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愚者の楽園  作者: montana
15/33

粉砕 Battle freaks:Smash

【フリーバトル】

 ガベルの駆る巨大バイクが着地、横滑りしたまま青いキラーを銃撃していくがマントの防御をつらぬくにはいたらず、しかも、次の瞬間には前輪がなくなっていた。

「なんだとっ?」

 バイクは転げまわり、火花をちらしながらガラクタへと変わっていく。ガベルは宙に放り投げられ、地面に叩きつけられた。

 くそがっ……! 彼が起き上がるには少々の時間が必要だった。身にまとっている改造パワードスーツは軽量型とはいえ自重がある。多少の銃弾はなんなく弾き返せるものの、クッション性能に難があり、激しい転倒には弱いのだ。自慢のマシンハチェットもいつの間にか手元にない。

 しかし、追撃はなかった。青い六体は車両群を襲い始めている。アウトローたちは各所から身をのりだし銃撃で抗戦するが、青いキラーたちはあまりに俊敏だった。命中しないどころか同士討ちになっているありさま、そうしている間にも後続で玉突きが勃発している、ハンマーダインの機動力はもはや完全に喪失しつつあった。

 なんだあいつらは? あんなキラーなど見たことがない。ガベルはなんとか起き上がり、自身の得物を探した。十メートルほど先にそれは発見できたが、直後に上から青いキラーが降ってくる。

 めざとくやってきやがって……。ガベルは舌打ちしたが、次に不可解なことが起こった。キラーがハチェットを持ち主のもとへ蹴ってよこしたのだ。ガベルは足もとの得物とキラーを交互に見やり、そのうちゆっくりとそれを拾った。

「……なめやがって……」

 他の五体はいまだ車両群を襲っている。実質、一対一の戦いである。

 ガベルは青いキラーの戦力をはかった。大きな体躯と俊敏性、間違いなくパワーもあるだろう。しかもあのマントにはかなりの防弾性があるらしい。

 どうやる、どう勝つ、少なくともパワードスーツの出力は全開にする必要がある。そうしてどうにか懐へ潜り込みマントを無力化、ハチェットの弾丸を本体にブチ当てる、これしかなかろう。

「いくぜぇえ……!」

 ガベルの改造パワードスーツに装備されているブースターもまた安全性など度外視の改造品である。猛烈な炎を噴き出し、狂気的な初速で一直線、キラーへと突撃していった。

 当たる、このまま両断してやる! そう彼が確信した直後のことである。

 青一色だった。ガベルの視界にそれが広がり、次の瞬間には向かいのビルディング、その外壁に突っ込む、猛烈な衝撃とともに闇に包まれた。

 ……やれていない! 手応えがなかった……!

 捨て身の一撃はひらりとかわされた。まるで闘牛士のように、あざやかに。

 くそっ、ちくしょう、このままで済むと思うな、すぐにぶっ殺してやる……!

 そう思ったときには、さらに瓦礫の奥へと押し込まれていた。キラーの、強烈な蹴りが打ち込まれたのだ。

 パワードスーツの耐久力を超えた一撃はガベルの意識を刈りとるのに充分だった。

 しかし、彼はまだ殺されない。生命反応があることを確認すると、青いキラーは瓦礫の奥からガベルを引きずり出した。

 同じことが各所より起こっている。潰された戦闘車両群から、生存者が次々と引きずり出されていた。

 その様子を物陰より見つめているのがワッチン、彼には何が起こっているのか、まるで理解ができなかった。まるで、キラーが人間を助けているように見えたからだ。

 そんな馬鹿なことなんてあるもんか。なにかウラがあるに違いない……。

 その憶測は当たっていた。意識を取り戻し、逃げ出そうとした者たちが突如、もがくように暴れ、倒れ伏したのだ。今度は何だ? ワッチンは息をのむ。アウトローたちは一か所に集められていく。

 もしかして、逮捕か? この場でやるつもりじゃねぇのか? 実はキラーではなく、リヴェンザーの警備兵なのか?

