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#11 心が動くとき

「…理由はよくわかった」


電話越しに聞こえてくる声は、恭平さんのものだ。


「迷惑ばかりかけてすみません…」


この対応を見る限り、恭平さんは俺の作戦に協力してくれるようだ。


「俺も、果歩ちゃんに会いたいしな!!」


そっちが狙いですか。


「果歩ちゃんとの仲を取り持ってくれるなら、考えてやってもいいけど?」


「へ? それはもちろん!」


あんなに意気投合している果歩と恭平さんを、これ以上どうやって仲を取り持つのか、聞きたいぐらいだが。ここは肯定の返事をしておいて、失敗ではなかっただろう。


「別に、お前に協力とかしてないんやでな」


もし俺がバレてしまい、この作戦に恭平さんが関わっていたということが分かってしまえば、果歩と恭平さんの関係は終わってしまうに違いない。


「ありがとうございます…」


俺は恭平さんの優しさに触れ、声が震えてしまった。


家に帰ると、未来先生から受けた傷のことを忘れるために、勉強に明け暮れた。ご飯はキヨ爺に持ってきてもらい、英語の教科書と参考書を眺めている。すると、携帯がピリリと鳴り出した。


「…ん?」


携帯を手にとった俺は目を疑った。


『明日、17時に駅前集合。果歩ちゃんや、未来ちゃんも誘ったから、遅刻したら俺がパンチをくらわすでぇ!!』


と書かれたメールがきたのだ。


…恭平さん、行動早すぎるでしょ。電話だって、1時間前ぐらいにしたばっかりだ。


送信者リストを見ると、龍之介のアドレスも一緒に書かれていたので、龍之介もその行事に行くのだろう。


感謝と了解のメールを書いて送信し、俺は携帯を閉じた。


「明日か…」


今日、あんなことがあったから、明日未来先生に会うのは少し気まずい気がする。だけど、そんなことを言っている時間も残されていないのが事実だ。次のテストまで、あと数週間といったところだし。


俺は教科書を閉じて、机の中に閉まってある『恋愛完全マスター』を取り出し、ベッドの上で寝転びながら読み始めた。


「…女の子は押しに弱いと」


時には引くことも大事だが、押すことをしなければ引くことは無意味に終わる、ということらしい。


とりあえず、何を押すのだ? 何を引くのだ?


