012.宴、そして旅立ち
宴は朝まで続いた。
アデルは衛兵たちの首根っこを捕まえながらいくつものボトルを空にし、ネルネは途中で眠りこけた。
ナターシャは国王陛下と今後の戦略を話し合っているようだった。
王国中の美女が和也に酒を注ぎにやってくる。
フパイラーンは亡き夫コンロンの墓がある地下で長い蜷局を巻き、しんみり酒を嘗めているので、これはいい機会だとばかりに和也は美女たちと次々に魔法名刺を交換した。
和也のジャケットの内ポケットには、すでに二百枚の魔法名刺が入っている。
「いつになったら抱いてくれるの、カスヤ!」
日中にナンパしたエルフの女から魔法名刺越しにテレパシーが送られてきたが、今はそれ以上の美女たちに囲まれている。
「早く会いたい、カスヤ…」
和也はそれに応じないため、テレパシーはすぐに遮断された。
「カスヤさまは女性経験が豊富そうですわね」
酒を注ぐ女の一人が耳元で囁き、和也は苦笑いをした。
その気になれば百人、千人斬りもできたであろうが、女を選り好みする和也の経験人数はまだ数十人だった。
(時折、俺は何のためにナンパしてるのか分からなくなる)
和也はまだ見ぬ魔王の姿を想像した。
魔王が宇宙一の美女ならば、自分はナンパを捨て彼女を恋人にしたいと願うのだろうか。そんなことを考え途方に暮れた。
◆
翌日、和也一行は、国王であるメクソリンダス十八世から「同盟の書状」を受け取ると、王都を起った。
国家間の防壁魔法によって、他国へテレパシーはおろか、魔法手紙を送ることができないため、大陸を北上し同盟書状を直接渡すしかできない。
和也一行はまずオウゾ王国を目指した。
国土はメクソリンダス王国の三倍ほどあり、二千百年前の魔王降臨の際、二番目に魔法と契約した王国であった。
この二つの王国を隔てる「緩衝地帯」は四千キロに及び、全員が火竜フパイラーンにしがみついても丸二日かかることが分かった。
途中、翼を持った魔族による襲撃が二、三度あった。
どの国家にも属さない「緩衝地帯」は魑魅魍魎がわき出やすく、王国を追い出された罪人や貧困者たちを餌として、その数は年々増加しつつあるという。
ナターシャ、アデルによって愚かな魔族たちは灰となって消えていったが、地上を見下ろす和也は点在する灯りを見て、ふと思いついた。
「この地域一帯の魔族を絶滅させよう」
「「はぁ??」」
アデルとフパイラーンがハモった。
「この緩衝地帯にも人は住んでいるんだろう」
「ああ、だからこそ魔族が湧く。そして魔族が湧くからよほどの理由がない限り誰も足を踏み入れず、国家間の侵略を防ぐ緩衝地帯として機能しているんだ」
ネルネが口を挟んだ。
「建物の灯りを見る限り、彼らは一国の人口に匹敵する。魔族に食われても食われてもあれほどの数が維持されているということは、それなりの戦闘力と生きる術をもっているということだ」
「同盟の書状が先では」
ナターシャが言う。
「同盟を結ぶにしても、この緩衝地帯が邪魔で、両国間の軍隊が合流するのは難しい」
「何がいいたいの?カスヤ」
アデルがいらつく。
「緩衝地帯の魔族が一掃され両国間の往来が自由になり、なおかつ新しい戦力も加わればメクソリンダス王国、オウゾ王国の同盟は三倍の効力を発揮する」
「でも…」
「こんなところじゃ魔法手紙は出せないし、メクソリンダスの国王陛下に許可を取ることはできない。だが、俺の独断でそれをやらせてほしい。禁断の書には勇者を信じるべしと書いてあるんだろう?」
和也の言葉にナターシャは頷いた。
「そうか!カスヤはナンパしたかったのか!これまで仲間を増やしてきたように緩衝地帯のやつらもナンパしたいんだな」
言葉の意味を間違えて覚えたネルネは無邪気に言う。
和也は笑ったが、半分図星だった。
魑魅魍魎が跋扈するこの無法地帯において、たくましく生き抜く女子たちはどんな風貌だろう。ましてや美人が多いなら彼女たちを魔族たちの餌にしてはならない。そう思っていたのだ。




