襲撃 Battle freaks:Assault
【襲撃者】
ポッパー夫妻はようやく息子を寝かしつけることに成功したが、作戦はまだ終わっていない。今度は音もなく寝室を後にしなくてはならないからだ。スローモーションの脱出劇は毎夜の微笑ましいイベントである。
心地よいBGMが流れているリビングにワインとチーズ、クラッカーが用意されている。大画面に映されているニュース番組では建物が炎に沈んでいた。それは遠くの惨事だったが、不謹慎ながら、彼らにとっては暖炉の炎とそう変わりはない。
夫妻は少し酔いのまわった足取りでダンスを踊る。踊りながら夫はボトルをつかみ、残ったワインをそれぞれのグラスに分け、一緒にシャワーでも浴びようかなどと提案した、そのときだった。彼らはふと、異変に気がつく。
奇怪な音がする。家電の不調ではない。鳴っている方向が違うからだ。音は外から聞こえてくる。草刈機の音に近いがそれは妙だ、こんな夜中にすることではあるまい。ギリギリとした怪音、小さくとも耳にさわる、どころかしだいに大きくなってくる、もしかするなら接近している、夫妻に困惑と不安が入り混じる、音はさらに大きくなる、間違いない、何かが近づいてきている、それはもはや、すぐそこにいる、不安の鼓動が胸を叩く、その直後のことだった。
リビングの窓が、壁が爆散した、数多の破片が襲いかかる、同時に黒い巨体がのりこんできた、大型のバイクである、勢いのまま奥のキッチンへと突っ込み、暴れ狂う大蛇のごとく破壊、蹂躙する、黒い煙を噴き出すそれを駆るは全身を金属塊で覆った巨漢、バイクを止め、ズシリと足を下ろす、その手には分厚い鉈のような鉄塊が握られている。
夫妻はのたうちまわっていた。その身に数多の破片がくらいついている。苦痛にうめき、それ以外は静寂、いや、子供部屋から泣き声がする。火事のニュースはハイパーアウトロー特集に変わっていた。
襲撃者は少しの間、身じろぎもしなかったが、ふと思い出したかのように夫妻の前に立ち、
「よこせ……」と地獄のように低い声で何かを要求した。
痛みと驚愕の渦中にみまわれている夫妻だったが、そのひとことはある種の救いかもしれなかった。これが何者で、何事が起こったのか分かったからだ。
だが、その襲撃者は強盗などではなかった。ふと鉈のようなものを振り被ると、躊躇もなく夫人の左足を太ももから叩き切る。ひときわ大きい悲鳴が夜をつんざいた。
ポッパーは叫びながら彼女のもとへ、しかし蹴り飛ばされる、猛烈な一撃である、壁の穴から半身が外へ出た、ひんやりとした外気とともに、周囲から悲鳴が聞こえてくる。近隣住人もまた、同様に襲われているのだ。爆音も轟いている。破壊と殺戮が一帯を覆っていた。襲撃者は彼の腹を踏みつけ、
「よこせ……」と、またひとことだけいった。
「かっ、かってにぃいっ……なんでも、もっていけぇええ……!」
襲撃者は笑った。嘲りである。そして、失血で気を失いかけている夫人に、鉈のような鉄塊を向けた。駆動音がしている。ポッパーは戦慄した。次に何が起こるか、分かってしまったからだ。
やめろ! と叫ぶ前に、猛烈な銃撃音が響き渡った。標的の人体は粉々となり、火を噴く銃口は泣き声の方へと近づいていく。
ポッパーは渾身の力で襲撃者に掴みかかり、阻止しようとしたが、逆に首根っこを掴まれ、圧倒的な腕力でもって床に叩き付けられた。
「いいぞ……もっとよこせ、よこせ……!」
襲撃者はそういって、また笑った。
ポッパーが目覚めたのは数日後のことである。それから現実を認識するにしばらくかかるが、その後、銃器を手にするまでは早かった。
家族の命を奪ったあの邪悪なけだものは、最近になって近隣に陣を構えた凶賊集団であるハンマーダイン、そのリーダーだと聞かされた。あの夜、コミュニティの防衛システムに不具合が発生し、その隙を狙っての襲撃であるという。
しかし、もっとも根本的な部分において、彼には理解ができなかった。強盗なら分かる、赦されることではないが、まだ分かる。しかし、あの悪魔は何も盗んでなどいない。ただ殺人と破壊を実行しただけだ。
なぜなのか。なぜそうしたのか、そうされねばならないのか。答えはなかった。明確だったのは怨敵ができたという事実のみであり、そのような状況にある者たちは少なくなかった。そして彼らはみな、こう考えるようになる。
