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001.カスの末路

 宝石が散りばめられたような夜の街――、新宿歌舞伎町。


 ネオンの下で、客引きやホストらに紛れて、女に声をかけては連絡先を交換する男がいた。


 獲物をみつけると、海底の砂を巻き上げる深海魚のごとく、ゆっくり近づき、さりげないユーモアと、ケナシ(女性の下位にならぬよう自分をブランディングし、優位に立つためのテクニック)、そして下心など感じさせないフレンドリーさで女にスマホを出させる。


「じゃあまたね、明日連絡するよ。俺が忘れてなければね」


「ばか。ふふふ」


 女は手を振りかえす。だが男が連絡するのは三日後と決まっていた。警戒心を抱かせないためと、自分の優位性を保つためだ。


 それ以前に、男には三日経過しても自分を忘れさせないと言う自信があった。


 スマホの電話帳はすでに千人を超えている。


 半年ほど前、大学の先輩に誘われナンパを初めてから「女友達」は増え続けていた。


 芸能人のように容姿端麗ではない。


 言えば高校時代における、学年のベスト十位以内にギリギリ入るかという程度の、最低限に整った顔立ちと百八十という高身長が、多少味方してくれたかもしれないが、平凡の範疇にいる男だった。


「カスヤ」


 男の名前「和也」を文字って、こう呼ぶ女が歌舞伎町にはいる。


 さんざん気を持たせ、口説いてくるくせにちっとも抱こうとしない和也に愛憎をこめて、そう呼ぶのだ。


(抱く気になる女はそうそういない。彼女は三人までで充分だ)


 和也は歌舞伎町を、とぼとぼ歩く。


 風俗店の客引きも和也を見て、声かけをやめる。女に不自由していない男だと見抜かれたのだ。


「本当に愛してたのに」


 背後から女の声がした。


 和也が振り返ると、そこには長い巻き髪と大きなサングラスをかけた高身長の細い女がいた。


(いつだったかな…俺がナンパした女だ)


 記憶にある女の姿よりもさらに痩せ、頬は落ち窪んでいる。


(女の職業は、たしかモデルだったか女優の卵だったか、歌手だったか)


「ええっと。君は歌手の卵の」


「ひどい」


 湿った叫び声とともに、熱い衝撃と鋭い痛みが左わき腹に刺さった。


「ひどい、ひどい、ひどい!誰と勘違いしてるのよ!」


 何度も何度も叫ぶ。叫び声のたびに鋭利な刃物が、和也の腹部に刺さる。


(刺しやがった。ああ、もうこりゃダメだ)


 和也はアスファルトに倒れた。体中から生温かいものが溢れ出し、寒気が走った。案の定、震えながら両手を顔の前にやると真っ赤に染まっている。


 薄暗い雲に月が覆い被さり、雑居ビルのネオンが和也をあざ笑っていた。


 たまたま視線の先にあったキャバクラの看板に、女の顔がかぶさる。女は和也の死に顔をのぞき込んでいた。


「私は無職よ。元・引きこもり。たまたま三年ぶりに新宿で同窓会があって、その帰りに貴方に声をかけられた。はじめての恋だったのに」


 女が嗚咽する。


「おい、おい…泣くなよ。いいから逃げろ。俺は大丈夫だ」


 どこからこんな台詞が出てきたのか。


 いい人を演じるうちに、それが板についてしまったのか。


「うそ。ごめんなさい、ごめんなさい」


 女は和也の縋り、その場を離れなかった。


(申し訳ないな…俺は、女をひとり、殺人者にしてしまった。はぁ、だが寂しいな。俺の野望はもう果たせないのか…ナンパ師としての野望は…)


 和也の意識は遠のいた。

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