星の石
一人で家から出てはいけないと言われていた。言いつけを守って、誰もいないときは玄関や窓にすら近づかなかった。それが正しいことだと信じていた。外は怖いものがたくさんあるのだと。いるのだと。私を守るために彼らはそう言うのだと。信じていた。
あの日は静かな夜だった。私はベッドに寝転がって、窓の外を見ていた。星が煌めいていて、とても綺麗だった。零れ落ちてきそうなほどに。人が死ぬと星が流れるという話を聞いたばかりだったからか、少しだけ恐怖も感じていたようにも思う。
こつん、と窓が鳴った。私は、星が落ちてきたのだと、確信めいた思考に支配され、そのとき初めて、誰にも見つからないように、そっと、外に出た。月明りと星明りでは心許かったけれど、不思議とさっきまでの恐怖はなく、好奇心が私を突き動かしていた。窓に流れ星がぶつかった。その思考を元に、部屋の真下の地面を丹念に調べていると、ひとつだけ変わった石を見つけた。
綺麗な石だった。星が閉じ込められているかのようだった。角度を変えると光は瞬き、ひとつの宇宙がそこにあるかのようだった。暗かったのに、美しく輝き、私は魅了された。
その石は私の宝物になった。しかし同時に、その石の存在は、私の罪の証で、誰かに見られてはならないとも強く思っていた。言いつけを破った。一人で外に出た。家の敷地内ではあったが、大変な重罪を犯したような気分だった。
その後は彼らに嘘をつき続けることになった。「約束を守る」「良い子」ではなくなった。思った以上の苦しみだった。いつか、石を拾いに外に出たことが知られたら、彼らに怒られるのではないかと。失望させてしまうのではないかと。それでも、手に入れた石を手放すことは考えられなかった。毎日、ベッドに入ってから、小箱の中の石を取り出して見つめるのが日課になっていた。とても落ち着いた。綺麗な星々が閉じ込められた結晶。私の、私だけの、宝物。
その日はたまたまいつも通りの時間に起きられなかった。その前日もなかなか寝付けずに、石を小箱に戻すことなく握りしめたまま寝てしまった。起きたときには手から零れ落ちており、石の存在に気づいたのは、母が、私に石を見せ、問い詰めてきたからだった。
「これはどこで手に入れたものなの」
私は答えられなかった。答えないことによって、怒りが増していくことは予想できた。石を返してほしかった。星が閉じ込められた、石。私も家に閉じ込められている。似ていると勝手に思っていた。だから大切に扱って、秘密にして、私以外には知られないようにして、隠して。その石は、私で、私の罪で、宝物で。何も言葉を発せない。
「答えられないなら、あなたのものじゃないのね」
母はそう言って、燃え盛る暖炉へと石を投げ入れた。パキリと音がした。
罪が浄化されている。炎によって清められていく。私は許されるのだろうか。星は天に帰れたのだろうか。私は、私にもどこかに帰る場所があるのだろうか。この檻を壊せば、どこかにいけるのだろうか。