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中編

ガイリア王国では代々の国王になる人間は国民の前で演説をする。


バルザックも20となり次期国王としての演説をすることになる。バルザックは国民が眼下に見える城のテラスに立つ。バルザックの後ろには眼を輝かせたメルアリが居た。

  

バルザックは演説でこう言った。


「ーー私、バルザックが国王になれば栄えある祖国であるガイリア王国を更に発展させ豊かにする!何れは大国を上回る事が目標である!しかしその為には相応の痛みを乗り越えなければいけない。冷静に聞いてほしい。……私はあの森で我が物顔で巣くう傲慢なるドラゴン、皇竜王を討伐する!」


最初はバルザック王子が狂ったと思われた。


「な、何をいっているのだ!!」


最初は意味が理解できず静まりかえったが、直ぐに怒声の塊の様な反発の声が上がった。


バルザックの後ろに控えた王族達すらバルザックに対して激怒していた。一部バルザックの演説を止めようとしたがバルザックに取り込まれた兵士達が止めた。


「静かに!ガイリアの民よ…これまで神聖視していた皇竜王を討伐する事に戸惑いは大きいだろう!しかし!しかし考えてみてくれ。皇竜王が居なくなった後を!

皇竜王が居なくなる!そうすれば森に入るのを阻む結界は消える。そうなれば森の恵みは今以上に得られる!

そして皇竜王を居なくなれば私の政策に反対するモノは居なくなる!我が国が豊かになり!発展することが阻害される事もなくなるのだ!国民達よ今より幸せを目指したくはないか!」


反発の声はまだある。しかしバルザックの言葉にガイリアの国民は考える。これまで皇竜王を神聖視していた。守護神と思ってきた。


しかしバルザック王子の神から授けられた様な知識のお陰で生活が豊かになっていた。その恩恵は皇竜王から受けている恩恵より遥かに判りやすい。国民は確かな幸福を感じていた。

バルザック王子が言うなら真実、皇竜王を倒せばもっと幸せになれると考えた。バルザックの言葉は人々の欲望を刺激した。


「皇竜王様を倒すなんてバカな事を!」


「けど皇竜王はバルザック王子の政策を反対してるんだろ」 


「王子の政策で俺達は豊かになるのになんでだよ!皇竜王様は俺達の味方でないのか!」


「向こうからしたら俺達の幸せなんてどうでもいいだろ」


「そう言えばあの森の結界のおくには、皇竜王が独り占めにしてるとんでもなく旨い食べ物があるそうたぞ。」


サクラを混ぜたバルザック王子の世論工作。


善くも悪くも単純なガイリア王国の住人、バルザック王子より皇竜王を批難する声は徐々に大きくなっていく。


時間が経つと徐々に討伐の反対派は少なくる。


「ガイリアの民よ!皇竜王が真に我等の神ならその命も我等の為に捧げてくれるだろう」


結局ガイリア王国の民の過半は皇竜王を討伐するのに賛同。バルザックの説得により現国王ですら賛同した。


しかしエルフや妖精等の自然と関わり深い種族や王族の半数は反対。特に先代の王族、王子の祖父は断固として反対した。

 

「なんと言う、なんと言う演説をしたのだバルザックよ!アレでは!皇竜王と完全に敵対してしまう!討伐とは何を考えている!?我等王家は皇竜王への恩を忘れてはならないのだぞ!それを!」


バルザックは血管が切れそうな程に怒鳴る祖父をバカにした様に笑う。


「何が可笑しい!!」


「いえ、お爺様、その皇竜王への恩とは何です?歴史は学びましたが我々が恩恵を受けた覚えは有りません。多少民を助けた話や知識を与えられた話が有りますが其だけです。たった其だけで森の過半を占拠しているドラゴン(害獣)を、今まで見逃して来たのが可笑しいのですよ」

 

バルザックの言葉に前国王は首を降る。


「……バルザック、お前は知らないだろうが全ての王族は皇竜王からこの国の真実を伝えられるのだ。我々には皇竜王に返しきれない程の恩義がある」


結界に拒まれたバルザックだけが知らない。侮辱する言葉に聞こえバルザックは顔をしかめた。


「その恩とは何の事かは知りませんが……本当の事ですか?ドラゴンが適当な嘘をついてるのでは?仮に本当でも遥か昔の恩義でしょう」

 

「…息子よ。お前も嘘だと考えたのか」


前国王はバルザックに見切りをつけ国王に訊ねた。


「いえ父上、確かに我等には恩義があると思っています。しかしそれでも、例え恩があったとしても……皇竜王の討伐に賛同します」


「なぜじゃ!?」


「なんと言われても……皇竜王は最近頻繁にバルザックの知識を広める事に対して反対をするのは知っていますよね。バルザックの知識は国を豊かにしているのにですよ?

