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前編

死の魔境とも呼ばれる広大な砂漠のなかにある辺境の国、ガイリア王国。人族と亜人が対立するこの大陸では珍しい、人族と様々な亜人が混在して住む国。


砂漠の中のガイリア王国の近くにはとても大きな森と湖が存在していた。


砂漠から隔離された様なガイリア王国の建国前から存在している大自然。人の搾取と灼熱の砂漠と言う環境の中で、ずっと自然豊かなまま変わらない不思議な森と湖。


お陰で人口数万のガイリア王国の住民は、砂漠の国なのに飲み水や食べ物の確保が十分に出来ていた。


ただ住民が活用出来るのは森の一部だけ、この森の大半にはある存在が掛けたと言われる堅固な結界が存在していた。結界のせいで森の全てが使えない。しかしガイリア王国の人間はこの結界を神聖なモノだと認識していた。


一流の魔法使いでも破れないガイリア王国の王家の人間と、姫巫女と呼ばれるモノしか入れない森の結界。


この結界の中、森の奥深くには一頭の巨大なドラゴンが生息していた。


黄金の瞳に黒曜石の様な鱗を持ったドラゴン。

それは皇竜と呼ばれる人に最強種のドラゴンと認識された存在、結界の中は皇竜の住み家だったのだ。

                         

ドラゴンとはとても狂暴な種族と人に信じられている。実際にこの世界でドラゴンに襲われて滅んだ町や国は数知れない。


しかし皇竜は森から外に出る事は頻繁にあるが目と鼻の先にあるガイリア王国を襲わない。

襲う所か町の住民が助けられた逸話は多数あり、代々の王族の人間との交流もあり知識を授けられる事もある。この皇竜はガイリア王国建国時から存在する。ガイリア王国と深い繋がりのあるドラゴンだった。


ガイリア王国の人は皇竜の事を王国の守護神、皇竜王ガイリアと呼ぶ。


歴代のガイリア王家の人間は全て皇竜王と対面し、ガイリアの歴史を教えられている。一人として例外は居なかった。


しかしある時にガイリア王家に結界の中に入れない王子が誕生する。それは六歳の頃に発覚した。


結界に入れない事とその王子にはある問題もあり、王族から排斥しようかとも検討された事がある。しかし王子にはまるで天から与えられた様な知識があり排斥される事は無かった。


それから10年、王家の人間として失格かと思われた王子は持てる知識でガイリア王国を目に見えて豊かにした。


王子の名はバルザック。


バルザック王子から得られた知識を元にガイリア王国は急速に発展し人の生活は豊かになった。

                        

何時しか森の中に入れないハンデもはね除け、次期国王が確実と言われるようになったバルザック王子。

其だけなら良かった。ガイリアの人間は最良の王を手に入れたと言ってよかった。

 

