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007.隠す嘘と見せる嘘

「国王陛下のお達し通り、演技に付き合ったが、ほかに手伝うことはあるかな」


 ワインハウス男爵と衛兵たちがキャラブキ・シティの建物の影で、和也とナターシャに問いかけた。


 歓楽街の元締めにして領主である男爵が街をうろつけば、民が注目する。敢えて目立たぬよう、このような場所でひそひそ話をしているのだ。


「巨人男に絡まれたのは、びっくりしました」


「貸し切りにせず、あえて本物の客と我々を混ぜたのがいけなかったな。まぁ、カスヤくんのおかげで事態は収まったが」


 男爵は和也の肩を叩き笑った。和也はそれに何も答えず腫れ上がった顔をむすっとさせる。とにかく痛いのだ。


「顔がひどいことになっているな。衛兵に回復魔法をかけさせようか」


「それはいいです」


 和也が回復魔法をかけられないのには理由があった。


 和也はマナの果実を食べれず、魔法がつかえない。よって魔法による身体回復機能の誘発は望めず、回復魔法をかければ逆に体調を崩してしまう始末であり、自然治癒を待つしかないのだ。


「封印魔法、ナカータコトンニによって魔力をゼロにしたというのは、本当なのか」


 男爵が気の毒そうに言うが和也は首を振る。


「本当なのは、火竜フパイラーンを目覚めさせ、契約したということだけです」


 和也の背中に浮かび上がるドラゴンの紋様は、トラッパ伯爵領にて最初の夜に刻まれたものだった。


 和也は魔法が使えず、瀕死の重傷を負っても回復魔法が使えない。いつでも、どんなときでもフパイラーンが駆けつけられるようにと、契約したのだ。


 正直、和也は特定の誰かの束縛を好まなかったが、背に腹はかえられず、それを受け入れた。


「検討を祈る。私の店にあのキルシュタイン一族の娘が働いていたこと事態が驚きだがな。国王陛下によろしくお伝えしてくれ」


 男爵はナターシャに頭を下げる。


 ナターシャは、メクソリンダスの国王陛下の密命により魔王討伐のため動いている。すべてはナターシャを介しての計画であり、国王陛下による大義を受け、ワインハウス男爵を動かしたのだ。


「こちらこそ、男爵に感謝します。魔王討伐に成功した暁には、尽力者としてさらに高い爵位が国王より与えられるでしょう」


 ナターシャの言葉に男爵は満足そうに頷くと、衛兵とともにペガサスの空飛ぶ馬車にのり城へと戻っていった。



「カスヤさま。アデルは私たちの仲間になるでしょうか」


 ナターシャは、キャラブキ・シティの夜空に浮かぶ丈高い建物を見上げて言った。


 青、緑、赤、黄。月光や満点の星空も霞むほどの魔法ネオン。街は男たちの欲望を吸い上げ、輝きに昇華させている。


「桟橋に向かおう」


 和也の言葉に、ナターシャは頷く。



 キャラブキ・シティ桟橋は、この街のもう一つの顔――、港町としての側面を顕していた。


 陸上から海上に突き出た無数の支柱の上には、床板が張られ、漁船が停泊できるようになっている。


 夜霧のかかる桟橋で、月や星々が浮かぶ夜空を見上げた。本当に美しいものはいつだって無料(タダ)だ、と和也は思う。


 霧の向こうに蛇タイプの胴の長いドラゴンの姿が見えた。フパイラーンだ。


 そしてそれとほぼ同等の早さで、こちらに迫ってくる小さい影もあった。箒に跨がったアデル・キルシュタインであることは和也もナターシャもすぐに分かった。


 濃紺の空を、東に昇る太陽が炙り出している。


 夜の墨は落ちてゆく。水平線の向こうで光を浴びて漁船のいくつかが影になっていた。


 もうじき朝だ、と和也はナターシャに言った。



「魔王を倒すって本気なの?」


 箒から降り立ち、自らの正体を明かしたアデルは、火竜フパイラーンやナターシャをじろじろ見ながら和也に尋ねた。


 香水くさい。そして、酒臭い。和也は顔しかめながら頷く。


「俺は異世界からこの世界を救うためにやってきた。魔力がゼロなのは異世界人だからだ」


「封印魔法ナカータコトンニの話は…」


「嘘だ。本当なのは火竜フパイラーンを目覚めさせ、契約しているということだけさ」


 和也は先ほどと同じ台詞を言う。


 アデルはフパイラーンをじろじろ見た。信用の担保は火竜だけ。和也は少しだけ緊張するが表情には出さない。


「私の正体も知っていたの?」


「ああ。サエナではなく君に興味があった。俺は魔法こそないが、自分が特別な人間だと思っている。だからこそ君の気持ちは痛いほど理解できる。あの場で俺が語った内容はすべて君に充てたものだ」


「ずいぶん、種明かしが早いのね。女を騙すのは苦手?」


「種を明かされ、興ざめなら帰ってもいい」


 アデルの長い睫毛に縁取られた瞳が潤んだ。和也の次の言葉を渇望しているのだろう。和也は言葉という便利な道具を使い分ける。


「嘘は二つある。見せる嘘と隠す嘘。俺は自分を大きく見せるための嘘はあまりつきたくない」


 和也はアデルの瞳をじっと見つめる。背後でフパイラーンが炎のような吐息を鼻から漏らすのが分かったが、かまいやしない。


「隠す嘘の方は種明かしはできないけどね」


 アデルが「他に何を隠してるの」と聞いた。


「俺の本当の能力。そして秘めた思いさ」


 表現を曖昧にすることでフパイラーンからのお咎めを回避した。和也の言葉にアデルが頷く。「言いたいことは分かるわ」と。


(飲み屋の女をやってたわりには、単純な女だ)


 和也は「未完成な情報や謎に人は心を奪われる」という心理、ツァイガルニク効果を用いた。アデルは和也を見て底知れぬ人物像を描いているはずだった。


 アデルは和也の術中にハマっている。


「私は飲み屋の女よ。嘘は見抜いてみせる」


 アデルは仲間になる条件として「使い魔」の契約を和也に迫った。


 和也の背中にまた別の紋様が刻まれた。ドラゴンの紋様の上に魔女の紋様。全体で見ると、ドラゴンに跨がった魔女の紋様にも見える。


 和也は溜息を吐く。


 そして魔王を倒すまでにいくつの契約を結ぶのかと肩を落とした。

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