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不思議な部屋  作者: 竜胆
26/40

スープ

文に一大事が起きます。。。

部屋をノックする音で目を覚ました。携帯の表示を見たら、八時を過ぎていた。「すいません、寝ていました」と返事をすると、扉を開けて看護師さんが部屋に入って来られた。

「昨日歯を抜かれたのですよね。朝ご飯食べられそうですか」と問われて、「今朝は無理そうです。ゼリーとヨーグルトを親が買って来てくれたので、それを食べます」と言った。


歯を磨き、顔を洗って肌の手入れをして、パジャマから部屋着に着替えた。冷蔵庫の中からアロエヨーグルトを出して食べてから、抗生物質と朝薬を飲んだ。また歯を磨いて、うがい薬でうがいもした。


部屋をノックする音がして返事をしたら、以前から宝塚の男役みたいだなと思っていた女性の看護師さんと若い男性の看護助手さんが入って来られて、検温、血圧、脈拍測定をなさり、問診をされた。「少し、熱があるわね。抗生物質ちゃんと飲んだ?抜いた歯の痛みは無い?」と聞かれて、「飲みました。痛みはありません」と答えた。「何か異常があったら、私たちにすぐに知らせてね」とにっこりと笑ってくださり、安心することが出来た。

問診の最中に、また部屋をノックする音がして、看護師さんが「どうしたの」と言うと、「文さんのお母さんが面会にいらしています」と言われるのだった。こんなに早い時間に?と私は驚いてしまった。看護師さんから「会う?」と聞かれて、「会います」と答えたら、「お母さまに部屋に入っていただいて」と看護師さんは声を上げられた。そしてお二人は部屋を出られた。


母は両手にバックと紙袋を下げていた。「早かったねぇ。ビックリしちゃった」と私が言うと、「何も食べれないんでしょう。文が好きなスープ類を作って来たの。パン粥ならあなたも食べるかもと思って、作って来たわ」と紙袋を机の上に置いた。「お母さん、すごく早起きしたんでしょう。ここまでよく運転して来れたね」と私は言うと、「昨日はうつらうつらしか眠れなかったから、起きて料理したの」と照れくさそうな顔をした。「ありがとう。ね、ベッドで寝てよ。私、昨日お風呂に入らなかったから、シャワーを浴びるね」と私は涙が出ている顔を見られたくなくて、クローゼットからタオルや下着や部屋着を取りに行きタオルで涙を拭いた。


シャワーを浴びて浴室から出たら、母はベッドで寝ていた。母の上着をハンガーに掛けクローゼットになおした。母を起こさないように音を立てないように引き出しから日記帳を取り出して、昨日からの出来事を書き連ねた。母は熟睡していた。母が持って来てくれた料理の品々を紙袋から出して、容器の蓋を開けて中を見てみた。野菜が沢山入ったスープ、パンプキンスープ、ホタテ貝のクリームスープ、豆乳で作ったクラムチャウダー、パン粥が二種類だった。それと母が手作りする餅米と生麹で作る甘酒も瓶に詰めてあり大きめのが二つあった。それらを冷蔵庫になおしながら、私はまた涙が出て来た。

耐えられない、と私は引き出しに日記帳をなおし煙草とライターを取り出して引き出しを静かに閉めた。クローゼットからジャンパーと取り出して羽織り、ポケットに煙草とライターと携帯を入れて、ニット帽を被って部屋の扉をそっと開けて、エレベーターに乗り一階に降りて外に出た。喫煙所で一服すると母の車が停まっているのが見えた。背を向けて煙草を吸った。二本煙草を吸ったら、気持ちがようやく落ち着いた。母が起きた時に私がいなかったら、探すだろうと考えて、急いで病棟に戻り部屋に帰ったら、まだ母は寝ていた。


ジャンパーを机の椅子の背に掛けて、帽子を脱いだ。洗面所で石鹸で手を丁寧に洗い、歯を磨いた。脱いた歯の痛みは無かった。うがい薬でうがいもした。

机に座り読みかけの本を読んだ。その本は大学一年の時に当時の私としては大金を払って買った本だった。装丁も非常に美しくて、大切にしている本のうちの一冊だった。

私が本を読むのが好きになったのは母の影響からだったな、と思った。幼い頃は絵本を読み聞かせてくれていたし、実家には大きな本棚があり、両親が集めた本を、分からない漢字があっても小学生の時から読んでいた。

