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#01 日曜日…暇?

春。


そよ風に乗せられ、この時期がやってきた。


今年も、ただ平凡に過ぎていく季節だと思っていたのに。


昨晩、ちょっとした強風は、俺に襲い掛かってきたのだ。親との勝負に負けるわけにはいかない。何度も言うが、ここから俺は離れたくないのだ。


「一席、青木 夕菜さん」


教壇に立っている俺たち2年A組の担任である女の先生が、窓側の一番前の席に座っている女の子の名前を呼んだ。


呼ばれた女の子は、聞こえるか聞こえないか、小さな声で返事をする。


これから一年間を、一緒の教室で勉強をする仲間達がいるこの教室で、俺は静かに座っていた。


学校全体の人数は他に比べたら多い。だから、一年間この学校にいたからと言っても、このクラス内でも初めて見る顔ばかりだ。


その中に、俺の親友と呼べる男が入っていたのが幸いな事だろう。


「13席 小泉 龍之介君」


「はい」


ちなみに、さっき返事したのが俺の親友と呼べる友である。


「14席 紺野…」


先生が、名前を呼ぶのを途中で止めた。


「紺野 た、たいしょう君?」


「…だいすけです」


「あ、ごめんね! 紺野 大将君」


俺は控えめな声で返事をした。


俺の名前は紺野大将こんの だいすけ。大将と書いてダイスケと読む。大抵の人は、俺のことを最初『たいしょう』と呼ぶのだ。慣れたから、間違えられたからと言って、どうって事ないが。


そんなことを考えているうちに、あの先生はこのクラスに居る全生徒の名前を呼び終えたようだ。


「私は、諸戸 未来って言います。『みらい』と書いて『みく』と読むの。間違えられやすいぶん、私の名前は覚えられやすいのよ」


そんなことを、汚れのなさそうな笑顔で言う。


「これから、みんなに色々お世話になるけど、よろしくね!」


数人の生徒が「よろしく〜」と返しているところを見ると、この一年間なんとかこのクラスはなんとかやっていけそうな気がした。


まぁ、この先生だからってこともあるのだろうけど。


「ちなみに、私の担当科目は現代文だから、分からないところがあったら、いつでも聞きに来てくださいね!」


先生が元気よくそういうと、クラスの半分ぐらいの人が「はーい」と返事をした。


…いや、もっと簡単に言うとクラスの男子共だ。


進学校と言っても、中身は男。あんな若くて、可愛らしい先生がいるのに、興味を持たないわけがない。


かという俺も、先生に興味を持った一人である。


それは、男の性とか、そういうのではなく、担当科目に興味を持ったのだ。


俺が、成績不順の理由の大半は、現代文の点数が平均並みなのだ。


どうしても、得意になれないあの科目。


あの科目を克服しない限り、親と約束した成績には届かないだろう。


どうも、この進学校というやつは、一つの科目でも平均的な点数があったら、上位に食い込めないようになっているらしい。


だからと言って、現代文だけを勉強していては、他の科目で点数を落としてしまう。


なんとか…楽に現代文の点数を取れる方法はないものか。







そんな事を考えながら、1ヶ月と半分ぐらいの時間がたっていた。


その間には、クラスの生徒と仲良くなる機会もなく、ただ時間だけが過ぎていくだけだった。


しかし、その時期には一回目のテストがあったのだ。俺はいつも以上に勉強をしたつもりだったのだが、点数はいつもと同じぐらい。それか、少しいいなって感じたぐらいだ。


それにしても、今回もどうやら現代文が俺の足を引っ張ったようだ。


つまり、学年9位以内はまだまだ手に届く距離ではなかった。


「なぁ、龍之介」


俺は最後のテスト返却時間のチャイムが鳴ったと同時に、前の席に座っている龍之介の背中をシャープペンシルでツンと突っついた。


「ん?」


「現代文、どうしたら点数を取れると思う?」


「…カンニング」


「お前、顔に似合わず変なこというよな」


龍之介のルックスは、一言で言うとカッコイイ。


付け加えて説明すると、整った顔をしていて、眼鏡をかけている。しかし、その眼鏡も度の入っていない眼鏡。俺と同じように、カッコイイと言われるのが嫌でかけていると言っていたが、外見は全く変わっていない。むしろ、その眼鏡のおかげで、かっこよさが上昇していることを龍之介は気づいてない。まぁ、同じような感情を抱いている俺だからこそ、ここまで親しくなれたのだろう。


噂に聞くところによると、こいつの熱狂的なファンが、龍之介様を守る会なんてものを作っているらしい。


どこの漫画から引っ張り出してきた話なんだ。ベタすぎるだろう。


「龍之介は、頭良いからいいよな。勉強しなくても、点数取れているんだから」


「勉強している」


言うのを忘れていたが、龍之介はちょっとした、学校の有名人だ。と言うのも、龍之介は入学して以来、学年成績を一位以外とったことがない。そんな実績を残しているのは、創立以来龍之介だけらしい。


「その勉強の仕方を教えてほしいものだよ。俺がどっかの国に飛ばされて、奴隷同然の生活をしてもいいというのなら別だが」


「してもいい」


「おい」


「冗談」


…言っておくが、さっきからこいつは俺の顔を一度たりとも見ようとはしない。


ずっと、手に持っている本に目を向けている。


なんだか分からないが、難しい本ということは見ただけで分かった。


だって、英語で全部書いてあるのだから。


俺だって、一応そこそこの成績は取っているから、辞書や自分の頭を使って読んでいけば、5分ぐらいで一ページを読み終えられる自身はある。…が、こいつときたら、一度も辞書を見ずに、そこに日本語でも書いてあるのかと思うぐらいのペースで読んでいる。


つまり、早いのだ。早すぎるのだ。


どれぐらい前だか忘れたが、「ちゃんと分かって読んでいるの?」と、一度聞いたことがある。


こいつは俺の顔をチラッと一瞬覗いてから、本にもう一度目にやり、英語の文章を見ながら、スラスラと日本語で話し始めたのだ。


将来、英和訳の仕事をさせたら儲けられるだろうな、と思うほどに。


「日曜日…暇?」


次の授業開始を知らせるチャイムがあと少しで鳴るのではないか、というタイミングで龍之介は俺に質問をしてきた。


「日曜日暇だけど、何かあるの?」


龍之介から、遊びの誘いが来るのは滅多にない。この機会を断ってしまったら、あと数年はお目にかかれないであろう場面だ。


「…」


俺の質問には一切答えずに、本を閉じて俺をじっと見ている。


「ひ、暇だよ!」


俺が少し大きめな声でそう答えると、龍之介は前を向いた。同時に授業が始まるチャイムが鳴る。


「素の姿で来てほしい。時間と場所はまたメールをする」


そう言った龍之介の後姿を見ながら、そういえば、今日は金曜日だったなと心の中で呟いた。



















貴方は、彼の名前を読めましたでしょうか?


紺野は普通に読めますが、大将は『たいしょう』と読んだ人が多いのではないでしょうか?

大将=だいすけ なのでお気をつけください。

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