表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不思議な部屋  作者: 竜胆
11/40

煙草

喫煙シーンが多い為、この題名にしました。

私はカウンセリングノートと筆箱を持って、九時前から看護師詰め所の前に立ち、担当の看護師さんに呼ばれるのを待っていた。看護師詰め所のカウンターには、患者さんを和ませるためなのか、折り紙が置かれていたり、花も生けてあった。だけれど私は相談したい事をカウンセリングノートに箇条書きするのに集中していて、目に入れる余裕は無かった。

「すいません、お待たせしました」と、担当の看護師さんに声を掛けられて、私は我に帰りノートを閉じて、彼の顔を見た。彼は相変わらず無表情だったけれど、わたしは彼の顔を見ると心が安らかになるのだった。


看護師詰め所の中の仕切られたスペースに案内されて、彼と私はテーブルを挟んで向かい合わせに席に座った。私はカウンセリングノートを開いて、自分の考えを頭の中で再度まとめていた。彼は黙って待っていてくれた。

「外泊して家に帰った時に、母が翌日朝から勝手に私の家に来て嫌な気持ちがしました。家に入って欲しくないです。両親とは高校の時からずっと離れて生活して来ましたから、今さら私の事に関わって欲しくないと思いました」と私はカウンセリングノートに書いた文章を彼に見せた。彼は肯定も否定もせずに私のノートを見ておられた。

「退院したら、一人暮らしをまたされるおつもりですか」とやっと彼は発言した。私は「そのつもりです」と答えた。


「文さんはどんな家族でしたか」とも聞かれた。「幼い頃から、母は妹のことで手が一杯で、私は放置されていました。父は仕事で家にあまりいませんでした。祖母が私を可愛がってくれていましたが、母の悪口を祖母は私に言うし、母は祖母の悪口を私に言うのが嫌でした。妹とは、私が中学の時に市内の学校の寮に入って別れてしまったし、彼女から嫌われている気がして、話すときは気を使います。父は私を溺愛していますが、私はその愛情を重く感じていますし、母に対して後ろめたく感じています。家族に私の心を中を見られたくないです」とぽつりぽつりと話した。話しながら、やはり私は誰にも頼れないのだな、という暗い気持ちに陥っていた。視線も自然と下を向き、身体が強張って来るのを感じていた。


「そうでしたか。友達はどんな方がいますか」と尋ねられた。「高校一年の時に出会った友達がよくお見舞いに来てくれています。この病院に入院した時に最初に彼女にだけは知らせました。旦那さんも私を彼女がお見舞いする事を嫌がっていません。とても優しい子です。この前、地元の友達に外泊した時に偶然会って、泊まりに来てくれました。私よりかなり年下の友達ですが、前からいつも温泉に一緒に入りに行く仲で、彼女にも精神科病院に入院している事を話しましたが、嫌な反応は無かったです。他にも友達はいますが、精神科病院に入院している事を知らせているのはこの二人だけです」とつっかえながらも、彼の目を見て話した。彼は初めて表情を緩めて「文さんは優しい方ですから、お友達も素敵な方たちなのでしょうね」と言ってくれた。私は嬉しくなって「大好きなんです」と言った。


「お茶を淹れてきますね」と彼が席を立って、私はだいぶ時間が経っている事に気が付いた。いつも彼の優しさに甘えているな、と反省した。彼が淹れてくれたお茶はやはり格別な味がした。彼に「帰った時に、私なりに頑張ってお茶を淹れて飲みましたが、まだまだでした」と話した。彼は「僕が淹れますから、それでいいでしょう」と彼にしては珍しく軽妙な答えを返して来ておかしくなった。


「文さんの気持ちは主治医の先生に報告しますが、自分からも先生や、カウンセリングの時に話して下さい」と彼に言われて、私は主治医の先生に面談の希望を出しておいてください、と彼に頼んだ。



部屋に帰って疲れたのか私はぐっすりと眠ってしまい、朝、看護師さんによって「もう朝食の時間ですよ」と起こされてしまった。口だけゆすいで、寝起きの格好のまま食堂に行って、寝ぼけ頭のまま朝食を食べた。アルコール依存症の女性の私に対する態度ももう和らいでいて、「文ちゃん、すごい頭してるよ」と笑われてしまった。摂食障害のほっそりとした女性からも「顔洗ったの?」とからかわれてしまった。「寝起きです。。。」と私が言うと二人でケタケタと爆笑されてしまった。

食後に歯を磨いて、顔を洗って、ようやく着替えをしていたら、朝のお薬と問診と血圧測定をする為に、看護師さんが部屋を訪ねてこられたから、慌てて着替えた。「主治医の先生が、今日何時になるか分からないですが、面談されるそうです」と言われて、担当の看護師さんの仕事の早さに驚いたのだった。「ありがとうございます」と私は看護師さんに言ってから、渡された朝の薬を飲んだ。


