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【手合わせ】
緑豊かな庭園である。花壇には色とりどりの花々が咲き乱れ、小鳥の姿も散見できる。隅にはガラス張りのバーカウンターもあり、ここに足を踏み入れることができる者は優雅なひとときを約束されるだろう。屋上はそのように裕福な佇まいとなっていた。
「すごいですね」ウルチャムは周囲を見回す「立派なお庭です」
「ああ……」
「ですが、これは……」
「そうだ、少し離れてついてくるんだ」
ゴッドスピードは不吉の気配を覚え、慎重に進んでいった。それは庭園の中央にある開けた場所より湧き出しており、出どころは一人の男からである。
常人を遥かに超える身のこなしだった。四肢が虚空を切り裂き、威力が大気を弾く。青いバトルスーツ、顔は一つ目のヘルメットで覆われ、体の各所には小型の装置や銃器が装着されている。
男はふと、その手を止めた。そしてゴッドスピードを視認する。
「久しぶりだな。といっても、記憶がないんだったか」
「……何者だ?」
操作でヘルメットのマスク部分が展開する。そこから現れたのは青い髪と鋭い目をもつ、イルコードの一人だった。
「……コード・マンハンター」
「その通り」マスクはまた閉じられる「失踪者を探しに来たんだろう?」
やるか。ゴッドスピードはマンハンターの戦力を窺う。
彼の恩寵が見せる影には形があり、形があるならばそれに沿った動きをすることが常だった。そしてその影の動きより、どういった攻撃を仕掛けてくる可能性があるのか、ある程度は事前に予測できる強みがある。
しかし大きな懸念もあった。突如として交戦を始めてウルチャムは対応できるのか。初動に優位性があるという話が本当ならば可能かもしれない。だが相手はかなりの凄腕だろう、先手は取れても結果は悲惨なものになるかもしれない。
だが、そんな思案も次の瞬間には無意味なものとなっていた。どす黒い影を身にまとった存在がまた一人、現れたからだ。
「おいた程度にしておいてね」
真っ赤なロングコートを着た女だった。やはりその顔には覚えがある、コード・コブウェブに間違いない。女は優雅な足取りで歩みを進め、近場の花壇に足を組んで腰かける。
「いくらあなたでも、私たちを相手に一人ではね」
「二人です」
ウルチャムはすぐにでも銃を構えられる状態にあった。対しコブウェブの姿勢は攻勢には向かない。しかし、それでも妖艶な女の笑みは驕りではなかった。新米ワイズマンズは動けない。
「ところで、また白髪の子なの? 好きねぇあなたも……」
「また、だと……?」
「私とおいたしてくれたら教えてもいいわよ」
「失踪したワイズマンズはどこにいる?」
挑発に乗ってもよい結果には至らないと判断したゴッドスピードはあっさりと質問を変える。本音ではもちろん失った記憶に関する事柄を知りたかったが、しょせんは敵対するもの同士、偽の真実を教えられる可能性が高い以上、耳を傾ける意義は少ない。
コブウェブはつまらなさそうに小さくため息をつき、
「……そうね、すぐにでもケッヒーの前に現れるわ」
意外な返答に二人は顔を見合わせる。
「まさか、連続殺人の犯人は……」
「暇なら組手でもしようぜ」マンハンターは構える「どのみち犯人が現れるのは夜間と決まっている」
ゴッドスピードはその言葉を無視し、
「お前たちはここで何をしている?」
「ちょっとしたショウの準備よ」
「ショウ、だと?」
「あなたたちにも参加してもらうわね」
「するとでも」
「するわよ」
コブウェブは妖しく笑み、マンハンターは身構える。
「いくぜ」
足音のない一瞬での接近と高速連打、しかしその猛攻をゴッドスピードはスウェーでかわし、逆に足を踏んで動きを止めると同時に超振動ナイフで斬り上げる。その一撃はマンハンターのヘルメット、マスク部分を縦に裂き、さらに致命の振り下ろしを狙うがそれは交差された手首で止められ、あとは膂力勝負となった。筋肉の軋みが震えとなって死線を生む。
