#12 付き合っちゃいます?
結局、全員が揃ったのは17時10分だった。
そう、恭平さんが遅刻してきたのだ。龍之介と同じ家から出発しているはずなのに、あの人だけ遅刻するとはどういうことなのか知りたい。
「ほんまごめんって!」
両手を合わせて必死に謝る恭平さんを見ると、なんだか執事の面影が見られない。本当にあの時龍之介の家にいた人なのだろうか、と疑問に思ってしまうほどに。
「恭平君! 今度から遅れてくるときは連絡をいれること! 分かった!?」
果歩は怒り気味な声で、恭平に言い放った。
「ほんまごめん」
真剣に謝る恭平を見てなのか、どうなのかは分からないが、果歩は小さな声で「けど、何事もなくてよかった…」と呟いた。
「え? 心配してくれたん!? めっちゃ嬉しいんやけど! 遅刻もしてみるもんやなぁ」
えへへと嬉しそうに笑いながら、恭平さんは頭を掻いていた。
「べ、別に! 恭平君のことなんて言ってないじゃん! 馬鹿っ!」
そっぽを向いて一人先頭を歩く果歩の隣に、恭平さんはぴったりとついた。
そういえば、こんな光景を本の中で見た気がするぞ。えっと、なんだっけ。ツンドロ? ツン…でれ?
そうだ。ツンデレだ。
男は、ツンデレに弱い人が多いと聞いたが、恭平さんもその一人のようだ。
「仲がいいですね…」
いつの間にか俺の隣に居た美智子が言った。
「そうですねぇ…」
「私も…ラブラブしたいなぁ」
あれをラブラブというのだろうか? なんて疑問を持ったが、そこは特に気にしない。
「彼氏さんとラブラブすればいいじゃないですか」
「あれ、言っていませんでしたっけ? 私も今フリーなんですよぉ」
そんな満面の笑みで言うことじゃないと思うんだけどなぁ…。
「…確か、悠さんもフリーでしたよね?」
「そうですねぇ」
まぁ、狙っている人ならいるけどね。
「じゃあ、その…付き合っちゃいます?」
…は?
この女は、今なんと言った? 付き合う? 待て待て、俺が狙っているのは、未来先生であって、美智子じゃないんだけど。
「……」
あまりにも予想外の言葉すぎて、返す言葉も見つからない。
「じょ、冗談ですよぉ!」
「で、ですよね!?」
あはは、と笑いながら誤魔化すも、あの言い方は結構本気だったのだろう。とりあえず、告白されることだけは免れなければ。
美智子に告白されても、俺の答えはNOなのだ。つまり、振るって事。そうなれば、美智子の友人である未来先生とも会いにくい。遊べる確率が減るのは勘弁だからな。
とりあえず、近づかなければOKだ。
俺はちょっと歩くペースを落として、龍之介の隣についた。
「…元気?」
美智子から逃れるためにここに来たため、話す内容が全く思い浮かばない。
「元気」
龍之介も即答しているし!
「その…これから何処に行くんだろうなぁ」
「分からない」
17時という中途半端な集合時間にした理由は、これからこの前同様カラオケに行くか、飲みに行くかの二択だろう。
高校生でもあるまいし、ゲームセンターなんかに行くわけ…
「よっしゃ! 飯の前にゲームセンターで汗流していくで!」
…あるみたいだ。
「おー! ゲームセンターとか久しぶり!」
果歩もノリノリだし…。
そして、俺達はゲームセンターに着き、初めに、UFOキャッチャーがある場所へと皆で足を運んだ。
「かわいい…」
俺のそばで、未来先生の物欲しそうな小さな声がした。
未来先生の目線を追ってみると、なんだかリラックスしそうなクマの人形がそこにあった。どうやら、この人形がほしいらしい。
…ベタだけど挑戦してみるか。
「おい、悠、置いてくでぇ!」
「あ、先に行っていてください!」
そういうと、みんなは奥に歩いていった。このゲームセンターは街の中で一番大きいゲームセンターらしい。まぁ、滅多なことがない限り、俺のこの恥ずかしい挑戦に気付きはしないだろう。
そして俺はお金をUFOキャッチャーに200円を入れた。
「悠、今どこやねん?」
挑戦すること10分。恭平さんから電話がかかってきた。
「あ、すみません。道に迷っちゃいまして」
まぁ、こんな所で道に迷うわけがないが。この変な人形を手に入れるために1000円以上使ってしまっただけなのだ。
「今、プリクラのとこにおるから、あと1分以内に来いよ」
恭平さんはそれだけ言うと、携帯をブチッと切った。まぁ、今日のセッティングは恭平さんがしてくれたんだから、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないよな。
俺はそう思い、携帯をポケットにしまって、プリクラ機のある場所へと小走りした。
「悠! 遅いッちゅうねん!」
「す、すみません!」
気持ちが焦りすぎたのか、なんと道に迷ってしまった。道に迷うわけがない、とか言っていた自分が恥ずかしい。
結局5分ほどかけて、目的地につけた。
「ほらほら、皆待ってるから、早くこいや」
「は、はぁ…」
俺はため息のような返事をして、皆が待つ場所へと歩み寄った。
まぁ、当然のごとく、女子からは罵声のようなものを浴びせられた。
「ちょ、俺も撮るんですか!?」
会話の流れで、今からプリクラを撮るという話になった。というか、俺が来る前から撮るつもりだったらしい。ただの分かりやすい集合場所ではなかったようだ。
「けど…」
「うっさいなぁ。遅れて来たんやから、口答えなんかすんな!」
「恭平が言うな!」
そういうのは、果歩。いつの間にか呼び捨てで読んでいるようだ。
「まぁ、悠君恥ずかしがらずにおいで」
果歩の言葉に、俺は何も出来ず、ただ肯定の返事をした。
ここで断ってしまったら、ただの空気が読めない遅刻の男だ。とりあえず、俺はプリクラ機に入った。
6人という数は少し多かったのか、少し窮屈に感じる…。
俺は軽く微笑み、人生初のプリクラを撮った。
今、プリクラ機の傍にある落書きコーナーのような場所で、美智子と果歩はプリクラを加工していた。この作業は男子達には任せられないようだ。
美智子と果歩の後ろで、軽く微笑みながらその作業を見ている未来先生の肩をちょんちょんと叩いた。
未来先生は頭にはてなを浮かべながら、俺の顔をじっと見てくる。
「な、何でしょう?」
「これ、プレゼントしますよ」
俺はさっき10分かけて取ったクマの人形を未来先生の前へと突き出す。
「…へ?」
その人形をみた瞬間、未来先生は驚きでいっぱいの顔で俺の目を見てきた。
「い、いいです!」
そう言って、未来先生は人形を俺に押し戻してきた。
「貰ってもらえませんかね? 俺がこんな可愛い人形を持っていたら、笑われるでしょう?」
俺はニッコリ笑って、もう一度人形を未来先生に突き出す。
「…あ、ありがとうございます」
俺から人形を受け取ると、ニッコリと笑いながら。人形をもふもふと触っている。
女の人は、さり気ないプレセントに弱い。って、本に書いてあったが、それは本当のようだ。
「大事にしてくださいね」
俺が未来先生の持っている人形をつっつきながらそういうと、彼女は大きくうなずいた。
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