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#24 順調だよ?






「ただいま、帰宅しました」


楽しかった遊園地も終わり、俺は親父の部屋へと踏み込んだ。


「遅かったな」


帰宅時間は20時すぎ。今までの俺、そしてこの家にしては遅いほうだった。


「申し訳ございません」


俺は軽く頭を下げると、今まで資料に目を通していた親父の目は俺に向けられた。


「アメリカへ行く手続きは順調だぞ」


それだけ言うと、もう一度親父は資料に目を向けた。


もしかして、それだけを言うために俺をこの場所へ呼んだのか?


「…失礼します」


俺は振り返って、親父の部屋の強大なドアを押し開けとき、親父に名前を呼ばれた。


「何でしょうか?」


俺は少し反抗気味に振り返る。


「彼女とは仲良くしているのか?」


―――っ!!!


こいつっ!


「…何のことなのか、分かりかねます」


俺はそう言って、部屋を後にした。


多分親父は、今までの俺の変わりようから俺について調べさせたのだろう。お金だけは余るように出てくるのだから。


ということは、俺が未来と付き合っているということもバレているのだと思っていもいいだろう。


…親父。


怒りというものが、俺の心に渦巻いていた。


未来とはもう離れられない。もう、未来無しの生活は考えられない。


「未来ッ」


俺は未来の名前を呼びながら、自分の部屋のベッドにしがみついた。



「お坊ちゃま」


「…ん?」


頭上付近から、キヨ爺の声が聞こえてきた。


「夜の食事はどうなされますか?」


「…ごめん、いらない」


何も食べる気にはなれなかった。未来を失うかもしれないこの状況なのだから。


「いいえ、駄目です。食べてもらいます」


そしてキヨ爺は無理やり、俺をベッドからおろした。


「ちょ、キヨ爺…」


「用意しております」


そういい残すと、キヨ爺は俺の部屋から出て行った。


ここまでキヨ爺が強硬手段に走ったのは、俺がこの高校に無理やり入れられたとき時ぐらいだろう。


あの時は、どうしてもこの高校に入りたくなくて、家で一晩中泣いていたときだった。キヨ爺は俺の部屋に無言で入ってきて、背中をバチンと強大な音を奏でるように叩いたのだ。


「クヨクヨしていても、何も進みません。お坊ちゃまは、この屈強に打ち勝てるとキヨ爺は信じております」


そう言った後、にこっと笑ったキヨ爺の顔を今でも忘れることは出来ない。


このときのキヨ爺は、衝撃的な出来事だった。今まであんなにも強く背中を殴られたこともなかったし、信じているとも言われたことがなかったからだ。


本当に嬉しかった。


キヨ爺は唯一、この部屋で俺の居場所を作ってくれる人間だと、このとき思ったのだ。


そして今回もキヨ爺は俺を救っていた。


あのまま俺がベッドで放置されていたら、なにをするか分かったものじゃなかった。


一瞬俺の頭をよぎったのは、逃亡という二文字。


この家から出てしまえば、もうどうってことはない。そう考えたのだ。


だけど、そんなことをしても結果は見えている。


俺は大きく息を吸ってから、自分の部屋を出た。






―――3週間がたった。


俺は何の解決方法を見つけられずにいた。ただ、未来の隣で幸せを感じていただけだった。


これから来る、悪夢の時間を知りもしないで。



「大将」


俺の後ろから聞こえてくる声は、いつもの龍之介のものだった。


「な、何?」


いきなり話しかけられた俺はしどろもどろになっている。


「最近、どう?」


そう言っている龍之介の表情は、少し寂しそうに見えた。


この何ヶ月かで、龍之介の表情も今までよりはっきり分かれてきた気がする。今までは何を考えているのか分からなかったが、最近ではほんの少しだけ笑うようになったし、さっきのように寂しそうな表情を見せることも多くなった。


俺だけではなく、龍之介も変わってきているのだ。


俺も変わっている自覚はある。今までどおり、学校では目立たないようにしているが、未来と二人になると、無性に甘えたくなるのだ。今までそんなことがなかったらから、正直今の自分の気持ちに戸惑っている。


「どうって…。まぁ、順調だよ?」


俺はニコっと笑って、龍之介に返事をした。


「勉強も?」


「…うん」


肯定の返事をしたが、前よりも勉強が進んでいると言い難い。昔と同じぐらいという言葉が合うだろう。


未来と一緒に居ないときは、勉強に時間を費やしているし、提出物だってしっかりとしている。


「協力、する」


「…ありがと」


俺は涙を必死に抑えて、いつものように笑った。



「は〜い、席について!」


俺が龍之介と話していると、未来が教室へ入ってきた。


俺の席は特等席。一番、未来を間近で見られるという特権つきだ。付き合う前まで、いや好きと自覚する前までは、その席が苦痛でしかなかったが、今はここでよかったと思う。


目の前にいる未来は、俺を『悠』とは認識していないが。


「これから、テスト範囲の書いてあるプリントをお配りします」


その言葉が聞こえた瞬間、俺の心は跳ね上がった。


「テ…スト」


誰にも聞こえないようにそっと呟く。


そうだった、明日からテスト考査期間に入るのだ。テスト前の準備期間と言ったほうがいいだろうか。


先生達がテストを作成する時間のためにあると言っても過言ではない。


そのために、部活がこの時期だけ休みになるところも多いのだ。


この期間は、職員室に入ることも許されない。テストカンニング防止のためだ。


そして、俺はこのカンニングをするための、取って置きの切り札がある。そんな言い方をしたくないのだけれども。


「大将君?」


聞きなれた声が、俺の目の前から聞こえてきた。


「プリント、回してくれる?」


純粋なその笑顔で俺の顔を覗き込んできた。


「は、い」


俺は詰まりながら返事をして、プリントを受け取る。


「それで!」


その後、プリントの内容について詳しく説明していたが、俺の耳には全く届いてこなかった。


目を瞑る。


あぁ、未来。



「では、テスト勉強頑張ってね!」




心が痛い。痛いんだ。


「未、、、来」


俺は声に出して、未来の名前を呼んだ。


その声は誰にも届かずに、ただ俺の耳だけに残っていた。
















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