「……おいおい、組手っていっただろ……!」
「……知ったことか……!」
会話によって発生する肉体的な虚をマンハンターは見逃さなかった。柔によってゴッドスピードの左足を浮かせ姿勢を崩すことに成功、そのまま地面に叩きつけようとするが、重心移動の妙味に翻弄され逆に引き込まれてしまう。そして両者は地面に倒れ込み、寝技の応酬に入るがナイフを握っているぶん、ゴッドスピードの優位は明らかである。
「よっと」
そのとき、超振動ナイフが蹴り飛ばされ、ウルチャムの側にある樹木に突き刺さった。そして真っ赤なハイヒールが二人の眼前に降り立つ。
「おいた程度っていったでしょう」
男たちは素早く離れる。一瞬、両者は銃器を手にするが、ややして戦意をほぐした。決着は今ではない。
「記憶などなくとも腕は鈍っていないようだな」マスクの隙間から僅かに覗く表情は笑んでいる「安心したぜ」
「そうか、半分程度の力だったんだがな」
コブウェブはウルチャムに向けて肩をすくめ、
「まったく、男って困ったものねぇ」
「は、はあ……」
同意を求められ、少女は一応、頷いておいた。ゴッドスピードはうなり、
「……犯人が近く、現れるといったが根拠はあるのか?」
「あるわ。ここの内部にいるオートキラーにもアテはある。だから犯人とキラー、両者の捜索は必要ないのよ」
「……キラーと繋がりがあるらしいが?」
「意外と話せるわよ」
ゴッドスピードは思案する。すぐにでも情報を聞き出したいところだが、この状況で口を割らせることは不可能に近いだろう。かといって下手に出てはどんな策略に絡め取られるかわかったものではない。
「あの」ウルチャムが口を挟む「その、オートキラーはなにゆえに人類を襲うのですか?」
「すべてではないわね、襲われない人間もいるわ」
「えっ……そうなのですか?」
コブウェブは少女を見やり、笑む。
「もっと知りたいのならばショウに参加するのね。ここにいなさいよ、余計な手間をかける必要などないのだから。向こうにカウンターがあるわ。一杯やりましょう」
しかしゴッドスピードは踵を返し、
「いくぞ、キラーを捜索する」
「えっ、でも……」
「事実がどうあれ、ケッヒーの依頼を遂行しないとコルドーへの義理も立たんだろう」
「そう、ですね……」
「相変わらずお堅いのねぇ」コブウェブは肩をすくめる「そんな徒労をするより一緒に楽しみましょうよ」
ゴッドスピードは誘いを無視し、エレベータへと向かう。
「またやろうぜ」
その声には振り返らぬまま、中指を立てて返した。
【不可解の連鎖】
車両に戻り、ゴッドスピードは通信を開始した。もちろんイルコードについての報告である。
『やはり。ですが護衛任務とは奇妙ですね』
「奴らの仕業じゃないのか?」
『可能性としてはもちろんありますが……厄介ですね。排除するにしてもあまりよい環境ではありません。ケッヒーの私兵が敵になるかもしれませんし』
「そうだな……。というか、なぜに奴らがガードドッグなんだ?」
『セキュリティが突破されているのです。ガードドッグはワイズマンズのみで構成されているわけではありませんから、時折ハッキングされ、情報が改ざんされているとの報告を受けています』
「おいおい、対策は?」
『……実に奇妙なのですが、彼らがガードドッグとして振る舞う場合、穏便にことを済ませているそうなのです。それゆえに対策は後回しになりがちで……』
「はあっ? なんの言い訳なんだそりゃあ?」
