#22 大好きだよ
「ど、どうしたんです?」
いきなりの訪問に、ドア越しにいる彼女は戸惑っているようだ。
「少し、話せませんか?」
俺のその問いに、口を閉じてしまったドアの向こうにいる人物は、肯定の意味をこめてなのか、ドアをゆっくりと開けてくれた。
決着をつけよう。
俺は、今日家に帰ってからそう心に決めた。もう、未来先生の泣いている姿は見たくない。だから、俺が…言うしかないんだ。
全てがうまくいくように。
「…どうしました?」
俺はリビングらしきところにつくと、座布団の上に正座をした。そして、そのまま地面に手を付き、頭を下げる。
「未来さんは、あなたが大好きなんです」
いきなりこんな事を言われるとは思っていなかったのだろう。俺の言葉にびっくりする彼女は、口をぱくぱくしていた。
「え、え?」
戸惑いながら、頭をあげてくださいと言う彼女の言うことを聞かず、俺は頭を下げたままで居た。
「未来さんは、泣きながら俺に言ってきました」
全て本当のことを言おう。そうすれば、彼女…美智子さんだって分かってくれるはず。
「私は、別に怒ってなんか…」
「じゃあ、なんでギクシャクとしているんですか?」
未来先生と、美智子の情報は恭平さんから伝わってきている。というか、俺がただ問いただしただけなんだけどね。
「そ、それは」
「俺を恨むのは勝手です。でも、未来さんを妬むのは違うんじゃないですか?」
ちょっと棘がある言葉だが、今の俺は気にとめることが出来なかった。ただ、心から溢れ出てくる言葉を、口から放出しているだけ。
「でも、あの時未来は悠さんに振られて泣いている私を放って、貴方に会いに行っていたんですよ? ちょっと、言いたいことがあるから行ってくるって…。なのに、帰ってきたら、未来は『告白、されちゃった…』って言ったんだよ…? 私への当て付けなの? なんで、未来ばっかりいい思いするの? いつもいつも未来ばっかり…」
あの時とは俺が未来先生に、あの公園で告白したときだろう。それにしても、美智子は勘違いをしすぎだ。未来先生の言いたいことは、俺に対する『好き』という言葉じゃなくて、『なんで美智子を振ったのか』という質問であること。そして、未来先生は美智子に隠し事が出来なかったのだろう。だから、言ってしまっただけなんだと思う。
「未来さんは、俺が呼んだとき、なんて言ったと思いますか?」
「……」
「なんで、美智子を傷つけたんですか? って」
「ぇ…」
美智子の小さな声が、ふと漏れた。
「私は、美智子を裏切れません。って、言ったんですよ?」
「あ…」
「俺は、諦め切れませんでした。正直、本当に未来さんのことが好きなんです」
「…そんなこと」
俺は美智子の言葉を遮って話し続ける。
「でも、未来さんは俺よりも、美智子さんを選びました」
「え?」
「もう会わないって言われちゃいました…」
俺は苦笑いしながら、美智子に目をむける。今日会ったことは、多分まだ聞かされていないだろう。
「でも…」
戸惑いの表情を見せる美智子。
「でも…じゃない。未来さんと一緒に居る美智子さんなら、未来さんのことを一番にわかってやれるはずだ。未来さんが貴方達を一番に考えないとでも、思っていますか? 本当に応援していなかったと思いますか?」
俺の問いに、美智子は俯いてしまっている。
「本当は、分かっているんですよね? でも、心がうまく理性についてこないんですよね」
今なら少し分かる、美智子の気持ちが。
「…悠さ、んが」
美智子は震える声で、俺の名前を呼んだ。
「ただ、未来と付き合いた、いだけなんじゃ、ないんですか?」
「…実際のところは、付き合いたいです。もっと、一緒に居たいです」
「ぶっちゃけすぎですよ」
美智子は軽く笑みを見せてくれた。
「でも…」
そして、俺は決めた。決着を付けにきた。
「でも、未来さんのために俺は」
そして、ここまでやってきた。もう、未来先生の泣いている姿は見たくない。