〝刺し違えても絶対に殺してやる〟
復讐の炎が燃え盛った。重武装でもって、凶賊たちを抹殺する計画が立てられることは必然である。
しかし、そもそも自身が生き残ったことに、ポッパーを始めとした復讐者たちはもっと疑念を抱くべきだった。それは偶然でも幸運でもなく、意図されたものではないかと。
よこせ、殺意を、敵意を、恨みをよこせ。ハンマーダインは戦いを望んでいた。先日は前菜、報復こそがメインディッシュなのだ。
結果的に復讐計画は失敗に終わり、半数がその場で殺害されることとなるが、のこりは先と同様、明確な意図でもって生かされた。
ポッパーは二度目の生存者としてまたも生き残ってしまった。あまりの屈辱に自死を選ぶ者が何人も出たなか、彼はひとり、車両でコミュニティを後にした。
もちろん、逃げるわけではない。愛する者を奪われ、復讐に燃え、しかし力及ばず、屈辱の底に堕ちた者は狂気にとらわれる。
彼はつまり、オートキラーの助力を求めにいったのだ。わざと発見され、引き連れて戻ってくる算段である。
そのコミュニティが誇るガードドローンシステムはいまだ復旧できていない。そのような状態でキラーを連れてくるとなると、もちろん大惨事はまぬがれ得ない。
しかしやるのだ、やらねばならない……!
彼は実に幸運だった。二日ほどでそれらを発見できたからだ。しかもただのキラーではない、三メートルほどの青い体躯をもつ六体である。それらはどれもマントを羽織っており、見るからに高性能そうであった。大口径の銃を携え、小さな岩場に腰を下ろしている。
哀れなポッパーはそれらをいたく気に入ってしまった。そしてなんら警戒もせずに接近し、一心不乱に嘆願を繰り返した。どうか奴らに復讐してほしい、私の命ならいくらでもくれてやる、どうか、どうか……。
はたしてそれは無駄ではなかった。なんと青いキラーたちが動き出したのだ。ポッパーは意思が通じたと狂喜し、こっちだこっちだ、意気揚々と車両を走らせた。
休まず走り続けているうちに、いつの間にか多数の車両が彼を追っていた。先の六体はそれらの屋根に座っている。
キラーの増援か、素晴らしい! ポッパーはずっと笑っていた。死ね、死んじまえ、お前たちはこれから無数の銃弾をその身に受け、四肢を引き千切られてくたばるんだ!
そして目的地が見えたとき、用済みとなったポッパーは車両ごと吹き飛ばされたが、勝利を確信していた彼は満足して逝った。
【炎の街】
『火急の任務です、大型コミュティ、リヴェンザーが戦場となっています! 多数のオートキラーとハイパーアウトロー、そしてリヴェンザーの警備軍が三つ巴の交戦を行なっているのです! よって複数のチームを派遣することに決定し、あなたたちもそのうちに含まれます、敵勢力を排除し、民間人を救援してください! なお避難先、シェルターの位置などは詳細情報を参照するように!』
状況は切迫していた。大型コミュニティの崩壊はつい最近、カペルタにて確認されていたことだったが、同様の悲劇が時を待たずにまた起ころうとしているのだ。ゴッドスピードはすでに車両を爆走させている。
「くそっ、なんだってまたそんなことになるっ……?」
『リヴェンザーは無人機による優秀な防衛システムを備えた大型コミュニティであったはずですが……!』
「実力で突破されたのかっ?」
『いいえ、システムが不備を起こした隙を狙われたそうです』
「タイミングよく? きな臭いな……!」
『同感です』
「いま急行しているが、二時間はかかるぞ!」
『それでもあなたたちが最速でしょう。現地には輸送機を向かわせています。コード・プレーンより装備を取得し、敵を迅速に撃滅してください』
「了解した!」
『エンパシー、あなたはゴッドスピードから離れないように』
「はっ……はい」
『そしてハイスコア』
『はーい』
『例のものを使用する許可を出します。プレーンより受け取りなさい』
『ほんと? やった!』
「……なんだいまのは、例のものとは?」
『試作品です。高機動豆戦車とでもいいましょうか、実用化は見送られていたものですが、彼女たっての希望により試験的に運用を許可しました』
「あいつに変なオモチャを与えるなよ」
『ブウウ! なにそれー!』