『いいっ……言い訳ではありません、それは違います、発信者の所在がまず違います、先の言葉は私の言い分ではありません、本部よりの説明です、それを一例として伝えただけです、もちろん私も納得はしていません、ええ、おかしな言い訳に聞こえたでしょうね、そうでしょうとも、はい、ですが、ガードドッグとは、先にも申し上げましたが、ワイズマンズだけで構成されているわけではないのです、つまりワイズマンズはガードドッグですが、ガードドッグがワイズマンズとは限らないのです、わかりますか? 一般人が多数、含まれているのです、その割合は実に九割を超えます、となれば荒や隙も生まれようというもの、最新鋭ソフトウェアは提供できませんし、これは我々の安全のためにもです、ゆえに、絶対防護は不可能なのです、下手に対策しようものならイタチごっこになります、そんな暇がありますか? オートキラーや悪漢と日々戦っている我々に? そもそも……』
突如として言葉の濁流が襲いかかった。二人は目を丸くする。
「いっ……いや、待て、わかった、訂正する、あんたが言い訳したわけじゃないってことはわかったよ……」
ふと静寂が車内を包んだ。二人は息をのむ。
『……わかっていただければよいのです。ええ、私も少々、熱くなりすぎたきらいもありますし、はい、つまりはそういうことなのです……』
「まあ……えっと、厄介な相手だと……」
『ええ……そうです』
そして通信は静かに終わり、ゴッドスピードはうなる。
「……スノウレオパルドは、いつもああなのか……?」
「いっ……いいえ、初めてです……」
「そうか……」
「はい……」
「じゃあ、いくか……」
「はい……」
それから二人はコミュニティを巡回し、キラーの目撃証言を集めようとしたが一向に有益な情報は得られなかった。そして昼になり、露天のホットドッグ屋で簡単な昼食を済ませることにする。
「……とはいえ、缶詰とカロリーブロックだけでは味気ないと思うのです。料理は日々を豊かにします。そして私は料理が得意です」
ウルチャムはホットドッグを三つ平らげていった。
「料理か……エネルギーがな」
「それはやむを得ないことだと思います」
「しかし、食材とかもないしな」
「では買いに行きましょう!」
「まあ、この件が無事に終了したらな……」
昼食を終え、二人はまたコミュニティの各区域を巡ることになる。
ビル群が集まる中央区域は人口密度が高く、それだけ人の視線も多い。オートキラーが侵入した場合はすぐに大騒ぎとなるだろう。アサルトライフルを担いでいるケッヒーの私兵も散見でき、監視という意味においては充分な状況と思われた。
いるとしたなら外の区域か。ゴッドスピードは倉庫区域に車両を向けた。潜むならば物陰の多いここかもしれない。
しかし、広大な倉庫区域を精査するには時間も人手もまるで足りなかった。とはいえやらないわけにもいかず、二人は淡々と見回り労働を続け、やがて日が暮れ始める。
「どこにもいらっしゃいませんね」
ゴッドスピードはゴーグルを操作し、
「動体、感温など各種センサーにもそれらしい反応は検出されていない。明日にでも残りの倉庫区域も当たってみるが……期待はできなさそうだな」
「そもそもいらっしゃるのでしょうか?」
「いるだろうな。おそらく奴らが匿っているのだろう」
「えっ、それではまるで……」
いわれた通り徒労ではないか、といいそうになってウルチャムはあわてて黙する。
「だからといってそこら辺にもいないとは限らないんだ。何らかの意図や計画があったとしても、なんとなくその行動より外れる個体がいたりする。つまり機械らしく規律に従順なようでそうでもないのが奴らなんだな。それに、先にもいったがコルドーへの義理もあるし、すべきことはしないと」
そのとき通信が入る。それはコルドーの部下からで、ガードドッグを名乗る男を発見したという内容だった。
「本当か、どこで見つけたんだ?」
『なんてことはない、俺たちが探してることが伝わったらしく、向こうから現れやがった。あんたたちのことを話したら会いたいといっているがどうする?』
「無論、会うさ。というかまさか、ケッヒーのところの奴らじゃあないよな?」
『ケッヒーの? 知らねぇな。こっちのはなんつったか、デルックなんとか』
「デリック・ジュールだ、その人物に間違いない!」
『そうか、落ち合うならここまで来い』
そうして通信は切れる。ゴッドスピードは眉をひそめた。