それから、本日一本目の煙草ー!とばかりに、上着を着て、エレベーターで一階に降りてから、喫煙所に向かったら、アルコール依存症の女性が立って煙草を吸われていて驚いてしまった。煙草は吸われないと思っていた。私が会釈したら、手招きされたので、彼女の横に立って煙草に火を付けた。「いー天気だね」と言われて、私は空を見上げた。「本当ですね。気持ちがいいです」と私は目を細めた。「文ちゃんの事、私最初嫌いだったの。態度悪くてごめんね」と率直に謝られて、私は「気にしていませんよ」と笑った。「お二人が楽しく笑って食事なさったり、アートで仲良くされているのを見ていて楽しかったです」と私も素直な気持ちを話した。「ボケと突っ込みだから」と彼女は明るく笑っておられた。

「外泊どうだった?」と聞かれて、私は気が重くなるのを感じながらも「友達と会えて楽しかったですが、家をただ掃除しただけで終わりでした」とおどけて答えてみせた。「退院はいつ?」と聞かれた。「一ヶ月くらいです」と言うと、「私はあと三週間かな。あいつと文ちゃんは残り組になるね」と言われた。「酒歴は書き上げられたのですか?」と突っ込んだ質問を私は思い切ってしてみた。「書いたよー。あとは、入院患者の前で、明後日発表してから、それでOKが出たら、本番の主治医の先生とOB、OG、入院患者の前で発表してから、退院する流れよー」と煙草の箱を立てたり、横にしたりしながら話された。私はなんと言って良いのか分からず、ただ「応援しています」と言った。「しかし、文ちゃん煙草似合わないねー」と、またケタケタと笑われてしまった。「大学の時に覚えてから、癖になりました」と私は苦笑いをした。この女性とちゃんと話をすることが出来て私は嬉しかった。


月曜日は大浴場でお風呂に入れる日だった。バスタオルと着替えや化粧水、乳液、ボディクリームを袋に入れて、看護師詰め所でシャンプー類とドライヤーを出してもらい、大浴場に行く人たちはおられますかー!と言われる看護師さんに手を挙げて合図を返した。

大きな窓から見える景色を見ながら入るお風呂は気持ちが良かった。

お風呂を上がって顔や全身に化粧水をつけて、顔には朝用乳液を、身体にはボディクリームを塗っていたら、副長さんから「いい香りね」と言われた。「肌が弱いので、肌に優しくて匂いが気に入ったものを選んでいます。安いんですよ」と私が言うと、「文さんの部屋に入っただけでいい香りがするもんねー」と、看護師さんたちが集まって来られた。女子トークになってしまった。看護師さんはまつ毛エクステをしておられる方がいたり、ばっちりフルメイクの方もおられ、髪の色も明るい方が多かった。私は看護師さんたちに、お化粧したまま眠れるというあるブランドのシリーズ化粧品を教えてあげた。私は美容部員を経験したことがあり、美顔マッサージや、全身マッサージ、リンパドレナージュ、メイク、ヘアメイクの実習もみっちりと受けていたので少しだけ知識があった。看護師さんも仕事を離れれば、一般の女性なのだな、と感じた。

シャンプー類とドライヤーを看護師詰め所で返してから部屋に戻った。引き出しから、カウンセリングノートを出して、昨夜の担当の看護師さんとの会話を書いたり、自分の気持ちを書いた。日記には、アルコール依存症の女性と話せて嬉しかったと書いた。看護師さんとの女子トークも書いた。


ノックの音がして、何だろうと思ったら、看護師さんが「お父さんがいらしています。会われますか?」と言われるのだった。「はい、会います」と私は答えて、カウンセリングノートや日記帳を引き出しにしまった。

父はいつものにこにこ顔で、「家はどうだったか?」と、お土産の入った紙袋をわたしには渡しながら聞いて来た。「友達が泊まりに来て、いつものように温泉に入りに行ったよ。そしたらねー、お母さんがいきなり朝来て、びっくりした。もう今度はそんなの嫌」と私は父に訴えた。父は「お母さんはお前が心配だから、見に行くのだから。素直に甘えとけばいい」と言って、私を宥めにかかった。私は我慢するしかないか、と諦めて「分かった」と言った。それからいつものように、父の出張先での話を笑いながら聞いていた。帰り際、父から「お母さんに自分から電話してやれ。待ってるみたいだぞ」と言われた。思い返せば、いつも母から電話がかかって来るだけで、自分からかけた事はなかった。「うん。今夜する」と父に言って、「見送るよ。一緒に煙草吸お」と、私は上着を羽織って、看護師さんに、父を見送って来ます、と声を掛けてから、父とエレベーターに乗って、一階に降りて喫煙所まで歩いて行った。