『カペルタの件もそうですが、近頃その周辺が妙に活性化しています。ただならぬキラーが現れてもおかしくありません。気をつけて。通信を終了します』
「……そいつは嬉しいね」ゴッドスピードは眉をしかめる「ウル、車内を可能な限り整頓してくれ。怪我人を乗せることになるかもしれないからな。あとは装備の点検も忘れるな」
「了解しました!」
『大きいコミュニティなんでしょ、救援なんてしてたらキリないよ』
「そうだが……一応な」
『私は敵を優先するからね!』
「ああ、好きに暴れろ。敵対勢力を一掃するんだ」
『はっぴぃー!』
「ただし、気をぬくなよ!」
『いつもぬいてないもん!』
やがて、ドーム状の巨大物がうっすらとその姿を見せ始めた。二人はバトルスーツにアーマーを部分を追加し、動作確認を開始する。
「妙なエラーは出ていないか?」
「はい、オールグリーンです」
「ホワイトラビットは装甲が薄い。キラーとて味方とは限らないということを失念するなよ」
「はい……わかっています」
「それでだ、おいスコア」
『うん、なあに?』
「お前、バトルスーツはあるのか?」
『ないけど』
「オモチャと一緒に受け取るのか?」
『いいえん』
「お前なあ……」
『だってほしいスーツくれないんだもん』
「どうせ見た目で決めたんだろう」
『あら、おわかり?』
バトルスーツ選びは実際、難航する場合が多い。希望と推奨に差異があることが多いためだ。男性陣はジャイガンティックやウルフ系など強そうなものを好むし、女性陣はキャットやラビット系など、どこかかわいらしい意匠があるものを選びたがる傾向にあった。
とはいえ見た目の問題は士気にも繋がるので軽視はできない。カラーリングやエンブレムなど簡単な衣替えは容認される空気があり、貢献度次第では見た目どころか独自に改造されたバトルスーツが支給されることもある。それはオリジナルスーツと呼ばれ、所有者は羨望の的となる。
「まあいい、敵を軽んじて死ぬなよという話だ」
『死なないよ、私はね』
遠方であるからこそよく分かる、コミュニティは黒煙に包まれていた。事態の沈静化には程遠い状況である。
「そろそろだ、準備はいいな?」
「はいっ」
そのとき、通信が入る。
『あのう、こちらコード・プレーンです。そちらは……ええと、ゴッドスピード隊ですね、初めまして』
「ああ、俺がゴッドスピードだ、すぐに到着する」
『コミュニティの近くに着陸していますので、必要物を収得してください』
リヴェンザー近隣に、なるほどフグのように丸々とした航空機が着陸しており、その後部に人影もあった。
急ブレーキで横滑りしつつ車両はとまる。
「どうも、コード・プレーンです。支援物資をお届けに参りました」
黒いパイロットスーツにヘルメット姿、マスクをつけているので顔はわからない、比較的長身の少女らしかった。彼女は敬礼をし、後部ハッチを開く。
「ええと、急ぎのことでしたのでボクは貨物を確認していません。ですので、間違っていてもボクの責任ではありませんよ」
ゴッドスピードたちは急いで大きな医療用バックパックを車両に積み込む。
「リヴァイバーは常人にはきついはずです。よほどの重傷患者にのみ、使用してください」
「ああ、わかっている」
「他の内容物も間違っていませんね?」
「ああ、ぱっと見だがな」
「間違いないっ!」
ハイスコアはオモチャが手に入りご満悦である。操縦の仕方はすでに理解しているようで、それはすぐに始動する。
「……豆戦車ねぇ」
「ストロングボアというそうですよ。まだ試作品らしいですが」
なるほど一人用の小さな戦車である。砲身が回り、機関砲が動き回り、車体がその場で旋回する。
『いえへへへっ! おっけー、れっつごう!』
そして笑声と砂煙を上げてコミュニティへと突き進んでいく様子をゴッドスピードたちはぼうっと眺めてしまうが、
「あのう」と声をかけられてはたと気がつく「ゴッドスピード先輩とエンパシーですね、今後ともよろしくお願いします。ボクはあなた方の専属になったらしいですので」
「専属、なんの話だ?」
「そのままの意味です。物資の要請や急行の際にはボクがやってきます。なので、なにかありましたら直接ご連絡をください」
ゴッドスピードの脳裏に一瞬、懸念がよぎった。なぜか若手、しかも少女のワイズマンズばかりがあてがわれている。
