどんな姿を見られても平気だった。そんな風に信頼していた。


帰って来た彼に「ありがとうございます」と、彼にお礼を言って淹れていた珈琲を渡した。

チーズで豆乳臭さを消してあるパン粥をゆっくりと食べた。これも美味しかった。彼はパイプ椅子に座り、私が食べる様子を見ていた。食べ終わり夕薬を飲んだ。

二人で食べようと父の東京土産を箱から二つ出し彼に渡した。

彼から「外泊の許可がおりましたよ。早く知らせたくて伝えに来ました」と言われて、私はホッとした。「良かったです。外出届を出すのをすっかり忘れてしまっていたのです。主治医の先生にお礼を言っておいて下さいませんか」とお願いをした。

「文さんの生活態度や活動での様子から、先生は許可を出されたのです。落ち着いているな、と判断されておられるのでしょう。自分もそう思います」と彼が言ってくれて、「私は見守られていますね。ありがたいです」と言うと、「文さんらしいですね。監視されている、と感じる患者さんもおられるのに」と言われるのだった。驚いたが患者さんも様々なんだな、と思った。

「困られている事はないですか」と聞かれて、「そうですね、両親の愛情に素直になれない自分が嫌です。両親は甘えて欲しいみたいですが、甘えるって何だろうと思います」と話した。

「簡単に解決しないでしょうが、文さんは変わられましたよ。もちろん良い方向にです。それは文さんの力ですし、努力の結果だと自分は思います」と言って下さった。「気持ちが楽になれました」と、私はお礼を言った。

「また主治医の先生やカウンセリングの先生にも文さんの悩みを伝えておきます。カウンセリングは金曜日でしたよね。先生に相談なさってみられて下さい」と彼は言いながら、立ち上がりパイプ椅子をなおして、「珈琲とお菓子、ご馳走さまでした。お菓子、美味しいものばかり下さいますね。僕が交代時間の時に文さんが起きていたら、お茶を一緒に飲みましょう」と言って、彼は部屋を出て行かれた。


母に『週末の外泊届、先生の許可がおりました』とメールしてから、クローゼットからたおる二枚とパジャマと下着を出して、浴室に入りシャワーカーテンを引いて、シャワーを浴びた。髪は洗わず身体だけ石鹸で洗った。石鹸もだいぶ小さくなってしまった。新しい石鹸の使い心地はどうだろうと思った。身体をタオルで拭き、思いついて寝癖がついた髪に蒸しタオルを乗せてみた。そうしてブラシで解いたら寝癖は直った。

肌のお手入れをして下着やパジャマを着て、カーディガンを羽織った。


歯を磨きうがい薬でうがいをして、就眠薬を飲んだ。机の引き出しから日記帳とカウンセリングノートを出して、担当の看護師さんに言われた言葉をカウンセリングノートに書いた。日記帳にはアートで作ったブレスレットや折り紙を入れて姪っ子に手紙を書いたことや、外出届を出し忘れていたけれど、許可を主治医の先生が出してくださって助かった、と書いた。パン粥が美味しかったこと。担当の看護師さんは優しい、とも書いた。


それからベッドに入り、本を読んでいた。就寝時間近くになり、部屋をノックする音がして返事をしたら、担当の看護師さんだった。

「お茶、いかがですか」と言われて、「いただきます」と私は言い、二人で看護師詰め所に行くと、いつも面談やカウンセリングを受けているテーブルにお茶の用意がなされていた。

甘くて香りが良い緑茶で、気持ちが穏やかになるのだった。「美味しいです。ほっこりします。この時間は私にとって楽しみになっています」と私が言うと、彼は「またこの時間帯の勤務の時には文さんにお茶を淹れます」と真面目な顔で言われるのだった。


彼は部屋まで私を送ってくれた。「おやすみなさい。お疲れさまでした」と言って、私は部屋に入って扉の鍵を掛けた。

なんだか目が冴えてしまって、ベッドの中で本を読んでいつのまにか寝てしまった。


翌朝、「文さん」と呼ばれて目覚めた。看護師さんが「朝ごはんの時間ですよ。食べられそうですか?」と心配気に尋ねられて「食べます!」と言って、飛び起きたら、目眩がしてまた横になってしまった。「大丈夫ですか」と言われ、私は目眩が収まるのを待ってゆっくりと起き上がり、「大丈夫です」と答えた。看護師さんに支えられながら、ベッドから降りて洗面所で顔を洗い口をすすいだ。まだ少し身体がふらついていた。スープとパン粥しか食べていなかったから、痩せたようだと鏡に映る自分の顔を見た。

看護師さんに支えられながら食堂に向かったのだった。


この時の体重は、小学生6年の時と同じでした。

痩せている母よりさらに痩せていました。

太るのが怖くて仕方がありませんでした。。。


お読みくださり、ありがとうございます!


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