リラックスタイム
臨床心理士の女性の先生とお話をします。
「お昼ごはんだね、俺、呼びに来たのに叱らるわ
」と彼が言うので、私たちは2人で食堂まで早歩きで向かった。
食事のメンバーが、私の昼食もテーブルの上に置いてくれていた。礼を述べてから、三人で「いただきます」と手を合わせてから食事を始めた。私はカートの横に立っている看護助手さんが気になったが、食事に集中しようとゆっくりとよく噛んで食べた。
「完食したね!」と彼から言われて嬉しくなった。「食べられるようになったんですよ。食べ吐きも今のところしていません」と私が声をひそめて彼に言うと、「良かったじゃん」と言ってくれた。嬉しかった。
部屋に戻り、昼薬を飲んでから歯を磨いて、ジャンパーをクローゼットから出して羽織り、煙草とライター、携帯をポケットに入れてからニット帽を被り、看護師詰め所におられる看護師さんに「喫煙所まで行って来ます。もし、カウンセリングの先生がいらしたら、携帯に電話を掛けてくださいますか」とお願いすると、「分かりました。寒くなったので、早く戻られてくださいね」と仰られた。
エレベーターで一階に降りて、外に出たらミーがいた。病院の裏のお宅の猫なのだが、自由に病院の敷地内をゆったりと歩いたり、日当たりの良い場所で昼寝をしている猫で、入院患者さんでも特にアルコール依存症患者さんが代わる代わると餌と水を与えて、ミーのお世話をされていた。
ミーをしばらく撫でて、「私のうちにも猫がいるんだよ」と話しかけた。ミーが歩いて行ってしまったので、私も煙草を吸いに行こうと、喫煙所に向かった。喫煙所は二箇所あるうち、片方が無人だったから、無人の方に入ってベンチに座り、煙草とライターをジャンパーのポケットから取り出して煙草に火を付けた。
カウンセリングの先生と何を話そうかまとめなければならないな、とぼんやりと考えながら煙草を吸ってから、病棟に戻り看護師詰め所におられた看護師さんに、「煙草、吸って来ました。部屋にいますね」と言ってから部屋に戻り、帽子を脱ぎ、ジャンバーをクローゼットになおした。
手を石鹸で丁寧に洗い、歯も磨いて服に付いた煙草の臭いが気になるから、服も着替えることにして、ついでに洗濯をすることにした。
洗濯室のコインランドリーは、ラッキーなことに、一台が空いていた。汚れ物を洗濯槽に入れて、洗剤と柔軟剤も挿入口に入れてから蓋をして、スウィッチボタンを押した。
部屋に戻ってから、机の引き出しから、日記帳とカウンセリングノートを取り出して、日記帳に天気と睡眠時間、体調を表す記号を書いて、看護助手さんに久しぶりに会えて嬉しかったと書いた。
カウンセリングノートに、担当の看護師さんと話したことや、言われたことや、彼の優しさについても書いて、今朝、彼のおかげで部屋に来てくださった、主治医の先生と話した内容についても書いた。
過去に私が書いていたノートを見直す前に、洗濯場に行き、洗濯が終わっていないか見に行くことにした。
洗濯は終わっていた。洗濯カゴに取り出して、四階の洗濯物干し場に上がっていくときにも、看護師詰め所におられる看護師さん「干して来ます」と声を掛けた。
洗濯干し場の空いているスペースに、急いで洗濯物を干した。下着類は、部屋に干すので、それら以外のタオルや服、靴下などを干した。
「干しました。部屋に戻ります」とまた看護師詰め所におられる看護師さんに声を掛けてから、部屋に戻って、下着類類を干し、それらを隠すようにラックの外側にハンカチを干した。
再び机について、過去のカウンセリングノートや、日記を読み返した。
*両親との関係の改善の仕方
*食べ吐きをやめる事ができるのか
*退院後の生活に対する不安
過去のカウンセリングノートや日記を読み返したり、試験外泊を終えたいま先生に、カウンセリングでお話ししたいのはこれだな、と感じてノートに書いた。
先生は、なかなかいらっしゃらず、手持ち無沙汰だったので、部屋の掃除をすることにした。明日は親友が来てくれるし、少しでもキレイにしておきたかった。
それからサンスベリアの手入れもした。初めて育てるから、やり方が分からなかったが、丈夫だと友達の彼氏が言っていたから、あまり気にして掛けていなかったのだった。濡れタオルで葉を優しく拭いてあげた。今度、病院の庭園や院内の観葉植物の類をか管理しておられる男性に、手入れの方法を教えてもらおうと決めたのだった。病院内を歩いているときに、その男性と挨拶したり立ち話はしていた。
そして濡れタオルで机の上や、様々な気になる場所を拭き掃除もした。