いや、今はそんなことなどどうでもいい。早急にリヴェンザーへと向かわなければならないのだ。
「それと、あのう」
いざゆかんとした瞬間に引き止められ、ゴッドスピードはバランスを崩しそうになる。
「……なんだっ?」
「超能力を信じますか?」
「なにっ?」
「超能力です。魔法のような」
魔法、なんの話だ。今この場ですることか。
「おしゃべりしている場合じゃない、いくぞ!」
二人は車両に乗り込みリヴェンザーへと驀進していく。プレーンは別命あるまで待機との指示を受けていたので、途端に暇になってしまった。
誰かとおしゃべりしたいなぁ。彼女はそう思い、ぼんやりと空を眺めるのだった。
【破壊者の栄光】
ガベル・ワリゾンは満足していた。この煙と埃の匂い、鳴り響く銃声、爆音、悲鳴、なんとすばらしいのか。荒廃こそが彼の王国であり、彼は自身を破壊の王とみなしていた。すべて俺のものだ、形あるものはすべて、俺に蹂躙されるべきものなのだ。
装甲車両〝キングズブル〟の天井に彼の王座がある。外部にあっては装甲の意味などないし、実際、彼は先ほどから何発も狙撃されているが、体を覆っている装甲が今のところ弾丸を弾き飛ばしており、致命的であろうロケット砲弾は迎撃されている。
「いけすかねぇと思ってたんだぜぇ……」
本当にすばらしい、リヴェンザーをここまで蹂躙できるとは思っていなかった。あのくそいまいましいドローン編隊も今は機能していない。こうなればもう、俺のモノだ。
ああ、この手に堕ちてしまえばなんてかわいいんだ、もっともっと痛めつけてやるからな、じっくりと、時間をかけて……。
『キング、やつらぁ、中央へかたまる算段らしいですぜ』
装甲車両を駆るのはガベルの右腕たるワッチン、彼は内心、命知らずのリーダーに困っていた。あんたに死なれちゃ、あの馬鹿どもは暴走するし、俺なんか十秒で肉団子にされちまうだろう。さっさと降りてきてくれねぇかな。
「そうか……いいな……」
『はあ、いいんですか?』
「いい……」
『持久戦っすか? でも、あんまかけると犬っころがでてきやすぜ……?』
「それも、いい……」
『いいっすか……』
「みろよ、ここぁあ、広いだろ……」
『はあ』
「ちらばってよ、潜めよ……」
『ゲリラですか?』
「そうだ、楽しめや……。せっかくオトしたんだからよ……」
『中央は……』
「じぃっくりだ……あせるな……」
『なんかキラーがちらほら集まってますが……』
「あせるな……」
『あと、すげぇのがいるって話で……』
「キラーは、嫌いだ……」
『まあ、それは』
「なにも感じてないからよ……」
『まあ、機械ですしね』
「感じてるか……?」
『はあ、まあ、楽しんではいますけど……』
「感じろ……。リヴェンザーの涙を、感じろ……」
『へえ……あの』
「なんだ……」
『そこは、あの、ちょっと、ヤバくないっすか? さっきから撃たれてますよね?』
「ああ……誘ってやがる……」
『へえ?』
「俺にヤラれてぇって……ケツをふってやがるんだ……」
逆じゃねぇかな。ワッチンはうなる。
「それでだ、やつらは……?」
『え、ですから中央に……』
「そうじゃねぇ……」
『ああ、ザプライザーですかい? いけりゃいくとかいってましたが……ナメた野郎どもでして』
「ふん……」
気味の悪い奴らだ。ガベルは舌打ちをする。
いつの間にか駐屯地にそれらは潜んでいた。何をするわけでもなく、気づけば異物としてそこにいた。
それは自称するにエンターテインメント集団だという話である。とにかくサプライズが大好きらしく、奴らは自身のそれをザプライズと呼んでいる。それのためには命すら惜しまないという。
しかし、まさかリヴェンザーの堅牢な防壁を突破するとは。いったいどうやったのか。
まあいい。とにかく奴らのおかげでこっちも愉しめるのだ。あいつらと組んでよかった。こんど現れたら拷問にかけ情報を引き出し、このキングがじきじきに殺してやろう。
ガベルは笑みがとまらなかった。よかろう、みな、俺がちゃんと活用し、殺してやろう。光栄に思うがいい。
それにしても、食べ残しのあいつらはまだ復讐にこないのだろうか。さんざんいたぶってやったんだ、まともな戦闘では勝ち目がないと思い知ったはず、そうすればどうだ? どうするんだ? ええ?