国益の為に皇竜王と決別する事を決めました……国を豊かにする事が国王の何より優先すべき至上の命題だと教えてくれたのは父上では無いですか」


「それは、言ったが道義に反して言いとは教えては居ない!」


「建前はともかく国が本当に道義なんて気にするのは可笑しいんですよ。自国が豊かになるならなんでもしませんとね。」


前国王にはバルザックの言うことは少しは理解は出来ても納得は欠片もできない。


「…皇竜王が居なくなればその国が滅びる!本末転倒ではないか!」


「滅びる?お爺様その滅びの理由は?皇竜王が滅ぼすと言う事ですか」


「違う。皇竜王が何もしなくても皇竜王が居なくなれば滅びると聞いている」


「は?理由を聞いてない。そんな話を信じるのはどうかと思いますよ?……まったくバカなドラゴンの嘘を聞かされるなら私は結界を越えられなくて良かった」


バルザックは鼻で笑った。


「なんじゃと!!」


「それにお爺様、あの様子なら議会の大半が賛同せるでしょう。此は国王であっても覆す事は出来ない事です。」


「ぐぅ…いや、まて!…皇竜王をどうやって討伐する気じゃ。この国の兵士を全て集っても下位のドラゴンも倒せないだろう」


前国王が言うとおりだガイリア王国は平和で兵士の質は低い。それはバルザックも知っている。


「それはご安心を既にS級の冒険者を10人以上、ギルドに頼みました。後数日で到着するそうです。彼等ならあの皇竜でも倒せるでしょう」

  

冒険者ギルドのSランク、災害クラスの魔物、つまりドラゴンクラスを単独で倒せる強さ。

Sランクが複数なら確かに皇竜王の討伐は可能かもしれない。しかし討伐に失敗したらどうなるか考えているのか?


「バルザックお前は何時からギルドに依頼した」


黙っていた国王が聞いた。Sランクは国に数人居るか居ないかだ。その貴重なSランクを集めるのは時間が掛かるだろう。それもガイリアの様な辺境に集う、とても数日で済まない。


バルザックは一年前と答える。つまりバルザックはもし演説が失敗しても討伐は強行する気だったのだ。


前国王は心底不快そうに顔を歪める。国王も同様だ。


しかし此処まで来ると引き返す事も出来ない。


「……結界はどうするのだ。王族か姫巫女でもないと結界は抜けられないぞ。Sランクの者達が結界を破壊するのか?」


「いえいえ、そんな事をすれば森も壊れるかも知れません。もっと簡単な方法です。結界は皇竜王が貼ったモノでそれを代々の姫巫女は操作出来るのですよね?」


「そうだが皇竜王を討伐するのに姫巫女が協力など……まさか」


いやらしく笑うバルザックを見る。


前国王は今代のまだ十を越えたばかりの物静な姫巫女の姿を思い浮かべる。幼くても美しかった。


「既に姫巫女を確保に動いております。お爺様の言う通り強情でしょうが私自ら説得をします。」


バルザックは王族として失格だと言った姫巫女に恨みがある。……バルザックは美しい幼児を相手にすると考えて少し興奮していた。


「貴様はなにを考えている!」

                 

前国王たる祖父はバルザックが結界に拒まれた時点で王族から降ろすべきだったと後悔した。これは性根が腐っている。


「息子よ。姫巫女への説得はワシがする」


「なにを」


「そうですね父上お願いします」


バルザックは反発したが国王は直ぐに認めた。一般的な感性しかない国王としてもバルザックの言動には嫌悪していたからだ。


バルザックは渋々諦めた。

  


姫巫女の私室に前国王は居た。


「……申し訳ない」


「……」

 

50代の前国王は蒼い髪をした幼い姫巫女に止めれなかった事を謝罪し土下座をしていた。


「姫巫女殿……結界を解いて欲しい。」


前国王は真摯に頼む。討伐には反対の立場だが、もし前国王が失敗に終ればあのバルザックが強行な手段に出ると考えてだ。


「わかりました」


姫巫女は結界の解除にアッサリと同意。


「な!?」


アッサリ同意され前国王が驚いていた。


そして姫巫女の表情を見て理解した。


「姫巫女殿……」


前国王は姫巫女が自分を見る"哀れむ"表情に終わりを予感した。



数日後、


バルザックや国王達は森が見える城壁に集まっていた。


「これはなんと壮烈な光景だ」


城壁の下に集まった戦力はSランク十数人、一人一人が世界で名を響かせる強者達、やり方次第では大国とも戦争が出来る戦力だろう。


辺境には居ない強者達、戦闘経験の無いバルザックでさえSランクの威圧感に震えた


バルザックがギルドに竜王が居なくなった後の利益も考え、潤沢なガイリア王国の国庫の半分が空になる程の大金を払い揃えた。


「さぁ姫巫女よ結界を消せ」


バルザックは本来国王と同等の扱いであるべき姫巫女に平然と命令する。既に皇竜王の権威など欠片も無いと考えてい事が判る。

皇竜王を討伐すると決めても長年敬ってきた相手、ガイリア王国の人間の中には敬う気持ちは残っている。バルザックの言動に顔をしかめないの他国から来た王子の傍に居るメルアリぐらいだ。