俺はそのページの隅っこにある例に目を向けた。




「お前の事、好きだよ」


「○○君…?」


〜次の日〜


「お前の事、好きだよ」


「…そ、そうやってからかうの?」


「本気なんだ!」


〜次の日〜


「大好きなんだよ!」


「何回言うのよ!!」


「お前が、俺のことを分かってくれるまでに決まっているだろ」


「もう…嫌なの」


〜次の日〜


「…」


〜5日後〜


「…な、なんで、最近かまってくれないの?」


「嫌って言われたから、見守るだけにしようかなって。好きだからさ」


「もう、いいんだよ…」


「え?」


「私も、あなたのことが…!」





と、なるらしい。


とてつもなく長い『例』だったが気にしないでくれ。どうやら、こういうやり取りが「押し」「引く」というらしい。違う意味の、引くではないことを願おう。


「あぁぁ! 日本語って難しい…」


俺が少し大きい声を出したせいか、キヨ爺が慌てて部屋に入ってきた。


「どうしました!?」


「え、いや…なんでもないよ」


俺は右手に持っている本を、キヨ爺にばれないようにベッドの中に隠した。正直、こんな本を読んでいるなんて、キヨ爺には知られたくない。


「そうでありましたか。ノックも無しに、部屋に入って申し訳ございません」


キヨ爺はお辞儀を俺にして、ドアへと手を回した。


「キヨ爺…」


俺は無意識にキヨ爺を呼び止めていた。


「はい、どうなされました?」


「…キヨ爺は、恋をしたことある?」


いきなりの俺の質問に、キヨ爺は目を丸くした。まぁ、そういう反応するだろうな。今までの俺を見てきた人なら。


「そりゃ、私もこれだけ年を取っていますと、恋をしたことはありますが…」


「難しいものなのかな?」


「難しいというより、心の問題ですからね。自分に素直になれるか、なれないかの違いだと思いますよ」


キヨ爺は俺に笑みを向けた。どうやら、キヨ爺は俺が誰かに恋していると勘違いしているようだ。


「…恋をするときって、どんなとき?」


「心が動くとき…ですかねぇ」


「心が動くとき…」


俺はキヨ爺が発した言葉を、口に出して繰り返した。


心が動くときとは、どのような感じなのだろうか。俺は、今まで恋をしたことはないし、しようとも思ったことがない。


「俺には、まだ早そうだな」


笑いながらそういうと、キヨ爺は優しい声で、そんなことありませんよ。と、優しい笑みをくれた。


「恋は、突如やってくるものです。気付いたときには、もう心は動かされているものですよ」


それから数十分、キヨ爺の昔話を聞かされたが、あまり覚えていない。


ベッドの中に、本を隠したまま俺は目を閉じて、夢の世界へと旅立った。




「ふぁ・・・!」


俺は朝の光を向かえるために、カーテンをガラッと開いた。


時計を見る限り、今の時間は朝の9時。遅くもなく、早くもない時間帯だ。


予定としては、15時まで勉強をして、それから身なりを整え、駅前の集合場所へと向かうつもりだ。


このまま、先生との恋愛ゲームに力を入れすぎて、他の科目がグダグダになってしまったら、元もこうもないからね。


俺は机に向かい、参考書を開いた。



「4x…」


ボソボソと公式を呟きながら、シャープペンシルを持っていると、携帯からすさまじい音量で音楽が流れ始めた。


「もう15時か」


俺は鳴っている携帯を止め、ポケットに入れた。そのまま、洗面所へと向かう。学校へと行く髪型、服装ではなく、世間一般でカッコイイと言われるような容姿作りにをした。この前は、何がなんだか分からず出かけたため、特にカッコ良くしたつもりはなかったのだが、今回は話が別なのだ。最初からターゲットに会うために、恋に落とすために出かける。それなりの身なりは必要なのだ。


じっくり時間をかけ、30分程度で済まし、荷物の確認、そして軽く体臭を消すためにあると思われるスプレーを体にかけた。まぁ、実際のところ、臭いといわれたことなんて記憶にないけど。


準備が終わると、キヨ爺に一言かけて家を出た。


「お待たせっ!!」


俺が駅前に着いたときには、恭平さん以外全員がいた。つまり、女3人と龍之介。…一人で心細かったろうな。


「遅いですよぉ!」


一番に話しかけてきたのは、意外にも美智子だった。どこか大人しそうなイメージがあったために、少しビックリしてしまう。


それよりも、今日は未来先生がこの前の合コンのときの雰囲気になっているのだ。機嫌が悪いというか、なんというか。俺と二人でいたときは、そんなことなかったのに。


「未来さん?」


俺が話しかけると、未来先生はビクッと動いて一歩引いた。


「は、はい?」


顔を引きつらせながら返事をする彼女を見ると、どうやらこの前の事を気にしているようだ。そりゃもう、腹が煮え返るほどムカつきはしたが。


「…元気無いようですけど、どうしたんですか?」


「緊張しているのよぉ!」


俺の言葉に反応したのは、未来先生ではなかった。


「果歩! 果歩が龍之介君は来ないから安心してって言ったから来たのに…」


「ごめん、ごめん!」


軽く悪いながら未来先生に謝っている果歩は謝る気はなさそうだ。未来先生は頬を軽く膨らましている。


それよりも、俺の読みは間違えていたようだ。未来先生はこの前のことなんか気にしていないみたい。


俺がそんな事を考えていると、未来先生は俺の顔をじっと見てきた。


「な、何ですか?」


俺が引きつる顔を抑えながら、未来先生に聞いてみると小さい声で「その…この前は、本当にごめんなさい…」と謝ってきた。


前言撤回。やっぱり気にしていたみたいだ。本当に、この人はよく分からない。もう少し…知ってみたいな。


そんな事を思いながら、俺は「今度は嫌がらないでくださいね」と意地悪っぽく言ってやった。

















本当にシリアスなのか? と問われたら、100%そうですとは言い切れません。申し訳ないです。

しかし、楽しんでもらえるように、作者は頑張って執筆したいと思うので、どうかよろしくおねがいします。





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