024.魔王ちゃんその二
「きました、きました!あいつがカスヤです」
目玉に羽の生えた探索用悪魔が、魔王の耳元で叫んだ。
「ほう」
魔王城・玉座の間に現れたのは、スーツ姿にサングラスの青年で、剣も弓も所持していなかった。
「よう、あんたが魔王か」
青年は、たくさんの女兵士を引き連れて魔王の前に立ちはだかり不敵な笑みを漏らす。
「名乗れ。うつけが」
「俺の名か」
青年はもったいぶって鼻をこすった。サングラスの奥の瞳はよく見えない。
「俺の名は、春日井和也だ」
魔王は、名を聞いたあと欠伸をかみ殺した。
「ほう。カスガイ・カズヤか」
カスヤではなくカズヤというらしい。
懐かしい日本人名。自分の中にかすかに残っている川原由実が反応したのを魔王ことヴィボッセは自覚した。
「カスヤではなくカズヤ、と発音できるのか」
「それがなんじゃ」
「あんた、日本からの転生者だろ」
「なに…」
魔王が何かを問いただす前に、和也は踵を返した。
「異世界でチート能力を得たからって調子ぶっこいてんじゃねぇよ」
「何を申す…」
「チートに頼らず自分がイイ女だって自信があるなら、明日の夜九時。仮面をつけてメクソリンダス王国の舞踏会に参加してみろ」
カスヤは背を向けたまま、魔王に言い放つ。
「妾は魔王であるぞ。そなた達を一瞬で消すことも…」
「幼稚園児相手にババ抜きで勝って満足か」
魔王は何も言い返せなかった。
「もうお前には興味はない。じゃあな」
和也は女兵士たちと去っていった。
彼がいなくなったあと、地面に「仮面舞踏会◆恋活パーティATメクソリンダス王国」と書かれた招待状が落ちているのを見て、魔王は発狂した。
◆
「くっそ~!!!悔しい、悔しい、悔しい」
魔王は玉座を破壊し、その辺に転がる歴代勇者、猛者達の銅像を破壊した。おまけに探索用悪魔も握りつぶした。羽の生えた目玉がグチャグチャになっている。
「カズヤめ。あいつを銅像にしてやる」
魔王は血走った目で虚空をみつめた。
「魔王様、差し出がましいようですが」
口を挟んだのは魔王の側近にして、呪われた天才科学者であるクチャーニ博士だった。魔王の封印を解いたのも彼である。
「カズヤとやらはサングラスをしていましたな。おそらくレンズに黒い紙を貼るなどして細工をして、魔王様のお姿を見ないようにしていたのでしょう」
「なんじゃと」
「魔王様のお顔を直接みれば、あのようなもの、すぐに奴隷となりますゆえ…」
「そうかそうか…」
魔王は笑う。
「舞踏会に出ればこっちのもの。仮面をサッと外せばあの生意気なカスヤめを奴隷にして、様々な遊戯ができますぞ」
クチャーニは残酷な笑みを浮かべる。魔王は満足そうに頷いた。
「カズヤを奴隷にして何をしようかのう。火山のマグマの中を泳がせるか。死ぬまで裸で大陸中を駆け回らせるのもいい。妾を侮辱した罰じゃ」
魔王城では、夜通し魔王の嬌声が鳴り響いた。
◆
和也は、内側に紙を貼り付けたサングラスを外した。
女兵士たちに囲まれるかたちでどうにか魔王の玉座までたどり着き、宣戦布告したわけではあるが、目が見えていないにも関わらずナンパ師としてのセンサーは鳴りっぱなしだった。
(あれはきっとイイ女だ。新宿ですらあれ以上のオーラをもった女はいない)
和也が魔王城を出たところで声をかけるものたちがいた。
「おお、無事に帰還したか」
アナペス将軍とドクロマスク将軍。彼らの情報で、和也は魔王が異世界転生者である可能性を見いだしたのだ。
「ああ、アンタたちのおかげでうまくいきそうだ」
和也は将軍らとがっちり握手をする。
「「「大丈夫?カスヤ」」」
安定のハーモニー。
火竜フパイラーンにアデル、ネルネだった。
「メクソリンダス王国には話を通してあります。舞踏会は滞りなく、明日の夜九時に開かれます」
ナターシャが言った。
「よっしゃ。明日が俺のナンパ人生の集大成。最後の戦いとしよう。一歩間違えれば地獄が待ち受けるだろう。だが俺は魔王を落とす。そして抱いてやる!」
和也はガッツポーズをした。そして女たちに「抱くってどういうことよ」と追いかけ回された。




