一回目外泊
初めて外泊して、約二ヶ月ぶりに家に帰ります。
約二ヶ月ぶりに私が住む町に帰って来た。
母から「文、あなたの家に送って行けばいいの」と問われて、「ううん、おじいちゃんにお線香をあげたい」と答えて、実家に立ち寄り、祖父の仏壇の前にも座り私は手を合わせた。母に「仏壇の掃除をしていい?」と言ってから、私は仏壇の拭き掃除をした。「文、お昼ご飯はどうするの」と母に聞かれて、「バナナでも食べる」と私は答えた。
母に送られて、私は自分の住宅に帰って来た。窓を開けて風通しをしてから、枯れていないかずっと気になっていた、約二十鉢はある、観葉植物の様子を確認した。全てお風呂場に持ち込み、霧吹きで葉っぱに水を吹きかけて、しばらくそのままにして置いた。窓は全開にして風当たりを良くした。日当たりが良かったから、お風呂場にそのまま置いておくことにした。アジアンタムだけが、少し枯れかけていたので、枯れている枝を鋏で切り、生きている枝だけを残して念入りに霧吹きで水をたっぷりとかけた。アジアンタムは繊細だから、丁寧に世話をする必要がどうしても必要で、病院に持って行こうかな、と悩んだ。
掃除機を掛けて拭き掃除をして、水まわりも丁寧に掃除をした。窓ガラスを拭こうと外に出たら、駐車場に車が入ってきて、私の年下の友達が車から降りて私の方に走って来た。「文さん!」と彼女は息を上げて、「どこに行っていたのですか。ずっとお留守でしたよね」と尋ねられた。私は曖昧に笑って「ちょっとね」と言った。「文さん、少し待っていて下さい」と言われて、何だろうと思っていたら、また彼女は車に乗って出て行ってしまった。私は窓拭きを再開した。終わる頃に彼女が車で帰って来て、小さな箱を持ってやって来た。
「ケーキを買って来ました。食べましょう」と言われた。私はちょっと待ってね、と言ってから雑巾を洗い、手もしっかり洗った。彼女を玄関からキッチンに通して、ケーキの箱を開けたら、旬のフルーツを使った様々なケーキが四つも入っていた。「どれも美味しそう!」と私は気持ちが浮き立つのを感じた。
「珈琲淹れるね」と、私は彼女の為に、珈琲豆から挽こうとしたら、彼女がしてみたい、と言うので任せて、私はその間にお湯を沸かして、挽き終えた珈琲をネルドリップでゆっくりと珈琲にお湯を注いだ。「香りがすごいですね」と彼女が感嘆していた。
私は彼女には言ってもいいかな、と考えて、「私ね、精神科病院に入院してるの」と彼女に告げた。「そうだったんですか」と彼女の反応は落ち着いていて、何の変化も見られず平坦な反応だった。ホッとした。
私はマグカップとケーキ用の皿とフォークを出して水洗いした。「二ヶ月間使ってなかったからねー」と彼女に語りかけながら洗い物をしていると、「あとどれくらい入院しなきゃならないんですか」と背後から彼女に尋ねられた。「たぶん一ヶ月くらいかなー私ね、まだ何病なのか、教えて貰ってもいないんだよ。なぞだよねー」と彼女の方を振り返って私はマグカップや、皿などを並べながら言った。「そうですか。文さん、別にいつもと変わらないように見えますよ」と彼女から言われた。
ケーキは、彼女は無花果のタルトを私はマスカットがたくさん乗って、間にブルーベリーソースが入っている、クリームチーズが濃厚なケーキを選んだ。美味しかった。「珈琲ね、病院だとインスタントで、香りも味も美味しくなくってねー」と、私は珈琲を味わいながら飲んだ。
「文さん、温泉に行きましょうよ。今夜泊まってもいいですか?」と彼女に言われた。彼女とは、車で約十分の所にある温泉施設に以前からよく一緒に行っていたのだった。「いいね!温泉大好き!」と私は声を弾ませた。「後で泊まる準備と温泉セットを持って来ますね」と彼女は言いながら、私たちは互いのケーキの味の感想を述べあって、ゆっくりとした時間を過ごした。
