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014.伝説の女勇者バズ・ビザール

 和也一行はフパイラーンの背に乗り、軍用ドラゴンに跨がったロブ・ビザールたちに連れられ、緩衝地帯上空を飛行している。


 緩衝地帯は「ファジー共和国」と名乗っていることが分かった。


 やがて、ロブに誘導されるがまま、共和国の首都「アイマーナ」の巨大噴水広場に着陸した。


「おお、ロブ。生きていたか!仲間たちはだいぶ死んでしまったが…」


 ダンジョン制圧に向かった男たちがドラゴンに跨がり集結していた。彼らは仲間の遺体やその一部、または遺品を持ち帰り泣き暮れている。


 数十分後。


「肉片、または血液一滴でも残っていた死体に関しては生き返らせといたわ。正確に言うと時間を戻しただけだけど」


 アデルによって「時間を戻された」死体たちがキョロキョロとあたりを見渡しながら自分の手足を見つめている光景がそこかしこで見られた。


「あんたたちが何者かは知らないが礼を言う。ほとんどの奴らが生き返った」


 涙声のロブが頭を下げると、ほかの男たちも頭を下げた。


「それにしても五つあるダンジョンすべてを潰すなんて、王国の軍隊にも匹敵する戦闘力じゃないのか」


 和也がいうと、男たちは胸を張った。


「この戦いを皮切りに、俺たちは独立宣言をするつもりだ。もうかつてのように流浪の民など呼ばせは…」


「バカ息子!やっと帰ってきたのかい!」


 ロブの言葉を遮るようにして、薄いカーディガンを羽織ったグラマラスな女がやってきた。


「あたしの名はバズ・ビザール。あんたたちが何者か知らないけど感謝するよ」


 バズは豊かな金髪をかきあげたあと、和也たちと握手をした。


「俺たちはメクソリンダス王国から来た。あなたの活躍は聞いている。音楽とそのパワフルな歌声で兵士たちを鼓舞し、連合軍を撃退した伝説の女勇者だってね」


「あら、あんた東洋人かい」


 バズは和也に近づき、その頬を撫でてきた。香水の甘い香りがする。


「俺は日本人。俺もあなた同様に召還されてきた。魔王を倒すために」


「魔法の適正は」


「まったくなしです」


「なら必要ないってことなんだろ。意味もなく魔法適正なしの人間をここへ召還させるはずがない。神ってやつは計算高いから」


 バズは煙草をふかし始めた。


「あたしは今から三百年前、召還されてきたとき、声を何百倍、何千倍も大きくする魔法だけは使えたんだ。パンクバンドのヴォーカルらしい能力だろう?」


 バズは「妊娠中だからこれくらいにするか」と煙草を踏みつぶした。


「おかげでいろんな奴らが集まってきやがって。魔王復活を狙う魔王教のクチャーニ博士とか言うストーカー野郎に、不老不死の魔法をかけられる始末さ」


「なぜです」


「二代目魔王の封印を解くために、目覚まし代わりにあたしのデカイ声が必要だったらしい。でも、あたしはその誘いに応じなかった。何十年、何百年かけてでも、あたしを引き込みたかったクチャーニ博士は、あたしに不老不死の呪いをかけたってわけさ」


「三年前の魔王復活にあなたは関与してるんですか」


 和也は踏み込んだ質問をする。バズが気分を害した様子は見られない。


「いいや。幸運なことに、あたし以外にもクチャーニ博士にスカウトされていたやつらはいるらしくてね。様々な方法で魔法復活の方法を試したかったんだろうさ」


 バズの豊満な乳の谷間には汗が流れ出ている。真昼の太陽は南に居座っていた。


「けっきょくのところ、ガーゴリン王国に召還されてきた天才科学者が、物理的に二代目魔王の封印を解いたってのが真相みたい。ちなみにガーゴリン王国の国王を魔王教に染めたのはクチャーニ博士だよ。あいつもまた不老不死なのさ」


「なぜそれを知ってるんですか」


「あたしの声量は数千倍。聴覚も数千倍。雑音だらけだから情報を傍受するのにものすごい神経と時間を要するけどね」


 バズは膨らみかけの腹をさすった。


「三百年の間にたくさんお子さんを産んだんですね」


「それしか楽しみがないからね。なぁ、和也。来年になったらもう一度ここへ、おいでよ。次はあんたの子供がほしい」


 バズは笑いながら言った。


「魔王に戦いを挑み命を落とすかもしれない。約束はできませんね」


 和也は冗談返しのつもりで言ったが、バズは真剣な表情になった。


「今日よりファジー共和国は大陸中に独立宣言をする。そしてメクソリンダス王国およびオウゾ王国の架け橋となる」


 バズには何でもお見通しだった。


「助かります」


「そのかわり来年まで生き延びたら約束は守ってね。東洋の人種も残したいからさ」


 和也は噴水広場を見渡した。


 屈強な男たちに混ざって、ちらほら若い娘たちも見物にやってきていた。過酷な環境で育ってきたせいか彼女たちは皆、美しく逞しい瞳をしている。


「種を残すのは、あたしにだけじゃなくてもいいよ」


 やはりバズには何でもお見通しだった。


 背後に突き刺さるような視線と熱を感じる。フパイラーンやアデル、ネルネは話がまとまるように怒りを押し殺しているのだった。

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