日本だけでなく海外の文豪の作品も中学・高校の長い休みの時に読み、他にも近くの図書館で頻繁に本を借りて読んでいた。

詩集や写真集も好きだった。


本を読み終え、母の方を見たらまだ母は寝ていた。ノックの音が聞こえて来て、私は扉を開けて外に出た。看護助手さんから「お昼ご飯はどうされますか」と聞かれて、もうお昼時なんだと驚いた。「母が料理を作ってくれたのです。すいませんが、お昼ご飯は食べません」と謝った。「気にしないでください。歯は痛みませんか?晩ご飯は欠食にしますか」と尋ねられた。「痛みはないです。欠食します。お願いしていいですか?」と聞くと、「連絡しておきます」と言ってくださり、「ありがとうございます」とお礼を言って、私はまた静かに扉を開けて部屋に戻ったら、母は起きていた。


「ごめんなさい、起こしちゃったね」と私が言うと、母は「寝過ぎて頭が痛いわ」と言うので、「薄めの珈琲飲む?」と聞いたら、「飲む」と母は首を回す動作をしていた。「はい、どうぞ。ぬる目にしたよ」とベッドの上にいるままの母に手渡した。「ありがとう」と言って、母はゆっくりと珈琲を飲んだ。薄くてぬるめの珈琲は母の好みだった。

「お母さん、お昼ご飯どうするの?」と聞いたら、「おにぎりを握って来たわ。バックに入れてる」と言うのだった。お昼ご飯を一緒に食べる気だったんだと思った。


母はベッドから降りて、バックからおにぎりを出した。二人で机でお昼ご飯を食べる事にした。母に机の椅子に座ってもらい、私はパイプ椅子に座った。

私はパンプキンスープを食べる事にして、冷蔵庫の中から出した。母はスプーンも持って来てくれていた。一口食べて、涙がボロボロとこぼれて来てしまった。母から背をさすられると更に泣けて来るのだった。「顔を洗って来るね」と言って洗面所へ行き、何度か冷たい水で顔を洗ったら、少し気持ちが落ち着き身体の震えも収まって来た。目が真っ赤になっていた。

「大丈夫?無理して食べなくていいのよ」と、母は心配そうに言ったが、「ううん、食べる。すごく美味しい」と言って、ゆっくりとスープを味わって食べた。母もおにぎりを二個食べていた。母は食が細くて昔から痩せていた。


「美味しかったー。全部食べたよ」と私が母に言うと、「スープは温めて食べないの?」と聞かれて、「口の中がひんやりして気持ちがいいの」と答えた。「甘酒はスプーン二杯くらいを水で薄めて飲むといいわ。身体にいいのよ」と言った。「甘酒、作るのに時間がかかったでしょう」と母に言うと、「文が良くなる為には何でもするわ」と母はその手間を何でも無いかのように言うのだった。「ありがとう。ちゃんと飲むね」と私はお礼を言った。母の優しさが心に沁みて、また少し涙が出たのだった。


抗生物質と昼薬を飲んだ。母から「お薬、自分で管理しているの?」と聞かれて、「そうなの。これも退院に向けた訓練なんだって」と私は母に説明した。


「文、上着はこのジャンパーしか持っていないの?」と母が座っている椅子の背に掛けていたジャンパーについて聞かれて、「うん。荷物を増やしたく無いから、これしか持って来ていないの」と私が言うと、「もう一枚必要だと思うわ。あなたの家のクローゼットから持って来るわよ」と言ってくれたが、「今度の試験外泊の時に持って来るかどうするのか考える。それに退院までもうすぐだしね」と私は言った。


「お母さん、この前私が家に帰った時、私に気を遣った?」と聞いてみた。「そうね、気を遣っていたかも知れないわね。それに文ったら、家事をずっとしていたから、疲れたんじゃ無いかって心配したわ」と母は言った。「私も実は疲れちゃったの。次の試験外泊では、無理をしない程度の家事をして過ごすね」と、母に正直な気持ちを話した。