「あ!お昼のお薬を飲み忘れてた!」と私はバックから、薬袋を取り出してお薬を水で飲んだ。「どんな薬を飲んでいるのか調べましたか」と彼女に聞かれたけれど、私は「調べてない。先生を信頼しているから」と答えた。「いい先生なんですね」と彼女に言われて「うん。そうなの」と私は言った。
彼女がお泊りグッズや、温泉セットを取りに帰ってから、そのまま彼女の車で温泉施設に向かった。私は温泉施設の玄関の暖簾をくぐった時から、すでに興奮していた。脱衣所で彼女と横に並んで服を着て脱いでいたら、彼女の下着の色の鮮やかさにどきりとした。こんな色の下着を着けていたっけ、と考えつつも私も服を脱いで裸になった。
まずは掛け湯をしてから、私たちは広い温泉の身体洗い場で横に並んで、髪や身体を洗ってから、露天風呂に入る為に歩いて行った。「明るい日中に温泉に入るのは気持ちいいねー」と、私は足を伸ばして全身の力を抜いてリラックスしていた。彼女は今打たせ湯で肩にその落ちて来るお湯を当てながら、「肩凝りが酷いんです」と言っていた。露天風呂に入り満足してから、私たちは、内風呂に入って、泡風呂なども順番に入って行った。サウナは余りにも熱くて、私は直ぐに出てしまった。「先に出とくね」と彼女には声を掛けて、私は髪や身体をタオルで拭いてからの棚に置いていた温泉グッズを持って出た。顔や身体に化粧水を塗ったりしていたら、彼女もまた隣にやって来て、「気持ち良かったですね」と言った。下着や服を身に付けてから、髪を脱衣所の洗面台に備え付けられているドライヤーで乾かした。「文さん、髪を切られたから、ほんと驚いたんですよ」と、彼女に言われて、「気分転換よー。父は悲しんでたけど」と私はふざけて言ったのだった。
お風呂上がりに二人でジュースを買って飲んだ。彼女は炭酸飲料を私は野菜ジュースを選んだ。温泉施設の売店を眺めていたら、病棟のお母さんの事を思い出した。彼女には頼んで、帰りに洋菓子店に立寄って貰った。
家に帰ってから二人で居間で並んで寝た。起きてから、残っていたケーキを食べる事にした。彼女は大きな和栗が乗ったモンブランを私は南瓜のプディングを選んで食べた。珈琲も二人で丁寧に淹れて飲んだ。
彼女に「何か音楽でも聴く?」と尋ねたけれど、「分からないので、文さんが好きなのでいいです」と言われて、「じゃあ、何もかけない」と私は言って、静かな夜を楽しむ事にした。
夕食後のお薬を飲んでから、私たちは二人でボーッとしていた。
「お茶を淹れるね」と、私は箱にしまったままにしていた常滑焼の小さな急須を取り出して、包んであった薄い紙も丁寧に剥いで、急須を取り出した。「小さいけど繊細な作りで、蓋の持つ所が鯉か金魚の形だよね?」と彼女に説明しながら見せた。
お湯を沸かしてその間に急須やお湯呑みは洗っていた。片口も急須に合うサイズの物を出して洗った。湧いたお湯を急須に注いで、片口にお湯を返してから、「頂いた高級茶葉だよ」とお茶の封を開けて、茶匙で二杯急須に茶葉を入れて、片口に入れていたお湯を急須に注いだ。茶葉が蒸れるまで待ってから、ちいさなお湯呑みにお茶を淹れた。茶托にお湯呑みを乗せて、彼女に差し出した。
「いい香りですね。お茶が甘いです」と言われて嬉しくなった。「私の担当の看護師さんが淹れて下さるお茶にくらべると、やっぱりまだまだだなー」と私はお茶を飲みながら言った。「お茶処出身の方でね、時々お茶を入れて下さるの」と私は説明をした。「優しい看護師さんですね」と、私の担当の看護師さんを彼女に褒められて私は嬉しくなった。
