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#40 衝撃的な映像

俺は、どうすればいい?


恋愛完全マスターにはどう書いてあった?


確か原因を対処しろと書いてあったはずだ。


原因? 俺の行動だろう。


それを対処したところでどうなる? 今更…。


俺はもう取り返しのつかない事をしてしまった。愛する人を裏切ってしまった。


裏切った相手に対する対処方法、恋愛完全マスターにはどうすればいいと書いてあった…?







ガラッと、ドアは開いた。


龍之介はいつの間にか俺の後ろにいる。俺が気付かなかっただけで、ずっと俺の隣に居たのかもしれない。


「は〜い、皆さん…」


一瞬、俺と未来は目が合った。


「席について…ください」


未来が言い終わるころには、皆自分の席に戻っていた。そこで『あら、皆もう座ってるね! さすが優等生だ!』と元気よく言うのがいつもの未来なのだが、さすがにそんな気分では無いようだ。


「出席を取ります」


いつもの元気はどこへ行ったのか、騒がしく始まるこの教室の朝は、静かに始まった。


「……」


俺の名前を呼ぶとき、未来が言葉に詰まる。


「紺野…大将君」


「はい」


俺は小さな声で、聞こえるか聞こえないかぐらいの声で返事をした。


そして、詰まることなく未来は次の人の名前を呼ぶ。


教室に入ってきて以来、未来は一度も俺を見ようとはしなかった。名前を呼ぶときに、普段の未来なら生徒の顔を見て確認するのだが、今日は違う。


ずっと出席簿に目を通したままだ。


「ごめん…」


それに気付いた俺は、そう声を出してしまった。


その言葉に、未来はぴくっと体を反応させる。聞こえてしまったみたいだ。


「じゃ、じゃあ…朝のホームルーム終わります」


それだけを言って、未来は教室を出て行ってしまった。


未来先生のその変な感じに気付くものは、この教室に俺ともう一人を除いていなかった。


「大将」


そう、俺以外のもう一人とは龍之介である。


「ごめん、何も…その…」


「大丈夫。大丈夫」


龍之介は俺がパニックに陥っているのを見て、いつも俺が龍之介にしているように、龍之介が俺の頭をナデナデとしてきた。


「りゅ、龍之介?」


女子どもの視線が痛い。


「大丈夫。大丈夫」


「ありがと…」


俺はニッコリ笑って、龍之介の手を取った。


「ありがとな」


そう言うしかなかった。龍之介が、少し悲しそうな目をしたから。


それから、ほんの少し時間が流れる。今は、悪魔と言える現代文の時間だ。生徒達へ必死に語っている。目の前の彼女は朝のあの違和感をなくしていた。


俺は必死に授業を受けている振りをしている。未来だって本当は、この教室に居づらいはず。


…俺と同じ気持ちのはず。


それはただ俺の願いだった。あるはずのない想いだ。分かっている。


未来が、俺のことを嫌いになったこと。


知っている。理解している。


悲しみが一気に心の奥底から噴出してきて、俺は目を瞑った。心を落ち着かせようと、俺は大きく息を吸う。


こんなところで泣けるものか。


泣け…


ゆっくりと目を開いて、偶然未来の姿を捉えたそのとき、衝撃的な映像が俺の視界が捕らえた。


「み、く」


俺達に背を向けている未来の体が、足元から崩れていく。その光景がスローモーションに見えた。


「未来!」


俺は誰よりも声を張り上げる。そして、誰よりも先に駆け寄った。


「おい、未来!」


ざわざわとしているはずの教室の音は、俺の耳には届かない。


「未来!」


俺は叫び続ける。だけど、未来は一向に動こうとはしなかった。こういうときは体を揺らさない方がいいと、何かの本で書いてあった気がする。


「龍之介、救急車! 委員長、先生を呼んできてくれ!」


俺は悲鳴と、ざわめきの中、ずっと未来から離れなかった。



そして、いつの間にか眼鏡は外れ、髪の毛は捲くりあがっていた。



「未来、未来!」


そのことに気付かずに、俺はずっと叫び続けていた。








「紺野、病院までは行かなくていい」


「何で!」


「授業があるだろう? 教室に戻りなさい」


未来が救急車で運ばれていった後、追いかけようとしていたとき、俺は体育の先生に呼び止められていた。


そいつは前から未来のことが好きなのではないか? と噂されていた先生。聞くところによると、こいつが未来の行った病院にいこうとしているらしい。


そんなことは許せない。許すことは出来ない。


「…わかりました」


俺はしぶしぶ承諾した…ように見せた。


やっぱり俺は未来に恋している。学校をさぼってまで、何かをしようと思ったのは今日が始めてだ。


俺は先生の姿が見えなくなると、保健室に足を運んだ。


「すみませ…」


保健室のドアを開けると、いつも見かけることのない保健の先生がそこに居た。


会いに来たのだから、居なくては困る。だけど、何度かここに足を運んでいるにも関わらず、一度もその姿を見かけたことが無かったから少し驚いたのだ。


とにかく、俺は急ぐ。


「先生!」


俺は勢いよく先生を呼んだ。先生は何もかもが分かっているかのような笑みを浮かべる。


「早退かしら? 未来のために」


「え、あ、いあ、その…風邪っぽくて?」


「本当に病気の人はそんな大声をあげないし、疑問文にしません。とりあえず、ここにクラスと名前と体調不良とだけ書いて。あとはしておいてあげる」


「あ、ありがとうございます」


何がなんだか分からないまま、先生の言うとおりにして俺は教室に戻った。先生の昼寝騒動といい、今回といい、あの先生はどこまで適当なのだろうか?


そんな事を思いながら、先生に感謝をしつつ、俺は教室に入る。


「龍之介、俺帰るから」


鞄に手をかけて、俺はそれだけ言うと教室を飛び出した。小さな声で頑張れと龍之介の声が聞こえた。








時間が経つにつれて、未来を心配する気持ちが膨らんでいく。


俺は、家に寄らず病院へと向かった。もちろん、タクシーで。


キヨ爺や、親父には今は正直言って会いたくない。キヨ爺に仮病で早退したなんて言ったら、怒鳴られてしまう。親父は論外だ。顔なんて見たくない。


「未来、未来」


俺は足を揺らしながら、必死にタクシーの中で病院に着くのを待った。


















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