部屋をノックする音がして、「文さん、遅くなってごめんなさいね」とカウンセリングの先生が訪ねて来られた。「すいません、先生、手を洗ってから看護師詰め所に行きます」と汚れた濡れタオルも洗面所で手洗いして、よく絞ってから洗濯カゴに掛けて干した。手を石鹸で洗って、カウンセリングノート、日記帳とペンを持って、部屋の外に出たら、先生は戸の外で私を待ってくださっていた。「先生、すいません、拭き掃除していました」と私は謝った。「文さん、自分で掃除してるの?」と尋ねなれて、「する事も無いですから。。。」と言い訳がましく私は答えたのだった。
看護師詰め所内のいつもカウンセリングや面談をして貰っているスペースに入って、先生に促されて席についた。
「試験外泊はいかがでしたか?」と先生に問われて「それがあんなに緊張したり、気が動転していましたが、実家で両親と過ごすことが出来ました」と答えた。
「そう。どんな風に過ごしましたか?」と問われて、「帰った夜は喘息が出ていて、無理に母の用意したご馳走を食べて戻してしまい、両親を慌てさせて心配もさせてしまいました。病院に連絡して看護師さんから薬を飲んで休むように言われて寝ました。土曜日は朝早く目が覚めて、両親の朝食と自分用にはお粥を作り、お昼ご飯や晩ご飯も私が作りました。やっと晩ご飯から普通のご飯が食べられるようになりました。洗濯もしました。洗い物は母と一緒にしました。母から、大丈夫なの?疲れていない?と聞かれましたが、まともに料理をする事はずっとしていなかったので、してみたくてしました。翌日は地元の友達もお昼ご飯に招きました。前回、試験外泊した時に一緒に温泉に行った友達です。私が両親との関係に悩んでいると言ったら、驚いていました」と話した。
「まぁ!頑張ったのねぇ、文さん。材料はどうしたの」と問われて、「買い物をしに町のお店に行くのは人の目が気になるので気が引けて、冷蔵庫の中にある物や、野菜を使って料理をしたのです。。。」と答えた。
「食べ吐きはしなかった?」と問われて、「それがしなかったのです」と言った。先生は頷いておられた。
「先生、先生から私の方から歩み寄ってみたら、と背中を押されて、私なりに頑張りましたが、かなりくたびれました。。。両親もおそらく気を遣っていたと思います。慣れていくものなのでしょうか」と先生に聞いてみた。「ご両親は本当に驚かれたと思いますよ。文さんが料理や家事を全てされて。。。頑張りすぎは禁物ですよ」と仰った。なるほどな、と思って、ノートに書き込みながら、先生のお話を聞いていた。
「また、週末も試験外泊するのよね。その様子を聞かせてくださいね」と先生は優しい表情をなされていて、私はそれだけで癒されるのだった。
「文さん、金曜日にご実家に帰られるの?金曜日のカウンセリングの時間は、午後から2時からにしましょうか」と先生が言ってくださって、ありがたかった。先生が私のことを気に留めておかれているのが実感できた。
「言い残したこと、気になることは無いですか」と先生から言われて、あ、お終いの時間なのだな、と時計を見たら、一時間以上たっていた。
「ありがとうございました。また、金曜日によろしくお願いします」とお礼を先生に言って、席を立った。
先生が看護師詰め所のドアを開けてくださり、先生と詰め所の外に出てから、先生にこっそりと「先生、お土産があります。部屋から取ってきますから、ちょっと待っていただけますか」と言って、部屋まで走り、マドレーヌを袋から一個取り出して、先生の元に行き、「地元の銘菓のマドレーヌです」と渡すと、先生は「まぁ!大きい!」と驚いておられて、その様子が可愛らしかった。
「文さん、ありがとう。おやつに食べさせて貰いますね」とにっこりと笑われて、先生はたぶん次の患者さんの所にか、先生の部屋に帰って行かれた。お見送りをして、私は部屋に帰った。
先生とお話した事を、忘れない内にカウンセリングノートに書きたくて、私は部屋に戻って記憶を手繰りながら書いた。それから読み返して七色ペンで大事だなと思う文章は囲んだ。
クローゼットから、ジャンパーを出し、ポケットに煙草とライターと携帯をいれて、ニット帽を被って、煙草を吸いに喫煙所に行くことにした。
外は風が吹いて寒くて、煙草に火を付けるのに苦労した。やっと煙草に火がついて、先ほどのカウンセリングの先生との会話を思い出して、ぼんやりとしていた。
クールなワーカーさんが駐車場に歩いて来られて、何をするのかな、と見ていたら駐車場の奥まで歩いて行かれて、煙草を吸い始められれて、私は彼を冷やかしに行った。近付くとすごく嫌そうな顔をなされた。可笑しくなって、「こんな所で隠れて吸うとか高校生ですか」と私が言うと、さらに憮然とした顔をなさったので、せっかくのリラックスタイムの邪魔をしてはいけない、退散した。
病院内を数周歩いてから、部屋に戻って帽子を脱ぎ、ジャンパーをクローゼットにかけて、手を石鹸で洗いうがいをした。
日記に先ほどのワーカーさんのことについて書いて、クスクスと笑った。
煙草は、私の場合、リラックスタイムです。
お読みいただきありがとうございました!




