後編
変わり行くガイリア王国
皇竜王がさって数週間、ガイリア王国の崩壊は先ず王族達から始まった。
バルザックや一部を除く王族達、国王も前国王も……皇竜王に謝罪しながら命を自ら絶っていた。
ガイリアの王族は元々は逃亡奴隷の末裔だった。
ガイリアの遥か東には帝国と言う大国がある。帝国では奴隷制度があり奴隷はゴミと同類と扱われた。
何百年も昔、その帝国から奴隷だった彼等は徒党を組んで逃走。帝国では逃走した奴隷は問答無用で処分される。運が悪ければ見せしめの為に文字通り八つ裂きにもされる。
逃げるのは命懸け、帝国の追跡部隊は奴隷の彼等を執拗に追い回した。
草や泥水で命を繋ぎながら彼等は多数の犠牲を出しながら死ぬ思いで逃げ……そして一部砂漠に入った。
帝国の追跡の部隊も砂漠に入れば死ぬだけだと砂漠に入った一部は放置。
結局砂漠に入った一部以外の逃亡奴隷は帝国の追跡部隊により殺され切った。
泥水すらない砂漠の中でさ迷う逃亡奴隷、最初は数百人は居た逃亡奴隷も、五人しか残って居なかった。
砂漠の環境は容赦なく彼等の命を縮めた。
元々残り体力の少なかった彼等は砂漠に入った数時間後に倒れる。砂漠で朽ち果てる事を覚悟した。
しかし彼等は奇跡を体験した。
彼等はなにもない砂漠で倒れた。なのに生きていた。周りには木々がある。そして目の前には黒いドラゴン、皇竜だ。
彼等は気付くと皇竜の住む森に居た。
最初は喰われると思った逃亡奴隷の彼等に皇竜は水を与えて生かした。皇竜の傍に居た少女、後に姫巫女と呼ばれる少女から皇竜によって助けられたと教えられた。
五人の逃亡奴隷たちは戸惑いながら皇竜に感謝した。それから彼等は皇竜に保護され森に住み始めた。
自然の森で暮らすのは普通の人なら辛い日々だっただろう。しかしモノとして扱われていた奴隷達にとっては夢の様に幸せな毎日。彼等はドラゴンである皇竜に初めて人らしい扱いを受けた。
自然と彼等は涙し自ら皇竜に忠誠を誓った。
後から差別されていた亜人達も来た。皇竜は彼等も保護した。人族だった奴隷達も亜人でも仲間だと受け入れた。ガイリア王国の始まりだ。
人や亜人も多くなり最初に来た奴隷達は国を造りたいと思うようになる。そして皇竜に造る国の王となって欲しいと頼んだ。
しかし皇竜は目線が遠すぎるドラゴンでは小さな目線の人の王とはなれないと言い断った。
奴隷達は仕方なく自分達の中から王の役割を選んだ。しかし奴隷達にとっての王は皇竜だった。
皇竜だったドラゴンの事を彼等は皇竜"王"と呼んだ。何時しか皇竜王の名は全員が呼ぶ名前となった。
王として奴隷だった歴史は隠した方が良いと皇竜王から進められ奴隷の歴史は隠された。
しかし代々ガイリア王族にだけ皇竜王から建国の話しは伝えられていた。此は初代の王が頼んだ事だった。
初代はガイリアの王族が皇竜王への敬意を忘れない様に頼んだ。そしてそれは代々の王族に意思は受け継がれていた。
意思は受け継がれていたが……それは途切れた。
意思は途切れガイリア王国の本当の王はガイリア王国から去った。残されたのはガイリア王国の継承者たる資格の無い名ばかりの王のみ。
次の崩壊の兆し、移民による亜人差別。
バルザックが制限なく入れた移民はモノを生産する労働力となったが、他国の感覚のまま、他国の人間にとっては亜人は奴隷、亜人達を差別した。そしてその差別にガイリア王国の人間達も同調、ガイリア王国では禁止されていた差別が蔓延していった。
バルザックは王妃となったメルアリから他の国では亜人は奴隷だと聞いていて、少しの差別なら問題ないと放置した。
しかし……
「亜人め!」
人より一部能力が突出していた亜人達は徐々に差別される国から居なくなった。バルザックが気付いた時にはガイリア王国の主要産業の幾つか、亜人の能力でしか出来ない仕事が成り立たなくなっていた。
