再会
文が、久々に「彼」に会います!
部屋の外からする物音で目が覚めた。七時過ぎだった。十時間以上寝ていたのか、と我ながら呆れてしまった。カーテンを開けると外は晴れていた。また、カーテンを閉めてから、パジャマを部屋着に着替えてから、顔を洗い化粧水と朝用乳液を塗ってから、歯を磨いた。顔にお粉をはたいてリップクリームを塗った。
ジャンパーのポケットに煙草とライターと携帯を入れようとしたら、携帯にメールが来ていて開いてみたら、親友からだった。実家での試験外泊についてかなり心配している文面だった。私は「おはよう。心配させたね、ごめんね、ありがとう。実家、意外に平気だったよ!サクラが私から離れなかった」と書いて返事を彼女に送った。
それからニット帽子も被り、朝食までに一服しようとエレベーターですが一階に降りて、喫煙所まで歩いて行った。
喫煙所は、人がほとんどいなかったので、ベンチに座ってゆっくりと煙草を吸った。寒かったけれど、冷たい空気が心地良かった。
朝食を摂る為に病棟に戻り、部屋に戻って帽子を脱ぎ、ジャンパーもクローゼットにかけてから、洗面所で手を洗いうがいをしてから、食堂に向かった。
朝食はご飯は全く食べきれなかったが、お味噌汁とオカズは食べた。闊達な女性に朝食に付いていた味付け海苔を渡した。いつものように、ほっそりとした女性の分まで食べておられた。私のご飯も渡しても良いのか悩んだが、言い出せなかった。
食後に部屋に戻って歯を磨いてから、クローゼットからジャンパーを取り出し、羽織ってニット帽も被ってから、食後の一服をする為にエレベーターの前にいたら、食事を一緒にしているメンバーも煙草を吸いに降りるのか、エレベーター前までやって来た。
「文ちゃん、煙草〜?」とほっそりとした女性に問われて、私はポケットから煙草を出して見せた。「私たちもだよ〜」とにこにこと笑いながら言われるのだった。闊達な女性は、のんびりと話されているほっそりとした女性の横に立たれていて「あーもぅ、エレベーター来るの遅い」とエレベーターの表示を睨みつけておられて、ほっそりとした女性と私は顔を見合わせ笑った。
三人でエレベーターに乗ってから、階下に降りて喫煙所まで歩いた。
以前は病棟内でも煙草が吸えたのよ、と病院のお母さんから、その場所も教えられていた。そこはサンルームのような部屋で広さもあった。現在は観葉植物がたくさん並べられていた。消灯時間まで煙草が吸えた、というのは魅力的に感じたのだった。いまは病院敷地外の駐車場に設けらた喫煙所でしか煙草を吸うことが出来なくて、寒くなって来て辛さはあったが、外の空気を吸える気持ちの良さがあった。
ほっそりとした女性は、いかにも女性向けのデザインのパッケージの煙草を吸っておられた。自分では煙草を買いに行かない私には、物珍しく感じられて、こっそりと煙草の箱や吸われている煙草を見ていた。闊達な女性は一般的に名前が知られている煙草を吸われていた。私は父に頼んで買って来て貰っていたのは、メンソールの洋物の煙草で、ニコチンやタールの数字がかなり少ないものだった。
今朝は寝過ぎたせいか倦怠感があり、歩く気持ちになれなかった。
三人で、喫煙所でお喋りしていたが、寒さに耐えられなくなってから、病棟に戻る事にした。二人組と別れて部屋に戻って、ジャンパーのポケットに入れていた携帯を見たら、親友が「今日病院に行ってもいい?」とメールをくれていたから、私は「いつでもいいよ。だけど、お昼ご飯は一緒に食べられないから、午後からがいいかな」と返事を返したら、彼女から電話が掛かって来て、「おはよー。お昼過ぎに行くね。何か欲しいものある?」と聞かれ、「紅茶が飲みたくなったの。ティーパック式のを買って来てくれる?」とお願いした。
電話を切って、部屋の掃除をしようとしていたら、部屋の扉をノックする音が聞こえて来て、はい、と返事をしたら、日勤の看護師さんたちが、朝の検温、脈拍測定、血圧測定、問診をしにいらしたのだった。
「喘息はもう大丈夫ですか?」と問われて、「大丈夫です」と私は答えた。看護師さんが、「時間は分かりませんが、主治医の先生とカウンセリングの先生が面談してくださるそうですよ。なるべく部屋にいらして下さい。外出する時には、詰め所の看護師に声を掛けてくださいね」と言われて、昨夜担当の看護師さんがちゃんと伝えてくれたんだ、やはり彼はすごいな、と内心で感心していた。
