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005.魔女をさがせば

 和也とナターシャは、火竜フパイラーンの広い背中に乗り、西の方角を目指している。魔法契約を解除されたペガサスとユニコーンは、メメントの森へと帰っていった。


 照りつける太陽と、それをうけて山々に影を落とす雲。和也はロレックスの腕時計に視線を落とした。


 貴族領を去ってから一時間が経過したが、似たような山々が連なるだけで、目的地とされる「草原に佇む魔女の館」は見えてこない。


「キルシュタイン一族の者に会いにいくことになるとは…」


 耳元でナターシャの声が微かに震え、和也にも同様が伝わってきた。


「やばいヤツなのか…?」


「大魔法使いにして魔女の末裔です。魔女というのは魔王と人間が交わり、生まれた上級魔族です。魔女の末裔は人間の姿をしながらも、普通の魔法使いのようにマナの果実に頼ることなく魔法を扱えますし、寿命も数百年と長命です」


「これから会いに行く、アデル・キルシュタインとかいう大魔法使いは」


「現キルシュタイン家の当主です」


「フパイラーンに聞いたけど小娘なんだろう?」


 和也はフパイラーンの鬣にしがみつきながら、ナターシャを振り返った。


「ええ。人間の四分の一の速度で年を重ねますから、齢六十歳の小娘です」


 還暦かい!と和也は心の中でつっこんだ。


 この世界に赤いちゃんちゃんこの概念があれば口に出していただろうが、ここは異世界。言ったところで誰にも共感してもらえないだろう。


「アデルの噂は竜哭谷まで届いてきてたわ。私は彼女に頼み込んで近い将来、どうにか人間にしてもらうつもりだし、カスヤたちも魔王に戦いを挑む以上、アデルを味方に引き入れるのは必須よ」


 フパイラーンは優雅に翼を羽ばたかせた。


「一番の危惧はアデルの機嫌を損ねることです。彼女はたいそう気むずかしく、攻撃的な性格をしていると聞いたことがあります。アデルが本気になれば、私の魔法剣戟など跳ね返されてしまいます」


「フパイラーンよりも強いのか」


 和也は火竜に尋ねる。


「私は元々、争いごとは嫌いなの。でも、そうね…私が精一杯の炎を吐き出したところで、大魔法使いに凍らされたら意味がないし、炎を吐き出すしかできない火竜に比べて、彼女は様々な魔法攻撃を繰り出せるわ。ある一点においては私の炎はパワフルかもしれないけど、総合でいったらアデルには適わないかもしれない」


 火竜はあっさり負けを認めた。


 少女の姿をした六十歳の大魔法使い、アデル・キルシュタイン――。


 彼女をどうナンパして攻略するか、和也はできる限りの情報をナターシャ、フパイラーンから聞き取った。



 エメラルドグリーンの草を敷き詰めた大地が、眼下に広がる。


 フパイラーンは静かに急降下をはじめ、ぽつんと佇む館が、だんだんと近づきその全貌を顕し始めた。


「あれが魔女の館か」


 和也はそのうら寂しい煉瓦づくりの洋館でひっそりと暮らす少女の姿を思い浮かべた。


 玄関前にあるはずの魔女の箒がなかった。


 どうやらアデルは外出中らしい。


「ここにいないと言うことは」


「おそらくは、あの場所でしょう」


 ナターシャが言う。


「あの場所って…街の歓楽街だろ?ここから距離はあるし…だからといってフパイラーンに乗っていくと街は騒ぎになるし…」


 和也の視線を感じてフパイラーンは長い首を折り曲げ、寝る姿勢をとった。


「なら、大きな図体の私はここにいるわ。カスヤとナターシャは魔法の絨毯で向かえばいいんじゃない?アデルとあなた達が一緒にここへ帰ってくるのを待ってる」


 フパイラーンは欠伸をする。小さな焔が和也の頬を熱くさせた。

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