「……どういうことなんだ? いったい」
「罠という可能性は」
「あるが……そもそも失踪していなかったというのか? だがなぜ車両は放置したままなんだ?」
「失踪と思わせたとか」
「他のガードドッグを呼び寄せるため、か……」
「だとするなら、あの方たちの仕業ではないでしょうか? スピードさんに執着しているという情報がありましたし」
「ちっ、いろいろ気に入らんが……無視するわけにもいかんか」
車両を回し、コルドーと会ったホテルのロビーへと足を運んだ二人に対し、黒服がバーへゆけと指し示した。なるほどバーカウンター席に場違いな格好の男がおり、もの思いげにコーヒーを見つめていた。
「あれは……!」
横顔から察するにコード・ステディに間違いなかった。
「おい、あんた!」
ゴッドスピードが声をかけるとステディは目を丸くする。
「君は、ゴッドスピード!」
「なにをしている、あんたたちは失踪者扱いになっているんだぞ……!」
「すまない、すまない……。機密情報を吐いてしまった。脅されていたんだ……」
ステディはこれまでの経緯を話した。一休みのつもりでこのコミュニティにやってきたこと、夜休んでいるとき唐突に襲われたこと、そして拷問を受けたこと……。
「……やはり奴らの仕業か」
「まだウェイジャーが捕まっている、取り返すには奴らの指示通りにしなくてはならなかったんだ。通信を禁じられ、連続殺人犯を捜索していた」
「……捜索していた?」
「そうだ」
「奴らの指示でか?」
「ああ、そうなんだ」
「……正直、あんたらが犯人の可能性すら考慮していた。無理やり、奴らにやらされていると……」
「そうか……。側から見ればそう思えるのかもしれないな。しかしそれは違うよ。実は犯人の目星はついてきたんだ」
「というと?」
「現場に残された跡がとあるサポートマシンのものと一致した。それを分析し精査したところ、ニューワールド社のパワードギア6系のものと断定されたんだ。それは元々軍用サポートマシンとして設計されており、ビルの側面ですらよじ登れるそうだ」
「なんだと? ではケッヒーも危険だな」
「ああ、だから俺は警護のためにここへ来たんだ。もちろん奴らの指示さ」
「警護の……あいつめ」
はたして失踪したワイズマンズがケッヒーに会いにくるという話は本当だった。もっとも、犯人であるとは限らないが……。ゴッドスピードは小さく舌打ちをする。
「話はさらに複雑なんだ。その払い下げ品が安価で出回っているんだけど、警察署の経費で購入した記録があるというんだよ」
「なにっ……!」
「犯人は警官かもしれない」
ゴッドスピードとウルチャムは互いに顔を見合わせた。日は暮れ、闇が支配する時間となりつつある。
【正義の名の下に】
車両を爆走させ、ワイズマンズ三人はケッヒーのオフィスがあるビルへと急行していた。
「しかし、購入したからといって断定まではできんだろう?」
「そうだが、警察署が購入した日と連続殺人が始まった日とは二週間と離れていない。状況証拠ではかなりクロいと思う」
「署長の孫は事故で足をやられたらしい、その子のためなんじゃないのか?」
「その話は事実なのか確かめたかい?」
ゴッドスピードはうなる。確かに事実とは限らない。
「エンパシー、君はその共感能力で嘘を見破れたりしないのか?」
少女はうなり、
「ええっと……そうですね、そのような訓練は受けました。的中率は九十八パーセントを超えるそうですが……」
「充分な能力じゃないか。なぜこれまでいわなかった?」
「……その、あまり誇らしい能力とは思えないからです。嘘か真かの二択で人は判別できないと思いますし……」
「……それで、あの所長はどうだった?」
「哀しいお気持ちを抱いていたのは間違いありません。ほとんどそればかりでした」
「そう、か……」
そして目的のビルへと到着、三人はロビーへと駆け込むが、緊迫した空気は感じられない。
「おい、何かなかったか?」
