マドレーヌ
文は試験外泊を終えて、また病院に戻って来ました。
「サクラ〜どこに隠れていたの」と私はサクラを撫でた。サクラはニャーニャーとしきりに鳴きながら、私の足に擦り寄って離れなかった。「お腹減ったよね」とサクラに話しかけながら、鳥ササミ肉を蒸して、細かく割いてから与えた。サクラは喉を鳴らしながらあっというあっという間に食べてしまった。
「文、病院に戻る準備をしたら」と母に言われたので、私はバックから外出届けの用紙を取り出して、母に保護者の感想欄を書いてもらう事にした。
その間に、友達と二階で飲んだ珈琲カップを洗い、父に「珈琲飲む?」と聞いたら、「飲む」と言うから、珈琲豆を挽き、両親の分と自分の分を淹れた。三人で友達が持って来てくれたマドレーヌを食べながら珈琲を飲んだ。そのマドレーヌは本当に久し振りに食べた。大きな丸いマドレーヌを懐かしくて思いつつ、バターの味が効いている、優しい味だと思いながら食べた。気持ちが和んだ。
病院に戻る為に忘れ物が無いか、バックを何度もあせり、家中をうろうろとした。父が「車で待っているぞ」と言って車庫に行き、母は外泊届に何やら記入をしながら、私を待っていた。
サクラは私がいなくなるのが分かるのか、ずっと鳴きながら私の後をついてまわっていた。
ようやく忘れ物が無いか納得してから、母と家を出ることにした。玄関までついて来たサクラに「来週も帰ってくるからね」と優しく言い聞かせて、身体を撫でて別れの挨拶をした。時間は三時を少し過ぎたところだった。
母から外泊届をもらったら、『本人が決めて家事をして過ごしていました。友達が遊びに来てくれて嬉しかったようでした。落ち着いていました』と買いてくれていた。
父が運転し、母が助手席に座って、私は後部座席に座った。父の運転技術について私は絶対的な信頼を寄せていた。母はすぐに眠り、父と話す為に、私は身を乗り出すようにして、父が座っている座席に身体を近付けて、おしゃべりをした。「どうだったか」と父が試験外泊について聞くから、「家政婦さんみたいだった」と言うと笑っていた。「サクラに来週も帰るね」と約束しちゃった、と私が言うと父は嬉しそうにニコニコ顔になった。「お土産を買いたいから、町の和菓子屋さんに寄りたいけどいい?」と聞くと、「早く済ませろよ」と了承してくれた。
私は友達が持って来てくれたマドレーヌを買うことに決めていた。一個百円のマドレーヌを十個買った。
「早かったな」と父は驚いていた。「マドレーヌを買ったの」と私が言うと「美味しいもんな。それが、(お土産として)一番だな」と言ってくれた。
「あー、病院に戻りたくない。もう飽きた」と私が父に言うと、「あと二週間じゃないか。すぐに退院日が来る」と穏やかに諭された。
今度は退院した後の生活の不安に襲われて私は黙り込み、シートにもたれかかって寝た。
「着いたぞ」と父に起こされたら、母はまだ寝ていた。「寝かせていていいよ」と私は父に言い、二人で喫煙所で煙草を吸うことにした。
「あーよく寝たー。起こされたら病院でビックリした」と父に言うと、「イビキ、歯ぎしりがすごかったぞ」と冗談めかせて言うのだった。
「また金曜日に迎えに来ていいのか」と父が次の試験外泊について聞くので、「うん、サクラが待っているからね」と私は茶化して言った。
「もう、病棟に帰るから、お父さんたちも暗くならないうちに家に帰って」と言うと、「そうだな。しかし、お母さんはよく寝ているな」と言うので、「たぶん、私に気を遣って疲れているんだよ」と言うと「そうかも知れないな」と父は言った。「お父さんは疲れた?」と私が聞くと、「あぁ、くたびれ果てた」と言うのだった。二人で笑いあったが、二人とも私に対して気を遣っていた事に気付かされたのだった。
父の車が見えなくなるまで手を振って見送った。病棟に歩いて行き、エレベーターに乗り三階で降りて、暗証番号を押してガラスの扉を開けて開放病棟に入り、入ってすぐの所にある看護師詰所におられた看護師さんに、外泊届をお渡しした。「体調はいかがでしたか?発作は収まりましたか?」と尋ねられて、「土曜日は少し発作が出ましたが、今日はもう大丈夫です」と答えた。「また、発作が出たらナースコールボタンを押して呼んで下さいね」と言ってくださった。「ありがとうございます」と礼を述べてから、私は自分の部屋に戻って、ニット帽を頭から取り、バックを置いてから、洗面所で手を洗いうがいをしてから、服を部屋着に着替えてベッドに横になって寝た。何も考えたくなかった。
ノックの音で目が覚めて、私の担当の看護師さんに「夕食の時間ですよ。食べれそうですか」と言われて、ハッとして時計を見たら六時を過ぎていた。約二時間寝ていた。「大丈夫です。食べます」と言って、ベッドから起き上がり、「これ、お土産です」と言って、彼にマドレーヌを一個渡したら、「大きいですね!」と驚いていた。「今日時間があったら、面談をしてくださいませんか」と私がお願いしたら、「分かりました。時間を作りますから、面談しましょう」と言ってくださり、気持ちが落ち着くのが自分でも感じられた。安心して気持ちが上昇した。
短めでした。
私の住む町に昔からある和菓子屋さんのマドレーヌは、直径が約十センチもあります。優しい味です。
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