先生方が来られるのはいつか分からないし、親友に来てもらうのは、明日にしようかな、と考えて彼女に電話を掛けた。
「ごめん。今日ね、主治医の先生とカウンセリングの先生の面談を入れていたのを忘れてた。先生が来られる時間が分からないから、私に会いに来てくれるの、明日でもいい?」と話すと「いーよー。先生と話すのが優先事項だよ。明日、喫茶店で一緒にお昼ご飯を食べよう」と了承してくれた。
以前喫茶店でお昼ご飯を食べた時に、事前に言うと食べなかった食事代が請求されないと説明されたのを思い出して、私は看護師詰め所に行って、明日のお昼ご飯は病院内の喫茶店で、面会に来る友達と食べますから、いりません、と伝えた。
看護師さんは、「欠食ですね。分かりました。お友達が来られるのですね、良かったですね。あそこは、なんでも美味しいですよ」と仰った。明日が楽しみになった。
看護師さんに、シャンプー類を入れたカゴとドライヤーを出してもらって、部屋のユニットバスで熱いシャワーを浴びることにした。昨夜は風呂に入らないまま寝ていたし、まだなんだか気だるいままだったから、頭皮マッサージしながら髪も洗った。
バスタオルで髪と身体を拭いて、肌のお手入れをしてから、新しい下着と部屋着を身につけた。
髪をドライヤーで乾かして、顔には朝用乳液を塗り、お粉をはたき、リップクリームを塗った。
シャンプー類の入ったカゴとドライヤーを看護師詰め所に戻しに行った。
部屋に戻って、机の引き出しから日記帳とカウンセリングノートを出して、日記帳に睡眠時間と、今日の天気と気分を表す記号を書いていたら、部屋をノックする音がして、はい、と返事をしたら、主治医の先生だった。
「部屋の中でお話ししても大丈夫ですか」と先生に問われて、「はい」と先生に言い、机の椅子を先生に出して座るよう勧めて、私はベッドに腰掛けた。
「喘息の発作できつかったですね。病院にも電話があったと聞いています」と優しい目をして話されて、私はそれだけで涙ぐんでしまった。「もう、大丈夫です。煙草も吸いました」と先生は苦笑いなされた。
「ご両親と過ごしてみてどうでしたか」と先生は核心をついて来られた。「それが意外と平気だったのです。実家に帰るのをあんなに嫌がっていたのに、可笑しいですよね」と私が言うと、「昨日、あなたは担当の看護師に、『為せば成る』と、言ったそうじゃないですか。成長しましたね」と、先生に褒められて気恥ずかしくなってしまった。
「それでは、失礼します」と、先生は慌ただしそうに部屋を出て行かれた。
やはり、先生とお話しするのは、緊張するわ、とくたびれて私はベッドで横になることにした。
肩を揺すられて目覚めると、私が病院の隔離室で最初に出会い、優しく美味しいお水を飲ませてくれた看護助手さんだった。私はビックリして飛び起きて、目眩を起こして再び横になった。その姿勢のまま、「何でしょう」と、彼に問うと、「お昼ご飯の時間だよ」と独特な甘い口調で仰るのだった。「平気?起きれる?ゆっくり起きなきゃダメだよ」と、身体を支えようとなさるのを私は遠慮して、ゆっくりと身体を起こしてベッドから降りた。
「お久しぶりですね」と私が彼に言うと、違う病院になのか分からないが、「研修に行っていた」と仰るのだった。
彼は子持ちとは思えない若々しさを持ち、飄々とした雰囲気をされており、お洒落な方でいつも良い匂いをさせておられた。そして私たちは、ある秘密を共有しており、不思議なご縁があるのだった。
「顔色、良くなったね。少し、太った?」と言われて嬉しくなった。「出会った頃は最悪でしたものね」と私がわざと悲しげに言うと、彼は心配そうな顔色をされてしまったから、私は「冗談ですよ!気にしていません」と言うと、からりと笑われた。
「病院に帰って来られて、嬉しいです。寂しかったんですよ」と私が甘えてみせると、「何も出ないよ」とすげなく言われるのだった。
彼と軽妙なやりとりが出来ることが楽しくて仕方なかった。
昼食のの時間の十二時を過ぎても、二人して冗談を言い合っていた。
彼にもマドレーヌを一つ渡した。彼はやはり大きさに驚いていた。二人で笑い合った。
お読みいただきありがとうございます!
第一話で出てきた、看護助手さんがなかなか登場しなかったのは、こうした理由がありました。




