#38 信じていいんだよね?
終わることがなければと祈るほど、その時間は短く感じる。
笑顔で満たせばいいと
幸せで満たせばいいと
「大将君」
そう、思っていた夏は終わった。
「はい」
学校が始まって早3日が経った。一日目から授業が始まるというこの学校、これからはテスト三昧の日々になるだろう。
「それじゃあ、授業始めるから教科書開いて〜」
未来はいつものように元気な声で、生徒達に向かって言った。
夏休み、俺と未来は充実すぎる生活を送った。これからはあまり会えないね、なんて夏休み最終日に未来が言っていたのをふと思い出す。
この学校は生徒はもちろん、それに合わすように生活をしている先生達も大変なのだ。テストがいっぱいあるということは、その分テストを作らなきゃいけないということ。
ちなみに、昨日もテストがあった。
もちろん、夏休み中にそのテストを作っていたから、俺はいつものように罪悪感と戦いながら、テストの内容を覗いた。
なぁ、未来。
もし、現実を…真実を知ったとき、お前は俺を恨むのか?
笑ってはくらないよな?
俺のそばに…居ては…
「あと一ヵ月後には、二学期の中間テストがあるから、勉強するんだよぉ!」
授業の終わり間際に、未来は壇上の上でそう言った。
誰も返事はしないが、その代わりに教科書を閉める音が教室内に響く。
「じゃあ、授業終わり!」
いつものように元気な声で未来が言った後、委員長が起立と声をかけた。
休憩時間、いつもポケットに入れている携帯の振動が足へと伝わってきた。
「ん?」
こんな時間に電話が来るなんて、めったに無いことだ。そんなことを思いながら俺は携帯のディスプレイを見ると、諸戸 未来と表示されている。
「もしもし?」
何があったのだろうか? いきなりの電話だったので、教室で通話ボタンを押して廊下へと出た。
「悠っ!」
ハキハキしている声が、俺の耳の中へ届いてきた。
「どうした?」
「あのね、来週の土日は学校から休みを貰えたから、遊びに行かない?」
「お、本当か? よかったじゃん。遊びに行くかぁ」
俺は嬉しくて、つい頬が緩んでしまった。
「うん!」
未来も相当嬉しいのか、いつもよりテンションが高い気がする。
「じゃあ、私授業あるからまた後でね!」
「おう」
俺は携帯から耳を離すと、教室の中へと足を進ませた。
このとき
俺達は
幸せだった
…かもしれない。
金曜日、何も知らない未来にある一通のメールが届くまでは。
そのとき俺は来週の土日、未来と一緒に居られる喜びを表に出さないように押さえるので必死だった。
そして、今週の土曜日。
「どうしたんだ?」
昨晩、俺の家がいいと、いきなり言い出した未来を俺は快く受け入れた。
だけれども、さっきから未来の様子がおかしい。
「え、えへへ! なんとなく悠の家でゆっくりしたかったの」
ニシシといつもより少し元気が無いようなきがする未来はそう言った。
「そ、そっか」
何も聞かないほうがいい、何かショックなことがあったに違いない。
「ゲームする?」
俺の問いに、未来は首を横に振る。
「ゆっくりしたいな」
あはは、と笑いながら未来は俺の顔を見て言った。俺はそんな未来を心配に思い、少し近寄る。
「み〜く」
俺はできるだけ笑顔を作り、未来の頭に手を乗せた。そして、ただ無言で頭を撫でる。
「むぅ」
未来がそう言って、拗ねた格好をするが、こうやってすることを未来が望んでいることを俺は知っている。
何か悲しいこと、辛いこと、大変なことがあったとき、未来にこうやってするといつも笑ってくれるからだ。
そして、今回も未来は…
「み、」
俺はそこで言葉を発するのを止めた。いや、発せなくなった。未来が俺の口を口で塞いだから。しかも、いつもより長いキス。
「ふぁ」
キスが終わると同時に、未来の吐息が漏れる。
「どうしたんだよ?」
あまりの出来事に、俺は慌てて未来にそう言った。
「びっくりした?」
ニシシと小悪魔のような笑みを浮かべている未来は、少し悲しそうな表情をしていた。そして、俺は次の言葉に冷や汗をかくこととなる。
「私、悠の事信じていいんだよね?」
「え」
「だよね?」
「あ、ああ」
いきなりどうしたんだ。
「……」
未来は黙って俺に抱きついて、覆いかぶさってきた。
「未来?」
何を言っても、無言を突き通す未来。
それからもう何分経っただろうか?
「温かい」
未来は俺の胸の上でそう呟いた。
「未来」
俺はそっと抱きしめる、何があったのかは知らない。ただ、抱きしめたくなった。
だって、未来が泣いているんだから。
「落ち着いた?」
少し時間が経ち、俺は無言だったこの部屋で呟く。
声は聞こえなかったが、首をカクンと縦に一度振ったのが分かった。
「何かあったの?」
もう一度聞いてみる。未来は俺の顔を見上げて、軽く微笑みながら首を横に振った。無理しているのが見え見えである。
しかし、そんな未来に何をしてあげられるわけでもなく、俺はただ抱きしめるだけだった。
深く深く考えればわかるこの涙の真相を俺は数時間後知ることになる。気付いていれば、深く考えていればと今までも何回も思ったのに、何一つ学べていなかった俺自身を後悔することになった。
「じゃあな」
日が暮れると、未来は自分の車に乗って帰っていった。俺はその姿を見送ると、自分も帰る準備に取り掛かる。
荷物を全て持った後、俺はキヨ爺に連絡をし、迎えにきてもらうようにいった。電話から数分後、キヨ爺の車に乗って俺は実家へと向かう。
俺の家の庭は龍之介の家ほどでかくないから、門の前で車から降りる。そのとき、俺の背中に電気が走った。
「な、んで?」
その声の持ち主は俺ではない。
「信じて…いいんだよね?」
紛れも無くその声は未来のものだった。
更新遅れてしまい、申し訳ございません。
19日がテストなのと、一ヶ月ほど前から家が少し大変になったせいで、小説にあまり手をかけられませんでした。
これからは少しだけペースがあがるかと思います。
そういえば、知らぬ間に10話をきっていました。
完結まであと少し。最後まで付き合っていただけると盗鬼は感動してしまいます。