「トイレに行ってくる」と言って、私は浴室内のトイレでおしっこをしたら、陰部に尿がしみて痛む感じがした。ウォシュレットの水もしみた。

手を洗い浴室を出て母にその事を告げたら、看護師さんに相談しなさい、と言うので一緒に看護師詰め所に行き、おられた女性の看護師さんに話したら、「私では分からない」と仰られて困ってしまった。

母と部屋に戻り、困ったねぇと話していたら、部屋をノックする音がして、返事をしたら副長さんと先ほど相談した看護師さんが入って来られた。


副長さんはぴっちりとした医療用の手袋をはめられてから私に「ベッドに横になって、掛け布団の中でズボンと下着を脱いで」と仰り、私はその通りにした。「足を立てて、広げて」と副長さんは指示された。私はとんでも無いことになってしまったとドキドキしていた。副長さんはベッドに上がり、掛け布団を少しめくって、懐中電灯で私の陰部を照らして観察なされた。下着やズボンを着ていいわよ、と言われたので私はもぞもぞとしながら下着やズボンを身に付けた。

「赤くなってるけど、(ただ)れとかにはなっていないわ。抗生物質を飲むと良い菌まで殺してしまうの。だから粘膜とか炎症を起こしやすくなるの」と説明をしてくださった。母も安心したようだった。「抗生物質はいつまで?」と聞かれて、「もう飲み終わりました」と私が言うと、副長さんは「じゃあ、二、三日の辛抱ね。あなたが体力が無いから、こうなるのよ」と言われてしまった。。。副長さんにはまた頭が上がらなくなってしまったのだった。


母から「よかったわね」と言われたが、私は恥ずかしくてたまらず、「うん」としか言えなかった。副長さんには入院当初からお世話になった話しをつらつらと話したら、母は「そんな大事なことは早く言いなさい。お礼を言えなかったじゃない」と母に叱られてしまった。「マドレーヌを渡したよ」と言っても、母は「帰り際にご挨拶してから帰らないと」と言っていた。


母に薄めでぬるい珈琲を淹れてあげた。父の東京土産のお菓子も出してあげた。「これ、お父さんのお土産?」と母から聞かれて、「うん。そう。美味しいよ」と私が勧めると、母は珈琲とそのお菓子を一緒に食べた。「ほんと美味しいわね」と母は言った。

「そろそろ帰るわ」と母は言うので、母の上着をクローゼットから出して渡した。私もジャンパーを羽織りニット帽を被った。


母が副長さんにご挨拶がしたいと言うから、看護師詰め所に行き、「母が副長さんと話がしたいと言っているのですが」と詰め所におられた看護師さんに言った。副長さんを呼んでくださり、母は看護師詰め所の前で、「娘が大変お世話になっているそうで。私たち親は全く知らなかったのです。遅くなりましたが、お礼を言わせてください」と母は言ってから深く頭を下げたから、私も一緒に頭を下げた。

「何もしていませんよ。文さんを見ていると、ご両親が文さんをとても大切に育てて来られたのが分かります。文さんは優しい娘さんですね」と副長さんは仰られた。母は「ありがとうございます。文のこと、よろしくお願いします」とまた頭を下げた。私は副長さんに「母を見送って来ます。お時間を頂きありがとうございました」と言って頭を下げた。


母に「副長さん、素敵な方でしょ。すごく頼り甲斐があるよね。大好きなの」と私が言うと、「いい方に恵まれてるわね」と母は言った。

「私、昨日はおかしくなってた。心配かけてごめんなさい。お母さんの料理や甘酒で元気になるから、もう面会しに来なくて大丈夫だからね」と母に言った。「でも何かあったら、すぐに連絡するのよ」と言いながら、母は車に乗り込んだ。私は母の車が見えなくなるまで手を振って見送った。

恥ずかしながら実話です。。。

副長さんには大変お世話になりました。

母の愛情は厚いです。情も深いです。

お読みくださり、ありがとうございます!

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