かつて、最後の最後に、文字通り裸一貫で向かってきた奴がいた。この俺とタイマンで勝負をしろと。
あいつはよかったあ。
本当によかった、なあ。
あいつのせいかもなあ、復讐者と遊びたくなったのは。
うん、いい。
すごくいい。
いいよ。
でもまあ、あれほどの奴はそういない。
だからしょうがない、もっとやるか。
「よし、中央をいじってみるか……」
『へえ!』ワッチンは拡声器のスイッチを入れ『てめぇらあ、中央でおさわりタイムだ!』
歓声があがる。血に飢えたけだものたちの祭典である。
凶賊がつまった車両軍団は中央への侵攻を開始した。途中、小部隊との交戦があったが四十六秒でかたがつく。
鼻歌交じりの怪物の群れが突き進む。中央へ近づくにつれ攻撃が激しくなっていく。警備軍は車両を壁として配置し、陣形を組んで迎え撃つ算段であるが、彼らの銃撃はあまり通じていなかった。
ガベルはほくそ笑む。なんでもないポンコツに見えるだろう? 俺たちのアシは。だが違うのさ、この装甲は普通じゃあねぇんだ。徹甲弾すら通らねぇんだよ。どこで手に入れたかって? くくく、キラーどもの墓場があったんだ。どこの野郎がやりやがったのか知らんが、まあ、有効活用してやっているぜ。
そして圧倒的なのが超大型散弾発射砲、通称〝ボブおじさん〟である。これはとあるひき肉店の店長の呼称で、ひき肉専門なのはさまざまな肉がいい加減に混ざっているゆえにだが、その一部には人肉も混ざっているという。
ボブおじさんが気合いを入れると、一瞬で広範囲が悲惨な状態となった。人間はもちろん、車両であっても紙くず同然である。これもまた、キラーの墓場から手に入れたものだった。
このように強力な重火器であるものの、その弾薬もまた特殊なもので入手は困難である。しかし彼らはそんなことを気にはしない。後先など微塵も考えずに消費していく。
ボブおじさんの尽力あってか順調に侵攻は続くが、異変が発生した。地面から巨大な防壁がせり出してきたのだ。ドローン以外の防衛システムもクラックされていたはずだが、いちはやく復旧に成功したのだろう、中央管理局を中心に薔薇の花よろしく防壁が展開され、都市はより堅牢になっていく。
まあ、そうでなければな。ガベルはまた笑んだ。
『ありゃあ、どうしやすか、このままイッちまいます?』
「まあ、軽くな……」
『おっしゃあ! 軽くだテメェらっ! 振り子ちゃん前に出てこいやっ!』
いくらボブおじさんとて分厚い鋼鉄の壁面には分が悪い。ここで活躍するのは貫通力を重視した〝振り子ちゃん〟である。
振り子ちゃんとはつまり破城槌だが、しかし用途がいまいち正しくなかった。この兵器は例えば岩やコンクリートのように砕ける材質に対してはめっぽう強いが、粘り気を有する金属の壁はあまり得意ではない。何度か穴を開けているうちに、槌を戻す工程に支障が出始め、ついには戻らなくなってしまった。
『ありゃあ……? どうしやすか、キング……』
「まあ、いまはこんなもんか……。右へ流すぞ……」
『へ、へえ……』
「ドローン管理局があったはずだ……」
破城槌を置き去りにし、群れは右手の大通りへと流れていく。計画性がない代わりにものごとの見切りがすばらしく早く、そのおかげでたびたび難を逃れていたのがこれまでである。
しかし、今日に限っては最悪の選択だった。もうしばしモタモタしていたり、左に流せばまた別の未来もあったろう。操る知識もないドローン管理局へなど行くべきではなかったのだ。
彼らがしばし走った先に、たまたま青い、大きな人影が複数、通りかかった。
『なんだありゃあ?』
「キラー、か……」
『まあいいや、おうラッセルちゃんぶっとばしちまいな!』
車両を跳ね飛ばすに特化した装甲車両〝ラッセルちゃん〟が急激に加速し、突き進んでいく。そしてすわ衝突、したかに思えた。
次の瞬間、ラッセルちゃんは宙を舞っていた。おもちゃのようにひらりと舞ったのだ。
「馬鹿な……」
ガベルは我が目を疑った。パワーで吹き飛ばしたのではない、勢いを利用して投げ飛ばしたように見えたからだ。
『どどっ、どうしやしょう、なんか吹っ飛ばされて……』
「ちっ!」
下手に止まると玉突きが起こる、ガベルは王座より飛び降り、後部に固定しているバイクにまたがる。
『あっ、ちょっ、キングッ?』
ガベルのバイクは離脱し、キングズブルも宙を舞った。