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#08 俺、先生を騙すつもりだから

「恭平さん」


俺は、未だビックリしている恭平さんの顔をじっと見て、真面目に聞こえるように少し低めの声で彼の名前を呼んだ。


「な、なんや…?」


「昨日、俺が偽名使ったのは覚えていますか?」


俺の質問を聞いてから、少し間をあけて「覚えとる」と声を返してきた。


「実は、俺…最悪な男なんです」


俺のこの言葉で、恭平さんの驚きも収まったのだろう。彼もまた、真剣な顔で俺と向き合ってくれた。


「なんでや?」


「俺、先生を騙すつもりだから」


俺のこの言葉では、意味が分からなかったのだろう。待て待てと言いながら、俺の肩をギュッと握ってきた。


「状況を把握できない」


そう言うと、恭平さんは俺の肩を握った手を戻し、再び座りなおす。


「俺、学年末の成績が上位9位以内に入らないと、外国に飛ばされて医者の勉強をしなきゃいけないんです。あの頑固親父は、本当にそれを実行してしまうほどで…。そのためには、俺の苦手な科目を克服しなくちゃいけないんですよ。普通の勉強じゃ、絶対に9位以内は無理なんです。近道…ゲームで例えると、裏技しかもう道は残っていないんです。せっかく、龍之介と友達になれたのに…外国になんか行きたくない」


「…話は分かる。やけど、今年度もまだ始まって一ヶ月半やないか。コツコツ勉強すれば、9位以内なんて無理な話やないやろ? 大将を見る限り、頭悪そうに見えへんし、去年は29位ぐらいなんとちゃうんか?」


29位…ずばり的中です。貴方はどれだけ、細かい数字を当ててくるのですか。


「…出来たら、こんなことしませんよ」


俺は苦笑いをしながら、恭平に言葉を投げ返す。


「それでも…」


恭平さんは複雑のようだ。果歩のお友達が、これから騙されようとしていること。大事なご主人様の龍之介の友達が、これから騙そうとしていること。


「すみません。昨日急に思いついたので」


俺は深々と頭を下げた。


「ちょ、頭なんか下げるなって! 仮にも龍之介の友達や。そんなことしたら、使用人としての立場がなくなってしまうやんか」


優しく微笑みかけてくれる恭平に、少し甘えそうになった。俺の周りには、そういう笑顔をくれる人は、数少ないから…。


「…分かった」


恭平さんは俺の目をしっかりと見て、そういった。


「ありがとうございます」


「果歩ちゃんにはいわへん。やけど、大将もそんなことしたら未来ちゃんが傷つくって分かってるやろ。肝に銘じておくんやな」


「…はい」


俺がそう告げると、恭平はお盆だけを持って、立ち上がった。


「あまりここに長居すると、怒られてしまうからな。俺はおいたまするわ! ほな、また!」


恭平さんは、左手をヒラヒラと振って、部屋から出て行った。


「とりあえず、恭平さんの口止めは出来た…かな?」


「…大将、勉強教えてあげる」


龍之介の素直な意思。少しでも、頑張ってほしいと思う心。そんな気持ちを受け止めながら、俺は龍之介のほうに顔を向けた。


「…ありがとう」


そういう俺の言葉は、少し震えていた。






「もう、こんな時間か」


時計を見ると、20時を回っていた。


俺の親は俺に無関心だから、どれだけ遅くなっても何も言われないのだ。直接言ってくれるのは、キヨ爺だけ。


昨日だって、俺は11時過ぎまで未来先生と一緒に居た。


未来先生を家まで送っていき、キヨ爺に向かいに来てほしいと連絡をいれた。


家に着いても親父等は「おかえり」とも何も言わない。車に乗っているときに、キヨ爺から軽い説教を受けただけだ。


その説教が、俺にとってはどれだけ嬉しかったことか。


「教えてくれてありがとう」と俺は言って、龍之介の家を後にする。


龍之介は首を横に振りながら、いつでも教えるからと、言ってくれた。


涙がこぼれたかは分からない。俺は「さようなら」とだけ言って、龍之介に背を向けた。



「キヨ爺…」


龍之介宅から帰る車の中。俺は、運転席に座っているキヨ爺に話しかけた。


「何でございましょうか?」


…このことはキヨ爺にはいえない。


こんな計画を聞かせたら、悲しませることになるかもしれない。


「…いや、何もないよ」


俺は後部座席の窓から、かけた月を眺めていた。


今後の、計画を考えながら。






――――――土曜日


とうとうこの日が来た。


今俺は、とあるマンションの近辺に居る。


電柱に隠れながら…など、ベタな事はしていない。


そのマンションの向かいにある、カフェで監視をしながら、ゆったりとしている最中だ。


「ねぇ、お兄さん!」


…前言撤回。ゆったりとはしていない。


俺は、この女の声を無視することに決めた。


「どうしたの? 何かあったの? もしかして、彼女に振られたとか…?」


なんの許可もなく、俺にいきなり話しかけてきた女は、前の椅子に腰掛けた。


「…なんでしょうか?」


俺は冷たい声で、そう言い放った。


座られてしまったのだから、無視をし続けることは無理だろう。


「慰めてあげようと思って」


ニコっと笑う俺の前に座っている女は、どちらかというと可愛い部類に入ると思う。


だけど、俺の好みじゃない。というか、女なんて大ッッ嫌いだ!!


「彼女に振られたわけでもないし、慰めてもらうような事はひとつもありません」


俺がそういうと彼女は、あははと小さく声に出して笑った。


本当にうざったい。


どこかにいってくれ。


「ねぇ、遊ばない?」


彼女は笑うのがひと段落終わったのだろう。俺の顔を見てそういった。


「結構です」


俺は席を立つと、俺が監視していたマンションから、一人の女の人が出てきた。


グットタイミング!!


俺は心の中でガッツポーズをし、その場から離れた。


「ちょ、ちょっと…」


女が何か言っているが気にしない。


「携帯、忘れているよ」


…ご丁寧に教えてくれたようだ。


俺は数歩戻って、女の前に行き「ありがとう」と呟いて、その場から今度こそ居なくなった。


俺が監視していた人物は、一人で道を歩いている。


買い物袋のような物を持っているところを見ると、スーパーにでも行くのか?


俺が監視している人物との距離は約30mといったところだろう。隠れたりはしていないが、これは立派なストーカーといえる行動ではないのだろうか。


「何やっているんだ俺は…」


少し情けなくなって、俺は顔を空に向けた。


それから歩くこと数十分。俺は少し見覚えのある場所に来ていた。


…駅前のデパート。


土曜日ということもあって少し混雑している。


ドン!


俺は、入り口付近で成人男性とぶつかった。結構強めに。


「すみません…」


そして今一度監視人物のほうへと目を向ける…が、少し目を放した隙に、監視人物を見失ったようだ。


俺は周りをぐるぐると見渡す。


軽く走ったりして、ようやく見つけることが出来た。


焦らさないでくれ…諸戸未来。



















感想等いただけると、非常に作者は元気が出ます。

よろしくおねがいします。





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