「もう、会わないとこうかと思っています」
俺は、心に決着をつけた。恋は盲目というが、まさしく俺がその状態だろう。
現代文の成績のことがあるが、恭平さんの言うように、今から死に物狂いで頑張れば、点数をあげられるかもしれない。もしかしたら、奇跡が起こるかもしれない。
そんな決意を、俺は決めた。
「え?」
「だから、どうかもう一度、あのたの…しそうな、、、三人でいて、くだ…さ」
俺がそういいながら立ったときだった、ふらっと足場が抜け…いや、実際には俺の足がしっかりと立たなかったからだ。
俺は、美智子の家の床に、崩れ落ちた。
「あ…れ?」
体が思うように動かない。それに頭もなんか痛いような気がする。目の焦点も定まっていない。
「ど、なって…るんだ?」
「え、悠さん!?」
必死に俺を揺すり起こそうと美智子さんの顔が、目の前にあった。
「悠さん! 大丈夫ですか?」
呼ばれているのに、声が出せない。美智子さんは、机の上に置いてある携帯を手に取り、誰かに電話をかけているようだ。
「未来っ! 悠さんが! どうしよ! たおれちゃって…あんた彼氏でしょ! なんとかしなさいよ!」
ああ、未来先生か…。
そう認識したとき、俺の意識はどこかへと行ってしまっていた。
「悠…さん」
目の前には、俺が待ち望んでいたあの顔がそこにあった。
「み…く」
俺はかすかに口を動かしながら、その名前を呼んだ。
「寝なさすぎ…だそうですよ」
そういえば、ここ何日寝ていなかっただろうか。昨日は未来先生の家で徹夜したし、その前は心配になって寝られなかった…。
「すみません…」
とりあえず、謝っておこう。それにしても、ここは何処なんだ。薬品のにおい、天井に白い網掛け模様。真っ先に思いつくのは、診療所だ。そこまで大きい病院の雰囲気でもないし。
「どれだけ心配したと思っているんですか…」
あきれた顔で、俺の顔を見つめてくる。
「でも、これからは…」
未来先生の言葉は、そこで止まった。何が言いたかったのだろうか。
「あの、悠さん?」
「はい?」
未来先生は、俺のおでこに手を乗せニコッと笑った。
「私達、付き合っちゃいましょうか」
…え?
俺の中の時間が一時停止したかのようだった。それは、あまりにも突然の出来事で。
「付き…って?」
「その、恋人になろうって言っているんです!!」
「え、ええええ!!」
…ここは現実か? 倒れたまま俺は妄想という世界へと入り込んでいるんじゃないだろうな? それともなんだ、これはドッキリ作戦か?
戸惑いながら俺は未来先生を見ていると、ひとつ息をはいて彼女は話し始めた。
「美智子に言われたんです。悠さんと付き合えって」
「……」
「美智子、今日の悠さんを見て、別人だと思ったって言っていましたよ。そこまで熱くなる人だとは思っていなかったらしいです。それでもカッコイイって言っていましたが」
そう言いながら笑顔を見せる未来先生。だけど、俺にはそんな言葉たちも耳には素直に入ってこなくて、ただ驚きの表情を見せるだけだった。
「…本当に、付き合えるんですか?」
「はい」
未来先生はニッコリと眩しいぐらいに笑ってくれた。その笑顔がいとしくて、肩を抱き寄せた。
「やった…」
心で呟こうと思ったこの言葉が、そのまま口へと出てきてしまった。そして、未来先生も俺の背中に手を回す。
「悠さん」
俺はその言葉につられ、未来先生の顔を見ようと密着している体を、少しだけ引き離した。
「どうし…」
最後まで俺の口は話し続けられなかった。
だって、未来先生の口が俺の口を塞いでいたから。
「未来」
「何?」
「大好きだよ」
「ちょっと、もう…」
「未来は?」
「えっとねぇ…」
今回の話で、予定上の第一章が終了しました。
どうだったでしょうか?
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