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020.勝ち馬、同盟、そして敗北

 ギゼヌ王国とサンダル王国の国境に建てられた「友好の塔」は、千年もの間、両国の政治的交渉の場として使われている。


 そして現在。


 十三階建ての朽ち果てそうなこの塔の最上階には、二人の国家元首が向き合うかたちで席に着いていた。


「三万の髑髏兵がたった十七人に消されたそうじゃないか」


 サンダル魔王国を統治するゾーリ将軍が、長い髭を触りながら笑う。塔の外には千人の兵士を待機させている。


「かつて我らが同盟を結び、攻めいってもそれをはねのけたメクソリンダス王国だ。やつらが最強の布陣で三つの魔王国に宣戦布告しているのだ。ひとつにならねば苦戦する」


 アナペス将軍はギゼヌ魔王国の失態を恥じることもなく、その緊急性を訴える。そして彼もまた千人の兵士を塔の外に待機させていた。


「いいだろう。同盟を結ぼうではないか。それともうひとつ」


「なんだ。ゾーリ将軍」


「愛すべき御方への思いを告げるつもりか」


「しらじらしい。お前もここで戦果があがれば、魔王様へ愛の告白をするつもりだろう」


 アナペス将軍は笑った。


「アナペスよ。お前は同盟を結ぶといっておきながら、勝利したあとすぐにワシを差し置いて魔王様に愛の告白をするのではないか」


「悪いか。愛を告げるのに同盟は関係なかろう」


「そうではない。命は粗末にするなということだ。ワシは一生あの方へ愛は告げぬ」


 ゾーリ将軍は長い髭を弄ぶ手を止めて笑った。


「なに」


「ワシは勝ち馬にしか乗らぬ。だが欲望もある。この同盟はその材料にさせてもらうぞ」


「気にするな。それは俺も同じだ。同盟とは体よく相手を利用しあう関係のことだ」


 アナペス将軍はそう言い、二人は同盟を結んだ。



 二週間後。


 アナペス将軍率いる二十五万の髑髏兵、亜人兵は、ゾーリ将軍との約束通り「友好の塔」の前へと集結した。


 このあとサンダル魔王国の二十五万の兵と合流し、あとはメクソリンダス王国王都を目指すのみ。


 だが一向にゾーリ将軍の姿は見えなかった。


「遅い。遅いぞ。ゾーリ将軍」


「アナペス様!」


 息切れをしながらペガサスに跨がったギゼヌ魔王国の兵士がやってきた。


「サンダル魔王国が裏切りました」


 兵士は、翼を広げたペガサスが地面に降り立つなりアナペス将軍に駆け寄った。


「ゾーリが魔王様に愛の告白をしたのか。ぬけがけしおって」


 アナペス将軍は唾を吐く。


「違うのです」


 兵士は血を吐く。背には一本の矢が刺さっていた。


「ゾーリ将軍は…サンダル魔王国はメクソリンダス王国と手を組んだのです」


 兵士は血塗れの書状を、アナペス将軍に渡す。


【親愛なるアナペスよ。先日いったようにこの同盟を、ワシの欲望を満たす材料に使わせてもらう。ワシは魔王様をモノにする自信はない。だが、口づけを一度してもらえればそれだけで命を失っていいと考えている。ワシはメクソリンダス王国に召還された勇者、カスヤ・カスガイルに会い、ヤツに賭けてみることにした。カスヤは火竜や魔女アデル・キルシュタインをはじめとする難攻不落の者たちを口説き落とし仲間にしてきた手練れだ。カスヤはワシに約束してくれた。必ず魔王様を口説き落とし、戯れではあるが魔王様にワシへ口づけをさせてみせると。もう一度言うが同盟とは利害関係だ。悪く思うな】


「おのれ、ゾーリめ」


 アナペス将軍は唇を噛み、書状を破り捨てる。


 ゾーリ将軍の笑い声が聞こえてくるようだった。まだ見ぬカスヤの影がその背後にちらつく。


「魔都はゾーリ将軍によって陥落。のちにメクソリンダス王国と同盟関係にあるオウゾ王国軍がやってきて、進駐しております」


 ゾーリ将軍は、アナペスが二十五万を出兵させ、手薄になったギゼヌ魔王国の王都を襲撃したのだ。


 してやられた、とアナペスは膝を打った。


 すべてはメクソリンダス王国の勇者カスヤの指示によるものだろう。


 頭の中で無数の影が笑っていた。魔王だけは氷のような視線を向けてこちらを見ている。


「目をかけてやったのに、暇つぶしにもならん男じゃ」


 アナペスは愛する者に蔑まれる前に、自害しようと思った。

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