次期国王と思われたバルザック王子は女性に人気があり、王妃の立場を臭わせバルザック王子は様々な女性と関係を持った。肉体だけの関係だ。

バルザック王子以外のガイリア王国の王族は血筋的に生真面目で、妻以外の女性と関係を持つことは殆んどない。


このままだとバルザック王子が王族として相応しくないと言う話が再燃してしまうと、バルザック王子の行為に父王は口を出す。


「バルザックよいい加減に相手を決めるのだ」


父王がそういってもバルザック王子は関係を持つだけで誰とも婚約はしない。

そんなバルザック王子が砂漠で遭難していて偶然助けられ、ガイリア王国にきた少女に一目惚れをした。


桃色の髪の美しい少女、名はメルアリ。


「私はメルアリと結婚をしたい。父上認めていただきたい」


バルザックは国王たる父親に申し出た。


王は悩んだ。


メルアリは他国の平民。


他国からは信じられない事にガイリア王国では王族でも結婚は個人の自由。

王家の人間との結婚に亜人でも地位として平民でも問題は無い。ガイリア王家では平民と結婚する例は程々にある。実際王の妃も平民の出だ。


何が問題かと言うとメルアリがガイリア国の人間でない事が問題だ。


王家の決まりとして思想に問題がある人間や、他国からの人間を無暗に王家に入れては成らないと言う決まりがある。だからメルアリは結婚相手として相応しくない。


しかし女性の身体だけを求めた王子が初めて結婚を希望した女性、ダメだと言えばバルザックが今後も女性関係で問題を起こすだろう。


結局王は…渋々だがメルアリを結婚相手と認めた。


それが……大きな失敗だったと気付いたのは取り返しのつかない事になってからだった。




ガイリア王国では貴族、王族でも亜人種でも根本的には平等だと意識付けられている。だから平民のメルアリも王子の婚約者となれた。


しかし肝心のメルアリが外の価値観のままだった。


「あの猫の獣人、亜人なのに偉そう過ぎ……他の国だと奴隷扱いなのに」


ある時はガイリア王国では禁止されている人種差別を公然とする。


「え、従者とかこんな少ないんですか、料理も自分で?この国の貴族って庶民的過ぎません」


「国の放心には平民代表の議会の承認が必要なんですか。王族なのに権力が少なすぎますよ。普通平民の意見なんて聞きませんよ」


ある時は貴族王族は特別だと口に出す。


そしてついには


「皇竜王ってなんで王様と同等の扱いなんです」


ガイリア王国では皇竜王と王の地位は同等。いや、皇竜王が否と言えば王も議会も其を拒絶出来ない。

そして皇竜王だけでなく、姫巫女、代々皇竜王に仕える巫女の立場も大きい。姫巫女には王並の発言力はある。



メルアリは可笑しいとバルザックの前で口に出した。 


「バルザック様、皇竜王と呼ばれても所詮野蛮なドラゴンですよね」


メルアリの言葉は逮捕されても可笑しくない様な発言だった。


しかしそれを聞いたバルザック


「くく、たしかにメルアリの言うとおりだな」


メルアリの言葉はバルザック王子にとっては正しい事だと思えた。ガイリア王国で生まれ育った純粋なガイリア王国の人間だったらまず無いだろう感想。


このバルザック王子は純粋なガイリア人と言えない。


地球と呼ばれる世界からの転生者。バルザック王子の知識は天から出はなく前世から得ていたモノだった。


前世の記憶を持ったバルザック。

バルザックからすれば前世の国と比べるとガイリア王国は発展途上国以下の国に見えた。


バルザックは祖国であるガイリア王国を見下している。地球では特権階級と思える王族の産まれと言うのも余計に、バルザックの態度を悪化させていた。

  

しかしガイリアでは王家に絶対的な権力はない。ガイリア王国の王族はバルザックが考える程の特権階級ではなかった。


バルザックは王族になったからには自分はもっと敬われるべきだと思っていた。王族(自分)に権力がもっと有るべきだとも思っていた。折角王族として生まれたのにやれない事が多く腹を立てていた。


バルザックが知る歴史だと王族の地位を抑えるように提言したのは皇竜王。そしてバルザックが一時王族として失格者と思わせた森の結界を張ったのも皇竜王。

そしてバルザック王子の政策の幾つかを国王に否と言い邪魔するのも皇竜王。


皇竜王は国民の数が力なのに移民を制限する。バルザックからすれぱ無限に再生する森からの搾取も制限する。他国との関わりを最低限にした。


そして未だにバルザックが王族として失格だと言っているのは、皇竜王の代理の姫巫女。


「皇竜王は敵か」


元から皇竜王の事すらただの魔物の一種と見下していたバルザック。バルザック王子にとって皇竜王が物語の中で打ち倒される悪竜としか思えていた。


ただ今までのバルザックは周りが敬う相手を敵に回す事は恐ろしいと何も出来ずにいた。


しかし外から来たメルアリの言葉は、バルザックの後押しとなり、バルザックは皇竜王を相手に完全に敵対する気になった。


「メルアリ、この国では皇竜王の事を神とも呼ぶ……」


「……そうなんですか」


バルザックの真剣な様子にメルアリは神妙な顔をして頷いた。


「メルアリ……神殺しの夫を持ってみたいと思わないか」


バルザックがニヤリと笑う。


「素敵ですバルザック様!」


裸のメルアリがバルザックに抱き付いた。



これはバルザックが次期国王と公に決まる一年前の出来事だった。



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