就眠薬を飲んでから、二人で洗面所で歯磨きをしてから、私の寝室のセミダブルのベッドで私たちは横になった。
「何か相談があるあったんじゃない?」と私は彼女に言った。彼女はしばらく黙っていたが、「付き合ってる彼の事で母から反対されています」と言うのだった。「そっかぁ。でも真剣に考えて付き合っているんでしょ?だったら、お母さんに分かって貰えるように二人で努力したらどうかな」と私が言うと、彼女は小さな声で「はい」と言った。私たちはいつの間にか寝てしまった。
翌朝、いつも病棟で起きる時間になって私は目を覚ましたけれど、まだ横で彼女が寝ていたので私も寝る事にした。彼女が寝室の扉を閉める音で私は目を覚ました。掛けていた毛布を剥いで、ベッドの上で大きくのびをしてから、軽くストレッチをしていたら、彼女が寝室に戻って来た。「文さん、身体柔らかいですね」と、変なポーズを取っている私を彼女は笑うのだった。
玄関のチャイムが鳴ってから、鍵が開く音がしてして、母が「まだ寝ていたの?もう八時過ぎよ」と、手にはカゴを持って寝室にいる私たちを見て呆れた顔をしていた。「もう起きたよ」と、私は顔を洗って歯を磨いた。
キッチンに行くと彼女と母が、朝ご飯の支度をしていた。私は使うであろう茶碗やお椀、皿、お箸を洗った。
ご飯は母がお握りを作って、家から持ってくれた物だった。我が家にはお米が無かった。冷蔵庫に二ヶ月前の生米は入れていたが、炊いて食べるのには勇気が必要だった。お味噌汁は私が好きなシンプルな具材のものだった。それと彼女が作った卵焼きが朝ご飯のメニューだった。「お味噌汁が美味しい。病院のは、味が濃くて私、いつもお湯を入れて薄めてるの」と母に言った。「私も薄味が好きだから、お母さんのお味噌汁好きです」と彼女が言った。
朝食後のお薬を飲んでから、「洗い物は私がする」と言って、茶碗などを洗った。
「お昼ご飯はのっぺ汁を作るから」と母が言うので、下ごしらえの手伝いをして彼女とは二人で手伝った。
「くたびれた」と私は言って、居間で横になった。のっぺ汁は彼女と母が作った。
のっぺ汁を三人で食べた。身体の芯から温まる優しい味がした。「美味しい」とだけ母に私は言った。
昼食後のお薬を飲んでから、私は外泊の目的の一つであった、秋冬物の部屋着や上着や服を出さなければならない事を思い出した。バックに入れて持ち帰った、夏物を箪笥になおして、秋冬物をバックに入れたが入りきれなくて、紙袋にも服を入れた。ニット帽も二つ入れた。
疲れたーと思いながらも、それらの荷物を玄関に置いて、私は一安心した。
「お茶にしようか」と、母が言うので、私はお湯を沸かして紅茶を淹れた。母が梨を剥いてくれた。三人でお茶をした。
「まだ早いけど、病院に戻るわ」と彼女に言った。「分かりました。また帰って来ますか?」と尋ねられて、「うん。いま、自宅に戻る訓練中だから、来週も帰るつもり」と私が言うと、「また温泉に行きましょうね」と彼女は笑ってくれた。私は彼女にしばしの別れを告げた。
彼女が帰ってから、私は部屋の窓ガラスが全て鍵が掛かっているか、見て回った。ガスの元栓も閉じて、家中をぐるぐると歩いて回った。ようやく納得してから、玄関の鍵を掛けてから、またちゃんと閉まっているのかチェックをしてから、頭の中で、忘れものは無いか考えながら、立ち尽くしていた。
母は車の運転席にすでに座っていて、私を待っていてくれていた。それに私の荷物も車に乗せてくれていた。私はバックを開けて、中身を再度チェックした。母は黙って私の様子を見ていた。忘れ物は無いな、と納得が出来てから、私は助手席に座って「お待たせ」と母に謝った。母は黙って車を発進させた。
