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#42 未来“先生”だろ

「許されないことだと、思っている」


未来が起きていることに、果歩は気付いたから俺にあんな質問を投げかけたのだろう。


いつから起きていたのかは知らないが、さっきの話は聞いていたに違いない。


「な、んで」


未来は驚きの表情を変えないまま、涙を流していた。


「理由があるとすれば、未来が現代文の担当だったから。あの時、俺は運命だと思った。神様からのプレゼントだと思った。こんな機会滅多にないのだから。だけど、俺は…」


そこまで言うと、俺の言葉は閉ざされた。喉に何かが詰まるような感覚に陥ったからだ。今、ここで泣いてはいけない。泣いては馬鹿にされる。泣くならするなといわれる。


「お前がどう思っているなんて、私達に関係ないの。もちろん未来にもよ。今日はもう帰って。お願い…これ以上未来を悲しませないで」


「み、く」


果歩に言われた俺は涙を堪えながら下を向いた。


俺の呼びかけに何も反応しない未来は、今何を思っているのだろう? 俺を許せないと? それは当たり前だろう。


「ごめん」


俺はその一言を残し、その場を去った。









家に帰ると、キヨ爺が玄関で俺を待っていた。


「お坊ちゃま」


「何」


俺はこの家が嫌いだ。好きになることは一生無いだろう。


「お父様が書斎で待っていると」


それだけ言うと、キヨ爺は頭を下げて立ち去ろうとした。


「キヨ爺」


そんなキヨ爺を俺は呼び止める。聞けなかったことを、今聞こうと思ったから。


「はい」


「キヨ爺は、未来が家に来ること…親父のことを知っていたのか?」


キヨ爺は俺がこのことを聞くのを覚悟していたのか、顔色一つ変えずに一言だけ「はい」と答えた。


「なんで、何で!?」


「私はこの家の雇われ者です。お父様にたてつくことは出来ません。そして、そのこの前にも申したはずです。未来様のことをよく考えてくださいと。いつかはこうなっていた。今、こうなっていても、先の未来(みらい)にこうなっていても、結果は同じだったはずです」


「俺は、未来が好きだったのを、9位以内に成績を収めないとアメリカに飛ばされてしまうことも、キヨ爺は知っているだろう!? どれだけ勉強を頑張ったって、9位以内なんかに入れるはずが無いだろ…。俺は龍之介と…未来と一緒にいたかっただけなのに!」


「…やってもいないのに決め付けてしまうのは、お坊ちゃまの悪い癖です」


「なっ!」


「お父様が書斎でお待ちしております」


キヨ爺は深々と頭を下げ、リビングへと向かった。


「な、何だって言うんだよ…」


俺は仕方なく、あの親父の下へと向かった。









トントン、とドアを二回ノックする。中からは親父の声が聞こえてきた。


「失礼します」


俺はドアをゆっくりと押した。


「大将か」


パソコンで仕事をしていたのか、俺の顔を見ると手を止めた。


「どうだ、学校生活は?」


「ど、どうだ…だと?」


「成績は、取れなさそうだな」


お前が図ったんだろう!? 俺がこうなるように…。


怒りに満ちた気持ちを、俺は自分の拳に押し当てた。


こんなときにまで、親父刃向かう事が出来ないなんて。


「は…話はそれだけか?」


俺は悔しくて親父の顔を見ずに、地面に顔を向けた。


「未来という…女」


親父が言ったその言葉は、俺の耳にしっかり届いていた。


「未来には何もするな!」


反応的に、声を張り上げた。


「…未来“先生”だろ?」


余裕の笑みを浮かべる親父への憎悪は膨らむばかり。


「く…未来先生は関係ないだろ」


その場にもう居たくなくて、俺は親父の部屋から飛び出した。


自分の部屋へと走っていく。


ごめん、未来。


俺のせいで、俺のせいで…。


部屋に着きドアを開けベッドに飛び込むと、俺は泣き崩れた。


今、未来に何かあったら俺は耐えられない。それを承知であの親父はあんな言葉を吐きやがった。


「くそ…」


涙は止まるということを知らなかった。









次の日、学校へと足を運ぶと、注目を浴びているのはすぐに分かった。


女達が俺のほうを指差しながらコソコソ何かを話している。


それもそうだ、昨日未来を呼び捨てにした上に、早退までしたのだ。噂が経っても仕方がない。このことで、未来が何か問われないといいが。


…しかし、俺のそんな考えは外れていた。


そのことに気付くのは、下駄箱を開けたときだった。


「…は?」


そこには数十枚のラブレターが入っていた。


「な、んで?」


困惑している俺の後ろには女が。


「あ、あの!」


スッと目の前に差し出されたのは、やはりラブレターらしきもの。


「う、受け取ってください!」


「……」


俺は押し付けられたラブレターを手に取ると、女は顔を真っ赤にして立ち去っていった。


「大将」


女を見送った俺の隣には、無表情の龍之介が。


「へ、あ…お、おはよう」


「おはよう」


龍之介はそれだけ言うと、俺の服をちょんちょんと引っ張って、歩き始めた。


付いて来いということなのだろうか? 不思議に思いながらも、俺は龍之介の後ろを付いていった。


歩くこと数分、武道場の裏といういつも人気の無い場所だ。


「大将聞いて」


無表情なのは変わらないが、どこか真剣な雰囲気をかもし出している。


「大将、隠してた姿ばれた」


「あ、あぁ…」


それはさっきのラブレター事件で、薄々とは気付いていたことだ。


「それと」


と、まだあるらしい。


「今日家来て」


「わかった」


俺は出来るだけニッコリ笑うと、教室へ行こうと促した。これ以上、龍之介とこの雰囲気で話したくなかったから。


二人で教室に入ると、みんなが一斉にこっちを向く。龍之介の格好良さでいつも注目を浴びていたが、今日はそれとはちょっと違う注目の浴び方。


「な、なぁ大将」


「なに?」


あまり話したことの無い男子生徒が俺に話しかけてきた。


「えっと、その…未来先生とどういう関係なんだ?」


男子にとっては、俺の容姿よりもそっちの方が気になるらしい。男子生徒にかなりの人気があった未来だ。聞かれて当然だろう。


「別に。ただの生徒と先生だけど?」


俺は当たり前のように返事をすると、男子生徒は「変なこと聞いてごめんな」と謝って去っていった。


教室の椅子に座る。タイミングよく、チャイムも鳴った。


「席について」


そう言いながら、教室のドアは開かれた。


そこに居たのは、未来ではなく保健の先生だった。


「諸戸先生は、少し体調が悪いようなので休暇を取っています。かわりに私が出席を取るので返事してね。じゃあ、まず…」






俺は頬杖を着いて前を見た。



いつもの風景ではない。何か物足りない。


担任じゃないから?


未来じゃないから?


愛しの人ではないから…。







そして留まることのない後悔が俺の心の中に降り注がれていた。




















残り、本当に数話となってしまいました。

展開が速くなっていますが、最後までお付き合いのほどおねがいします。




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