「何か?」ケッヒーの私兵は首をかしげる「いや? それより、またガードドッグを追加するんだってな、俺たちだけで充分だってのによ」
三人は顔を見合わせる。
「間に合ったか……」
「とにかくいってみましょう」
私兵を含め、四人はエレベータに搭乗しケッヒーのオフィスを目指す。
「……つーかよ、あいつなんとかしろよ。訓練だとかいって、一日中組手の相手をさせられる。お陰で毎日、怪我人が続出だ。今じゃあ誰も奴に近づかない」
「……知らんよ。奴は俺たちの仲間じゃあない」
「なにぃ……? 確認はされたはずだが」
「ともかく感知していない」
イルコードと接触後、ケッヒーに忠告をしたが聞き入れてもらえなかったのだ。ワイズマンズの話をするわけにもいかないので、あくまでガードドッグではないという否定の仕方になるが、表向きは正式な隊員として登録されているというのだからどうしようもない。
「……車両の件といい、奴らの好き勝手にされすぎだろう……」
ゴッドスピードがぼそりと愚痴り、ステディはうなる。
「……これまで接触したことがなかったから失念していたよ。いざ相手にすると怖気立つばかりだ……」
市長室の前にはマンハンターがおり、その周辺には私兵の姿がない。組手を要求されるので人が寄りつかなくなっているのだ。
「取り込み中だ。消えるか俺の相手をしろ」
彼がそういうと、関わりたくないのか私兵は素直にその場より去っていく。
「……さて、いいところに来たな。犯人は捕らえたぜ」
「なんだと?」
「だからここにいろといったのによ」
そしてマンハンターは市長室へと消える。
「ではなぜ……? なんだってんだ……」
訝しみつつ三人が部屋に入ると、机に突っ伏したケッヒーが目に入った。卓上では血が広がっており、その側では芋虫のようにうごめく男がいる。
「あっ、あんたは……!」
そこにいたのはマシュー・コーエンだった。作業着を着ており、上半身のみサポートマシンで身を包んでいるが、いまはそれも多数の裂傷を受け機能を失っている。そしてその傍らにはコブウェブ、マシューはその女が操っている糸で捕らえられていた。
「ああ……あなたでしたか……」
マシューは自虐的に笑んだ。
「どういうことだ、なぜあんたが……」
「なぜって……それは当然、秩序のためさ……。今こそ団結し、苦楽を分かち合う時だというのに……こいつらは金だ権力だと内輪揉めをしているばかり……。そんな愚者どもは社会の癌だ、切除しなくてはならない……」
「……それが、警官のすることか」
「ただの僕ならしていないさ……。そして警官ならばすべきことではない……。しかし僕が警官だったら、それは成すべきこととなったんだ。よそ者には理解できないだろうが、この街は法も法治者も狂っている。誰かがやらねばならないんだ……」
「ともかく終わりか……」ステディはため息をつく「約束だ、ウェイジャーを返してくれ!」
「まあ待て、こんなものはただの前座だ」
「そうよ。さあ、そろそろショウのお時間ね」
コブウェブはマシューを見下ろし、
「この街がお気に召さないようね。腐らせたのはお前たち自身だろうに」
マシューは視線だけの上に向け、
「お前らは……何者だ?」
「さあ、パーツ・ショウが始まるわ」
コブウェブはマシューを無視し、ステディを見やる。
「お前の相棒はそれが終わった後に返してあげる。さあ、立ち上がるのよ」
マシューの拘束が解かれ、彼はよろめきながら立ち上がった。
「ショウに生き残れば罪は追及しないわ。逃げたらもちろん、わかるでしょう?」
「貴様ら……! ケッヒーをわざと殺させたな……!」
「人聞きの悪い。護衛に失敗しちゃっただけよ。それにこれは換装パーツのようなもの。どうでもいいし、誰でもいい」
「なんだと……?」
「紹介するわ、第一市長のミスター冷蔵庫よ」
コブウェブが指差した先にあったものは確かに、冷蔵庫だった。
『どうも。よく冷えたビールはいかがですか?』
冷蔵庫は明朗にそのような音声を発し、その場でくるくると回ってみせた。