「寒くなって来たな。服は持って来たのか」と聞かれて、「うん。毛糸の帽子も持って来た」と私が言うと笑われてしまった。「髪を切ったから寒いんだろ。また伸ばすんだな」と言われた。「長いの好きねー。お母さんに頼みなさいよ」と私は父に言った。「文の髪は真っ黒で綺麗だからな、もったいなかった。お前、着物着るくせにどうするつもりだ」と真剣な口調で言われて、困ってしまった。「髪伸びるの早いから、また伸ばすよ」と私は折れた。

父と煙草を吸いながら、また話をした。姪っ子の話になって、父もでれでれとした顔をしていた。私が退院したら、妹家族と旅行することになっているようだった。知らなかったけれど、退院後の楽しみが出来て私は早く退院したい気持ちになれたのだった。父の車を私は見えなくなるまで見送ってから、病棟に戻った。


部屋に戻ってから、妹と姪っ子宛に手紙を書いた。妹には、外泊して楽しかった事だけを書いて、姪っ子への手紙は可愛い便箋を選んで、彼女が好きだと言うシールを貼って、イラストも描いて、色とりどりのペンで平仮名で文字を書いた。切手を貼って、看護師詰め所におられる看護師さんに手紙を出してくださるように頼んだ。近くに郵便局があるのは、知っていたが、行くと私は記念切手が欲しくなるので、投函を看護師さんに頼んでいた。


昼食時間になって、三人で和やかに食事を摂った。やはり摂食障害のほっそりとした女性は、アルコール依存症の女性に、オカズを半分ほど食べて貰っていた。

巨人好きの私の仲良しの患者さんは特別食の鰻丼をゆっくりと食べていた。病棟のお母さんに、昼食後に父が持って来たお土産をお裾分けしに行かなきゃな、と考えながら私は濃い味付けの食事をゆっくりと食べた。食堂で配られる、昼食後の薬を貰ってその場で飲んで、私は部屋に戻って、歯磨きをしてから、父のお土産の包みを開けてみたら、ホワイトチョコレートのお菓子だったので、私は興奮してしまった。ホワイトチョコレートは、私の好物だったからだった。父に「ありがとう!好物って知ってたの?」と電話をかけた。それから、病棟のお母さんに渡すために、紙で包んでお母さんのいる作業所を訪ねた。お母さんは作業しておられたので、目が合って、出て来られた作業所担当の精神保健福祉士さんに、お母さんにお菓子を渡してくださいと頼んで、自分の部屋に戻った。


部屋に戻って、カウンセリングノートのまとめをして過ごした。時おり、思い出した先生方や看護師さんからのアドバイスを書き込んだり、七色ペンで重要に思える事柄は囲ったり、線を引いたりした。日記帳も引き出しから出して、父がお見舞いに来てくれた時に話したことや、自分の気持ちを書いたりした。


煙草を吸う為にエレベーターに乗り、一階に降りて、喫煙所で一服していたら、摂食障害の女性も来られた。「寒くなったねー」と話しかけられて、「そうですね。ニット帽を家から持って来ましたよ」と言ったら、笑われてしまった。「うちら、退院時期が一緒くらいになりそうねー」と言われて、「そうみたいですね。よろしくお願いします」と私はおどけて答えた。「あのヤバイ子と連絡取ってるのー」と聞かれて、「いえ、取ってないです」と私は答えた。「あの子とは、付き合っちゃダメよ。私たちと違うから」と断言されて、私は困ってしまった。なんと言って良いのか分からなかった。「娘がね、同じ中学だから、昔から知っているのよ」と言われて、その彼女のエピソードを色々と話されたが、私はあまり聞いていなかった。二人とも寒さに耐えられなくなって、病棟に戻ることにした。


夕食の時間になり、三人でまた和やかにお喋りしながら、食事を摂って、夕食後の薬を貰い、その場で飲んでから、食器が乗ったお盆を返して、自分の部屋に戻って、お風呂に入るか、入るまいか迷っていた。まだ、主治医の先生が来られていなかったからだった。私は今日はシャワーにしようとバタバタと着替えの準備をして、看護師詰め所におられる看護師さんに頼んで、私のシャンプー類を出して貰って、私のドライヤーも私のボックスから出して貰って、シャワーを浴びた。髪を乾かして、シャンプー類の入ったカゴとドライヤーを返しに看護師詰め所に行ったら、ちょうど主治医の先生が、階段を上がって来られるのが、堅牢な硝子扉越しに見えた。

アルコール依存症の女性と摂食障害の女性に、別の呼び名を付けたいですが、思いつきませんでした。不快に思う方もおられると思います。。。

家族に対する文の心理や両親の思いについては、まだまだ話は続きます。

どうぞお付き合いのほど、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