 ふと、青いキラーたちは意識のある二人を立たせ、声を発した。

『闘争を開始せよ。形式は一対一』

 指名された二人は目を丸くする。

『闘争を開始せよ。形式は一対一。開始せよ』

 なにがなんだかわからない。アウトローたちが顔を見合わせていると、巨大な機関砲がずいと彼らの眼前に差し出される。

『闘争を開始せよ。形式は一対一』

 その脅しにより、ようやく彼らは理解した。人間同士でやり合えというのだ。

「……嘘だろ」

 ワッチンは戦慄した。なんだ、見世物にでもしようってのか? キラーが、人間を……?

 すでにアウトロー同士の殴り合いが始まっている。

 その事態に気づき、逃げ出そうとする者があらわれるが、やはりもがき苦しみ、倒れることとなる。

 こりゃもうダメだな……。ハンマーダインも終わりか……。

 あれがマジモンのオートキラー、か。噂は耳にしていたが、まさかこれほどとは……。

 そのとき、複数の戦闘車両が通りかかった。リヴェンザーの警備軍である。

 ワッチンは決めた。警備軍と青いやつらがやり始めたらさっさとずらかろう。めぼしいものを盗み回って旅に出よう。

 そしてまた、他のチームでやりなおそう。

 ヤズモ・ワッチンは影のように静かに、その姿を消した。


【優先順位】

 ハイスコアはどうしたものかと思案していた。温感センサーに複数の反応がある。そのうち動かないものは逃げ遅れた市民だろう、住宅街にはまだそれなりの数が残っているらしかった。

 それらを一人ひとり拾って助けていくより、周囲の脅威を排除した方が結果的に有益だとする立場の彼女だが、しかし問題があった。それは大通り沿いの大きな邸宅、その敷地内にある車庫より発せられている人影のようなものである。分析の結果、どうにも赤ん坊を抱いている人物らしい。

 アウトローはともかく、オートキラーはよく温感センサーを装備している。しかもこの広さの通りだ、それらが通る可能性は高く、その場合、確実に発見され殺されてしまうだろう。

 この豆戦車であちこち走り回って敵勢力を蹂躙していく方が楽しいし、結果的にはより多くの人命を救えるだろう。でもそれを優先すると、あの赤ん坊が殺される可能性が高い。

「しょうがないなー」

 ハイスコアは車庫へと向かい、ロックされているシャッターを無理やりこじ開けた、ところで銃撃される。声かけの労力を惜しんだせいで、賊だと勘違いされたのだ。

「わっ、ガードドッグだよ!」

 弾丸は彼女の腹部に直撃したが、ツナギは防弾であるし超人たるハイスコアにはいずれにせよ大した痛手にはならない。赤ん坊の泣き声が車庫内に響き渡った。

「えっ? うそっ! だっ、大丈夫ですか……!」

 子を抱いた母親である。

「私は大丈夫だけど、いまの音で敵がよってきちゃうかも」

「だい、じょうぶ……なの? 本当に……?」

「ちょっと、はやく泣き止ませて!」

「はっ、はいっ……」

 母親は赤ん坊をあわててあやすが、まるで泣き止まない。

「ええっと、こういうときは……」

 ハイスコアは資料にあった、赤ん坊を泣き止ませる方法を思い出した。そう、たしかこうするのだ。

「ゲロゲロ、ばあ!」

 そうしておどけること幾度か、ようやく赤ん坊は泣き止み、そして笑いだした。

「よっし、じゃあ逃がしてあげるから一緒にきて!」

 母親はうなり、

「ええっと、外へ出て、大丈夫なの……?」

「いまなら平気だよ、動かない方が危なくなる」

「あなたは……警備軍じゃないの?」

「だからガードドッグだって」

「ああ、そうだったわね……」

「ほらほら敵に見つかると面倒だから」

 豆戦車は一人用だが、狭苦しさを覚悟するならばあと一人ほどは乗れなくもない。母親はなんとか座席後部の隙間に体を押し込むことに成功した。

「赤ちゃん大丈夫?」

「え、ええ……」

「無茶な動きするかもしれないからちゃんと守ってね。というか耳栓になるものない? ないならその子の耳を塞いでおいて。ほら、大砲の音で耳がやられちゃうかもだから。もちろんあなたは我慢してね。ちょっとうるさいくらい別にいいでしょ?」