また病院に戻るのか、と私は嫌な気持ちにおそわれていたが、真剣に前を見て運転している母にはそんな時私の気持ちを言えなかった。時々母がしゃべりかけてくる時にだけ返事をしていた。
病棟の前に母が車を停車させて、車内で外泊届の保護者の感想欄に「友達と会えてうれしかったみたいです。ご飯を一緒に作って食べました。落ち着いているようでした。」と書いた。
私は母の車が見えなくなるまで、大きく手を振っていた。
病棟に戻るエレベーターに乗って、三階で降りたら、病院独特の消毒臭がやけに鼻についた。看護師詰め所におられた看護師さんに、外泊届と飲まなかった頓服薬を渡した。看護師さんから「眠れましたか」と尋ねられて「十時間くらい寝て、昼寝もしました」と答えた。看護師さんは「よかったです。早く帰って来られましたね」と仰られた。私は外泊届に書いた時刻よりも一時間近く早く病棟に戻っていたのだった。「うちは遠いですから、早めに出ました」と言って、私は看護師さんに頭を下げてから、部屋に戻った。
外泊中、煙草を私は吸っていなかった。彼女が吸わないから、気を遣っていたのだった。
煙草を吸おーと、荷物はそのままにして喫煙所に行こうとエレベーターに乗って、一階に降りてから喫煙所まで歩いて行った。
喫煙所のベンチに、今日は「作業」の日だったのか、病院のお母さんが座っておられた。私はお母さんに「外泊してさっき帰って来ました」と言った。お母さんは微笑んで「どうだった?」と言うので、「やはり家はいいですね。友達とも会えました」と話した。「文ちゃんの友達ならその子もいい子でしょうね」とお母さんに言われ私は嬉しくなった。
「あ!お土産を買って来たんです。ちょっと待って頂けますか」と私はお母さんに言ってから、走って病棟に戻って、お土産の包みをバックから取り出してまた喫煙所まで走って行った。「どうぞ」と、私は包みをお母さんに手渡した。お母さんはその可愛らしいラッピングになっていて、まずはそれに喜んで下さって、中身がマカロンである事に更に喜ばれて、私を抱きしめて下さった。お母さんが前からマカロンが食べたい、と言っておられたのを私は覚えていたのだった。二人で、それぞれに美しいと色をしたマカロンを眺めた。「文ちゃん、ありがとう。ありがとう」とお母さんに言われた。
病棟の部屋に戻ってから、荷をほどいて衣類を片付けてから、母はもう家に着いたかな、と考えていたら、母から電話が掛かって来た。「着いたよ。何しているの?」と聞かれて、「荷物の整理をしてた」と答えた。「そう。疲れなかった?」と聞かれて「お母さんこそ、運転大丈夫だった?」と言った。「大丈夫よ。途中で休憩したし。あした、お父さんが出張帰りに病院に寄るって言っていたわよ」と母は言った。「分かった。また、来週、外泊か外出するしたいから、その時はお迎えよろしくね」と私は母にお願いをした。
夕食はぼーっとした気持ちで食べて、味が分からなかった。
夕食後のお薬を貰って飲んでから、私は部屋に帰ってゆっくりお風呂に入った。
日記をつけていたら、ドアをノックする音がして、就眠薬をカートで運びながら、看護師さん達が、部屋に入って来られた。私の担当の看護師さんもおられた。私は彼に、「面談してもらえますか?」とお願いをした。彼は表情を変えずに「九時くらいなら時間があります。部屋に迎えに来ます」と言われた。私はほっと体の力が抜ける気持ちがしてた安心した。
物語は中盤です。内容が深くなっていきます。
お付き合いのほどよろしくお願いいたしますm(_ _)m