経済的な喪失は多大。
次に他国からの攻撃。
バルザックが導入した新しい技術は世界の最先端を走っていた。つまり他の国が欲しがる技術だ。今まではガイリア王国は他国との交流が少なく技術の独占はできていた。
しかしバルザックの方針で他国との交流は活発となり、移民も増えた。他国からの工作員や愛国心の無い移民により小金で流出された。他国も技術を導入すればガイリア王国の利益は少なくなっていく。
「くそう!!」
技術を奪った国に抗議しても意味がない。皇竜王が居ないガイリア王国は弱小国に過ぎない。交流期間も少ない弱小な国の言うことを聞く国はなかった。逆に弱味を見せたと輸出も輸入も不利な条件を付けられていった。
バルザックが産み出した繁栄は夢幻の様に見る影もなく泡のように消えていこうとしていた。
皇竜王が消えて数ヵ月、致命的な問題が起きた。
砂漠のガイリア王国を支えていた森に異常が起きた。
森の湖の水が目に見えて減っていた。森の恵みが回復するのが遅くなっていた。森が小さくなっていく姿に住民達は顔を青褪めさせた。
バルザックは森への搾取で森の回復力を越えてしまったと、慌てて森への搾取の制限を復活された。移民の多くが無視した。バルザックは無視したモノには厳罰を与えた。それでも止まらないと見せしめの為にかつての主だった帝国がした様な残酷な処刑を実効。
恐怖はあったが此で安心かと思われた。
しかし
「も、森が枯れていく」
過剰な搾取は止めたのに森や湖は本来の砂漠に戻ろうとしていた。
食べ物や水の補給が出来なければガイリア王国は…
「こ、これは皇竜王の呪いなのか!」
バルザックは国の惨状に頭を抱えそう呻いた。国民の特に移民の多くは逃げた。王妃だったメルアリも財産だけ貰い既に逃げていた。
残った住人から上がる怒りの声
「何が豊かにするだ!」
「豊かになるどころか此のままだと滅びるだけじゃないか……皇竜王様を俺達が追い出した罰なのか…」
「罰か……此所を出ていったエルフが言っていた。此所の土地は本来は砂漠しかなかった。……あの森は、皇竜王様の力で砂漠が森になっていたそうだ」
「そ、そんな!つまり…つまり…皇竜王様を追い出した時点でこの国の滅びは決まっていたの」
「そうだよ。この国が有ったのは全て皇竜王様のお陰だったんだよ!?俺達は愚かだったんだよ…」
「…確かに…確かに俺達が愚かだった……しかし根本はバルザック王のせいだ!!」
「そもそもなんで森の結界を越えれない王族の失格者が王になったんだ!」
「バルザックは王じゃない悪魔だ!」
元のガイリア国民達は国の惨状を嘆き怒る。皇竜王を追い出した元凶であるバルザックに憎しみを燃やした。
危険を感じバルザックは財産だけ持って逃げようとしたが遅かった。バルザックの居る城に数少ない残った国民は押し寄せる。バルザックを守る兵士は一人として居なかった。
「や、止めろ!俺は王だぞ!」
バルザックは捕まった。
「なんでこんな事に」
それがバルザックから発せられた理解できる最後の言葉だった
バルザックは処刑される。
「王と名乗ったからには責任をとれ」
それはバルザックが考案した森への搾取を防止する為に考えられた処刑方法、皇竜王に示す様に寄り残酷に、バルザックへの処刑はより念入りにされた。
バルザックの悲鳴は丸二日砂漠の大地に響き……二日目の朝に悲鳴はついに止んだ。
バルザックの処刑後にガイリア王国の住人の若く体力のある人間はガイリア王国から出た。砂漠を越えられない弱い年寄り達は皇竜王が帰ってくる様に毎日祈った。
毎日祈った。
そのまま皇竜王が帰ってくる事なく、バルザックが処刑された一月後には森は完全に消えガイリア王国は砂漠に完全に沈んだ。