「ええ、かまわないわ」

「よし、いっくぞぉー!」

 豆戦車は動き出す。任務内容の詳細より、市民は中央部地下にある巨大シェルターへと避難しているとの情報をハイスコアはもっていたが、彼女は警備軍の戦力などあてにはしていなかった。むしろ敵戦力がその一か所に集結する可能性すらあるのだ、距離的に考えても、確実にこの母子を逃すならばプレーンのもとへと連れていった方がよいだろう。

 そして移動を始めるが、小さいとはいえ走る戦車は目立つもの、ハンマーダインの別働隊、多数のアウトローを乗せた改造車両に発見されてしまう。

 しかし、ハイスコアはにんまりとしていた。

「ラッキー! 耳、ふさいであげてる?」

「ええ……!」

「あなたたちをいじめた奴ら、皆殺しにしてあげる!」

 ハイスコアは車両に照準を合わせ、犬歯をむき出しにしてトリガーを引いた。しかし、大砲はウンともスンともいわない。

「あれっ?」

 砲弾は装填されている、安全装置も解除されている、ゴーグルとの同期も済んでいる。その上で発射されないということは、

「げげー、まさかの整備不良っ?」

 故障であった。ハイスコアは慌てて迂回しようとするが、当然ながらアウトローたちは銃を撃ちながら追跡してくる。小型とはいえワイズマンズの戦車である、装甲は簡単には貫かれないものの、撃たれ続けてよいことなどなにもない。

「ちくしょー! 調子にのってさぁあー!」

 ハイスコアは機銃を操作し反撃する。こちらはきちんと機能したが、アウトローの改造車両の装甲は厚い。攻撃は互いに通じず、こう着状態にあった。

「ど、どうしたのっ?」

「主砲が故障してるみたい! くっそー! ちょっと派手に突っ走るから、赤ちゃんしっかり抱いといてね!」

 代わりに機銃で反撃を開始するものの、その激音で赤ん坊はまた泣き始めてしまった。

「はいはいごめんね、ゲロゲロばあ!」

 豆戦車は住宅街を逃げ回る。庭を突っ切り、屋内に突っ込み、たまたま前にいたオートキラーを跳ね飛ばし、迂回しながら外へ出る機会をうかがっていたが、執拗な追跡は振り切れない。次第にハイスコアはいらいらしてきてしまった。

「……ねえ! ちょっとムカついてきたし、自分でやることにするから! すぐに叩き潰すけど、もしかしたらこの戦車を狙ってくるかもしんない! だから教えとくね、ここがアクセル、それでこれがハンドル、だいたい自動車と同じ!」

「はっ、えっ?」

 ハイスコアは人気のない住宅に突っ込み、そこで降りる。

「壊してもいいから、必要なら根性で動かして逃げてね!」

「ち、ちょっと、待って!」

「その子、守るんでしょ! やるしかないの!」

「いえあのっ、出て戦うのっ?」

 ハイスコアは重機関砲、キリングタイガーを構える。

「もちろん! 安心して、私めちゃくちゃ強いから!」

 決死にでも見えたのだろう、彼女の前で改造車は止まり、ぞろぞろと凶賊たちが降りてくる。

 その様子を見て、不思議な習性だなと少女は思った。どうしてわざわざ降りてきたのか。車両を盾に陣をかまえる風でもないようだ。なるほど数で勝っていれば優勢だと勘違いするのはわかる。見栄の張り合いもあるだろう。でも、あまりに不用意ではないか。

 ああ、そうか。私ってかわいいもんね。

 小さくて、弱そうにも見えるんだろうな。

 でも、この大きな銃を携えてる事実にもっと注意を向けるべきだと思うよ。

 戦力の見定めは戦場において、もっとも必要な能力のひとつなのだから。

 ふふふ、かわいそうにね。

 あはははははは、

 ははは、

 ぐるるるる。

 殺す前に、四肢を引き裂いてやろうか。

 お前たちがどんなばかものか、教えてやろうか。

 ぐるるるるぅ。


【デス・コロシアム】

 気に入らねぇ……。ガベルは忸怩たる気分だった。

 戦うのはいい。相手が誰だろうと殺し合うこと自体はいい。だがそれを強制させられることは単純につまらねぇ、機械どもの意思ならばなおさらに……。

 オートキラーなど大したものではない。そう高をくくっているアウトローが大半である。あちこち放浪する性質はキラーの大規模襲撃に遭遇する可能性を低減させたし、アウトローは基本的に寒いところを嫌うので高性能機体を目の当たりにすることも少なく、なにより想像力に欠けている傾向にあるので、少々、強そうな機体を前にしても臆することなどないからだ。運悪く高性能機体に出くわした場合はすんなりと全滅して、あとはすっきりなにも残らない。そんなことの繰り返しだった。