剣をチラつかせる兵士を見ながら姫巫女が表情を変えずに手を翳す。


ガラスの割れる様な音と共に森の結界が消えた。


Sランクの人間達は地を駈ける。まるで猛獣が駆けている様に見えた。犯される森の奥地、人は皇竜王の住み家まで押し入った。


数分後森で激しい戦闘が響いた。それはバルザック達にも聞こえた。


「戦闘が始まったか。見えないのが残念だな」

 

緊迫した空気の中、バルザックは映画を見る観客の様な気分でそう言う。

バルザックの台詞に豪胆だと思われず軽薄だと感じる人しか居ないのは、バルザックの悪い意味の人徳だろう。


森は静になった。


「やったか?」


国王がそう言った。


バルザックとメルアリはその台詞に目を剥いた。


「あ、あれは!」


森から巨大な何かが飛び立つ。飛んだモノは城壁に向かってきた。


文字通り山の様に巨大な身体が向かってきた


「う、うわぁぁあ!!!」


バルザックやその場の全員はぶつかると身を伏せた。


衝撃は来ない。変わりに羽の音が聞こえる。飛んできた何かはガイリア王国の前に降り立った。


大きな着地の地鳴りに悲鳴が再び上がる。


伏せていた顔を上げ健在な皇竜王の姿にガイリア王国全体で悲鳴が上がった。


『巫女よ?どうしたのだ。何故森の結界を消した』


皇竜王の声が頭に響く。


それはまるで興奮していない日常会話の様な声色。本当にSランク十数人と戦闘をした後でないのか。皇竜王の肉体には傷一つ無い。


『結界が解けて寝るのを邪魔されたぞ。此はどうする?』


皇竜王の持ち上げた手のひらから何かを城壁に落とす。


ガチャガチャとゴミの様に落ちてきたのは……瀕死の人、あのSランクの人間だ。


この場の殆んどが皇竜王の強さを完全に見誤っていた事を悟る。しかし皇竜王は怒っている様子でもない。誤魔化せば何とかなると思えた。


「ひ、姫巫女さま(誤魔化せ!誤魔化してくれ!)」


バルザックは姫巫女をすがる様にみた。


バルザックだけでなく誰もがすがる様に姫巫女を見る。剣で脅していた兵士達もだ。


「解除はこの国の人の意思、皇竜王様を討伐したいといった」


巫女は平然とそう言う。皇竜王は沈黙した誰もが死を覚悟した。


しかし何も起きない。


『ふむ、討伐という事は私が森から居なくなって欲しいのか?別に去って欲しいなら去っても良いが……』


皇竜王は誰もが予想してない事を口に出した。皇竜王、ドラゴンは嘘をつくことはない。恐らく本当だろう。本当に去って欲しいと頼めば去るのだろう。


しかしその未練なくアッサリとしたモノ言いに、今さら皇竜王が居なくなる事に不安を感じ、身勝手にも見捨てられる様な悲しさを感じた。


『……其で、出ていって欲しいのか?』


皇竜王は国王でなく腰を抜かして倒れたバルザックに聞いた。


「…そ、そうだ。で、出ていけ」


前国王や何人かが謝罪し留まって貰おうと行動する前に、バルザックが震えた声でそう言った。


『そうか……ならば去ろう』


皇竜王はすんなりと頷くと飛び立とうと羽を開いた。


皇竜王は何かを見て飛び立つのが止まる。


姫巫女は手を広げていた。まるで赤ん坊がダッコをねだる様な姿だ。


『姫巫女よ来るか?』


姫巫女は嬉しそうに頷く。皇竜王は姫巫女を大切に抱え欠片の未練もなく飛び立つ。ガイリア国民が見る前で皇竜王は遥か空の彼方に消えていった。


皇竜王はガイリア王国には何もしなかった。そう、何もしなかった。


皇竜王が去った。


ガイリア王国の住人の多くが親に見捨てられた子供の様な気分になったのは何故だろう。


そんな中で空気を詠めない二人、


「これでバルザック様の理想の国ができますね!」


「そうだな!此からがガイリア王国の新な始まりだ」


二人の言葉に言い様の無い怒りと不安を感じなかったのは……


皇竜王が居なくなり皇竜王という大きな後ろ楯を無くした事に今更気付き、国王という重責により急激に老けた国王は引退した。


そしてバルザックは王となりバルザックの政策が殆ど採用される事になる。


皇竜王から制限されていた他国からの移民を受け入れ生産率を上げた。森からの搾取の制限も緩くし森から資源をドンドンと採った。制限されていた技術の導入もした。


閉ざされていたガイリアは他国との交流も活発となり国は発展した。



……崩壊は始まっていた。










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