 ガベルは手下だった男の頭をマシンハチェットで叩き割った。銃弾はすでに撃ち尽くしており、周囲には彼がつくった死体が山積している。その中にはリヴェンザーの警備兵も多数、混じっている。

 気に入らねぇ……。俺はキングで手下は囚人、他の愚民どもはただの畜生、それがこれまでだったというのに、この場ではどうだ、まるで……。

 キラーはごく一部の例外を除き、平等である。ガベルもなんら例外ではない。周囲を青いオートキラーたちが取り囲み、戦いの場を形成している。出ようとすれば電撃やマイクロ波を浴びせられ、押し戻された。その中で放り込まれた人間たちは互いに殺し合いをさせられている。実質、そこは機械による人間のコロシアムだった。

 凶悪チームを率いるリーダーとて、ひっきりなしに戦闘員と戦い続ければ無事ではいられない。自慢のパワードスーツももはやボロボロ、身体中の傷から血が滲み出し、疲弊で思考もぼんやりとしている。視界が暗いのは日が暮れようとしているからか、それとも血が足りないのか。

 気に入らねぇ……。ガベルの体力はもはや限界だった。だからこそ、せめて一矢報いようと青いキラーに反撃を試みるが力まるで及ばず、あっさりと首根っこをつかまれ、その豪腕にて地面に叩きつけられた。

 もはや用済みである。頭部に踏み砕きが直撃しガベルは絶命した。人類が誰しも平等にたどり着く姿、ただの死体となったのだ。

「嫌だ! いやだぁあー!」

 そしてまた新たな人間が二人、コロシアムへと投入される。それは警備兵とアウトローだったが、両者にはすでに戦意などなく、いっそ感情面において同胞とすらいえたが、彼らはいま、殺し合う運命にあった。


【聞か猿】

 なんてことなの。モニターに映る光景を見て、赤子の母親は驚愕していた。

 ガードドッグ、あるいは軍人というものが普段どれほど過酷な訓練を受け、実際的にどれほどの力を蓄えるのか、夫が警備兵であるものの、彼女はこれまで知りもしなかったが、その少女の戦闘能力が明らかに異常であることははっきりとわかった。

 いったい何者なのか。どれほど鍛えたとして、女の子が振り上げる拳で、大の大人、しかも屈強そうな男があれほどの勢いで宙を舞うわけがない。

 私が誤って撃ってしまって、でもあの銃はたしか口径が大きいのよ、だって手首がずっと痛いもの、例えあのツナギが防弾でも、ケロッとしているのはおかしいじゃない。

 あの少女、どうやら笑っているらしい。アウトローたちには、もはや戦意などない。あわてふためいて逃げようとしている。

 しかし赦されない。足をつかまれ、片手で振り回され、地面に叩きつけられて、見てはいけないものが飛び散っている。

 あれらは凶賊だ。さんざん奪い、犯し、殺し回ってきたであろう甚大な背徳者たちに違いない。

 それでも、泣きながら手足を引きちぎられる様子はむごたらしい。悲鳴が続く。モニターを切りたかったが、操作がわからない。

 彼女は不思議に思った。なぜあの子は私たちを助けたのか、私たちのなにがよかったのか。

 ガードドッグだから、正義感によるもの?

 でも正義の味方があんなに楽しそうに、皆殺しにする?

 わからない。

 私たちは本当に助かるんだろうか?

 怖い。

 でも、あれにすがるしかない。

 大丈夫だからね、きっと大丈夫よ……。

 母親は赤子の耳をしっかりとふさぎ、外の悲鳴から懸命に守っていた。

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